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四章 ミコがやれること

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 雰囲気からするとタバナたち一行は、まだナコクに到着してないようだ。一個部隊だから、移動に時間がかかるのかな。
 皆のバテてる空気を感じる。まだ暑いもんね。現代の40℃とかいう狂った暑さじゃないけど。暑さだけじゃない、長旅の疲れもあるんだろう。
 現代みたいに車や飛行機、ないしねぇ。

 そんなことを思いながら、タバナらしき気配に向かって空を飛んでいると、平原の向こうに海が見えてきた。たゆたう、キラキラ光る鏡のような水面……。
 え?
 ナコクって、海の向こうなの?!
 驚いたけど、近付くとうっすら向こう岸があるのが見えてきた。半島? いや……これ、でっかい湖……か?
 舐められたら分かるんだけどな、幽体じゃ無理だ。匂いもない。風を感じるって思ってたけど、やっぱり実体じゃないんだなぁ。
 湖の上を飛び、向こう岸を目指す。途中に島みたいなのもあるけど、やっぱり半島なのかな。空から見る世界は大きくて果てしなくて、すごく自分がちっぽけだなぁって、逆に清々しい気持ちになる。これから、一波乱あるかも知れないのに。
 しばらく飛んだら、すぐ向こう岸が見えてきた。とはいえ海ひとつ超えた気分だ。
 まさかナコクって、韓国とか台湾とかなのかな。ってか、ここが日本なのかどうかも、まだ本当は疑わしい訳だけど……もう確認するすべがないから、日本ってことで良いかな。クニはヤマタイだし、私はヒミコだし。

 タバナが何を考えてるのか、私のことどう思ってるのかって、そわそわしてる自分がいる。そういう時の自分は嫌い。自分のことしか考えてない。
 でも嫌いなのに、ヒタオのこと悲しんでるはずなのに、やっぱりまた独りよがりループに陥ってる。私の感情じゃない、カラナの怨念だと思いたい。
 なのに、遠くにポツンとタバナたちらしき一行が見えただけで、泣きそうになるほど胸が締め付けられる。疲れきってる、重い空気。そりゃそうだ、行きたくないもの行かされてりゃ誰だって嫌だ。
 会いたかった。顔が見たかった。笑顔が見たい。
 願わくは、私に笑いかけて。
 私を好きだと言って。
 抱きしめて。

『タバナ!』
 幽体なので生の声じゃない。現代風に言うならテレパシーかな。
 気を取り直して引き締めて、業務用の顔をした。顔の判別ができるぐらいまで近づいてから、声をかけてみた。聞こえるかな。見えるかな。今の私の姿。
 タバナが、しきりに顔を動かした。
 キョロキョロしてる。
 私を探してるんだ。
 ここだよ、上だよ。
『タバナ。頭上だよ』
『ミコ様?!』
 タバナも、声のない声。頭に直接話しかけられたものだ。最初こそキョロキョロしてたけど、私がいると分かったらか、逆に前を向いちゃって、顔を上げなくなってしまった。分かったんだよね?
「タバナ様、いかがなされました?!」
 隊の人が、タバナに話しかけた。あの人には私の声も届いてないみたい。
 タバナが馬上から叫ぶ。
「何でもない! 羽虫がわずらわしかったのだ!」
 虫? え。私、虫?
『タバナ?』
 すると、やっとタバナの気配が私を向いた。とはいえ顔はこちらに向かない。前に行かないとダメかな。まとわり付いちゃうか、虫みたいに。

 タバナの空気が和らいでくれた。
『前を向いたまま話します。ミコ様のお姿は、我らに見えませぬ』
 あ、そうか。幽体だからか。
『気配を察したのは私だけかと。ですのでミコ様も、皆に気取られぬようなさいませ。ミコ様がいらっしゃると分かれば、大事おおごとです』
 そうなの? まぁ、そうか。普段、お社から出てこないんだもんね。
 私が分からないってことは、ツウリキ持ってる人はここにはいない、ってことだ。もう少し、他の皆も大なり小なりは持ってるかと思ってたけど、どうやらツウリキって、思った以上に希少価値が高い。
 ってことは多分、オサも持ってない。あんなに怯えたし。社に出入りしてくれてる女の子たちも皆、使ってるトコは見たことないから、持ってないんだろう。
 ヒタオのツウリキだって、あれは臨終直前の、命を燃やしたような使い方だった。
 タバナは使えるし、キヒリみたいな子もいたもんだから、メジャーなんだと誤解しちゃうけど。ツウリキ持ってるヒミコ様は、すごい存在なんだ。

 今さらだけど、どうして私なんかがミコ様になっちゃったのか、ものすごく疑問だ。

 特別な力とかなかったし、前世が見えたとかもない、運動音痴で、成績も中の中、あ、補習の勉強してたんじゃなかったっけ、私?
 敷いて言えば家庭環境は少しだけ特殊だったかも? だけど……再婚の連れ子だなんて、今の時代じゃ平凡すぎて、お昼のドラマにすらならない。
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