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三章 ミコという名前
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よく寝た。
めっちゃ寝た。
次の日は起きたら夕方だった。時差ボケにでもなってたのか私? ってな爆睡っぷりだった。
あの後、話を終えた私は、タバナの退室を見届けてからヒタオに世話されて着替え、寝床についた。着替えてる間、お互いソワソワしたけど、何かが通じ合えた気はした。ヒタオは、ずっと黙っていたことが話せてスッキリしたんじゃないかな。私も知りたかったことが知れたし、ヒタオの立ち位置が分かって気が晴れたのもある。
大好きで大嫌いな、義妹。
速攻で落ちてからは何か、夢を見たような気もするが、それも覚えていない。でも夢見は悪くなかったんじゃないかな。起きた時の気分は、清々しかった。身体が軽い。
その日は結局、起きて夕飯を食べたら、また就寝になっただけだった。
なのにまだまだ寝れて、そんなに寝れてる自分にちょっと笑いながら意識をなくしたものだった。
その翌日だ。
タバナが何やら、巻物っぽいものを3本ほど抱えて、訪ねてきてくれたのである。出入り口には、ヒタオが控えている。見張ってくれているのだ。
「長居はできませんが」
と、タバナが言う。オサの監視があるのかなと思って、私は頷いた。タバナにも何か、仕事が与えられているんだろうし。
そういえばオサってのも役職なのかな。聞こえる言葉に漢字がついてないから、イメージしにくい。
タバナが広げた巻物は分厚くて、布のようだった。皮? ガサガサしてるけど、何か色々描いてある。模様?
「文字です」
「文字? これが?」
丸三角四角、二重丸。どう見ても模様にしか見えない。もしくは子供の落書きだ。かろうじて絵本みたいだと思えないこともないが……。
「あ」
「?」
覗き込む私を見守るタバナが首を傾げたのが、気配で分かった。バッと顔を上げたら、お互いの顔が近かった。タバナ、近い近い!
思わず、お互いに身を引く。タバナのバツの悪そうな表情は、髭に隠れてて分かりにくい。分かりにくいけど分かっちゃうのが、何だかなぁ。
私は一瞬、ヒタオを見てしまった。
ヒタオは、戸口に立って外を眺めていた。
表情は分からない。
私がカラナじゃないと知ったヒタオの心中は、察する。複雑なことだろう。
年下の義姉、しかもミコ様。タバナとの結婚は、カラナがミコになってからのことなのだろうか。小さな頃、一緒に野山を駆け回っていたような記憶が見える。
今はヒタオも、放っておいて欲しい、そっとしておいて欲しいと思っているだろうか。
カラナじゃない私に対して話すことは何もない、と。むしろ今まで知らずに甲斐甲斐しく、カラナだからと思うから親身に世話をしていたのに、と。憎らしく思っているとしても不思議はない。
残念ながら、この身体に備わっているツウリキとやらは、人の心を読むことは出来ないらしい。読めたら、こっちだってどう接したら良いかが分かるのに……と思うけど、でも、読めたら読めたで、落ち込むかもなぁ。
私はヒタオを見るのをやめた。
巻物に目を落とす。
さっき思わず声が出てしまったのを取りつくろうように、私は咳払いをした。
これが読める、だなんて。
人の心を読むことは出来ないけど、訳の分からないはずの文字は読める。
カラナが、読めていたからだ。多分。この脳に入っている知識が、中の私にも恩恵をくれている。
こうして皆と話せているのだって、カラナの身体だからじゃないだろうか? って思ったしね。だって昔の言葉って、現代とはずいぶん違ったはずだしね。ござるとかおじゃるとか誰も言ってないし。ってか実際はもっと、おじゃるどころじゃない用語のような気もするし。
言ってないのが当たり前なんじゃなくて、この耳が、脳が、自動翻訳機みたいなことしてくれてるんじゃない?
