没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平

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第五章 領地の拡大

第83話 街道にて。ギャロップとソナタ

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 俺はフォー辺境伯からもらった騎竜に乗って、我がエトワール伯爵領の領都ベルメールへ向かう。

 フォー辺境伯は、番いの騎竜を贈ってくれた。
 オスの名前はギャロップ。メスがソナタだ。
 二頭とも気性が大人しくフレンドリーな騎竜なので、初心者の俺でも扱いやすい。

 俺が乗っているのは、オスのギャロップだ。
 メスのソナタには、護衛として同行しているネコネコ騎士のみーちゃんが乗っている。

 王都からフォー辺境伯領の領都デバラスまで伸びるアリアナ街道は、今日、我がエトワール伯爵領の領都ベルメールまでつながったのだ。
 俺の弾む気持ちが、騎竜にもわかるのだろう。
 俺の乗る騎竜ギャロップは、軽快な足取りでアリアナ街道を進む。

 先頭はフォー辺境伯だ。
 次は俺とみーちゃん。
 南部貴族のおっさんたちが乗る騎竜が続き、最後に王都から来た貴族が乗る馬車だ。

 フォー辺境伯が、スッと騎竜を道路の右に寄せた。
 手を上げて『右に寄れ』と合図を出している。
 俺もフォー辺境伯と同じように騎竜を右に寄せ、後方へ向けて手で合図を送る。

 前方にキャラバンが見えてきた。
 領都デバラスを先発した馬車だ。

 俺たちが一列になって、右側から馬車を追い越していくと駅馬車の乗客たちが手を振った。

「おおい!」

「騎竜だ!」

 特に子供が大喜びしている。
 俺が手を振り返すと、駅馬車に乗った小さな男の子が、ブンブンと腕が千切れんばかりに手を振った。

 騎竜の一団は、キャラバンを追い越して進む。

「エトワール伯爵!」

 後ろから俺に声が掛かった。
 振り向くと懐かしい顔があった。

 ジロンド子爵だ!
 親しみのある丸顔が、嬉しそうに笑っている。
 親戚感が凄いあるな。

 俺は嬉しくなって、思わず騎竜から立ち上がって手を振る。

「ジロンド子爵! お久しぶりです!」

「ああ、久しぶりだな! いっちょ前に騎竜に乗って! やるな!」

「ええ。フォー辺境伯と交渉して手に入れました!」

「ハハハ! でかした!」

 王都から脱出して、暖かく歓待してくれた初めての南部貴族がジロンド子爵だ。
 俺たちエトワール伯爵家にとって、もっとも親しい貴族家である。

 ネコネコ騎士のみーちゃんも嬉しそうに笑う。

「ニャ! ジロンド子爵! 久しぶりニャ!」

「おお! みーちゃんも元気そうだ!」

「ベルメールは、お魚が美味しいニャ! ジロンド子爵も食べるニャ!」

「そりゃ楽しみだ!」

 俺、ジロンド子爵、みーちゃんで、これまでのことを色々話す。
 ジロンド子爵は、土嚢工法を自領でもやってみると約束してくれた。

「実際に走ってみれば一目瞭然だ。さっき馬車を抜いただろう? あれ、今までの道だったら、平民の乗る馬車が道の外に出なきゃならなかったからね」

「あー! 道幅が広くなりましたからね!」

「そうそう! それにこれだけ道が平らだと、馬車も速度が出ている。アリアナ街道全線が、この道路と同じになれば移動が相当楽だ」

 ジロンド子爵は、大いに納得している。
 やはり、こうして実際に、『見て』、『触れて』、『走って』みれば、道普請の大切さが分かる。

 今日はこれから我がエトワール伯爵領の領都ベルメールで祝いの会があるのだ。
 大勢の南部貴族を招いて、非常に予算が掛かった。

 だが、この延伸したアリアナ街道を走ってもらい、道普請の大切さを体感してもらえるのならば、予算をかけた意味がある。
 南部に新しい規格の道路が敷設され、物流が加速することは間違いない。

 俺はふとフォー辺境伯のことをジロンド子爵に相談してみた。
 道普請延長でフォー辺境伯は、政治力を発揮した。

 俺はフォー辺境伯の手腕に舌を巻くとともに、ちょっと警戒感を抱いたのだ。
 フォー辺境伯は、我がエトワール伯爵領に影響力を持ちすぎではないか?

