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鶏を買ったら……知り合いが増えた。

努力することが好き

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 火起こしを始めて三時間後……。

「はぁ、はぁ、はぁ……。火起こしは楽しいけど、もうしたくないな……」

 今、僕は月の動きからして四五度傾くくらい火起こしをしている。でも、火種が一向に出来ない。力が弱すぎるのかもしれないが、あまり力を入れ過ぎると……。

『ブチッ』

 縄が力に耐えきれず、音を立てて千切れた。

「あ……また切れた。力を結構弱めているんだけどな。縄が切れるのがもう五回目、枝が折れるのが一二回目……。もう、動かしている時間より直している時間の方が長い気がするよ」

「主は、器用なのか不器用なのか分からない人間ですね」

 プルスは僕の頭にのりながら話かけてくる。

「ほんとだよね。でも、慣れれば簡単にできるはずなんだよ。その慣れるまでが難しいんだけど、それがまた楽しいんだよね~」

「主は、練習が苦ではないのですか?」

「うん。だって、楽しいし。練習にだけ集中していれば他のことは忘れられるでしょ。嫌なことがあっても、何かに集中すれば忘れられるから、練習するのは嫌いじゃない。まぁ、練習が本番に活かされた経験が全くないんだけどね」

 僕は火起こし器を直しながら苦笑いを浮かべる。

「本当に変わった人ですね。私の知っている人間はいつも面倒な作業を嫌います。『力を今すぐ渡せ』だとか『もっと楽な方法はないのか』と絶対に聞いてきますよ。でも主は炎の翼を使う練習の時、一回も不満を言いませんでした。私は感心しましたね。主は力とは何たるかを知っているような気がします」

「力とは何たるか……。そんなの人それぞれだよ。いろんな力があるからこの世界は回っているんだ。力には主に二種類あると僕は思う。筋力のような体の外で働く力と、忍耐力のような体の内側の力。この二種類に優劣はないはずだけど、人は体の外側で働く力を欲しがる。僕だってそうだ。でも、体の外が強いだけじゃ力は使えない。内側の力も合わさってようやく本当の力が出せる。そう思ってるけど、違うかな?」

「なるほど……。やはり主は変わった人ですね。私に力の説明何てできません」

「あれ、プルスは答えを知っているんじゃないの? そんなふうに話していると思ってたんだけど……」

「私は力とは何たるかなんて知りませんよ。まぁ、簡単に言えば神の御業ってところじゃないですかね。全部、神のおかげにしておけば丸く収まりますよ」

「はは……確かに。この世界を作った神様くらいしか力について知らないよね。まぁ、答えを考えるよりすぐに知りたがるのも人間の特徴だと思うけど」

 僕は火起こし器で火種を作り始めて四時間ほど経ってようや煙が上がった。

「よし、煙があと少し強くなったら縄に移そう」

 僕は力を強めて木を擦る。煙の量は増えだし、焦げ臭い香りが辺りに広がる。

『ブチッ』

 火起こし器の縄がまたしても千切れたが、丁度いいくらいの火種が出来たので、僕は縄を解しただけの木の皮に火種を乗せて包み込むようにして息を少しずつ吹きかける。

 すると『ファイア』のような火球が生まれた。僕はすぐさま枯れ木の中に入れて焚火を作る。

 燃えている木の皮に枯草などを投げ入れ、火の強さを上げると枯れ木が燃え始める。

「ふぅ~、焚火がやっとできた~。練習が好きな理由の一つに、できた時の達成感が最高なんだよな~。僕が唯一味わえる快感だよ」

 僕は後方に寝ころび、達成した悦びに深ける。プルスは地面をコロコロと転がり、足をばたつかせたあと、反動を使って起き上がる。

「お疲れさまでした。魔法を使わずとも火を起こせるのですね。でも、この火。私達の炎とは少し違いますね。なんか魔力を感じません」

 プルスは飛び跳ねながら焚火に向かう。

「そりゃそうだよ。木を燃料にして燃えてるんだから魔力なんて感じなくて当然さ。でも、どんな火でもあたりを照らしてくれるし、温かい。やっぱり火があると安心するよ。プルスもそう思わない?」

「そうですね。私の出した炎ではないのが気に食わないですが、主が喜んでいるのならそれでいいです」

 プルスはただの炎に嫉妬しているのか、すねていた。

「それじゃあプルス、どっちが見張りをやる?」

「もちろん主ですよ。私は寝たいので、見張りはやりたくないですね」

「そう、まぁ良いよ」

「え……。いいんですか?」

「うん。一日くらい寝なくても僕はそこまで変化ないから。プルスが眠たいなら寝ててもいいよ」

「えっと、冗談のつもりで言ったんですが……。私は睡眠を必要としませんから、見張り役をやるのが定番なんですけど……」

「そうなの? でも、昨日は寝てたよね」

「寝なくても大丈夫なだけで、寝ようと思えば寝れます」

「なら今日は僕と起きてようか。僕、誰かと徹夜するの、ちょっと憧れてたんだよね」

「ぴよ……本当に主は変わった人ですね」

 プルスはくちばしを開けて驚いていた。

 その日の夜、僕はプルスと沢山話をした。特に他愛のない話をしていたのだが、気づくといつの間にか寝てしまっていた。

「ん……。ん……あれ、僕寝ちゃってたのか……。って!!」

『グラアアアアアアア!!』×一〇頭

「ぴよ~、おはようございます、主。ん? 主は顔がこんなに真っ黒でしたっけ……」

 プルスは寝ぼけてブラックベアーに話しかけている。

 僕達はブラックベアーの群れに取り囲まれてしまったようだ。

 僕は近くにある籠を背負い、石槍を握る。プルスがいても、寝起きの状態では、この数をさすがに倒せない。

「プルス、炎の翼」

「ぴよ~、了解」

 僕の頭に飛び乗っていたプルスは籠と背中の隙間に滑り込む。

「炎の翼を点火します。お腹が空いているので継続時間は少ないです。落下しないよう気をつけてください」

「このブラックベアーたちから逃げられればそれでいい」

 僕は背中に魔力を込める。

『ブオッ!』

 背中から真っ赤な炎の翼が生え、視界が一気に明るくなる。

『グラアアアアアアア!!』

 ブラックベアーは、炎の翼を見るのが初めてなので全頭がたじろぎ、一時の隙を作った。

 僕は地面に半円型の窪みが出来るほど思いっきり蹴り、跳躍する。

 木の高さにして地上30メートルに一瞬で到達し、木のてっぺんを足場にして更に高く跳躍した。

 木の撓りを利用したので地面を蹴った時よりも高く飛びあがり、地上から七〇メートル付近にまで到達する。

 ここまで来ると、怖さよりも景色の良さに見入ってしまう。だが、見惚れている時間はない。プルスの魔力が無くなる前に出来るだけ遠くへ移動したい。

 僕は恐怖心を押し殺し、前傾姿勢で翼を目一杯広げて滑空する。

 翼を動かすと無駄な魔力を使うと昨日の練習で知った。今は魔力が少ないので、翼を停止させる方がいい。そう思い、全く動かさないでいたところ、とんでもなく長く飛行できた。
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