字の形を見たら、その意味が分かる、だなんて。
古文も漢文も、偏差値ズタボロだったってのに。
「オサは……長か」
「え?」
「分かったの。言葉の意味が」
暗号、記号としての言葉、名前などは意味が分からず、脳内で漢字には変換できなかった。でも文字を見れば、そこに含まれている意味合いが分かる。
記述は村の役割分担を示した表だ。
私が要求した通り、タバナが村のことを説明するべく用意してくれたのだ。見ると、一目瞭然だった。
長の下に並ぶ、役職らしき名前。稲佐、鉄佐、水佐、治佐。……闘佐。
戦争かぁ。そりゃあるんだろうな。
でもってミコの役割はといえば、それは、分担表の頂点に書いてあった。あえて、御子と書いてある。
日の字も神の字も神聖なものだから、おいそれとは口に出せない言葉らしい。ツウリキもだ。あれは神通力だ。神の字を避けて、ツウリキと読んでいる。
と、いきなり思い出した。ってか、この子の記憶が蘇ったのだ。
本来の名前も。
日神子だ。
めっちゃ寝た。
次の日は起きたら夕方だった。時差ボケにでもなってたのか私? ってな爆睡っぷりだった。
あの後、話を終えた私は、タバナの退室を見届けてからヒタオに世話されて着替え、寝床についた。着替えてる間、お互いソワソワしたけど、何かが通じ合えた気はした。ヒタオは、ずっと黙っていたことが話せてスッキリしたんじゃないかな。私も知りたかったことが知れたし、ヒタオの立ち位置が分かって気が晴れたのもある。
大好きで大嫌いな、義妹。
速攻で落ちてからは何か、夢を見たような気もするが、それも覚えていない。でも夢見は悪くなかったんじゃないかな。起きた時の気分は、清々しかった。身体が軽い。
その日は結局、起きて夕飯を食べたら、また就寝になっただけだった。
なのにまだまだ寝れて、そんなに寝れてる自分にちょっと笑いながら意識をなくしたものだった。
その翌日だ。
タバナが何やら、巻物っぽいものを3本ほど抱えて、訪ねてきてくれたのである。出入り口には、ヒタオが控えている。見張ってくれているのだ。
「長居はできませんが」
と、タバナが言う。オサの監視があるのかなと思って、私は頷いた。タバナにも何か、仕事が与えられているんだろうし。
そういえばオサってのも役職なのかな。聞こえる言葉に漢字がついてないから、イメージしにくい。
タバナが広げた巻物は分厚くて、布のようだった。皮? ガサガサしてるけど、何か色々描いてある。模様?
「文字です」
「文字? これが?」
丸三角四角、二重丸。どう見ても模様にしか見えない。もしくは子供の落書きだ。かろうじて絵本みたいだと思えないこともないが……。
「あ」
「?」
覗き込む私を見守るタバナが首を傾げたのが、気配で分かった。バッと顔を上げたら、お互いの顔が近かった。タバナ、近い近い!
思わず、お互いに身を引く。タバナのバツの悪そうな表情は、髭に隠れてて分かりにくい。分かりにくいけど分かっちゃうのが、何だかなぁ。
私は一瞬、ヒタオを見てしまった。
ヒタオは、戸口に立って外を眺めていた。
表情は分からない。
私がカラナじゃないと知ったヒタオの心中は、察する。複雑なことだろう。
年下の義姉、しかもミコ様。タバナとの結婚は、カラナがミコになってからのことなのだろうか。小さな頃、一緒に野山を駆け回っていたような記憶が見える。
今はヒタオも、放っておいて欲しい、そっとしておいて欲しいと思っているだろうか。
カラナじゃない私に対して話すことは何もない、と。むしろ今まで知らずに甲斐甲斐しく、カラナだからと思うから親身に世話をしていたのに、と。憎らしく思っているとしても不思議はない。
残念ながら、この身体に備わっているツウリキとやらは、人の心を読むことは出来ないらしい。読めたら、こっちだってどう接したら良いかが分かるのに……と思うけど、でも、読めたら読めたで、落ち込むかもなぁ。
私はヒタオを見るのをやめた。
巻物に目を落とす。
さっき思わず声が出てしまったのを取りつくろうように、私は咳払いをした。
これが読める、だなんて。
人の心を読むことは出来ないけど、訳の分からないはずの文字は読める。
カラナが、読めていたからだ。多分。この脳に入っている知識が、中の私にも恩恵をくれている。
こうして皆と話せているのだって、カラナの身体だからじゃないだろうか? って思ったしね。だって昔の言葉って、現代とはずいぶん違ったはずだしね。ござるとかおじゃるとか誰も言ってないし。ってか実際はもっと、おじゃるどころじゃない用語のような気もするし。
言ってないのが当たり前なんじゃなくて、この耳が、脳が、自動翻訳機みたいなことしてくれてるんじゃない?
字の形を見たら、その意味が分かる、だなんて。
古文も漢文も、偏差値ズタボロだったってのに。
「オサは……長か」
「え?」
「分かったの。言葉の意味が」
暗号、記号としての言葉、名前などは意味が分からず、脳内で漢字には変換できなかった。でも文字を見れば、そこに含まれている意味合いが分かる。
記述は村の役割分担を示した表だ。
私が要求した通り、タバナが村のことを説明するべく用意してくれたのだ。見ると、一目瞭然だった。
長の下に並ぶ、役職らしき名前。稲佐、鉄佐、水佐、治佐。……闘佐。
戦争かぁ。そりゃあるんだろうな。
でもってミコの役割はといえば、それは、分担表の頂点に書いてあった。あえて、御子と書いてある。
日の字も神の字も神聖なものだから、おいそれとは口に出せない言葉らしい。ツウリキもだ。あれは神通力だ。神の字を避けて、ツウリキと読んでいる。
と、いきなり思い出した。ってか、この子の記憶が蘇ったのだ。
本来の名前も。
日神子だ。
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