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鶏を買ったら……知り合いが増えた。

火起こし

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 川辺にまでやってきた僕達は炎の翼で空を飛ぶ練習をしながら火山の麓を目指していた。

「おぉ……、体が浮いてる……」

「主、さすがですね。翼を背中に生やして一度も死なずに浮遊ができる人間は初めてです」

 今、僕は籠と背中の間にプルスを挟んで、炎の翼を出しながら木のてっぺんを飛び跳ねて移動している。

 翼が生えていると木と木の間を滑空できるので地面を歩くより格段に楽だった。

「主、翼をそろそろ羽ばたかせて飛んでみましょう。主ならなんだか出来そうな気がしてきました」

「いや、まだ数時間練習しただけだし、魔力も残り少なくなってきたから今日はもう地上に降りるよ」

 僕は木から降りて地面に靴裏を付ける。

「主、一度死ねば魔力は元に戻りますよ」

「魔力を回復させるために死ぬわけないでしょ……。そろそろ暗くなってきたし、寝床を探さないと」

 僕はあたりを見渡し、危険を避けながら移動する。

「一度死ねば眠気も消えますよ」

 プルスは炎の翼から、ヒヨコの状態に戻り、僕の頭に移動する。

「だから……。死なないってば」

「ですよね~。でも加護の能力で『超再生』がせっかくあるんですから、使わないと損ですよ」

「加護の損とかじゃないよ。プルスが言う方法は命を無駄にしているじゃないか」

「まぁ、主はそう思うかもしれん。でも私は死なないので命の価値が最底辺にあるんですよね~。逆に主は最も上にあるみたいですね」

「命ってもともと一番大切でしょ。プルスに言っても分からないかもしれないけど、人は死なないために生きているんだよ」

「死なないために生きる……、当たり前すぎですね」

「最後はみんな死んじゃうけど、命が一つしかないから、一度の人生を全力で生きれると思うんだ」

「なるほど、私にはよく分からないです。人の一生は短すぎますから、私にとっては瞬きの間ですよ。その間を全力で生きても、何か変わるんですかね?」

 プルスは昔に何か嫌な出来事でもあったのかというくらいひねくれているようだ。

「プルスは僕が死んだら、卵に戻るんだよね?」

「はい。そうですよ」

「プルスと契約した人は誰が一番長く生きたの?」

「ん~、最長で二年くらいじゃないですかね」

「え……。短すぎない……。と言うか、プルスと契約しているのに何で死んでるの?」

「まぁ、相手も相手で化け物みたいに強かったですから。私と契約していても簡単にやられる人が多かったです」

「えっと『超回復』とかがあっても勝てない相手がいたの?」

「はい。相手が私の弱点を的確に突いてきて何度もやられました」

「プルスの弱点……。それは僕も知っておかないとだめだよね」

「そうですね。えっと……私が生きている間は加護を持っている主は死にません。ですが私が死んでいる時に主が殺されると加護の効果が得られずに死にます」

「な……、なるほど。僕がプルスを潰して殺してしまった時に僕が攻撃されていたら僕も死んでいたのか」

「はい、その通りです。あと言っておくと私が死んでから復活するまでの間は五秒です。この間、加護無しで生き延びなければ殺されます」

「五秒……。短いようで長いね」

「そうですね。この五秒をどれだけ耐えられるかが、主が長生きできるかを決めますね」

「僕がプルスを守りながら戦わないといけないってことか」

「いえ、そうでもないですよ。私にも戦う力があります。ですが、主が一番身に着けたいのは逃走術だと思いますから、炎の翼を習得してもらおうと考えました」

「うん、そうだね。炎の翼を身に着ければ移動も楽になるし、すぐに逃げられる。凄くいい能力だよ。僕、頑張って練習するね」

「主ならすぐに使いこなせると思いますよ。基礎が広く埋め立てられていますからね」

「そうだといいけと……。さてと、ちょっとした食事にしよう。僕は森で見つけた木の実を食べるけどプルスはどうする?」

「あの大きな木を灰にしてください。それを食事にします」

「分かった。えっと『スタフティ・フェニックス』」
 
 僕は大木に右手の平を翳し、詠唱を放った。

 すると右手の平から炎の鳥が飛び出し、大木を焼いた。

 炎は周りに燃え広がらず、大木は一瞬にして灰になる。

 可燃物が灰になると炎は燃えることが出来ないので自然と消火した。

「はい、どうぞ」

 僕はプルスを灰の山にそっと置く。

「ぴよ~、いただきます!」

 プルスは灰の山を嘴で突きながら、灰を食べている。

 僕は木の実を口の中に放り投げて食べた。野イチゴのような味がして結構おいしかった。

 本当に質素な食事をしたあと新しく作った灰の上に乾いた木を置いて焚火を作ろうと試みる。

「ぴよ~、ぴよ~」

 僕が立て掛けた枯れ木にプルスが炎を噴き出して、一瞬で燃やしてくれた。立て掛け木が全て灰になったが……。

「あれ? 木が消えてしまいました……。どこに消えたのでしょうか」

「火力が強すぎるんだよ。仕方ない僕がやればいいか」

 僕は新しく枯れ木を立て掛けて手の平を向ける。そのまま、詠唱を放った。

『ファイア!』

 魔法陣が掌に展開され、火の塊が飛んだ。枯れ木に見事当たり、立て掛けていた木が全て灰になった。

「ぼ、僕の火でも灰になるの……」

「主は私と同調していますから、火の質も似通った特性になっているんですね。火力を落とさないとなんでも燃やし尽くしちゃいますよ」

「そうだね。でも火の加減でどうにかなるの?」

「さぁ、試してみないと分かりません」

「まさか、森の中に来て普通の火が使えなくなっているなんて。困ったなぁ。仕方ない、火力の調節をしてみようか」

 僕は指先にだけ魔力を流すように心がける。

「ぐ……ぐ……ぐ……。きつい」

 掌に魔法陣を展開させて『ファイア』を出現させるのはさほど難しくない。だが、指先に魔法陣を作って小さい火を出そうとすると一向に出来ない。

「はぁ、はぁ、はぁ……。これ、思ったよりも難しいぞ。練習が必要だ。それが分かったのなら、今日は手動で火を起こすしかないな」

 僕は木で火起こし器をすぐさま作り、火種を作る。こういう小物を作るのは僕の得意分野だ。丁度縄も持っているので、細く長い木の枝を手で擦って火種を作る必要もない。

 僕が作ったのは弓のような、枝を回す道具と細くて長めの枝、平に切った木の板の三種類。

「これで火を起こせるんですか?」

 プルスは首をかしげて聞いてきた。

「多分ね。まぁ、あとは根気の問題だけど、僕にはその根気が結構強いから。火種をすぐに作れると思うよ」

 僕はあらかじめ解しておいた縄を準備しておく。火種が出来たらすぐに移して燃やすためだ。

『キコキコキコキコキコキコ……』

 僕は小さな弓のような道具を押し引きして中心の木の枝を動かす。

「なるほど、木の摩擦で火を起こすのですね。何とも原始的です」

「そりゃ、火の神様みたいなプルスが見たらそうかもしれないね。魔法とは違うけど、自分の力で生み出せる奇跡みたいで僕は結構好きだよ。この行為」

 僕は笑顔になりながら火起こしを始めた。
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