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金春の淡雪
6.
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着いたのは、新宿の某百貨店。いつも家族で行くときや、実家の名前で買い物に行くときは事前に連絡し、VIP対応になることがしばしばあった。しかし今日は弟とプライベートでの買い物。葉琉は黒い丸縁の伊達メガネを、颯士はモカ色の丸縁の伊達メガネをしていた。が、二人の容姿の良さ故に帰って目立っていた。
「兄貴、母さんに化粧品とかは?」
「ありじゃないか?母さんの肌色ならブルべだから、ピンク系だったらなんでも似合うと思うぞ」
「…さっすが兄貴。女性の肌色見て普通どの色の化粧品とは分かんねぇって」
百貨店の1Fにあるブランド化粧品売り場で軽く化粧品を見ている兄弟。弟は兄が化粧品に詳しい事に少し引きながらも、この兄だからか。とある種の納得があった。
弟は帽子から化粧品へとプレゼントをチェンジする。最初はアイシャドウを見てよくわからないと首を捻り、葉琉へアドバイスを求めるとこっちとこっちはオススメ。と、違いがよくわからない物を差し出され断念し。次に香水を見るが、一瞬で兄弟は"殺られる"と悟り(誰にとは言わない)。最終的に無難なルージュに落ち着いた。
「こっちのブランドとあっちのだと、どっちの方が発色いいの?」
「あー。こっちのブランドは発色はいいけどラメとか一切入ってないマット系。あっちはシルバーのラメが少し入ってるけど、年齢層がちょっと下だな」
分からない事を聞けば、こんな感じで息をするように答えてくれるのだ。様子を伺っていた美容部員たちは、近寄ろうにも自分たち以上の知識を発揮する葉琉に気後れしていた。
「じゃあこっちかな。…なぁ兄貴。この10番と13番って違うの?」
「10番はピンクが少し強いマットな赤。13番はオレンジが少し強いマットな赤だな。母さんは10番の方が似合うけど、茶色が少し入った18番のこっちの方が喜ぶと思うぞ」
「すみません、18番の口紅をプレゼント用で包んでもらってもいいですか」
兄のアドバイスを全て受け入れる弟。迷っていた二つから、葉琉が進めたルージュに一瞬で鞍替えする。葉琉もいろんな化粧品を見るが、颯士のプレゼントのラッピングの待ち時間でお気に入りの日本ブラントの香水を購入していた。
「じゃあ次は兄貴のプレゼントだな。ネックレスでいいのか?」
「ああ、実は来週の結婚記念日に渡そうと思ってたネックレスがあってさ。それを誕生日プレゼントにしようかなって」
「手の込んでるのな」
「まぁ直接祝えないからこれくらいはな」
4Fのアクセサリーブランド売り場へと足を踏み入れる兄弟。軽く会話をしていたが、今年も母親の誕生日パーティに参加しないという葉琉の何気ない言葉に、颯士は目に見えてテンションが下がる。
「気にするな。大祖父様の決めた事に、オレらの誰も口出しする権利はない。それに、こうして普通に会えるからそこまで悲観的にならなくてもいいだろ」
落ち込んだ颯士に、葉琉は優しく声をかける。自分のせいで弟が悲しい表情になるのが許せない葉琉。しかし、これはどうしようもない事であるのでなにも言えない。
別に、大祖父様がSubだからという理由だけで葉琉を遠ざけているわけではない。葉琉の母もSubだが、大祖父様は母の誕生日パーティを心底楽しみにしている。それとは“別の理由で”葉琉は大祖父様から遠ざけられていた。
「さて、ここだ。颯士、ちょっと待っててくれ」
颯士を店の前に置き、葉琉はあるブランドへと入って行く。
「神代です。ネックレスを受け取りに来たんですが」
「今お持ちいたします。少々お待ちください」
ブランドの店員は全員教育が行き届いている。新社会人としてまだ若い葉琉が一人で入ってきたのに、冷やかしと思わずに丁寧に接客していた。
