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三十九話
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追試も終わり、一段落と思ったのもつかの間、夏休み前ということもあり生徒会の仕事はいつもより多く大変らしい。私もすぐに呼び戻される。
生徒会室にやってくると三年生、二年生、一年生の生徒会役員が総出となって仕事をこなしていた。私も自分の席に座り、夏休み中の部活の経費や学園行事の資金面などの計算をこなす。
ただ、仕事中にどうしてもコルトの方が気になってしまい何度かチラ見していた。すると、コルトの方もチラ見してきて、目が合ってしまう。
視線をそらし、手を唇に無意識に当てていた。頬が嫌でも熱くなる。
――な、なんかコルトの姿がいつも以上にカッコよく見える。目が合っただけなのに雑巾を絞るように胸が締め付けられる。くそぉ、コルトなんかに面倒臭い状態異常を掛けられた。
私は仕事の方に集中し直す。ただ、数分経つとまたチラ見し始めてコルトと視線が合う。また反らし。その繰り返し。
「ふぅー、一段落ついた。コルトくんとキアスくんは園舎の中を巡回してくれるかな」
パッシュさんは腕を持ち上げ、体を伸ばしながら私たちに仕事を押し付けてくる。一年生の私たちに拒否権はないため、言われた通りに巡回の仕事を引き受けた。
生徒会室を出て、コルトと共に横並びになりながら園舎の中を巡り、生徒たちが悪さしていないか見回る。
いつもこなしていたのに、今日は本当にいつもと同じ仕事なのかと疑いたくなるくらい空気が緊張していた。
コルトの隣にいるだけで、胸を太鼓のバチで叩いているのではないかと思うほど高鳴ってしまっている。コルトに心音が聞こえているのではなかろうかと気が気ではない。
――な、なにを喋ればいいんだ。ちょっと、色々ありすぎて何から説明したらいいのやら。コルトに私は女だったと打ち明けるか。はたまた、キスしたことを謝るか。これからも友達として頑張っていこうと言えばいいのか。
私は師匠と戦っている時以上に、思考が巡っている。私が口ごもっていると、コルトが口を開いた。
「き、キアスくん、いろいろと迷惑をかけてしまってごめん。私が不甲斐ないばかりに、きみを危険にさらしてしまった」
「い、いや、私は迷惑をかけられたと思っていません。ぎゃくに、私の方が迷惑をかけてしまったと思うので……すみません」
互いに向き合って頭を下げ合いながらの謝罪が終わると会話が止まり、またしても静かになってしまう。
「私はまだキアスくんに真面にお礼が言えてなかった。この前は、助けてくれてありがとう。きみがいなかったら、私はどうなっていたかわからない」
「私がコルトさんを一人で行かせてしまったから連れ去られてしまったんです。私の落ち度でもありますから、気にしないでください」
「そういう訳にもいかない。その……、この前のお詫びも兼ねて、夏休みに遊ばないかい?」
「もちろん、いいですけど、……私は女装した方がいいですか?」
「キアスくんの好きな恰好で構わないよ。私はキアスくんと遊びたい」
コルトの口から遊びたいという言葉が出てきて、少し面食らった。彼は遊んでいる時間などないと言っていたのに。
「コルトさんが遊びたいと言うなんて珍しいですね」
「人はいつどうなるかわからない。なら大切な友達と遊べるときに遊んでおかないと後悔するかもしれない。も、もちろん、キアスくんとの学園生活も立派な思い出なんだけれど」
いつもは律儀で誠実、完璧な優等生のコルトが、身振り手振りが大きくなり、上手く言葉に出来ずにいた。
私は柔らかく笑い、ちょっとあざとく上目遣いで見つめる。
「じゃあ、私もコルトさんと沢山の思い出を作らないといけないな~。私にとってもコルトさんは大切な友達ですから」
