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14 ヤることヤって大団円
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王都には、飾らない姿で行くほうが良いと意見がまとまった。
地味な格好をしたら、完全にリリカのお付きにしか見えない。
勇者様ご一行が王女を連れて凱旋する図になっている。その中に潜伏する魔王という段取りなのだが、魔王様、回を追うごとに魔王らしさが消えている。
我ながら。
「だから良いのです!」
とリリカが力説した通り。
魔王たる実力は、王に目通りしてから発揮された。
「貴様が魔王だと?」
などという口の聞き方をした時点で、アウトである。
舐められるだろうなとは思ってたけど、舐め過ぎでしょう。
まだ若い王様は、さすが次々に勇者を送り込んで来てた張本人だけあり「魔王を引っ立てろ!」と迅速だ。リリカの言葉も勇者の声も、届かない。
「やってみろ!」
思う存分、暴れてやった。
王都を粉々にする勢いで。
想定内だ。
人間は死傷しないよう気を付けるが、建物は完膚なきまでに崩壊する。壊れやすい人間をいくら殺したところで、恨みしか募らない。
けど王都はさすが魔窟である。あくどい方々の、なんて多いこと。リサーチばっちり、根回しばっちり。壊すのは王様の愛人の豪邸とか、軍事施設だ。うちの部下たちの仕事なめんな。
ふっつーの地味~な姉ちゃんが空を飛んで、どっかんばったんやり出したのだ。しかも勇者も王女も「いいぞ、もっとやれ」と言わんばかりの……あ、いや、ベンジャミンは複雑な表情をしているのが見える。
建物ぶっ壊しの見せしめは、そりゃ勇者としては気持ち良くないだろう。
「やめろ! やめてくれ!」
と、王の降参は早かった。
だが、こっちにも体裁と面子ってモンがある。やり出した以上、区切りの良いところまではやっちゃわないと気が済まない。リリカを陥れようとしていた、王弟一派と男爵の癒着。その元になった密売所だけは潰しておかないと、リリカが安心して王都に戻れない。
「これまで悪事の限りを尽くしてきた、その報いを受けるが良い!」
叫んで、建屋に雷を落としてやった。
……が、その建屋は壊れなかった。
「あ……」
ドラゴンに乗ったベンジャミンが、盾で受けていたのだ。一騎打ちをした時に、何度も困らされた防御だった。
「どうして」
盾からはみ出た腕が一部、焦げている。
「中に、まだ人がいた。それに悪者でも王族だ。正規の場で裁かれなければならない」
静かに話すベンジャミンのことを、ドラゴンも丁寧に乗せている。信用している証である。これには勝てない。私もふわりと、ドラゴンの背に乗って王宮に戻った。
国王はすっかり降参している。
親衛隊は配備していたようだが、軍隊まで揃えて全面戦争するつもりではなかった辺りに、こちらとしても救われた。
かくして魔界と王国は手を取り合い、互いを尊重して存続する関係となった。といっても対等ではなく、魔界が王国の属国となった。その方が、都合が良いと判断したのだ。
立場は下だが、睨みは利かす。一番面倒な相手である我ながら。
売買は対等。労働力も与える。人間の生活を支えるゴーレムたち、という不思議な光景が生まれた昨今だが、これがなかなか良い関係に落ち着いている。
怒ると怖い魔物たちも、怒らせなければ優しいのだと気付かせてくれた者たちがいたからである。
侍女ちゃんたちと、リリカ姫。
王女リリカは本当に、魔宮に住み着いてしまった。
それが王国と魔界を結ぶ、私の役目なのだと王を説得して。
それから勇者と魔王の結婚。
一度は切り結び死闘を繰り広げた二人に愛が芽生え、結ばれて……というエピソードは、歌になり芝居になり、国中に広まった。皆さんロマンスがお好きねぇ。
それが決定打となり、互いの関係を不動のものとしたのである。
結婚式やパレードやと企画された日には、決戦よりも緊張して逃げ出したくなったが、侍女ちゃんたち渾身の化粧により絶世の美女と化したおかげで、なんとか乗り切ったものだった。
秋で良かった。