 ジロンド子爵に俺の気持ちを伝えると、ジロンド子爵はふんふんと騎竜に乗りながら熱心に聞いてくれた。

「なるほどねえ……。いや、エトワール伯爵も成長しているんだな。そうやって、相手の行動を考えるようになったのは良いことだよ」

 ジロンド子爵は、親戚のお兄ちゃんのような口調で話し出した。

「なあ、エトワール伯爵。南部貴族をどう思う?」

「え?」

「暑苦しいだろ? うるさい親戚のおじさんみたいな感じでさ。何かあると騎竜に乗ってやって来て、あれこれと世話を焼きたがる。俺のところもそうだったよ。いや、今もだな! プレッシュがどうの、パンの焼き加減がどうの……うるさいったらありゃしないよ!」

「ハハハ! そんな感じですね!」

「つまりさ。南部はみんな親戚みたいな感じなんだ。エトワール伯爵は、王都から来たから面食らうことも多いと思うけど、俺が見たところ結構馴染んでいると思うよ」

「そうですか?」

「ああ! 騎竜の乗る姿もサマになってきた!」

 俺はちょっとふざけて、騎竜の上で姿勢をビシッと正して見せた。
 俺の様子を見たジロンド子爵が笑う。

「まあ、そういう親戚づきあいの中で、貴族としての利益を確保するのが南部貴族なのさ」

「なるほど……そういうものですか……」

 するとフォー辺境伯の行動は、悪意のある行動ではなく、『親戚なんだから、関わりを持つ』的な、ちょっと暑苦しい親戚のおじさん的な行動なのだろう。

 ああ、フォー辺境伯の暑苦しい顔が……。
 眼前に迫ってくるようだ……。

 王都は、どうなのだろう?
 貧乏だったエトワール伯爵家は、王都の貴族と付き合いがなかった。
 それでも執事のセバスチャンから、貴族とはこうだと話は聞いていた。
 セバスチャンは、執事同士のコネクションを持っていたらしく、時々貴族情報を伝えてくれた。
 その乏しい知識で考えると、王都の貴族はもっとドライ、ビジネスライクな付き合いだと思う。

 南部貴族は、人間関係が王都よりウエットなのだ。
 貴族間のビジネスでの付き合い、政治的な付き合いもウエット……より深くなるのだろう。
 これは俺が合わせなくてはならない。

「南部貴族のやり方に早く慣れるようにします。その上で、フォー辺境伯のように利益を確保すると……」

「わかるようになっただけ大したものだよ。俺がエトワール伯爵の年頃は、騎竜に乗って魔物狩りばっかりやっていたな! ハハハ!」

 俺はジロンド子爵と話すことで、すっかり不安はなくなっていた。
 フォー辺境伯が、ウチの領地経営に影響力を発揮するなら、若輩の俺が良い意味で甘えさせてもらえば良い。

「オーイ! エトワール伯爵! ジロンド子爵! 二人で話してないで、俺も仲間に入れろよ!」

 ほら、暑苦しい親戚のおじさんだ!
 話題の主、フォー辺境伯が、スルスルと下がってきた。
 俺に並んで騎竜を走らせる。

「いやあ、道普請で良かったのはさ。こうして騎竜を並べて走れるところだな!」

 フォー辺境伯は、ご満悦だ。
 フォー辺境伯とジロンド子爵、どちらも俺の手本とすべき南部貴族だ。
 俺は手本となる人がいることに、心から感謝をした。

 フォー辺境伯、俺、ジロンド子爵の三頭の騎竜が横並びになって、アリアナ街道を進む。
 俺たちは仲の良い親戚のように冗談を言い合いながら、賑やかに騎竜を走らせた。
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