目立たず世界最強へ〜モブを装う者には裏の顔がある〜

冬城レイ

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第五章「ヴェタン王国で暗躍する!」前編

ヴェタン王国はウソの国

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 夜のヴェタン王国は、音が少なすぎた。

 風は吹いている。旗も揺れている。
 だが、人の生活音だけが、綺麗に抜け落ちている。

 ラグナは屋根の上を歩く。

 足音は消していない。
 消す必要がないからだ。誰も、追ってこない。
 いや――正確には。

「見られていない、わけじゃないな」

 視線がないのではない。
 視線を向けないことが、徹底されている。

 街灯の下、建物の影、窓の奥。

 気配は確かに存在する。
 だが、こちらを認識しない。

 否。

 認識してはならない、と決められている。

 ラグナは一度だけ、足を止めた。

「……壁か」

 昼間に見た外壁より、内側の壁の方が厚い。しかも、新しい。
 補修ではない。増設だ。
 国を守るための壁ではない。

「中の何かを、閉じ込めている」

 ラグナは壁に触れない。触れれば、反応が返ってくる。
 それは、旧制度館で感じたものと同質だ。

 あの場所には、意志が残っていた。

「フィネラ……」

 墓ではなかった。
 封印でもない。

 もっと制度的な何か。
 ラグナは視線を上げる。旧制度館の屋根が見えた。
 月明かりに照らされ、歪んだ影を落としている。

「建築様式が、合わないな」

 年代が違う。
 まるで、何度も作り直されたような形。

 その瞬間。

 耳鳴り。いや、音ではない。
 情報が、揺れた。

「空間が……軋んでいる」

 理解する。

 ここは、ただの建物ではない。
 旧制度館は、制度そのものを固定するための装置だ。
 法を保存する場所ではない。
 適用対象を保存する場所だ。

「誰を人として扱うか」
「誰を記録に残すか」

 それを決める場所。だから、触るなと。
 触れれば、選別が始まる。
 ラグナは笑わない。

「秩序の、完成形か」

 その時。

 背後に、気配。

 薄い。
 だが、明確。
 ラグナは振り向かない。

 三つ。

 屋根の縁。
 鐘楼の影。
 通りの奥。

「敵意はない……観測か」

 誰かが、測っている。
 ラグナは、あえて歩みを進める。

 旧制度館へ。

 途中、地面に刻まれた紋様に気づく。消されかけている。
 だが、完全には消えていない。

「……魔法陣じゃないな」

 円環。
 線。
 数式のような配置。

「識別式か」

 人を分類するための刻印。
 ラグナは足を止めない。

「今は、触れない」

 だが、確信する。
 この国では、夜に何かが行われている。
 秩序の名の下で。
 旧制度館の裏手に回る。

 入口は閉じている。
 だが、閉じられていない場所がある。

「地下……」

 空気が冷たい。
 そして、微かに血の臭い。

 その時。

 頭の奥で、声が重なる。フィネラではない。
 もっと多い、もっと無名。

『ここにいる』

 助けて、ではない。

「なるほど……」

 ラグナは静かに息を吐く。

「これは救出じゃない」

 世界の裏側を、掘り起こす行為だ。
 ラグナは、地下へと続く階段の前に立つ。
 その一段目に――

「おっと。部外者が迷い込んでいたようだ」
「貴様は、神父か」
御尤ごもっとも」

 そう、目の前に居たのは旧制度館を案内した神父だった。

「四葬聖教の幹部クラス、というわけか」
「違う」
「……黒のメンバーか」
「正解だ。わたくしは、黒のメンバー第八席・ベレブ」
「そうか……ただの埋め合わせか」

 ラグナはそう言い放った。

「今なんと言った」
「ただの埋め合わせ。だと言った。耳が遠いのではないか?」
「埋め合わせだと?言ってくれるではないかッ!!」

 その時、手裏剣が飛んできた。
 だが、ラグナには通用しない。
 指と指で挟み、止めた。

「チッ……効かないか」
「ナメるな」

 その会話を最後に沈黙が流れる。

「……少し、この国について話そうか」
「聞かせろ」

 そうして話し始めた。

「まず、この国は……ウソの国だ」
「秩序の国ではない、と?」
「それすらもウソに過ぎない」
「治安が良いのはなぜだ」
「記録から消している」
「……」

 またしても沈黙……とはならなかった。

「国を守る壁は見ただろう?」
「ああ。とても妙だった」
「その勘は優秀なようだ……そうだとも。実に妙だろう」
「理由は、我でも察しがついた」
「言ってみたまえ。ラグナよ」
「作っている」

 その一言で十分だった。

「正解だ。そうだ。二年に一度壁を厚くしている。理由は―――」
「この国の呪いを閉じ込めるため」

 ラグナは神父の言葉を遮り言った。

「そこまでわかっているか」
「ナメるな、と言ったはずだ」
「……」

 ラグナは続けて言う。

「フィネラを死んだとした理由は、邪神龍の怒りを鎮めるため。そうだな?」
「……それは違う」
「ほう?言ってみろ」
「フィネラが生きているのは事実……。ただ、呪いの媒体はフィネラだった」
「……英雄にはふさわしくないから、と?」
「一理ある。だが、もっと深い」

 そこで会話が終わった。

「さて、終いだ。ここからは私ではなく、コイツらに託す」

 そう言い、神父は消えた。

「ヒャッハー!!」

 目の前には二人の男。

「監視していたのは貴様らか」
「御名答!!俺等は強いぜ?」
「強い、か。もう勝敗は決まったのに、か?」
「なッ―――」

 何かを言おうとした二人の首が落ちた。
 ボトッ、という鈍い落ちる音。
 そして、目の前に転がってくる生首には綺麗な赤色の血がついていた。


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(今回は内容超深いぞ!!)
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