「こちらでお間違いないでしょうか」
店員が差し出してきた箱の中には、プラチナのチェーンに同じくプラチナで模られた桜のトップ。その花びらにはピンクサファイアが美しく輝いていた。
「ありがとうございました」
オーダー通りのデザインに満足し、葉琉はブランドを後にする。店の前にはスマホを片手に少し不機嫌そうな顔をしていた。遠巻きにアピールしている女性たちには目もくれない。気づいているのか、はたまた本当に気づいていないのか。
……気づいていても全く気にしていないだろうが。
「颯士、お待たせ。何かあったか?」
「あー、いや、その…」
颯士の返事が濁る。その濁りで弟が不機嫌な理由が分かった。
「大祖父様からだろう。帰ってこいって?」
「……その。うん」
悔しそうな表情をする颯士。葉琉は苦笑しながら弟の頭に手を置いた。
「あのさ、颯士。オレともちゃんと会える。だからそんな顔すんな」
「でも、兄貴も家族なのに!!」
「確かにオレらは家族だ。それもかなり仲のいい家族だと思う。でもさ、最初に大祖父様との誓約を破ったのはオレだ。その問題が解決するまでは、オレは実家の敷居を跨げないし、笑顔で帰ることもできない」
「だったらそんな誓約!」
「破るわけにもいかないだろ。オレがSubなのはお前も知ってるだろ?大祖父様はな、厳しいと思われがちだけど、誰よりもオレら家族を愛してくれてる。誓約も、本当はオレのためだったんだよ」
理解はできるが納得は絶対にしない。そんな絶対の意思が颯士の瞳から感じられる。それでも、祖父との約束を破ってしまった手前、葉琉は今の関係をどうする事もできない。みるみる不機嫌になっていく弟に、先ほどお店で受け取ったばかりの桜のネックレスを手渡した。
「母さんへの誕生日プレゼント。オレの変わりにお願いできないか?颯士にしか頼めないんだ」
こんな風に言うと、颯士は絶対に断らない。そう信じているからこそできるお願いだった。
不機嫌ながらもネックレスの入った小さな紙袋を受け取る弟。
「頼んだな。…さて、じゃあ家まで送っていくよ」
子供の如く黙り込んでしまった弟の背中を押し、車の泊まっている立体駐車場へと歩き出した。実家に着くまでの約30分。颯士が黙って外を見つめていたのは言うまでもなかった。
「兄貴、母さんに化粧品とかは?」
「ありじゃないか?母さんの肌色ならブルべだから、ピンク系だったらなんでも似合うと思うぞ」
「…さっすが兄貴。女性の肌色見て普通どの色の化粧品とは分かんねぇって」
百貨店の1Fにあるブランド化粧品売り場で軽く化粧品を見ている兄弟。弟は兄が化粧品に詳しい事に少し引きながらも、この兄だからか。とある種の納得があった。
弟は帽子から化粧品へとプレゼントをチェンジする。最初はアイシャドウを見てよくわからないと首を捻り、葉琉へアドバイスを求めるとこっちとこっちはオススメ。と、違いがよくわからない物を差し出され断念し。次に香水を見るが、一瞬で兄弟は"殺られる"と悟り(誰にとは言わない)。最終的に無難なルージュに落ち着いた。
「こっちのブランドとあっちのだと、どっちの方が発色いいの?」
「あー。こっちのブランドは発色はいいけどラメとか一切入ってないマット系。あっちはシルバーのラメが少し入ってるけど、年齢層がちょっと下だな」
分からない事を聞けば、こんな感じで息をするように答えてくれるのだ。様子を伺っていた美容部員たちは、近寄ろうにも自分たち以上の知識を発揮する葉琉に気後れしていた。
「じゃあこっちかな。…なぁ兄貴。この10番と13番って違うの?」
「10番はピンクが少し強いマットな赤。13番はオレンジが少し強いマットな赤だな。母さんは10番の方が似合うけど、茶色が少し入った18番のこっちの方が喜ぶと思うぞ」
「すみません、18番の口紅をプレゼント用で包んでもらってもいいですか」
