君と暮らす事になる365日

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ふわりと漂う削り節の香り、それから生姜の少しだけ引き締まる風味、葱や海苔がもたらす薬味の香りは、食欲をそそる。それに程よく煮られたご飯はするすると喉に優しく、胃袋にじんわりと染み渡る暖かさは、肩の力を抜く。
卵が入っているのがさらに良い。食べ応えもあるし、食感の違いもある。またこの卵がふわふわに仕上がっているのが百点満点だ。

「ねえヨリちゃん、おいしい?」

「おいしい」

「毎日食べたい?」

「毎日は食べたくないな、パンも食べたいしご飯も食べたいし、麺類の気分の時だってあるし」

「残念、胃袋掴むの失敗か」

「……」

依里はじっと晴美を眺めた。幼馴染の、整った顔立ちを。それから有り合わせのものだって何だって美味しくしてしまう技術を考えた。

「……本当に行くあてないの」

「ないなあ、実家に戻ったら通勤片道だけで三時間かかるから、終電にも間に合いやしない。だから実家出てきたんだからね、おれ」

「実家を出たがらないと思ってたやつが、一人暮らしもどきをした理由はそこか……」

「実際には彼女の家に居候だけどね。書類上は正式に同居してたんだよ」

幼馴染は寂しそうな顔をした。寂しそうな顔をする程度には、同棲していた相手を大事に思っていたのだろう。
たとえ自分が浮気相手だったという真実を知っても、この男なら、大事だったという思いを捨てなさそうだった。
そんな人間だと知っていたから、依里は口を開いた。

「……晴美、いくつか条件をクリアする根性があるんだったら、同居してやってもいいよ」

その哀しそうな顔にほだされたわけじゃない、と依里は内心で言い訳した。
そうだ、ただこの雑炊があまりにおいしいからいけないのだ。
毎日は食べなくていいけれど、なんとなく食欲がわかない時に食べたくなる、そんな体に染み渡る雑炊を作る、この男が悪いのだ。
そして、長い付き合いの相手が、路頭に迷うのが嫌なだけだ。
この顔にほだされたわけじゃない。
それに元々、この男のまともさは当てにならないが、悪い奴じゃないのは長い付き合いで知っている。
これから幼馴染と同居するだけ、それだけ、だ。
依里は言い訳にもならない事を、心のうちで思った。

「わあ、いいの?」

ぱっと幼馴染の顔が明るく変わる。天の助けが下りてきたみたいな顔をして来たのだ。
たったこれだけの事で、この男は明るくなる。
昔から変わらない、単純な男だ。
そんな事を考えながら、依里は更に言葉を続けた。
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