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第五章 領地の拡大
第85話 祝賀会~イーノス兄弟の嫌がらせ
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続いて、新設した大ホールで道普請と叙爵の祝賀会だ。
大ホールは、俺の生産スキル【マルチクラフト】で、夜中にこっそり建てた。
もう、誰も何も言わない。
領民も『ああ、また何か建ったな』くらいのリアクションしか示さなくなってきたし、南部貴族のおっさんたちも『なんかやったんだな……』くらいで特に追求してこない。
大ホールは、各種式典から舞踏会まで開催できるように広い造りになっている。
今日の祝賀会は立食形式にして、挨拶が終ったら好きにしてもらうことにした。
南部貴族のおっさんたちは、肩の凝らない方式が好きだから、これくらいゆるくて丁度良い。
叙爵された準騎士爵たちは、南部貴族のおっさんたちにつかまって、アレコレと訓示を聞かされている。
早くも南部特有のお節介が炸裂しているのだ。
俺はあちこち挨拶へ向かう。
「エトワール伯爵。この度はおめでとうございます」
「ありがとう。今後もよろしくお付き合いください」
挨拶をかわしながら、商談出来る相手とは商談を行う。
秘書のシフォンさんが、俺の側について商談の内容をメモしているので、俺は安心して話に集中できる。
こちらからは、エトワールグラス、エルフ職人の手による高級家具、道普請に使うスコップや土嚢が他領への輸出品だ。
他領からは、食料を買い求める。
小麦、大麦などの穀物やイモやニンジンなど日持ちする野菜を大量に買い付ける。
エールやワインの消費も多いし、領民が着る古着も必要だ。
三件の商談をまとめて、次はイーノス兄弟だ。
イーノス兄弟は、南部貴族有力四家の一角。
南部でも南東、地図で言うと右下の方に勢力を持つ。
我がエトワール伯爵領と直接領地は接していないが、魔の森を東へ開拓していけば、いずれイーノス兄弟の勢力圏と接するだろう。
「ビッグイーノス! リルイーノス! 今日は、おいでいただきありがとうございます!」
俺は営業スマイル全開で、イーノス兄弟に挨拶する。
「ふん! エトワール伯爵のことは、気に食わん! だが、これも付き合いだからな! 仕方なく来てやったのさ!」
「おうおう! 景気よさそうじゃねえか! 新入りが気に入らねえなあ!」
これである。
イーノス兄弟は、以前から俺に対してアタリがキツイ。
領地が南部でも内陸だから閉鎖的なのかな?
南部で新参者の俺が気に入らないのだ。
「まあ、まあ。イーノス兄弟の領地からは、エールを沢山買わせてもらってますよ」
「ああ、ウチのエールは旨いだろう!」
「ありがたく思えよ! 売ってやってるんだ!」
さらに、これである。
日本的な営業マインドはゼロだ。
まあ、現実問題として、イーノス兄弟からエールを大量に売ってもらって助かっている。
この世界では、人の手で物を作る。
工場で機械を使って大量生産するわけじゃない。
エールが欲しいといっても、在庫がなければ誰も売ってくれないし、すぐに作れるものでもない。
その点、イーノス兄弟は、広大な敷地で穀物を作り、エールも大きな建物と樽を使って沢山作っている。
人力ではあるが、エールを大量生産しているのだ。
冒険者や領民にとって、安くて旨いエールを飲むのは、娯楽の一種なのだ。
イーノス兄弟がエールを売ってくれなくなったら、冒険者や領民の不満が領主の俺に向かう。
だから、まあ、態度が多少横柄でも、俺は気にしない。
これはビジネスだからな。
「おい! エトワール伯爵! 今日は、オメーに良い物を持ってきたぞ!」
「ありがたく受け取れよ!」
イーノス兄弟が合図をすると、イーノス兄弟の使用人が藁で編んだ大きなカゴを運んできた。
二人がかりで、エッチラオッチラとカゴを運んでくる。
回りの南部貴族たちが、カゴの中身を見て悲鳴を上げる。
「うわっ!」
「ブツブツして気持ち悪いな!」
「祝いの席にこんな物を持ち込むなよ!」
俺のところからは見えないのだが、何だろう?
