君と暮らす事になる365日

家具付

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料理は芸術品か? これは? 何処からナイフを入れるんだ? と言いたくなる芸術性の高いものが、大きなお皿に小さな形で出て来て、依里が見た目を気にしなければ、だいたい一口か二口で収まるものばかりだ。
それらが何皿出て来ても、お腹はあまり膨れない。お金持ちは、質のいい素敵な物を、ちょっぴり食べるだけで満足なのだろうか。
もしかしてだから、柳川はお腹いっぱいかつ丼を食べるのが好きなのか? なるほど。
そんな事を思う物の、味はとんでもなく素晴らしかった。どれだけ手間と暇と根気のいる作業と下ごしらえがかかっているのだろうか。
依里は鼻歌を歌い、時にノリノリになって流行りのヒットソングを歌いながら、料理する相手を知っているため、これを作る時に、周りはどれだけ、あの音痴の被害に遭っているのだろう……と少し笑いたくなった。
しかしそんな裏事情が分かっていても、味は声を失うばかりのおいしさだ。
細胞レベルで喜ぶってこんな事なんだな、細胞の一つひとつに、味が染みわたるってこういう事で、するりと透明感がある味ってこういう事で、脂が上品ってこう言う意味なんだな、とわかるものたちばかりだった。
それが芸術性が極まった見た目で現れるものだから、依里は晴美の神髄を見たような気がした。
これがあのちゃらんぽらん天然男子から、作り出されているとは……
そしてデザートの小さなティラミスまで食べきって、お婆さんが目を輝かせて聞いてくる。

「どうだったかしら、お口に合いました?」

「とても美味しかったです、びっくりするくらい世界が広がるお味で」

「そうでしょうとも! 私もこの何十年も生きていて、これだけ人生がひっくり返る味に出会えたのは、幸運だと思っているんですよ」

ごめんなさい、私のその料理人の料理、学生時代から食べてました……
正確には小学五年生あたりで、ヤツが料理を始めた頃、奴の弟たちとともにたらふく食ってました……上達してからは奴がおすそ分けだと言って持って来るもの、じゃんじゃん食べて生活してました……とは言えなかった。
依里がとても感嘆し、言葉があまりでないのだと判断したおばあさんが、一休みのお茶を飲み、さて帰るか、と皆で立ち上がった時だ。
ロビーに戻った時にその事件は起きた。
ロビーでは、その日の主力のシェフが挨拶する事になっていたらしい。
そして、見張りの上司付きで、晴美が立っていたのだ。
彼女たちではない、別の組に対して、これまた美形なのに子犬系の笑顔、という強烈に心に刺さる笑顔をみせ、何か話しをし終わった大鷺が、依里を見つけたのだ。
それからは誰も止められなかった。

「ヨリちゃんヨリちゃん! ひどい! 来てくれるなら教えてよ! 何食べるの? 今日はカレー美味しいよ! それからドリアもソースがいい具合だよ! ねえねえ何にするの? なんで来るの教えてくれなかったの? おれの仕事場に来るなら教えてよ! ヨリちゃんのために腕を振るわせてよ! ヨリちゃんのために一番を出したのに!」

超絶美形の口から出て来るガキかよ、と言いたくなる言い分である。依里は他の人たちが目を丸くし、上司らしき人が回収するために近寄ってきたため、ため息をつきこう言った。

「ご飯はもう頂いた。めちゃくちゃにおいしかったよ、さすが晴美だ。それと、上司さんが引きつってるぞ、仕事に戻れ」

「だってヨリちゃんが来たのに」

ぶうっとほほを膨らませる美貌の男。顔の良さと仕草の年齢が一致しない。それを見て、柳川が問いかけてきた。

「あの、お知り合いですか?」

「実家がお隣さんの幼馴染! ヨリちゃんこの人だあれ?」

「お食事に誘ってくれた人。……すみません、常識をどこかに置き忘れた奴でして……腕だけは確かなんですが……こう、……常識と良識が……」

「幼馴染なんですか!?」

声をあげたのはお嬢さんの方だった。驚いた顔をしていたのだが、二人の関係が明らかになって、見るからにほっとした顔をしている。どうしてだろう。
しかし、問いかけられた大鷺は、隠す事もないから答える。

「おれが一方的に迷惑ばっかり駆けてきた幼馴染、って皆に言われる。でもおれ、ヨリちゃんいなかったら中学卒業できなかったし……うん?」

何か言っている事が変だぞ、と自分で気付いたらしい晴美が、首を傾げた。


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