【本編完結】銀の流星、古傷の獣を暴く。~エース冒険者は強面おじさんの甘い匂いに抗えない~

ダンディ須賀尾

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第20話:衆目に晒された事後の朝

 チュン、チュン……。
 無駄に爽やかな小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む容赦ない朝日が、散乱した仮眠室を照らし出す。
 私は、簡易椅子に優雅に腰かけ、頬杖ほおづえをつきながら、ベッドの上で身動みじろぎする「私の恋人」を眺めていた。

「……ん、ぐ……」

 ドノバンが目を覚まし、体を起こそうとした瞬間だ。
 彼の顔が苦痛にゆがみ、くぐもったうめき声が漏れた。
 腰から背骨にかけて、相当な激痛が走ったのだろう。その巨躯きょくが、糸の切れた人形のようにベッドに沈み込む。
 まるで、スタンピードの最前線で三日三晩オークの群れと殴り合った翌日のような疲労困憊ぶりだ。
 いや、それ以上かもしれない。
 その原因を作った張本人である私は、朝日を背負いながら、これ以上ないほどの爽快感と満足感を噛み締めていた。
 肌には満ち足りた血色が差し、今の私は一言で言えば「ツヤッツヤ」だろう。
 獲物を骨のずいまで食らい尽くした肉食獣が、食後の毛繕いをしているような気分だ。

 ドノバンは、寝ぼけた頭で記憶の糸を手繰り寄せているようだ。
 うつろだった瞳が、徐々に焦点を結び――そして、昨夜の記憶が鮮明に蘇ったのだろう。

「―――――ッッッ!!!!!」

 彼は顔面蒼白になり、ガバッと起き上がろうとした。
 だが、体は限界のようだ。「あだだだッ!」と情けない声を上げて腰を押さえ、再びシーツとマントの海に沈む。

「おはようございます、ドノバンさん」

 私は、頭上から機嫌よく声をかけた。
 ドノバンが、恐る恐る視線を上げてくる。
 そこには、昨夜の「獣」とは違う、涼しい顔をした私がいる。

「……お前、まだいたのか……」
「いるに決まってるでしょう。愛し合った恋人を置いて帰るなんて、男がスタる」
「あ、愛……? こ、恋人……ッ!?」

 ドノバンは顔を両手で覆い、指の隙間からうめいた。
 夢じゃなかった。
 その絶望に染まった姿が、たまらなく愛おしい。
 五十歳。元Bランク冒険者。
 孫がいてもおかしくない年齢で、親子ほども年下の男から、一晩中泣かされた事実に打ちのめされているのだ。

「忘れたとは言わせませんよ。……あんなに気持ちよさそうに鳴いて、私にしがみついてきたくせに」
「あーッ! やめろ! 言うな!」
「ふふ。……愛してますよ、ドノバンさん」

 私は、耳の裏まで真っ赤にして顔を覆うドノバンを、心底愛おしそうに見つめた。
 羞恥に震えるその唇を再び奪おうと、逃げ道を塞ぐように彼の後頭部に手を回し、ゆっくりと顔を近づける。

「っ、ちょ、待て……よせ……っ、あだっ……!」

 ドノバンは悲鳴に近い声を上げて身を引こうとしたが、酷使された腰に激痛が走り、顔をひきつらせてその場に凍りついた。
 生まれたての小鹿のように足腰をガタガタと震わせ、痛みに耐えながら必死に私から距離を取ろうとするが、無惨にも体力が底をついている。

 観念して、私のものになってください。
 そう確信して、唇を舐め、触れ合う寸前まで口を寄せた――その時だった。

「――リーダーの魔力追跡、ここで止まってるッスね。……って、え? 監視小屋?」
「なんでこんな所に? 宿舎に戻ってないって聞いたけど……」
「おーい、リーダー! いますかー!」

「……チッ」
「……!?」

 私は、ロマンチックな空気を切り裂く無粋な呼び声に、盛大に舌打ちをした。
 外から聞こえてきたのは、『蒼き流星』の仲間たちの声だ。
 どうやら斥候スカウトが私の魔力痕跡を辿り、重戦士タンク治癒術師ヒーラーたちを引き連れて、ここへ辿り着いたらしい。
 普段なら頼もしいその索敵能力が、今日ばかりは疎ましくて仕方がなかった。