イーノス兄弟はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「オメーさんは、色々変わった物を食うって聞いたからな!」
「そうそう! 足が沢山生えている気持ち悪いのを食うだろう?」
「タコやイカですかね? 今日もそこのテーブルに出ていますよ」
領都ベルメールは海に近い。
海ではダークエルフが船で漁をし、マーマンが素潜り漁をする。
まして俺は日本人転生者なのだ。
タコやイカは当たり前に食べる。
するとイーノス兄弟は、大げさに震えて見せた。
「うう! 気持ち悪い!」
「ゲテモノだよ!」
いや、まあ、見た目が気持ち悪いから、イーノス兄弟のリアクションも仕方ないかもね。
南部でも海沿いの町や村では、イカやタコを食べる。
イタリアみたいにパスタに混ぜるのが一般的らしい。
だが、冷凍や冷蔵の輸送手段がないので、ちょっと内陸に入るとタコやイカは食べない。
マジックバッグに入れて運んでも、時間経過があるので生物の輸送は難しいのだ。
今日は海沿いの領主が数人来ている。
海の幸のパスタを美味しそうに食べていたが、不愉快そうにイーノス兄弟をにらみ始めた。
俺は手で『まあまあ』と海沿いの領主たちを抑える。
食に関することはデリケートなのだ。
タコやイカが受け入れられないのは仕方がない。
この前振りをイーノス兄弟がするということは、カゴに入っているのはゲテモノの類いなのだろう。
子供みたいな嫌がらせだ。
大きなカゴがドサッと俺の目の前に置かれた。
フォー辺境伯とジロンド子爵が寄ってきて、カゴの中身をのぞき込む。
フォー辺境伯とジロンド子爵は、イーノス兄弟に怒り出した。
「オイ! イーノス兄弟! 冗談が過ぎるぞ!」
「そうだぞ! エトワール伯爵に失礼だろう! とっとと謝れ! こんな気持ちの悪い物を――」
「うわー! すごい美味しそう!」
「「「「えっ……!?」」」」
俺は飛び上がらんばかりに喜んだ。
俺のリアクションを見て、イーノス兄弟、フォー辺境伯、ジロンド子爵がポカンとする。
かごの中に入っていたのは、トウモロコシだ!
この世界に来て初めて見る!
俺は大喜びでイーノス兄弟に礼を述べる。
「イーノス兄弟! ありがとうございます!」
「えっと……。オマエ、それを食うのか?」
「ブツブツしていて気持ち悪いだろうが……」
「そうですか? これ美味しいですよ?」
「「「「食ったことあるのかよ!」」」」
イーノス兄弟だけでなく、フォー辺境伯とジロンド子爵も驚いている。
何を驚くというのか、こんなに美味しい物を。
論より証拠。
俺はトウモロコシを食べることにした。
俺は執事のセバスチャンに命じて、三本ほどトウモロコシを煮てもらった。
熱々のトウモロコシに軽く塩を振ってかぶりつく。
甘くてジューシー!
そしてポリポリと軽快な歯ごたえがたまらない!
海辺で焼きトウモロコシを作ってバター醤油で食べたら最高だろうな。
「ああ! 美味しい!」
「オメー……本当に食うんだな……」
「腹下すぞ……」
「下さないですよ! ホラ! お二人もどうぞ!」
俺は手にトウモロコシを持って、イーノス兄弟に迫る。
イーノス兄弟は、『ウッ!』となって後ろに下がった。
「食うわけねえだろう!」
「そりゃ魔物の食い物だ! 人の食い物じゃねえ!」
「えー! 美味しいのに! じゃあ、何でトウモロコシを持ってきたんですか?」
「「冗談に決まってるだろう!」」
イーノス兄弟によれば、トウモロコシは南部のごく一部の地域に生えているゴブリンが食べる『雑草』なのだそうだ。
まさか、俺が食べるとは思わなかったそうだ。
イーノス兄弟が、俺を止める。
「いや、俺たちが悪かった」
「そうだ軽い冗談だったが、まさか食べるとは……」
「えー! ゴブリンが食べるのなら、人が食べてもおかしくないでしょう?」
「「「「「「おかしいだろう!」」」」」」
今度は会場中からツッコミが入った。
なぜだ! こんなに美味しいのに!
見れば先ほどイカやタコを美味しそうに食べていた海沿いの領主も、トウモロコシを食べる俺にドン引きしている。
この裏切り者!
「フォー辺境伯とジロンド子爵は、召し上がりますよね?」
「「えっ!?」」
「美味しいですよ。これ」
俺はポリポリとトウモロコシをかじりながら、スッと二人にトウモロコシを差し出す。
「こ……、ここはジロンド子爵から……」
「いえいえ、フォー辺境伯から……」
「オマエ子爵だろ! 先に食えよ!」
「年齢はアンタが上だ! 先に食ってくれよ!」
二人は子供みたいにもめだした。
こうしてイーノス兄弟の嫌がらせは不発に終った。
だが、俺には悪食伯爵という不名誉なあだ名がついてしまった。
俺はトウモロコシの領内栽培を決め、ディー・ハイランドにバーボンウイスキーを作るように指示を出した。
少しずつ、トウモロコシを認めさせてやるのだ!
