社長室での秘密 -孤高のSubを落とすまで-

小鳥遊 琉歌

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金春の淡雪

5.

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 翌日。土曜日という事もあり、葉琉は遅い時間に起床していた。真壁専務とその第一秘書である加賀女史はプレゼンの為に出社扱いで、その振替として月曜が休みになっている。瑠璃川女史は第二秘書である為、月曜に真壁専務への業務を担当するために今日は普通の休日になっていた。
 葉琉の家はダークブラウン系でまとめられたシックな感じであり、今流行りのアメリカンヴィンテージ風が少し混じった様な部屋だ。壁紙が白、ドアやフレームが黒のステンレスの様な素材で、床がダークブラウンのウォールナット。そこに合わせたアイボリーのシン・ソファやダークブラウン色のウッドブラインド。ガラスがはめ込まれたローテーブルなど、統一されていた。

 休日は特に何かするでもなく、部屋でゴロゴロする事が多い葉琉だが、今日は弟と一緒に、母の誕生日プレゼントを買いに行く約束をしていた。

 ―Prrrrr… Prrrrr…

 約束の時間の1時間前。葉琉のスマホから初期設定の通知音が鳴る。

「どうした?」

 電話の相手は弟の颯士ソウシだった。葉琉は部屋着のままソファでゆっくり食後の紅茶を楽しんでいた。

〈兄貴、今家?〉
「ああ、そうだけど?」
〈実はさ、今兄貴のマンションの入り口にいるんだよね〉
「は?家まで迎えに行くって言ったろ」

 葉琉は大学生の時に免許を取得しており、卒業祝いで自分で車も購入していた。アウディA8を仕事終わりに軽く流す日も少なくない程、ドライブをしている。
 その車で実家の颯士を拾う約束だったはずなのに、その弟は今自分のマンションの玄関にいるという。

「何かあったのか?」

 家族仲は円満であったはずなのに。と思いながら、思わず眉をひそめてしまう。

〈あ、そんなんじゃなくて。ただ準備が思ったより早く終わったから、久々に兄貴の家に行ってみようかなって〉
「そっか。てか上がってこい。下でインターフォン押してくれれば開けるから」

 特に理由もなく来た弟に軽く返事をしつつ、それと同時に鳴ったインターフォンに向かう。スマホを耳に当て、最後に見た時よりも随分と大人になった弟の姿があった。



「急にきてごめんな」

 少しして上がってきた弟は、去年よりも格段に男前に、というか、父親に似てきていた。

「別にいいよ。着替えてくるからゆっくりしとけ」

 部屋着であるパーカーを軽く摘まみながら、自分の部屋へと着替えに行く。黒の細身のスラックスに紺の7部袖のシャツ。服装に合わせて黒を基調としたクロノグラフ時計を着ける。
 寝室から出ると、弟は部屋の中をウロウロしていた。ほぼ一年ぶりに来る兄の家に興味深々らしい。

「そんなに珍しいか?」

 少し苦笑しながら弟の分の紅茶も入れる。兄弟そろって母親の影響で紅茶好きな彼ら。そのせいか、二人そろってコーヒーには少し苦手意識を持っていた。

「いや、だってさ、最後に兄貴の家に来たのってもう一年くらい前じゃん。前よりもカッコよくなったなって」
「あれからいくつか家具も増やしたし、配置も変えたからな」

 二人分の紅茶をローテーブルに置き、葉琉自身はソファへと腰かける。ロフト付きになっているこのマンションは、リビング部分の天井が高い。そのメゾネットの上の部分に弟の姿はあった。

「そこ物置だぞ」

 苦笑しながら弟を見上げる。ロフトとは言え、天井の高さは2m。身長が180㎝後半ある弟でも、余裕に立っていた。

「でもさ、ここにベッド置くのも良くない?」
「ありだけど、別でちゃんと寝室あるからな。2LDKでロフト付きなんて、一人で住むには多いんだよ」
「へー。じゃあこっちに引っ越してきていい?」
「まだ大学生だし、卒業まで丸2年だろ?就職が都内で、このマンションから近いならな」

 ちぇー。と少し不貞腐れている弟。実家からほど近い国公立の理系大学に通う弟は、大学卒業までは実家で暮らす予定になっている。実家からマンションまでは車で40分程。ほぼ直線距離で行くことができる車とは違い、電車は最低でも2回の乗り換えが必要になる不便さがあった。

「卒業は一応2年後だけど、俺、こっちの大学卒業後に向こうの大学院に行こうかなって」
「アメリカか?」
「そ。カリフォルニア工科大に行こうかなって。オンラインとかサマースクールでカリフォルニア大の経営学も取るつもりだけど。兄貴はシカゴ大のブース卒業しただろ?だから俺は技術系を極めたくてさ」
「がんばれよ」

 弟の思いがけない成長ぶりに、葉琉は優しい表情になってしまう。ロフトにいる弟の表情は見えないが、嬉しそうな声音である事は聞いて取れた。

「さて、そろそろ行くか」

 紅茶を飲み終わり、ロフトから降りてきた弟に視線をやる。
 行こう。と視線で言ってきた弟は、冷めた紅茶を一気に飲み干した。

「俺帽子でいいかなって思ってるんだけど。兄貴は?何か考えてる?」
「あー。オレも帽子かなぁって思ってる」
「被るのはなしかな」
「さすがに二つもいらないだろ。そうだな。…オレはネックレスにしようかな」

 マンションのエレベーターに乗りながら話す兄弟。葉琉の部屋は40階建ての38階。エレベーターに乗っている時間もかなり長い。

「さすがにそれは親父がキレないか?」

 Domである父親のSubである母親への執着というか、溺愛は息子のオレらでさえも狂気的なものを感じる。そんな執着をされている母へ、兄がネックレスをプレゼントしようとしているのだ。弟は兄が父に殺されないか心配していた。
 実際、過去に娘である兄弟の妹・夏輝がお揃いのブレスレットをプレゼントした時に父は嫉妬していた。

「大丈夫だろ。父さんが夏輝に嫉妬したのは、夏輝が自分と同じDomだからだろ。オレはSabだ。Domじゃない」

 しっかりしていながらかなり楽観的な考えを持つ兄を、弟の颯士は心配になりながらも葉琉の運転する車に乗り込んだ。

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