コルトとの思い出が沢山あれば人生が豊かになるのは間違いない。ただ、コルトとの思い出を振り返るたび、彼とキスした場面を思い起こす羽目になる。私のファーストキスの思い出はおそらく一生忘れないだろう。きっと、コルトの方も。
「コルトさん、これからもよろしくね」
「うん、こちらこそ、これからもよろしく」
私はコルトと握手を交わした。彼の大きな手に包まれる小さな手が、じんわりと暖かい。一度、手が離れると下着を脱いだ時のような焦燥感にかられる。彼が横に向き直したので、右手で左手を握った。
「コルトさんがまた一人でどこかに行っちゃったら危ないから……」
「わ、私は迷子になるような子供じゃないよ。でも、ありがとう。なんか凄く安心する」
私とコルトは園舎の中で手を繋ぎながら巡回して回り、生徒会室に戻ってくるまで手を握り合っていたのを忘れていた。そのため、パッシュさんに根掘り葉掘り問い詰められる羽目に。
黙秘権を行使して無理やり防御。生徒会の仕事をこなし、夏休みがやってくる。
☆☆☆☆
夏休みにぐうたらするつもりはなく、ウルフィリアギルドで仕事を受け、私にできる仕事をこなす。
寮に戻って来たらザウエルとカプリエルの二人に私が書いた『禁断の書』を読んでもらい、感想を貰って必要な個所は継ぎ足していく。
ずっと、男と男のイチャイチャを書いてきたがザウエルとカプリエルをモデルにした『禁断の書』を書いてみると、思ったよりも上手く書けてしまった。
もしかしたら、私は女同士の方が上手く書けるのかもしれない。いや、ただたんに素材が豊富なだけか。それでも、師匠に追いつくのはまだまだ先になりそうだ。
コルトと遊ぶ約束がある夏休みは始まったばかり。生徒会役員は、夏休みも集まりがあるので顔を出す頻度は高いだろう。それまでに、冒険者の仕事をある程度受けておく。
「キアス、仕事を受けてくれてありがとう。お前がいるのが当たり前になっていて感謝が至らなかった。すまなかったな」
ルドラさんは頭を小さく下げる。質の良いテーブルの上にほど良い数の依頼書を置く。
「別に、気にしてませんよ」
「休み中に仕事を受けるなんて、どういう心変わりだ?」
「まあ、休み明けに一気に仕事を押し付けられるよりは小分けにして消費しておいた方が楽です。私が働けばそれだけ多くの人を助けられる。SSランク冒険者に成ったからにはそれなりの責任がある。何もしなかった無責任じゃないですか」
私は依頼書を受け取り、王都から離れた小さな村付近に出来たオーガの巣の駆除をこなす。
村人が出した依頼のため、報酬は決して高くないが、村が一つ消える可能性があった。ウルフィリアギルドが補助金を出し、私に依頼してきたわけだ。
私は依頼書に書かれた住所まで飛び、オーガたちが村を囲っている状況を見つけた。
――よかった、間に合った。
「ザウエルとカプリエルはオーガたちの気を引いて。そのうちに私が村人の状況を確認する」
外套の内側から羽根ペンの状態になっていた二人を元に戻し、共に働いてもらう。
「まったく、魔人扱いが荒いぜ」
「まあ、仕方ないっす。沢山虐めてもらうためにも沢山働かないと駄目っすよね」
ザウエルとカプリエルはオーガの位置を確認し、仕事を手早く始めた。
私も空中から急降下していく。村の柵が壊され、入り込んできたオーガを一体見つける。
ほとんどの村人が家の中に身を隠す中、村の少年が幼い少女を庇いながらオーガにナイフの穂先を向けて震えていた。五歳くらいだろう。逃げ遅れてしまったのかもしれない。
「『無反動砲』」
私は魔力を込めた羽根ペンを詠唱で展開した魔法陣に入れ込む。
羽根ペンが直撃したオーガの肉体は踏みつぶされたゴキブリのように地面に叩きつけられた。
黒い血液が弾け飛び、地面に沁みを作る。少年の顔に黒い血液が大量にかかった。
「汚してごめん。でも、私が来たから、もう大丈夫」
