勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第七章~

第39話 その男、ガブ

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我舞は例の白い羽のネックレスを見せてくれた。近くで見ると真っ白でフワフワした綺麗な羽だ。
いわゆる、DQNが付けるようなアクセサリーとは少し違った印象だが、どういう事だろう。

「このネックレスな、お袋が現役でバレエやってた時の衣装の羽なんだ」

なるほど、バレエの衣装か。

「へえ、でもなんで衣装の羽?」

「別に深い意味はねーんだけど、お袋が勝手に作ったお守りみてーなもんだ」

そう言うと我舞は、しみじみ昔話を語ってくれた。

「ガキんとき一度だけお袋の踊りを見たんだけどよ、踊ってる時のお袋が……なんつーかスゲーかっこよくて、そん時だけはまあ、踊りも悪くねーかなって感じて……」

少年の日の我舞は、舞台で踊る母親の姿を見ていた。演目は白鳥の湖。プリマドンナを務めた母親は、まさに白鳥のごとく、輝くステージでその美しい舞を披露したのだった。
幼い我舞はその姿を見て、素直に感心し、そして淡い憧れを抱いたのだった。

「お袋は俺にバレエを継がせたくて、願掛けのつもりでこれをお守りにしたんだけどよ、おれの夢は勇者だから親と衝突する事も多くなってな」

そういって我舞は、ネックレスをポケットにしまった。

「いくら親の踊りが凄くても俺の夢は勇者だからな!それとこれとは別だ!」

「でもネックレスは大事に持ってるんだ?」

太郎に突っ込まれた我舞は、少し恥ずかしそうな表情で太郎の頭を小突いた。

(へへ、この人ただのDQNかと思ったけど、意外といい奴じゃん)

だったらDQNと呼ぶのをやめたらどうだ。
こうして何故かDQNと打ち解けてしまった太郎は、その日以来たびたび我舞と話すようになった。

ある日の昼休み、太郎は安倍に昼食へと誘われた。

「おーい、太郎昼飯行こうぜ」

「あ、ごめん。俺今日屋上行くから」

「え?え?屋上?」

安倍は事情が分からず困惑している。

「もしかしてぼっち飯?お前いじめられてんの?」

「違うよっ!ほかの人もいるの!」

太郎は購買部でおにぎりとお茶を買い、足早に屋上へと向かうのだった。

一方安倍は、事情が分からぬまま一人食堂へと向かった。食堂ではすでに他のメンバーが待っている。
やや子は一人の安倍に問いただす。

「太郎は!?」

太郎がいなくて心配するやや子であった。それに対して安倍は答える。

「なんか屋上で食べるって言って一人で行っちゃった」

「え?ぼっち飯?太郎殿いじめられてるんでござるか?」

エガ、それは安倍と同じ感想だぞ。

「いや、それが一人じゃないって言うんだよ」

まさかの告白に42番パーティーはざわめいた。

「誰と!?まさか……まさか女の子と……」

パーティーの脳裏には屋上で女子といちゃつきながら弁当を食べる、青春している太郎の姿が浮かんだ。

これを聞いたやや子は真っ青な顔をしてどこかへと歩き出した。

「おい、どこ行くんだよやや子」

「別に……」

某高飛車女優の舞台挨拶よろしく愛想のない返事だが、この様子だと確実に屋上へ向かうと思われるやや子である。
まったくやや子ってば、あんなに素っ気なかったくせに最近は太郎が気になる存在のようである。女心は複雑なのだ。

一方こちらはアカデミーの屋上である。太郎が屋上へ上がると、そこには一人座って昼食をとる我舞の姿があった。

「あ、いた!」

「なんだお前、何しに来た?」

「いやー、なんかさ、俺クラスにもパーティーにも気が合う人いなくてさ、似た境遇のガブとまた話したいって思って。あ、ガブって呼んでもいい?」

「別に構わねえよ、えーと、なんつったっけ?」

「太郎、勇者太郎イサモノタロウ!」

太郎とガブは、のんびり雑談しながら昼休みを過ごした。開放的な屋上で気の合う友人とお昼ご飯。
しばらく忘れていた、ゆったりとした学生らしい時間だ。

すると突然、屋上へのドアがかすかに開いた。何者かがこちらを覗いている。
やや子だ。やや子がドアの隙間からこちらを見ている。

「あれ?やや子?」

太郎に気付かれたやや子は、一瞬驚き太郎のそばへと駆け寄った。
近くにいる見知らぬ大男に、少々怯え気味である。

「太郎……。誰?この人……」

太郎の背後に隠れて、ちらりと覗いている。

「あ、えーとね、この人はね」

すると再び、扉の向こうから声がした。今度は数人の声が聞こえる。

「なんだ、男じゃねーか!」

「誰よ女の子とあいびきしてるって言ったのは!」

「誰も言ってないでござる!」

言うまでもないが、そこにいたのは42番パーティーだった。

「おたくら何してんの?」

若干呆れ顔で太郎が問いかける。

「いや、修羅場見物。のつもりだったんだけど」

安倍がつまらなそうに答える。

「修羅場じゃねーじゃんよ!誰だその男は!」

突然の来訪者に、ガブも少し困惑気味だ。

「誰だそいつら?」

「一応うちのパーティー」

「おい太郎誰だよそいつ!」

「二人きりで何してたのー?まさかBLな展開?キャッ」

「太郎殿!いつの間にこんな不良と……」

「ええい、一斉にしゃべるな!やかましい!」

【つづく】
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