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二
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「お前は手紙がかけるかい」
あの店の店主は、何かにつけてお鷹の様子を見に来た。
あまりにもたびたびな物で、お鷹は自分のすっかり変わってしまった見た目が、あまりにも美女だから、早く店で働かせたいのではないか、と考えるほどだ。
それ位に、お鷹の顔は様変わりしてしまった。
人並みの顔が、天下一位と言っても過言ではない位に、美女に変わってしまったのだ。
その顔を店主が、色々利用したいと思ってもおかしな話ではない。
だが、店主はお鷹の様子を聞いた後、外の様子を話して、今のは槍の髪型や衣装の染めなどを語り、去っていく。
この日も、同じようにお鷹を構いに来たかと思えば、そうではなかった。
「手紙ですか」
「手紙だな。お前さん、ちょいと丁稚が聞いてきたんだが、いい店にお嫁入した姉さんと、一生懸命に他の店で働く、気のいい弟がいるそうじゃないか。だから手紙を書くといい。外から聞いた話だが、お前さんの住んでいた長屋は火の始末が悪くて火事になっちまって、取り壊し。そこで暮らしていた知り合いたちも散り散りになったとか。姉さんも弟も、そこで暮らしていた妹をそれはそれは心配するだろう。顔が変わっちまったのは仕方がない。だが手紙で、息災を知らせるのはいい事だろう。姉さんか弟が遊びに来た時に、ちょいといい物を出してやれるしな」
意外だった。てっきりここに閉じ込められるように、働く事になるのかと思ったのに。
お鷹がそんな事を思ったのが、はっきりとわかったらしい。店主はけたけたと笑ってから続けた。
「お前さんの姉さんの嫁入り先も、弟の働いている店も、いい店だって評判だ。なんかのきっかけで、うちの仕出しを頼む事になるかもしれないだろう。ご縁はつないでおくに限る」
やっぱり利益があるから親切なのか。お鷹はその方が分かりやすくて結構だと思い、考えてからこういった。
「手紙を書くものを一式、お借りできませんか」
「おうとも、そこのお前、紙と硯とそれから筆と、ええい面倒だ、手紙を書くのに入用な物を、一式そろえてもってこい」
「はい旦那」
そこで待ち構えていた店の子供が、ぱっと素早く立ち上がり、急いでいるのに滑らかな動きで去っていく。
そして瞬く間に階段を登る音がして、子供は手紙のための一式を持って戻ってきた。
「おお、風の子みたいに早いじゃねえか、駄賃にこれをやろう」
店主が気前よく、子供に小銭を渡してやった。子供は嬉しそうにお辞儀をして、階下に呼ばれたのだろう。足早に階段の下に降りて行った。
「顔の事は、通りすがりのごろつきに、やられちまったと書けばいい。黒真珠見物に来て喧嘩の巻き添えを食って、そうなったとでも言えばだれも疑いはしないさ。……それともお前さん、誰が自分を襲ったのか覚えているのかい」
後半の言葉は声を落して、店主が問いかける。お鷹は首を横に振った。
「女の人の高笑い、それしか覚えていおりません」
それの後、お鷹の視界は真っ暗になって、気付けばここに寝かされていたのだ。
一体何が起きたのか、お鷹は全く分からない。
何か揉め事に巻き込まれたのだろう事、それ位しかわからなかった。
「その方がいいかもしれない。とりあえず、姉さんと弟への手紙を書いたら、またうちの小さいのに届けに行かせよう。小さいのは足が速くて仕事が早い」
勧められるままに、お鷹は自分も手紙を家族に書きたかったため、自分が顔に大怪我をして、すっかり違う顔になってしまった事、助けてくれたお店が高いお金をお医者様に払ってくれたから、それを返すためにそのお店で働く事、元気になった事を書いた。
それを二枚、同じように結んで渡すと、また御用を聞きに来た別の子供が、喜び勇んで階段の下に降りて行った。
「でも、子供でも、黒真珠への出入りは厳しかったのでは」
「下できちんと通るための札を借りていくに決まってんだろう。うちの小さいのは働き者だからな」
具合が悪くなったらすぐに、誰かを呼ぶように。店主は再三確認し、階段の下へ降りて行った。
そろそろ、遊廓などに仕出しの料理を運びに行く時間だ。階段の下から、色々な物が調理される匂いが上がってきている。
ここのお店は本当に繁盛している様子だ、と赤い格子の窓枠の下から、お鷹は出入りする人達の多さを見ていた。
仕出しのおけを担いだ男衆たちが、行きかいしている。人々が外の灯りが怪しい橙色にになるにつれて、活気を増す。