私は指パッチンでザウエルとカプリエルを羽根ペンに変え、彼女たちが補測したオーガに狙いを定める。指先を天に向け、円を描くと二本の羽根ペンが高速移動し、オーガの頭部を破壊して回った。
「うえぇ……、気持ちわりい」
「キアスさんに、ドロドロの血塗れにされてしまったっす」
ザウエルとカプリエルが、離れていてもわかるくらい鼻息を荒げ、念話してくる。
――ごめんごめん、この後、温泉で綺麗にしてあげるから。
「しかたねぇな。ちゃんと、隅々まで洗ってくれよー」
「そうっす、そうっす。もう、隅から隅まで丁寧にお願いするっす~」
「はいはい、仕事が終わったらね」
私たちはオーガの残りがいないか念入りに確認し、仕事を終える。
「依頼を滞りなくこなせた。ちょっとはマシな大人の女に成れたかな」
「大人の女? 一瞬でオーガを何十体も倒す化け物の間違いだろ」
「はははっ、魔物撃滅無双女っす」
私はザウエルとカプリエルを羽根ペンの状態で捕まえ、水洗い。全体をジャムでベタベタにした後、地面に固定した。
村人が飼っていた犬たちが瞳を輝かせながら羽根ペンを見つめている。
「よ~しよし、いい子だねー」
おとなしく待て出来ている犬の頭を撫で、手を上げて構える。
「ちょ、ちょっと、キアス、こ、これは、やばいかもしれないっ」
「だ、だめっす。こ、こんなの、逃げられないっす~」
「よし」
私は手を降ろし、犬たちに合図を送る。すると犬たちはジャムを容赦なく舐めとっていく。
「んぁあ~っ、こ、こら、や、やめろぉお~」
「そ、そんなとこ、ぺろぺろしちゃ、駄目っす。頭、おかしくなっちゃうっす~」
ザウエルとカプリエルの悲痛に似た喘ぎ声が森の小さな村で響き渡る。
「ふふふっ、良いね良いね。犬になぶられている女の子っていうのもさ」
私は『禁断の書』を開き、白紙のページに羽根ペンの先を走らせていく。師匠と別の道を行くかもしれないが、私の書いた『禁断の書』を読んでもらって、褒めてもらえるように頑張ろう。
私が迅速に動いた影響でオーガによる村人の死亡者はゼロ人だった。犬に舐め回されただけで瀕死になった魔人はいたけれどね。
生徒会室にやってくると三年生、二年生、一年生の生徒会役員が総出となって仕事をこなしていた。私も自分の席に座り、夏休み中の部活の経費や学園行事の資金面などの計算をこなす。
ただ、仕事中にどうしてもコルトの方が気になってしまい何度かチラ見していた。すると、コルトの方もチラ見してきて、目が合ってしまう。
視線をそらし、手を唇に無意識に当てていた。頬が嫌でも熱くなる。
――な、なんかコルトの姿がいつも以上にカッコよく見える。目が合っただけなのに雑巾を絞るように胸が締め付けられる。くそぉ、コルトなんかに面倒臭い状態異常を掛けられた。
私は仕事の方に集中し直す。ただ、数分経つとまたチラ見し始めてコルトと視線が合う。また反らし。その繰り返し。
「ふぅー、一段落ついた。コルトくんとキアスくんは園舎の中を巡回してくれるかな」
パッシュさんは腕を持ち上げ、体を伸ばしながら私たちに仕事を押し付けてくる。一年生の私たちに拒否権はないため、言われた通りに巡回の仕事を引き受けた。
生徒会室を出て、コルトと共に横並びになりながら園舎の中を巡り、生徒たちが悪さしていないか見回る。
いつもこなしていたのに、今日は本当にいつもと同じ仕事なのかと疑いたくなるくらい空気が緊張していた。
コルトの隣にいるだけで、胸を太鼓のバチで叩いているのではないかと思うほど高鳴ってしまっている。コルトに心音が聞こえているのではなかろうかと気が気ではない。
――な、なにを喋ればいいんだ。ちょっと、色々ありすぎて何から説明したらいいのやら。コルトに私は女だったと打ち明けるか。はたまた、キスしたことを謝るか。これからも友達として頑張っていこうと言えばいいのか。
私は師匠と戦っている時以上に、思考が巡っている。私が口ごもっていると、コルトが口を開いた。