兄のアドバイスを全て受け入れる弟。迷っていた二つから、葉琉が進めたルージュに一瞬で鞍替えする。葉琉もいろんな化粧品を見るが、颯士のプレゼントのラッピングの待ち時間でお気に入りの日本ブラントの香水を購入していた。
「じゃあ次は兄貴のプレゼントだな。ネックレスでいいのか?」
「ああ、実は来週の結婚記念日に渡そうと思ってたネックレスがあってさ。それを誕生日プレゼントにしようかなって」
「手の込んでるのな」
「まぁ直接祝えないからこれくらいはな」
4Fのアクセサリーブランド売り場へと足を踏み入れる兄弟。軽く会話をしていたが、今年も母親の誕生日パーティに参加しないという葉琉の何気ない言葉に、颯士は目に見えてテンションが下がる。
「気にするな。大祖父様の決めた事に、オレらの誰も口出しする権利はない。それに、こうして普通に会えるからそこまで悲観的にならなくてもいいだろ」
落ち込んだ颯士に、葉琉は優しく声をかける。自分のせいで弟が悲しい表情になるのが許せない葉琉。しかし、これはどうしようもない事であるのでなにも言えない。
別に、大祖父様がSubだからという理由だけで葉琉を遠ざけているわけではない。葉琉の母もSubだが、大祖父様は母の誕生日パーティを心底楽しみにしている。それとは“別の理由で”葉琉は大祖父様から遠ざけられていた。
「さて、ここだ。颯士、ちょっと待っててくれ」
颯士を店の前に置き、葉琉はあるブランドへと入って行く。
「神代です。ネックレスを受け取りに来たんですが」
「今お持ちいたします。少々お待ちください」
ブランドの店員は全員教育が行き届いている。新社会人としてまだ若い葉琉が一人で入ってきたのに、冷やかしと思わずに丁寧に接客していた。
「こちらでお間違いないでしょうか」
店員が差し出してきた箱の中には、プラチナのチェーンに同じくプラチナで模られた桜のトップ。その花びらにはピンクサファイアが美しく輝いていた。
「ありがとうございました」
オーダー通りのデザインに満足し、葉琉はブランドを後にする。店の前にはスマホを片手に少し不機嫌そうな顔をしていた。遠巻きにアピールしている女性たちには目もくれない。気づいているのか、はたまた本当に気づいていないのか。
……気づいていても全く気にしていないだろうが。
「颯士、お待たせ。何かあったか?」
「あー、いや、その…」
颯士の返事が濁る。その濁りで弟が不機嫌な理由が分かった。
「大祖父様からだろう。帰ってこいって?」
「……その。うん」
悔しそうな表情をする颯士。葉琉は苦笑しながら弟の頭に手を置いた。
「あのさ、颯士。オレともちゃんと会える。だからそんな顔すんな」
「でも、兄貴も家族なのに!!」
「確かにオレらは家族だ。それもかなり仲のいい家族だと思う。でもさ、最初に大祖父様との誓約を破ったのはオレだ。その問題が解決するまでは、オレは実家の敷居を跨げないし、笑顔で帰ることもできない」
「だったらそんな誓約!」
「破るわけにもいかないだろ。オレがSubなのはお前も知ってるだろ?大祖父様はな、厳しいと思われがちだけど、誰よりもオレら家族を愛してくれてる。誓約も、本当はオレのためだったんだよ」
理解はできるが納得は絶対にしない。そんな絶対の意思が颯士の瞳から感じられる。それでも、祖父との約束を破ってしまった手前、葉琉は今の関係をどうする事もできない。みるみる不機嫌になっていく弟に、先ほどお店で受け取ったばかりの桜のネックレスを手渡した。
「母さんへの誕生日プレゼント。オレの変わりにお願いできないか?颯士にしか頼めないんだ」
こんな風に言うと、颯士は絶対に断らない。そう信じているからこそできるお願いだった。
不機嫌ながらもネックレスの入った小さな紙袋を受け取る弟。
「頼んだな。…さて、じゃあ家まで送っていくよ」
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