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五章 ミコたる力

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 ……どういうこと?
 って頭に描いてから、あ、なんかこのセリフってドラマっぽいな、なんて思った。漫画でもありそう。いや小説にも書かれてそう。
 ガチで使うシーンなんて、ないよね。普通は。

 普通じゃない私。
 いつの間にか、どこかの世界のヒミコなる子に入り込んでる、私。
 実体じゃない男の子が浮いてて、私も浮いてるという事態は、どう考えても普通とは言わない。
 後回しにしてきた色々な疑問に、キヒリが答えてくれるっていうんだろうか。

『いや僕としては、すぐにでも君を殺して、日神子の身体を手に入れたいんだけどさ』

 キヒリが笑った。嫌な笑い方だ。オサの顔より悪いかも。作りは、キヒリのほうが綺麗なのに。
 浮いたままの私たちの下で、ナコクの偉いっぽいオジさんたちが右往左往している。敵はどこだとか迎え撃てとか言ってるから、タバナを逃さないとホントやばい。
 タバナが察して、ナコクから離れてってくれてたら良いんだけど……そんなこと、してなさそうだよなぁ。近づいて来てるのか遠ざかってるのか、分からない。タバナの意識が捉えられない。
 ヤマタイを出てきた時のほうが、今よりも距離あったと思うんだけど。
 キヒリが、邪魔してる?

『一体あんた何者なの? 日神子の身体を……ってことは、中の私に出てって欲しい訳だ?』

『何者っていうなら、君もだよね?』

 めっちゃ余裕なニヤニヤ顔で、私を眺めるキヒリ。腕組んじゃったりなんかして、ま~腹立つわ。
 私が何だってぇのさ。いたいけな現代の女子高生が異世界だか過去だか分からん場所にぶっ飛ばされて、健気に頑張ってるだけじゃんよ。キヒリだって、そうじゃないのかって思ってるのに、コイツは同類の匂いがしない。
 ここの人っぽくない姿。
 私と同じく、私よりも強いかも知れない、ツウリキを持ってる男の子。
 ヒタオを殺した、何考えてるか分からない憎いヤツなのに、それと同時に私は、この子に親近感を持ってるんだ。同類。同属。仲間。何でも良い。
 ここじゃない世界から来てるっぽい、キヒリ。

 目的は理解できたけどね。
 殺そうとしてるのは中の私のことであって、日神子の身体は無傷で手に入れたい訳だ……。
『いや、身体も死んだって大丈夫だよ。俺が入れば、生き返るから』
 は?
『ちょっと、やめてよ。さっきから何なの? あんた、あんたに話しかけてないことにまで返事してくれてない?』
『だって君の思考が読めるから』
 読心能力ってか? うわぁ、もう、イヤだイヤだ。気持ち悪い。こんな子に、この身体とられたくないな。
『本当に何も分かってないっていうか、気づいてないんだね』
 キヒリが腕を解いて、やれやれって肩をすくめた。帰国子女か、お前は。
『君さぁ、なんて名前?』

『……へ?』

 私は日神子だよ? って思ってから、違うと気づいた。
 中の私が、問われてる。

『私は……』

 あれ?

 名前?

 おかしいな。

 一度だけ、タバナたちに名乗ろうとした時があった。でも、その時は遮られて、私の名前は
 だからか? ってことは、ないよな。
 あるはずだよな。
 私の名前。
 日神子でなく。
 いやいや名乗ろうとしたし。あの時はまだ私の名前があったはず。あったと思いたい。いや、あるし。女子高生だったし、家あるし、お母さんいるし試験勉強してたはずだし自分の部屋にいたし学校通ってたしバスとか電車とか自転車だったかな、いや徒歩? あれ?
 お母さんが作ってくれた焼売が食べたい。近所のケーキ屋が出してた、でっかいシュークリームが好きだった。最近、一味唐辛子にハマってた。何にでもかけて食べてた。カレーに一味は、アリだった。友達がナシだと笑った。あんた、どんだけ辛いの好きなんだよ。いや普通レベルだって、そんな激辛は食べないよ、あ、じゃあさ、今度あの店に……どの店?

 キヒリのニヤニヤ顔が、苛つく。

『あんた何歳?』

『……』

 答えられない。

 女子高生って、何歳だった?
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