「き、キアスくん、いろいろと迷惑をかけてしまってごめん。私が不甲斐ないばかりに、きみを危険にさらしてしまった」
「い、いや、私は迷惑をかけられたと思っていません。ぎゃくに、私の方が迷惑をかけてしまったと思うので……すみません」
互いに向き合って頭を下げ合いながらの謝罪が終わると会話が止まり、またしても静かになってしまう。
「私はまだキアスくんに真面にお礼が言えてなかった。この前は、助けてくれてありがとう。きみがいなかったら、私はどうなっていたかわからない」
「私がコルトさんを一人で行かせてしまったから連れ去られてしまったんです。私の落ち度でもありますから、気にしないでください」
「そういう訳にもいかない。その……、この前のお詫びも兼ねて、夏休みに遊ばないかい?」
「もちろん、いいですけど、……私は女装した方がいいですか?」
「キアスくんの好きな恰好で構わないよ。私はキアスくんと遊びたい」
コルトの口から遊びたいという言葉が出てきて、少し面食らった。彼は遊んでいる時間などないと言っていたのに。
「コルトさんが遊びたいと言うなんて珍しいですね」
「人はいつどうなるかわからない。なら大切な友達と遊べるときに遊んでおかないと後悔するかもしれない。も、もちろん、キアスくんとの学園生活も立派な思い出なんだけれど」
いつもは律儀で誠実、完璧な優等生のコルトが、身振り手振りが大きくなり、上手く言葉に出来ずにいた。
私は柔らかく笑い、ちょっとあざとく上目遣いで見つめる。
「じゃあ、私もコルトさんと沢山の思い出を作らないといけないな~。私にとってもコルトさんは大切な友達ですから」
コルトとの思い出が沢山あれば人生が豊かになるのは間違いない。ただ、コルトとの思い出を振り返るたび、彼とキスした場面を思い起こす羽目になる。私のファーストキスの思い出はおそらく一生忘れないだろう。きっと、コルトの方も。
「コルトさん、これからもよろしくね」
「うん、こちらこそ、これからもよろしく」
私はコルトと握手を交わした。彼の大きな手に包まれる小さな手が、じんわりと暖かい。一度、手が離れると下着を脱いだ時のような焦燥感にかられる。彼が横に向き直したので、右手で左手を握った。
「コルトさんがまた一人でどこかに行っちゃったら危ないから……」
「わ、私は迷子になるような子供じゃないよ。でも、ありがとう。なんか凄く安心する」
私とコルトは園舎の中で手を繋ぎながら巡回して回り、生徒会室に戻ってくるまで手を握り合っていたのを忘れていた。そのため、パッシュさんに根掘り葉掘り問い詰められる羽目に。
黙秘権を行使して無理やり防御。生徒会の仕事をこなし、夏休みがやってくる。
☆☆☆☆
夏休みにぐうたらするつもりはなく、ウルフィリアギルドで仕事を受け、私にできる仕事をこなす。
寮に戻って来たらザウエルとカプリエルの二人に私が書いた『禁断の書』を読んでもらい、感想を貰って必要な個所は継ぎ足していく。
ずっと、男と男のイチャイチャを書いてきたがザウエルとカプリエルをモデルにした『禁断の書』を書いてみると、思ったよりも上手く書けてしまった。
もしかしたら、私は女同士の方が上手く書けるのかもしれない。いや、ただたんに素材が豊富なだけか。それでも、師匠に追いつくのはまだまだ先になりそうだ。
コルトと遊ぶ約束がある夏休みは始まったばかり。生徒会役員は、夏休みも集まりがあるので顔を出す頻度は高いだろう。それまでに、冒険者の仕事をある程度受けておく。
「キアス、仕事を受けてくれてありがとう。お前がいるのが当たり前になっていて感謝が至らなかった。すまなかったな」
ルドラさんは頭を小さく下げる。質の良いテーブルの上にほど良い数の依頼書を置く。
「別に、気にしてませんよ」
「休み中に仕事を受けるなんて、どういう心変わりだ?」