これが黒真珠のいつもの光景だ、と数日それを見る事になったお鷹は、改めてこの場所の異次元さを、感じ取ったような気がした。
あの店の店主は、何かにつけてお鷹の様子を見に来た。
あまりにもたびたびな物で、お鷹は自分のすっかり変わってしまった見た目が、あまりにも美女だから、早く店で働かせたいのではないか、と考えるほどだ。
それ位に、お鷹の顔は様変わりしてしまった。
人並みの顔が、天下一位と言っても過言ではない位に、美女に変わってしまったのだ。
その顔を店主が、色々利用したいと思ってもおかしな話ではない。
だが、店主はお鷹の様子を聞いた後、外の様子を話して、今のは槍の髪型や衣装の染めなどを語り、去っていく。
この日も、同じようにお鷹を構いに来たかと思えば、そうではなかった。
「手紙ですか」
「手紙だな。お前さん、ちょいと丁稚が聞いてきたんだが、いい店にお嫁入した姉さんと、一生懸命に他の店で働く、気のいい弟がいるそうじゃないか。だから手紙を書くといい。外から聞いた話だが、お前さんの住んでいた長屋は火の始末が悪くて火事になっちまって、取り壊し。そこで暮らしていた知り合いたちも散り散りになったとか。姉さんも弟も、そこで暮らしていた妹をそれはそれは心配するだろう。顔が変わっちまったのは仕方がない。だが手紙で、息災を知らせるのはいい事だろう。姉さんか弟が遊びに来た時に、ちょいといい物を出してやれるしな」
意外だった。てっきりここに閉じ込められるように、働く事になるのかと思ったのに。
お鷹がそんな事を思ったのが、はっきりとわかったらしい。店主はけたけたと笑ってから続けた。
「お前さんの姉さんの嫁入り先も、弟の働いている店も、いい店だって評判だ。なんかのきっかけで、うちの仕出しを頼む事になるかもしれないだろう。ご縁はつないでおくに限る」
やっぱり利益があるから親切なのか。お鷹はその方が分かりやすくて結構だと思い、考えてからこういった。
「手紙を書くものを一式、お借りできませんか」
「おうとも、そこのお前、紙と硯とそれから筆と、ええい面倒だ、手紙を書くのに入用な物を、一式そろえてもってこい」
「はい旦那」
そこで待ち構えていた店の子供が、ぱっと素早く立ち上がり、急いでいるのに滑らかな動きで去っていく。
そして瞬く間に階段を登る音がして、子供は手紙のための一式を持って戻ってきた。
「おお、風の子みたいに早いじゃねえか、駄賃にこれをやろう」
店主が気前よく、子供に小銭を渡してやった。子供は嬉しそうにお辞儀をして、階下に呼ばれたのだろう。足早に階段の下に降りて行った。
「顔の事は、通りすがりのごろつきに、やられちまったと書けばいい。黒真珠見物に来て喧嘩の巻き添えを食って、そうなったとでも言えばだれも疑いはしないさ。……それともお前さん、誰が自分を襲ったのか覚えているのかい」
後半の言葉は声を落して、店主が問いかける。お鷹は首を横に振った。
「女の人の高笑い、それしか覚えていおりません」
それの後、お鷹の視界は真っ暗になって、気付けばここに寝かされていたのだ。
一体何が起きたのか、お鷹は全く分からない。
何か揉め事に巻き込まれたのだろう事、それ位しかわからなかった。
「その方がいいかもしれない。とりあえず、姉さんと弟への手紙を書いたら、またうちの小さいのに届けに行かせよう。小さいのは足が速くて仕事が早い」
勧められるままに、お鷹は自分も手紙を家族に書きたかったため、自分が顔に大怪我をして、すっかり違う顔になってしまった事、助けてくれたお店が高いお金をお医者様に払ってくれたから、それを返すためにそのお店で働く事、元気になった事を書いた。
それを二枚、同じように結んで渡すと、また御用を聞きに来た別の子供が、喜び勇んで階段の下に降りて行った。
「でも、子供でも、黒真珠への出入りは厳しかったのでは」
「下できちんと通るための札を借りていくに決まってんだろう。うちの小さいのは働き者だからな」
具合が悪くなったらすぐに、誰かを呼ぶように。店主は再三確認し、階段の下へ降りて行った。
そろそろ、遊廓などに仕出しの料理を運びに行く時間だ。階段の下から、色々な物が調理される匂いが上がってきている。
ここのお店は本当に繁盛している様子だ、と赤い格子の窓枠の下から、お鷹は出入りする人達の多さを見ていた。
仕出しのおけを担いだ男衆たちが、行きかいしている。人々が外の灯りが怪しい橙色にになるにつれて、活気を増す。
これが黒真珠のいつもの光景だ、と数日それを見る事になったお鷹は、改めてこの場所の異次元さを、感じ取ったような気がした。
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