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第6章〜近未来都市・Chutopia2120〜
第5話
しおりを挟むタクシーは間もなく幹線道路に入り、高速で走り始めた。
操縦は全くしていないのに、他のタクシーにぶつからないよう上手くスピードを調整したり車線を変更したりしつつ、走っていく。
「へぇー、別世界から来られたんですか? すごい、そんな事ってあるんですね」
乗務員のねずみさんはとても話好きで、次々とぼくに質問を投げかけてくれる。なのでついつい、ぼくが別世界から来た事を話してしまっていた。
「そうなんです、それでしばらくねずみさんの家族にお世話になってまして。ところでこの車、どういう仕組みで動いてるんですか?」
「中央管制システムに、行き先をこのマイクで伝えるんです。そしたら、管制システムにいるねずみさんたちが手配してくれて、あとは自動的に目的地へ向かって行くんですよ。僕らのお仕事は、お客さんとお話ししたりして、お互い楽しい時間を過ごすことなんです」
「なるほど……、子供も乗務員になれるんですね」
「僕ぐらいの歳の乗務員もたくさんいますよ。旅するのが好きなら、とても楽しめるお仕事ですよ」
子供だけど、とても話し上手な乗務員のねずみさんだ。そして、楽しそうだ。彼にとっては、これが天職なのだろう。
タクシーは高架道路をスイスイ走っている。他に走っているのはタクシーとバス、ダンプトラックだけだ。
バスとダンプトラックは重いためか、宙に浮かんで走るタクシーとは違い車輪で走っているが、やはり管制システムからの指令で自動的に動いているという。
どの車両も速度はほぼ同じで、うまい具合に進路を譲り合ったりしており、完璧なまでの安全運転だ。
そうこうしているうちに、目的地に着いたようだ。
市場のような、大きな建物が見える。
「お忘れ物のないようにね!」
「うん! はいこれ、ありがとね!」
トムは、何やら金貨らしいものを乗務員のねずみに渡した。あ、あれだ。前におかあさんが教えてくれた、どんぐり印の硬貨【エイコン】。やっぱり、決められた金額を支払わなきゃいけないのだろうか。
「じゃあ、いただいとくね。またご縁があれば会いましょう。いい旅を!」
「またねー!」
“エイコン”を受け取った乗務員のねずみさんが再びタクシーに乗り込むと、タクシーはすぐにスイーッと去って行った。
ぼくらは荷台をガラガラと引きながら、左右に高層ビルが立ち並ぶ歩道を進んで行った。
“エイコン”のことが気になるので、トムに聞いてみよう。
「ねえトム、さっき渡したあれ、“エイコン”ってやつだっけ?」
「そうそう! よく知ってるね」
「うん、おかあさんから聞いたからね」
トムは、金色に光る少し大きめの“エイコン”を取り出し、見せてくれた。
「“エイコン”は、ありがとうの気持ちを表すときに渡す感謝の証みたいなものだよ。そうだ! マサシ兄ちゃんにもぼくたちから、はい、これ」
「え、もらっちゃっていいの?」
「うん、もちろん!」
“エイコン”を手に取ってみる。汚れ一つなく金ピカで、どんぐりマークの下に平仮名で“ありがとう”とだけ記されている。
「でもこれ、生活していくために必要なものじゃないの?」
質問を続けた。
そう、ぼくらの世界では、“お金”は確かに“感謝の証”的な意味合いもある。しかし、ぼくらが暮らす資本主義経済の世の中では、家賃や食費、光熱費、保険料、通信費など色々と必要で、お金が無いと生活していけないんだ。だから経済的自立をして、働いてお金を稼がなくてはいけない。そして貯金したり、節約したりして、考えながら使わなきゃいけない。
しかし、トムの答えは意外なものだった。
「ん? 生活に必要なものはみんな無条件にみんなで分かち合ってるんだよ? “エイコン”はお礼の気持ちであって、渡したい時に渡せばいいんだよね。これを持ってないからダメだとか、持ってれば偉いだとか、これがないとサービスを提供してもらえなくて生活に困ったり……とか、そういう社会システムは、ずいぶん昔に廃れたんだよ」
つまり、生活費とか破産とか借金とかの心配を一切しなくてもいいってことなのだ。
必要なもの、欲しいものは、全部タダで手に入るということ。
こんな理想的な世界、存在していいのだろうか。頭の中の整理が追いつかない。
「あたし難しい話わかんないや」
「ナッちゃんにもすぐわかるよ。あ、あの市場だよ。行こう」
トムが指差した先に、市場の正面入り口が見えた。大きな看板に、『Chutopia中央市場』と書かれている。
外壁が七色に染められ、入口の上に大きな流れ星のマークがあり、星形のいくつもの装飾が光りながらクルクルと回転していて、建物そのものが芸術作品のようだ。
トムに案内され、建物の裏口に到着した。
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