「まあ、休み明けに一気に仕事を押し付けられるよりは小分けにして消費しておいた方が楽です。私が働けばそれだけ多くの人を助けられる。SSランク冒険者に成ったからにはそれなりの責任がある。何もしなかった無責任じゃないですか」
私は依頼書を受け取り、王都から離れた小さな村付近に出来たオーガの巣の駆除をこなす。
村人が出した依頼のため、報酬は決して高くないが、村が一つ消える可能性があった。ウルフィリアギルドが補助金を出し、私に依頼してきたわけだ。
私は依頼書に書かれた住所まで飛び、オーガたちが村を囲っている状況を見つけた。
――よかった、間に合った。
「ザウエルとカプリエルはオーガたちの気を引いて。そのうちに私が村人の状況を確認する」
外套の内側から羽根ペンの状態になっていた二人を元に戻し、共に働いてもらう。
「まったく、魔人扱いが荒いぜ」
「まあ、仕方ないっす。沢山虐めてもらうためにも沢山働かないと駄目っすよね」
ザウエルとカプリエルはオーガの位置を確認し、仕事を手早く始めた。
私も空中から急降下していく。村の柵が壊され、入り込んできたオーガを一体見つける。
ほとんどの村人が家の中に身を隠す中、村の少年が幼い少女を庇いながらオーガにナイフの穂先を向けて震えていた。五歳くらいだろう。逃げ遅れてしまったのかもしれない。
「『無反動砲』」
私は魔力を込めた羽根ペンを詠唱で展開した魔法陣に入れ込む。
羽根ペンが直撃したオーガの肉体は踏みつぶされたゴキブリのように地面に叩きつけられた。
黒い血液が弾け飛び、地面に沁みを作る。少年の顔に黒い血液が大量にかかった。
「汚してごめん。でも、私が来たから、もう大丈夫」
私は指パッチンでザウエルとカプリエルを羽根ペンに変え、彼女たちが補測したオーガに狙いを定める。指先を天に向け、円を描くと二本の羽根ペンが高速移動し、オーガの頭部を破壊して回った。
「うえぇ……、気持ちわりい」
「キアスさんに、ドロドロの血塗れにされてしまったっす」
ザウエルとカプリエルが、離れていてもわかるくらい鼻息を荒げ、念話してくる。
――ごめんごめん、この後、温泉で綺麗にしてあげるから。
「しかたねぇな。ちゃんと、隅々まで洗ってくれよー」
「そうっす、そうっす。もう、隅から隅まで丁寧にお願いするっす~」
「はいはい、仕事が終わったらね」
私たちはオーガの残りがいないか念入りに確認し、仕事を終える。
「依頼を滞りなくこなせた。ちょっとはマシな大人の女に成れたかな」
「大人の女? 一瞬でオーガを何十体も倒す化け物の間違いだろ」
「はははっ、魔物撃滅無双女っす」
私はザウエルとカプリエルを羽根ペンの状態で捕まえ、水洗い。全体をジャムでベタベタにした後、地面に固定した。
村人が飼っていた犬たちが瞳を輝かせながら羽根ペンを見つめている。
「よ~しよし、いい子だねー」
おとなしく待て出来ている犬の頭を撫で、手を上げて構える。
「ちょ、ちょっと、キアス、こ、これは、やばいかもしれないっ」
「だ、だめっす。こ、こんなの、逃げられないっす~」
「よし」
私は手を降ろし、犬たちに合図を送る。すると犬たちはジャムを容赦なく舐めとっていく。
「んぁあ~っ、こ、こら、や、やめろぉお~」
「そ、そんなとこ、ぺろぺろしちゃ、駄目っす。頭、おかしくなっちゃうっす~」
ザウエルとカプリエルの悲痛に似た喘ぎ声が森の小さな村で響き渡る。
「ふふふっ、良いね良いね。犬になぶられている女の子っていうのもさ」
私は『禁断の書』を開き、白紙のページに羽根ペンの先を走らせていく。師匠と別の道を行くかもしれないが、私の書いた『禁断の書』を読んでもらって、褒めてもらえるように頑張ろう。
私が迅速に動いた影響でオーガによる村人の死亡者はゼロ人だった。犬に舐め回されただけで瀕死になった魔人はいたけれどね。
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