 一方で、ドノバンの顔からはさっと血の気が引き、絶望に目を見開いた。

「ま、まずい! 隠れろセルウィン! いや、俺が隠れる!」
「何をごちゃごちゃ言ってるんです。堂々としていればいい」
「できるかバカ野郎!」

 ドノバンがパニックでマントを被ろうとした瞬間、監視小屋のドアがバンと開かれた。

「失礼します! ドノバンさん、うちのリーダーが……あ」

 斥候スカウトの男、魔導師メイジの女、重戦士タンクの男、そして治癒術師ヒーラーの女。
 パーティメンバー四人が、仮眠室の入り口で凍りついた。
 彼らの目に飛び込んできた光景。
 狭い仮眠室。
 朝日に照らされ、溢れる悦びを隠そうともせず、この上なく鮮やかに微笑むリーダー、私。
 そして、ベッドの上で、私のマントにくるまり、顔を真っ赤にして震えているドノバン。

「……リーダー?」

 斥候スカウトの男がおずおずと声をかけてきた。
 その視線が、職業柄かするどく「現場」を観察しているのが見てとれた。
 まず、部屋に充満する、換気しきれていない独特の匂い(事後のそれだ)。

 次に、私のマントからはみ出したドノバンの巨体だ。
 私のサイズのマントでは、彼の丸太のような体格を隠しきれておらず、はだけた肩や分厚い胸板、太い腕が丸見えになっている。
 そしてその露出した肌には――どす黒い鬱血痕うっけつこんや、肉を食いちぎらんばかりの深い噛み跡マーキングが、皮膚の隙間がないほどびっしりと、えげつない量で刻みこまれていた。
 それは「愛の証」と呼ぶにはあまりに凄惨せいさんで、一方的な「捕食」の痕跡そのものだった。

 そして、床のあちこちに無造作に放り捨てられた、数本の小瓶。一瓶で金貨が飛ぶようなポーションの空き瓶が、数本――中身を空にして、朝日を反射しむなしく転がっていた。
 極めつけは、ドノバンの後ろに見える、スプリングが壊れたようにゆがみ、何かの液体で汚れたシーツが散乱する惨状さんじょう

「……ま、まさか、その、これは……ぜんぶ、リーダーが?」

 斥候スカウトの、戦慄に震えるつぶやきに、私は答えない。
 ただ、誇らしげに顎を引き、愛しい「獲物」をより深く腕の中に閉じ込めた。

 四人の顔色が、サーッと青ざめていくのが分かった。
 彼らは知っているはずだ。自分たちのリーダーが、普段は合理的で冷静な男であることを。
 だが、今の彼らの表情は、明らかに「見てはいけないものを見た」と語っていた。私が、スイッチが入るとここまでの「獣」になるという事実を、彼らは今、骨のずいまで理解したようだ。

 昨夜の最中は、バレたら終わりだという背徳感はいとくかんに震えていた。
 だが、不思議だ。
 いざこうして衆目に晒されてみると、焦りなど微塵みじんも湧いてこない。
 むしろ、胸の奥から湧き上がってくるのは、暗く、重い優越感だった。

『見ろ。この男は私が食った。私のものだ』

 そんな独占欲が、社会的地位や世間体といった些末さまつな理性を凌駕りょうがしていた。
 Aランク冒険者という肩書きなど、この傷だらけの恋人を手に入れた喜びに比べれば、石ころ以下の価値しかない。
 そう。バレて困るどころか、好都合だ。これで悪い虫がつかないよう、公然と牽制けんせいできるのだから。

「(……ヤッたな)」

 誰からともなく戦慄せんりつを含んだささやきが漏れた。
 四人の思考が完全にリンクしたのが、手に取るように分かる。
 それも、ただの情事ではない。
 部屋の荒れ方とドノバンの憔悴しょうすいぶり、そして――。

