社長室での秘密 -孤高のSubを落とすまで-

小鳥遊 琉歌

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金春の淡雪

4.

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「神代君、ここの書類終わったら上がっていいからね」
「分かりました。お気をつけて行ってらっしゃい」

 昼休憩から戻ってきた3人は、それぞれの仕事をしていた。葉琉は九条女史から任されていた確認書類の続きを、九条女史はクライアントとのメールを裁きながら七々扇社長のスケジュール調整をしている。社長は海外支社のオンライン会議に出席したり、総裁決済を待つ書類に目を通していた。普段は世界中の現場に自ら赴くことが多い社長にしては、とてもゆっくりしているそんな午後は、一本の連絡で消え去った。

「社長、七々扇北米総代表よりお電話です」

 九条女史の仕事用のスマホに、従兄弟の秘書から連絡が入る。その直後に社長の私用スマホがバイブ音だけを響かせた。
 オンライン会議を一度画像オフにし、スマホを取る。

「どうした。……は?それで。…ああ。……わかった。…」

 大きなため息を吐き、通話終了の画面を見つめる七々扇社長。
 九条女史もデスクトップを見ながら横目でチラチラと様子を伺っている。

「九条、ヒューストンに飛ぶ。スケジュールを空けてくれ」
「暫定の所要日数は如何いたしましょう」
「2泊だ」

 一瞬にして出張の予定が入る。いつもの事であるので慌てる事はないが、それでも昨日までパリで勤務していた身としては、いい加減にしろ。と言いたげな表情の社長。葉琉はそれらを確認書類を裁きながら見ていた。

「社長、2泊の予定でホテルを押さえました。今日から4日間の日本での予定は全て再調整を行いました」

 デキる秘書は一瞬でここまでする。七々扇社長の予定は、基本的に1年先まで埋まっている。なんなら5年先まで埋まっている事もしばしばだが、ほとんどの予定は社外の人間や社会的、政治的、経済的にお偉い方々ばかりなのだ。よって本当は4日間に詰まっている予定をこの一瞬で再調整する事などできない。

「すぐに空港へ向かう」
「では、車の手配を致します」

 葉琉は全てにおいて完璧な社長をサポートするには、同じく完璧な秘書でなければ意味がないと思ってしまった。

「神代君、ここの書類終わったら上がっていいからね」
「分かりました。お気をつけて行ってらっしゃい」

 そして冒頭の会話に戻る。
 エレベーターを呼ぶために先に社長室を後にした九条女史。入り口近くにある今は自分専用のデスクで、葉琉は立ち上がり一礼する。

「…えっと、社長?」

 一礼した葉琉の目の前には、忙しいはずの七々扇社長の姿が。その視線は葉琉に釘付けである。見つめられていると言っても過言ではないこの状況に、葉琉はどうしたらいいのか分からなかった。

「…この出張が終わり次第、少し話そう」

 それだけいうと、颯爽と社長室を後にしてしまう。
 残された葉琉は、ポカーンと間抜けにも口を開けて絶句してしまった。




 それから10日。結局、七々扇社長と九条女史は、帰国できずにいた。入札予定であったハイウェイ事業で入札できなかったというのから始まり、北米支社での面倒なあれこれに巻き込まれてしまったのだ。
 その間、葉琉は確認書類を裁きながら、本来の予定であった真壁専務の元に秘書として就いていた。

「神代君、明日のプレゼン原稿の推敲ってどこまでできた?」

 優しく聞いてくれるのは真壁専務の第二秘書である瑠璃川女史。すでに成人した息子を持つ彼女はまさしく“美魔女”と呼ぶに相応しく、秘書室でも一目置かれた存在だった。
 ちなみに、彼女の夫はSubで専業主夫をしているが、付き合ってから変わらずラブラブ夫婦であるのは社内で有名だ。

「全て終わってます。瑠璃川さんのパソコンに送りますね」
「ありがとう。神代君って本当に仕事が速いし完璧だからありがたいわ。ちゃんと確認も怠らないから、結婚したらいい旦那さんになりそうね」
「ありがとうございます。でも、結婚なんてまだ先の話ですよ」
「あら、社内にも可愛いSubの女の子多いじゃない。今度営業と総務と秘書室で懇談会やるんだけど、ちゃんと来てね」

 ウインクも忘れない瑠璃川女史。というか、ウインクが似合う40代後半女性は本当に人生を謳歌して輝いていた。もちろん、他の秘書たちも仕事が好きなのが伝わるし、輝いているが、秘書室最年長にして河本室長に真っ向から意見できる彼女は、まさに“美魔女”“女帝”と呼ばれるに相応しかった。

 現在、社内会議に参加している真壁専務と第一秘書の加賀女史はおらず、スケジュール調整の為に専務室に残っていた瑠璃川女史と、明日行われる開発部でのプレゼン資料の推敲を行っていた葉琉だけが専務室にいた。

「じゃあ神代君、今日はここまでにしてもう帰りましょうか」
「え、でも、真壁専務と加賀さんがまだ…」
「加賀ちゃんにメッセージ飛ばしておくから大丈夫よ。専務が会議に出ている時はだいたいそうだから」

 笑顔で加賀女史にメッセージを送信する瑠璃川女史。葉琉は彼女に背中を押されるようにして退社した。

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