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鶏を買ったら……知り合いが増えた。

炎の翼

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 自分で歩くと長く感じる森まで道のりが、誰かと話しているとあっという間だった。

 僕は川の近くまで歩いていく。

「主は今から街に行こうとしているんですよね?」

「そうだよ。僕の記憶が正しければ、海の反対側を真っすぐ歩いていけば街があるはずなんだ」

「凄く曖昧な考えですね」

「正確な包囲と場所を覚えていないんだから仕方ないでしょ。でも、あの火山を超えれば人里があるかもしれない。ここの場所が何で開拓されていないか分からないけど、それなりの理由があると思うんだ」

「その理由が主はお分かり何ですか?」

「まぁ、何となく……。この土地に来て分かったんだけど、ここら一帯が鳥籠みたいに抜け出すのが凄く難しいみたい。特に有用な資源もなさそうだし、移動手段がなさすぎる。魔物も多そうだし、なんか危険なにおいが凄いんだよ」

「確かに危険なにおいは凄いですけど、昨日のデカブツを見ていれば怖がる相手も少ないと思いますよ」

「そう願ってるよ。よし……。川を上っていこう」

 僕は川の傍を歩きながら火山の麓を目指す。一人では怖くて入れなかった森だが、プルスと一緒ならなぜかすんなりと入っていけた。理由は分からない。でも、なぜか安心できた。

――家、意外で安心できる場所があるなんて……。まさか赤いヒヨコと一緒にいるだけなのに……これが友達の力。

 ☆☆☆☆

 僕とプルスは川の傍を上っていた。

『グラアアアアアアア!!』×一〇頭

 巨大な体格を持った化け物が群れを成して僕達を襲って来た。

「うわあああああああ!!」

「ぴよ~~~~!!」

 今、僕達はブラックベアー一〇頭に襲われている。あまりの迫力に逃げることしかできない。

「プルス! 話が違うよ!」

「主! 何で逃げるんですか! 戦って倒しましょうよ!」

「無理! 絶対に無理!」

「主なら大丈夫ですってばぁ、ってぴよ~~! 主の足早すぎ~!」

 プルスは僕の髪の毛に何とかしがみ付いているみたいだ。先ほどから頭で何度も跳ねているため、凄い振動を受けているに違いない。

 僕はブラックベアーの群れがあまりに怖すぎて全力で逃げた。

 三メートル越えのブラックベアー一〇頭を目の当たりにしたら普通の人なら戦意喪失するかもしれない。でも、僕は逃げると決めていたので全力で逃げられた。そのお陰か、後ろをふと振り返ると、視界にブラックベアーの姿はなかった。

「はぁはぁはぁ……。に、逃げ切れた……。よかったぁ、走り込みをしておいて。していなかったら絶対に逃げられなかったよ」

「ぴ、ぴよ……。じ、地面が揺れてる……」

 プルスは僕の頭の上でふら付いていた。僕が走っている間ずっと、揺れっぱなしだったから仕方ないかもしれない。

「プルス、大丈夫?」

「大丈夫です。これくらい、余裕ですよ……」

 僕はプルスを掌に載せ、様子を見た。

 プルスは未だに目をグルグルと回しており、そのまま後ろに倒れる。

「ちょっと休もうか。どこか安全な場所を探さないと……」

「ぴ、ぴよ……」

 僕はプルスを頭に再度載せて安全な場所がないか探す。

「比較的安全なのは見晴らしがよくて、高い所……。あぁ、森だからそんな場所見つからないな。ただ走っていたら川がどっちだったか全く分からなくなってしまった。太陽の位置がまだ東にあるから、進む方向は間違ってないはずなんだけど……」

「主、川を空から探しましょう」

「え……、空?」

「はい、私が翼になりますから、主は私に魔力を流してください」

「翼……、魔力……。訳が分からないんだけど」

「とりあえず、私に魔力を流してください。そうすれば翼くらいは具現化できると思います」

「えっと、どうやって流せばいいの?」

「私を握ってください」

「握る……。普通に握っていればいいの?」

「そうですね。落ちない程度に握っていただければ。まだ主は空に慣れていないので、背中に翼を付けての飛行は止めときましょう」

 プルスは僕の髪を伝って、右肩におり、右腕を伝いながら右掌に移動した。

「では、私を握って『ファイア』を手の中に作り出してみてください」

「わ、分かった」

「握ったら手を決して放さないでくださいね。放したら、主は死にます」

「こ、怖い……」

「放さなければ死にません」

「なら大丈夫か」

 僕はプルスを右手で包み込むように握る。そのまま手の中に魔力を込めていった。

『ファイア!』

『ブファオオ!!』

 僕が詠唱を放つと、握った右掌から二枚の大きな翼が出てきた。

「うわ、手の隙間から炎の翼が……」

 翼の大きさは一枚で三メートルほどありそうだ。二枚が一直線になると六メートルもある。

『ブオンッツ!』

 燃え盛る炎の翼が動き始め、大きな翼が一度羽ばたくと浮力が生まれ、僕は上空に一気に浮き上がった。

「うわあああああああ! と、飛んでる! 足裏が地面につかないよ!」

「主、落ちつてください。これ以上は高く上がりませんから」

 僕は地上からどれだけ上がっているのか見当がつかない。高すぎて下が見られないのだ。

「主、川はどの方向にありましたか?」

「か、川……。そっか、川を見るためにこんな高い所に来てたのか」

 僕は閉じていた目を開ける。

「う、うわぁ……。高ぁ……。鳥はこの景色をずっと見ているのか」

 僕は鳥になった気分で辺りを見渡した。恐怖が吹き飛ぶくらい綺麗な景色だった。辺り一面木々しかないが山や川、自然物しかなく人工物が全くなかったためそのままの自然をありありと残していた。

「あ、川があったよ。ここから一〇時の方向だね」

「では、このまま運びますね。しっかり捕まっていてください」

「うわ! ちょ、ちょっと! いきなりは危ないって!」

 プルスは川のある方向を聞くと、その方角に向かうように翼をはためかせた。そのまま川の麓まで降り、炎の翼が消える。

「ぴよ~、主、ちゃんと出来ましたね」

「まさか僕が空を飛ぶ日が来るとは思ってなかった。でも、そんな便利な魔法があるなら初めから使わせてくれればよかったのに……」

「魔法ではなく加護ですよ。主が死ぬのが嫌だと言われましたので、少しずつ慣れていただこうと思いまして」

「え、死ぬの……」

「そりゃ、あんな高い所から落ちたら人は死にますよ。普通は何度も死んで、飛ぶ感覚を身に着けてもらうのが一番早いんですけどね」

「そ、そうだった……。プルスの生きてた時代は力を得るためには死を恐れない戦闘民族しかいないんだった」

「主はどうしますか。地道に練習するか、死にまくって技術をすぐに身に着けるか」

「地道に……お願いします」

 僕はプルスに頭を下げる。

「了解です」

「まさか、ヒヨコに頭を下げる日が来るなんて……」
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