「ひっ……!」

 治癒術師ヒーラーの女が、短く息をのんで口元を押さえた。
 彼女は職業柄、衰弱した人間を見ると無意識に『状態解析ステータス・チェック』をかけてしまう癖がある。
 今も反射的に、目の前でぐったりとしているドノバンの体を魔力でスキャンしてしまったのだろう。
 その顔色が、みるみるうちに土気色に変わっていく。
 彼女の『視界』には、数値として映ってしまったはずだ。
 全身の極度な筋肉疲労、脱水症状に近い消耗、そして――私の剛直を受け入れ続け、赤く腫れあがり悲惨なまでに擦り切れた粘膜の状態が。

 何より、朝方「掃除」と称した私の追撃によって、結局かき出されることなく胎内にたっぷりと残されたままの、おびただしい量の白濁の存在までもが、丸見えになってしまったに違いない。

 そのあまりに生々しい診断結果を見て、彼女は完全に悟ってしまったのだろう。私が昨晩、この男をどれほど激しく、一方的に、ねちっこくむさぼり尽くしたのかを。
 私は、ドン引きしている彼らの視線を、あえて否定せず、口角を上げてニヤリと受け流した

「お、お邪魔しましたァ……!!」

 治癒術師ヒーラーが、顔を真っ赤にして回れ右をした。
 他の三人も、見てはいけない深淵アビスを覗いた顔で、じりじりと後ずさる。

「おい、待て! 誤解だ! いや誤解じゃねえけど、違うんだ!」

 ドノバンが必死に弁解しようと、シーツの上で膝立ちになり、身を乗り出した――その時だった。
 昨夜の私の狂乱を覆い隠していたマントが、力なく震える彼の肩から、重力に従って滑り落ちた。

 き出しになったたくましい胸板には、執拗しつように吸い付かれ、噛みつかれた跡が、どす黒い鬱血となってびっしりと重なり合っている。何度も指先でもてあそばれ、舌で転がされた胸の頂きは、普段より一回り大きく赤く腫れあがり、ツヤツヤと濡れたような光沢を放っていた。

 さらに、無理に体勢を変えようと大きく開かれた股の間からは、私の激しい突き上げを幾度も受け止め続けた太腿の内側があらわになった。
 そこは真っ赤に腫れあがり、あれほど屈強だった彼の脚が、自分の意思とは無関係にガクガクと情けなく痙攣し続けている。

 そして――彼が不用意に腰を浮かせた、次の瞬間だ。

 トロリ……。

 ギリギリ布で隠された股間の奥から、白く濁った粘液があふれだし、赤い太腿の内側をツーッと伝い落ちたのだ。
 それは私が一晩かけて注ぎ込んだ「所有の証」。
 白い雫は、痙攣する筋肉の隆起を乗り越え、重力に従ってシーツへとポタ、ポタと滴り落ちていく。

「あ……」

 ドノバン自身も、自分の内側から垂れ落ちる生温かい感触に気づき、言葉を失って自身の太腿を凝視した。
 動かぬ証拠。
 否定しようのない、「中に出された」という事実。

「ひぃっ……!」

 そのあまりの生々しさ――中までたっぷりと種付けされた馴染みの監視員の姿を目の当たりにして、メンバーたちは息をのんでった。
 私は、絶望に顔をゆがめるドノバンを横目に、凍りついた彼らに向かって涼しい顔で言い放った。

「見ての通りだ。取り込み中だから、お前たちは先に行っていろ」

 その堂々たる宣言に、重戦士タンクの男が、白目を剥きかけているドノバンと、その股間から垂れる白い証拠を交互に見て、引きつった顔でボソリとつぶやいた。

「と、取り込み中って……ドノバンさん、もう物理的にキャパオーバーであふれ出てますけど……」
「これ以上、まだ『ナニ』を取り込ませる気なんですか……死にますよ?」
「リーダー……その、お手柔らかに……」
「相手、病み上がり(?)なんですからね……」

 メンバーたちは、あわれみと畏怖いふの混じった視線をドノバンに残し、逃げるように去っていった。
 残されたドノバンは、打ちひしがれて両手で顔を覆い、天井を仰いだ。
 終わった、俺のセカンドライフが。渋いオジサマとしての尊厳が。
 そんな心の声が聞こえてきそうだ。