大ホールは、俺の生産スキル【マルチクラフト】で、夜中にこっそり建てた。
もう、誰も何も言わない。
領民も『ああ、また何か建ったな』くらいのリアクションしか示さなくなってきたし、南部貴族のおっさんたちも『なんかやったんだな……』くらいで特に追求してこない。
大ホールは、各種式典から舞踏会まで開催できるように広い造りになっている。
今日の祝賀会は立食形式にして、挨拶が終ったら好きにしてもらうことにした。
南部貴族のおっさんたちは、肩の凝らない方式が好きだから、これくらいゆるくて丁度良い。
叙爵された準騎士爵たちは、南部貴族のおっさんたちにつかまって、アレコレと訓示を聞かされている。
早くも南部特有のお節介が炸裂しているのだ。
俺はあちこち挨拶へ向かう。
「エトワール伯爵。この度はおめでとうございます」
「ありがとう。今後もよろしくお付き合いください」
挨拶をかわしながら、商談出来る相手とは商談を行う。
秘書のシフォンさんが、俺の側について商談の内容をメモしているので、俺は安心して話に集中できる。
こちらからは、エトワールグラス、エルフ職人の手による高級家具、道普請に使うスコップや土嚢が他領への輸出品だ。
他領からは、食料を買い求める。
小麦、大麦などの穀物やイモやニンジンなど日持ちする野菜を大量に買い付ける。
エールやワインの消費も多いし、領民が着る古着も必要だ。
三件の商談をまとめて、次はイーノス兄弟だ。
イーノス兄弟は、南部貴族有力四家の一角。
南部でも南東、地図で言うと右下の方に勢力を持つ。
我がエトワール伯爵領と直接領地は接していないが、魔の森を東へ開拓していけば、いずれイーノス兄弟の勢力圏と接するだろう。
「ビッグイーノス! リルイーノス! 今日は、おいでいただきありがとうございます!」
俺は営業スマイル全開で、イーノス兄弟に挨拶する。
「ふん! エトワール伯爵のことは、気に食わん! だが、これも付き合いだからな! 仕方なく来てやったのさ!」
「おうおう! 景気よさそうじゃねえか! 新入りが気に入らねえなあ!」
これである。
イーノス兄弟は、以前から俺に対してアタリがキツイ。
領地が南部でも内陸だから閉鎖的なのかな?
南部で新参者の俺が気に入らないのだ。
「まあ、まあ。イーノス兄弟の領地からは、エールを沢山買わせてもらってますよ」
「ああ、ウチのエールは旨いだろう!」
「ありがたく思えよ! 売ってやってるんだ!」
さらに、これである。
日本的な営業マインドはゼロだ。
まあ、現実問題として、イーノス兄弟からエールを大量に売ってもらって助かっている。
この世界では、人の手で物を作る。
工場で機械を使って大量生産するわけじゃない。
エールが欲しいといっても、在庫がなければ誰も売ってくれないし、すぐに作れるものでもない。
その点、イーノス兄弟は、広大な敷地で穀物を作り、エールも大きな建物と樽を使って沢山作っている。
人力ではあるが、エールを大量生産しているのだ。
冒険者や領民にとって、安くて旨いエールを飲むのは、娯楽の一種なのだ。
イーノス兄弟がエールを売ってくれなくなったら、冒険者や領民の不満が領主の俺に向かう。
だから、まあ、態度が多少横柄でも、俺は気にしない。
これはビジネスだからな。
「おい! エトワール伯爵! 今日は、オメーに良い物を持ってきたぞ!」
「ありがたく受け取れよ!」
イーノス兄弟が合図をすると、イーノス兄弟の使用人が藁で編んだ大きなカゴを運んできた。
二人がかりで、エッチラオッチラとカゴを運んでくる。
回りの南部貴族たちが、カゴの中身を見て悲鳴を上げる。
「うわっ!」
「ブツブツして気持ち悪いな!」
「祝いの席にこんな物を持ち込むなよ!」
俺のところからは見えないのだが、何だろう?