汗かいたら終わりだった。
目下の悩みは、魔宮で働きたいと押し寄せる女の子たちを差配することと、リリカを始め、彼女らの嫁ぎ先を斡旋することである。
人間の町に行ったほうが出会いもあるし文化も栄えてるってのに、何が良くて魔宮に来るのか……少しは、まぁ、分かるのだが。だからか、斡旋はなかなか上手く行かない。
「あーあ」
窓から日暮れを眺めて溜め息をつくと、背後にベンジャミンが近付いていた。
「いっそ勇者ご一行による魔王討伐イベントを再会させよかしらん」
リリカの婿探しである。が、毎回身体を張るのも疲れるしなぁ。
「だったら俺が、まず挑戦者と戦うシステムもアリじゃないか? 自警団の強化にもつながるし」
などとベンジャミンが言う。
「俺以外の男にミツキが負ける訳がないが、間違って惚れられても困るしな」
「どっちもないわ」
「強い男は現れるかも知れないよ。だったら、なおさら俺も身体を動かさないと」
鍛錬も警備も欠かしていない、屈強な腕こぶしを見せて、ベンジャミンが笑う。
「けど、まずは今夜だ。身体を動かさないと」
同じ台詞だが、ニュアンスがまったく違う。
一気に身体が沸騰する。すぐ反応するようになってしまった身体が憎い。あれから、タガが外れたように毎晩ヤっている。最初は訳が分からなかった震えも振動も、それが気持ち良いという感覚なのだと身体が覚えてきた。
「もう!」
膨れてみても、どうしても彼には凄めない。
惚れた弱みは承知の上だ。
どこまで一緒にいられるのか、子供はできるのか? などは色々気にかかるところだが、今は、今を大事にしようと決めた。どうせ死後のボーナスステージみたいな人生だ。
何が起こっても不思議じゃないだろうし、楽しみでもある。
振り向き、頬を寄せる。
「あなたと出会えただけで、この転生めっけもんだったわ」
「メッケモン?」
さすがに意味が分からないか。
「ラッキーってことよ」
「俺もだよ」
唇を重ねる。
彼の手が私の身体をなぞりだす。息が上がっていく。
窓から入る夕暮れが、絨毯に一本の長い影を描く。
後年、王宮と魔宮のレリーフには、勇者と魔王の対決と結婚が、対で飾られていたとか。
~Fin~
地味な格好をしたら、完全にリリカのお付きにしか見えない。
勇者様ご一行が王女を連れて凱旋する図になっている。その中に潜伏する魔王という段取りなのだが、魔王様、回を追うごとに魔王らしさが消えている。
我ながら。
「だから良いのです!」
とリリカが力説した通り。
魔王たる実力は、王に目通りしてから発揮された。
「貴様が魔王だと?」
などという口の聞き方をした時点で、アウトである。
舐められるだろうなとは思ってたけど、舐め過ぎでしょう。
まだ若い王様は、さすが次々に勇者を送り込んで来てた張本人だけあり「魔王を引っ立てろ!」と迅速だ。リリカの言葉も勇者の声も、届かない。
「やってみろ!」
思う存分、暴れてやった。
王都を粉々にする勢いで。
想定内だ。
人間は死傷しないよう気を付けるが、建物は完膚なきまでに崩壊する。壊れやすい人間をいくら殺したところで、恨みしか募らない。
けど王都はさすが魔窟である。あくどい方々の、なんて多いこと。リサーチばっちり、根回しばっちり。壊すのは王様の愛人の豪邸とか、軍事施設だ。うちの部下たちの仕事なめんな。
ふっつーの地味~な姉ちゃんが空を飛んで、どっかんばったんやり出したのだ。しかも勇者も王女も「いいぞ、もっとやれ」と言わんばかりの……あ、いや、ベンジャミンは複雑な表情をしているのが見える。
建物ぶっ壊しの見せしめは、そりゃ勇者としては気持ち良くないだろう。
「やめろ! やめてくれ!」
と、王の降参は早かった。
だが、こっちにも体裁と面子ってモンがある。やり出した以上、区切りの良いところまではやっちゃわないと気が済まない。リリカを陥れようとしていた、王弟一派と男爵の癒着。その元になった密売所だけは潰しておかないと、リリカが安心して王都に戻れない。
「これまで悪事の限りを尽くしてきた、その報いを受けるが良い!」
叫んで、建屋に雷を落としてやった。
……が、その建屋は壊れなかった。