 そんな彼の絶望もお構いなしに、時間は進む。
 ダンジョンゲートが開く刻限こくげんだ。
 広場には、早朝から探索に向かう冒険者たちが集まり始めていた。

「くそ……仕事だ。行かねえと……」

 ドノバンは、プロ根性だけで体を起こした。
 私は壁に背を預け、彼が「日常」に戻ろうともがく様を、特等席で眺めることにした。
 震える手で予備の制服を手に取り、私の熱がこびり付いた肌に、硬い生地のシャツを重ねていく。
 私が刻んだ鮮やかな鬱血痕や、食い散らかした歯型が、一枚の布によって遮断されていく。その「隠蔽いんぺい」の作業が、たまらなくエロティックで、私の独占欲を甘く刺激した。

 外側からは、いつも通りの堅物な監視員に見えるだろう。
 だがその服の下では、赤く擦れた柔らかな太腿が制服の硬い生地に触れ、私の白濁を飲み込んだままのナカが、歩くたびに重く、鈍いうずきを上げているはずだ。

 ボロボロの体を無理やり規律のなかに閉じ込め、彼は唇を噛んで立ち上がった。
 腰から下が自分のものではないかのように、ガタガタと膝が揺れている。
 私は、そんな彼が「頼れる監視員」という仮面を被るのを手伝うこともせず、ただ黙ってその後をついていった。

 監視小屋から広場に出る。
 朝日が眩しい。
 その光に照らされる彼の背中が、昨夜の乱れきった姿をどうにか隠していることに、私はゾクゾクした。

「おう、ドノバンさん! おはよう!」
「今日はいい天気だな!」

 馴染みの冒険者たちが声をかけてくる。
 ドノバンは、引きつった笑顔で手を上げようとした。

「お、う……おはよう……ッぐ!」

 一歩踏み出した瞬間、膝の力が抜け、腰に激痛が走ったのだろう。
 ガクン、と巨体きょたいが崩れ落ちそうになる。
 私は、その瞬間を待っていた。

「うぅ……っ!」

 みっともなく地面にいつくばる――ドノバンがそう覚悟したとき。
 サッ、と横から腕を伸ばし、その体をガッチリと支えた。

「危ないですよ、ドノバンさん」

 私は、衆目環視しゅうもくかんしの中、ドノバンの腰に手を回し、抱き寄せるようにして支えたのだ。

「セ、セルウィン……! 離せ、人が見てるだろ!」
「見ればいい。……体調が悪いなら、無理しないでください」

 私の声は甘かった。
 そして、その手つきは、支えるというよりは、完全に「自分のモノを確認する」手つきで、ドノバンの腰をねっとりと撫で回している。

「腰が痛むんでしょう? ……私が、激しく攻めすぎたせいで」
「ッ~~~~!! こ、声がでかい!!」

 周囲の冒険者たちが、ギョッとして二人を見る。
 Aランクの若きエースが、傷だらけの監視員の腰を抱き、耳元で愛をささやいている図。
 異様だろう。
 だが、私の「私のモノに触れるな」というオーラが凄まじすぎて、誰もツッコミを入れられない。

「ほら、座ってください」

 私は、ドノバンを丸椅子に座らせると、甲斐甲斐かいがいしく背中をさすった。

「今日は私がずっとここにいて、手伝いましょうか?」
「帰れ! 仕事しろ!」
「嫌です。私の仕事は、あんたを監視することに変わったので」

 私は、爽やかな笑顔で、狂気じみた宣言をした。
 ドノバンは、頭を抱えてうめいた。
 こいつは、本気だ。
 これから毎日、この重すぎる愛と、底なしの性欲に付き合わされるのかと思うと、目の前が暗くなる――そんな顔だ(当然付き合ってもらう)。

 だが。
 背中をさする手が心地よいのか、彼は私を振り払おうとはしなかった。

「……たく、とんでもねえ若造だ……」

 ドノバンは、諦めたように、しかし満更でもなさそうにつぶやくと、赤くなった顔を襟元に埋めた。
 その首筋には、隠しきれない情交の残り香が、朝日の中で赤く主張していた。
 古傷の男と若きエースの、騒がしくも濃厚な日々は、まだ始まったばかりである。

(完)
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