イーノス兄弟はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「オメーさんは、色々変わった物を食うって聞いたからな!」
「そうそう! 足が沢山生えている気持ち悪いのを食うだろう?」
「タコやイカですかね? 今日もそこのテーブルに出ていますよ」
領都ベルメールは海に近い。
海ではダークエルフが船で漁をし、マーマンが素潜り漁をする。
まして俺は日本人転生者なのだ。
タコやイカは当たり前に食べる。
するとイーノス兄弟は、大げさに震えて見せた。
「うう! 気持ち悪い!」
「ゲテモノだよ!」
いや、まあ、見た目が気持ち悪いから、イーノス兄弟のリアクションも仕方ないかもね。
南部でも海沿いの町や村では、イカやタコを食べる。
イタリアみたいにパスタに混ぜるのが一般的らしい。
だが、冷凍や冷蔵の輸送手段がないので、ちょっと内陸に入るとタコやイカは食べない。
マジックバッグに入れて運んでも、時間経過があるので生物の輸送は難しいのだ。
今日は海沿いの領主が数人来ている。
海の幸のパスタを美味しそうに食べていたが、不愉快そうにイーノス兄弟をにらみ始めた。
俺は手で『まあまあ』と海沿いの領主たちを抑える。
食に関することはデリケートなのだ。
タコやイカが受け入れられないのは仕方がない。
この前振りをイーノス兄弟がするということは、カゴに入っているのはゲテモノの類いなのだろう。
子供みたいな嫌がらせだ。
大きなカゴがドサッと俺の目の前に置かれた。
フォー辺境伯とジロンド子爵が寄ってきて、カゴの中身をのぞき込む。
フォー辺境伯とジロンド子爵は、イーノス兄弟に怒り出した。
「オイ! イーノス兄弟! 冗談が過ぎるぞ!」
「そうだぞ! エトワール伯爵に失礼だろう! とっとと謝れ! こんな気持ちの悪い物を――」
「うわー! すごい美味しそう!」
「「「「えっ……!?」」」」
俺は飛び上がらんばかりに喜んだ。
俺のリアクションを見て、イーノス兄弟、フォー辺境伯、ジロンド子爵がポカンとする。
かごの中に入っていたのは、トウモロコシだ!
この世界に来て初めて見る!
俺は大喜びでイーノス兄弟に礼を述べる。
「イーノス兄弟! ありがとうございます!」
「えっと……。オマエ、それを食うのか?」
「ブツブツしていて気持ち悪いだろうが……」
「そうですか? これ美味しいですよ?」
「「「「食ったことあるのかよ!」」」」
イーノス兄弟だけでなく、フォー辺境伯とジロンド子爵も驚いている。
何を驚くというのか、こんなに美味しい物を。
論より証拠。
俺はトウモロコシを食べることにした。
俺は執事のセバスチャンに命じて、三本ほどトウモロコシを煮てもらった。
熱々のトウモロコシに軽く塩を振ってかぶりつく。
甘くてジューシー!
そしてポリポリと軽快な歯ごたえがたまらない!
海辺で焼きトウモロコシを作ってバター醤油で食べたら最高だろうな。
「ああ! 美味しい!」
「オメー……本当に食うんだな……」
「腹下すぞ……」
「下さないですよ! ホラ! お二人もどうぞ!」
俺は手にトウモロコシを持って、イーノス兄弟に迫る。
イーノス兄弟は、『ウッ!』となって後ろに下がった。
「食うわけねえだろう!」
「そりゃ魔物の食い物だ! 人の食い物じゃねえ!」
「えー! 美味しいのに! じゃあ、何でトウモロコシを持ってきたんですか?」
「「冗談に決まってるだろう!」」
イーノス兄弟によれば、トウモロコシは南部のごく一部の地域に生えているゴブリンが食べる『雑草』なのだそうだ。
まさか、俺が食べるとは思わなかったそうだ。
イーノス兄弟が、俺を止める。
「いや、俺たちが悪かった」
「そうだ軽い冗談だったが、まさか食べるとは……」
「えー! ゴブリンが食べるのなら、人が食べてもおかしくないでしょう?」
「「「「「「おかしいだろう!」」」」」」
今度は会場中からツッコミが入った。
なぜだ! こんなに美味しいのに!
見れば先ほどイカやタコを美味しそうに食べていた海沿いの領主も、トウモロコシを食べる俺にドン引きしている。
この裏切り者!
「フォー辺境伯とジロンド子爵は、召し上がりますよね?」
「「えっ!?」」
「美味しいですよ。これ」
俺はポリポリとトウモロコシをかじりながら、スッと二人にトウモロコシを差し出す。
「こ……、ここはジロンド子爵から……」
「いえいえ、フォー辺境伯から……」
「オマエ子爵だろ! 先に食えよ!」
「年齢はアンタが上だ! 先に食ってくれよ!」
二人は子供みたいにもめだした。
こうしてイーノス兄弟の嫌がらせは不発に終った。
だが、俺には悪食伯爵という不名誉なあだ名がついてしまった。
俺はトウモロコシの領内栽培を決め、ディー・ハイランドにバーボンウイスキーを作るように指示を出した。
少しずつ、トウモロコシを認めさせてやるのだ!
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