「あ……」
ドラゴンに乗ったベンジャミンが、盾で受けていたのだ。一騎打ちをした時に、何度も困らされた防御だった。
「どうして」
盾からはみ出た腕が一部、焦げている。
「中に、まだ人がいた。それに悪者でも王族だ。正規の場で裁かれなければならない」
静かに話すベンジャミンのことを、ドラゴンも丁寧に乗せている。信用している証である。これには勝てない。私もふわりと、ドラゴンの背に乗って王宮に戻った。
国王はすっかり降参している。
親衛隊は配備していたようだが、軍隊まで揃えて全面戦争するつもりではなかった辺りに、こちらとしても救われた。
かくして魔界と王国は手を取り合い、互いを尊重して存続する関係となった。といっても対等ではなく、魔界が王国の属国となった。その方が、都合が良いと判断したのだ。
立場は下だが、睨みは利かす。一番面倒な相手である我ながら。
売買は対等。労働力も与える。人間の生活を支えるゴーレムたち、という不思議な光景が生まれた昨今だが、これがなかなか良い関係に落ち着いている。
怒ると怖い魔物たちも、怒らせなければ優しいのだと気付かせてくれた者たちがいたからである。
侍女ちゃんたちと、リリカ姫。
王女リリカは本当に、魔宮に住み着いてしまった。
それが王国と魔界を結ぶ、私の役目なのだと王を説得して。
それから勇者と魔王の結婚。
一度は切り結び死闘を繰り広げた二人に愛が芽生え、結ばれて……というエピソードは、歌になり芝居になり、国中に広まった。皆さんロマンスがお好きねぇ。
それが決定打となり、互いの関係を不動のものとしたのである。
結婚式やパレードやと企画された日には、決戦よりも緊張して逃げ出したくなったが、侍女ちゃんたち渾身の化粧により絶世の美女と化したおかげで、なんとか乗り切ったものだった。
秋で良かった。
汗かいたら終わりだった。
目下の悩みは、魔宮で働きたいと押し寄せる女の子たちを差配することと、リリカを始め、彼女らの嫁ぎ先を斡旋することである。
人間の町に行ったほうが出会いもあるし文化も栄えてるってのに、何が良くて魔宮に来るのか……少しは、まぁ、分かるのだが。だからか、斡旋はなかなか上手く行かない。
「あーあ」
窓から日暮れを眺めて溜め息をつくと、背後にベンジャミンが近付いていた。
「いっそ勇者ご一行による魔王討伐イベントを再会させよかしらん」
リリカの婿探しである。が、毎回身体を張るのも疲れるしなぁ。
「だったら俺が、まず挑戦者と戦うシステムもアリじゃないか? 自警団の強化にもつながるし」
などとベンジャミンが言う。
「俺以外の男にミツキが負ける訳がないが、間違って惚れられても困るしな」
「どっちもないわ」
「強い男は現れるかも知れないよ。だったら、なおさら俺も身体を動かさないと」
鍛錬も警備も欠かしていない、屈強な腕こぶしを見せて、ベンジャミンが笑う。
「けど、まずは今夜だ。身体を動かさないと」
同じ台詞だが、ニュアンスがまったく違う。
一気に身体が沸騰する。すぐ反応するようになってしまった身体が憎い。あれから、タガが外れたように毎晩ヤっている。最初は訳が分からなかった震えも振動も、それが気持ち良いという感覚なのだと身体が覚えてきた。
「もう!」
膨れてみても、どうしても彼には凄めない。
惚れた弱みは承知の上だ。
どこまで一緒にいられるのか、子供はできるのか? などは色々気にかかるところだが、今は、今を大事にしようと決めた。どうせ死後のボーナスステージみたいな人生だ。
何が起こっても不思議じゃないだろうし、楽しみでもある。
振り向き、頬を寄せる。
「あなたと出会えただけで、この転生めっけもんだったわ」
「メッケモン?」
さすがに意味が分からないか。
「ラッキーってことよ」
「俺もだよ」
唇を重ねる。
彼の手が私の身体をなぞりだす。息が上がっていく。
窓から入る夕暮れが、絨毯に一本の長い影を描く。
後年、王宮と魔宮のレリーフには、勇者と魔王の対決と結婚が、対で飾られていたとか。
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