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鶏を買ったら……知り合いが増えた。
安息地帯
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「あ~、いっぱい食べた。もう食べられない」
「ルパ、敵に隙を見せすぎだよ。上を向いていたら周りにいる敵に気づけないよ」
「問題ない。耳と鼻で敵がどこにいるか、おおかたわかる」
ルパは耳を動かし、鼻をひくつかせる。
「でも、さっき僕が戻って来た時、ルパは僕に気づいていなかったでしょ」
「あれはニクスだったから。足音がしなかったし、匂いは服の匂いと混じってわからなかった。でも、ニクスじゃなければわかるから、何も問題ない」
「凄い自信だね。でも、自信があるからと言って油断すると命を落とすよ。油断しても良いのは信頼できる仲間が近くにいる時だけだ。今、ルパは一人だけだから油断してはいけない。油断したら、僕がルパの耳と尻尾を触って嫌がらせをするから。覚悟しておいてね」
「うぅ……。こんなに疲れている時にも、鍛錬するの……。私、もう眠たくなってきたのに……」
ルパは上半身を置き上がらせ、あたりの警戒を行い始めた。
「疲れていようが死にかけていようが、関係ない。身の危険な時こそ、辺りの警戒を怠ったら命取りになる。それは探索に向いている獣族だとしても同じでしょ」
「わかってる。ニクスに言われなくても、ちゃんと警戒してた」
ルパは目の下を擦りながら答える。
「そう。ならいいんだけどさ。でも、僕が後ろにいると気づけないようじゃ、全然説得力がないよ」
「え……」
僕はルパの尻尾を優しく優しく撫でた。毛並みを揃えるように毛先と同じ方向に手を動かす。
「ひゃっ! も、もう! 何で触るの! くすぐったい!」
ルパはよろよろと動き、僕から離れる。肉の食べ過ぎで体が重くなっているのか、動きが遅い。
「言ったでしょ、警戒を怠ったら触るって。ルパが僕を仲間と認めてくれたら、止めてあげるけど、どうする~」
「ひ、卑怯者……」
「うぐ……。ごめん、やっぱり止めておくよ。そうしないとルパが寝られないもんね」
「ほんとに、もう触らないの? 絶対、なにがなんでも、一生?」
「それは……、保証できないけど、ルパが嫌だと言ったらやらないよ」
「そう。なら、いい。警戒を怠っていた私も悪い。それは認める」
ルパは地面に座り、耳を動かして辺りをもう一度警戒しだした。
「ニクスは毎日、こんな生活をしているの?」
「そうだね。ここに来てからまだ二カ月くらいだけど、毎日こんな感じかな。朝起きて運動して食事して寝る。自分の好きなことをしているんだ。今からもするつもりだよ」
「何を?」
「石磨き」
僕は石とやすりをルパに見せる。
「…………」
ルパは無表情になり、あくびをした。
「つまらなさそうと言った表情をしてるけど、僕にとってはとても楽しみな行為なんだよ」
「変なの。石なんて、敵にぶつけて倒すくらいの価値しかないのに」
「確かにそうかもしれないけど、綺麗な石には持ち主の人生を変える力があるんだ。あと、綺麗な石を磨いて他の人に渡すとさ凄く喜んでくれるんだよ」
「へぇ~。全く興味ない。私、もう寝る」
ルパは僕の方に寄ってきて地面に横たわり、眠り始めた。
「家の中で寝ないの?」
「怖い。だから、家に入る時に運んで」
「ルパって結構怖がりなんだね」
「ニクスもでしょ。匂いが似てるからわかる」
「うん、僕も怖がりだよ。だから、ルパが怖いのもわかる。あと、僕を信用してくれてありがとう。こんなに近づいてくれるって、警戒心が弱まったって解釈してもいいよね」
「別に、私はニクスを信用している訳じゃない。利用しているだけ。巨木のてっぺんで寝ている感覚に近い」
「なるほど、僕はルパの安産地帯みたいな感じなんだね」
「そう。ニクスがいるところは私の安全地帯。ニクスは私を襲わないから、好都合。沢山利用してもっと強くなる。怖い者が無くなるくらい、強くなってニクスと言う安全地帯を倒す」
「わかったよ。僕はルパの安全地帯になってあげる。その代り、尻尾を……」
「だめ」
「ですよね……」
「でも、頭なら……許す」
「頭。撫でろってこと?」
「嫌ならいい」
「嫌なんて言ってないでしょ。じゃあ、頭なら撫でていいんだね」
ルパはこくりと頷いた。尻尾と頭、耳、何が違うのか僕にはよくわからないが、ルパにとっては頭を触られるのは一番ましだと言う。でも、ルパが触れ合いを許可してくれたのがうれしくて、ありがたく了承した。
「じゃあ、撫でるね」
「優しくしないと噛む」
「もちろん、優しくするよ」
僕はルパの前頭に手をそっと当て、優しく撫でた。
「んっ……。ほんとに優しく撫でるなんて」
「当たり前でしょ。ルパが優しくって言ったんだから」
「でも、前は少しだけって言ったのに、ずっと触ってきた」
「あ、あのときは歯止めがきかなかったんだ」
僕はルパの頭を撫でていると、ルパはすやすやと眠った。安心しきった表情で寝ており、幸せそうだった。
「あぁ、寝ちゃった。まだ歯を磨いていないのに。歯がないと、物が食べられなくなるから綺麗にした方がいいのにな。寝ている間に歯を磨いてあげるか」
僕は木の枝の先端に細かい切り込みを入れ、毛束を作る。ルパの頭を僕の膝に乗せて口を開かせる。とても熟睡しており、起きない。
「今なら、普通に歯磨きしてあげられそうだ」
僕は木の枝ブラシをルパの口の中に入れる。ブラシ部分はとても柔らかい繊維で出来ているので痛みは無いはずだ。ルパの小さな口に木の枝を入れて優しく歯を磨いていく。起きて攻撃されないかひやひやだったが、案外起きなかった。
「よし、後は口をゆすいでもらう必要があるんだけど……どうやって濯がせようかな」
僕は草で作ったコップに水を入れ、ルパの頭を横にして口角辺りから、水を口の中に入れて窒息しないよう、口の中を洗い流していく。
「ふぅ……。ここまでしても起きないなんて。相当疲れたんだな。今なら、耳と尻尾を触っても起きなかったりして……」
僕は不意に触りたくなってしまったが、ルパと約束したので一切触れなかった。
僕は角ウサギの皮を繋ぎ合わせて簡単な毛布を作る。最近冷え始めてきたのでルパの体に掛けようと思ったのだ。
角ウサギの皮の端をしっかりと結び、大きめの毛布を作った。くるまってみると、結構温かい。
「いい感じだ。石を磨こうと思っていたのに、いつの間にか毛布を作る方向に移動していたなんて。まぁ、時間はまだまだあるからいいか」
僕は出来立てほやほやの毛布をルパの体に掛ける。
「これで寒くないね。お休み、ルパ」
僕はルパの頭を撫でる。
すると……。
「ルパ、敵に隙を見せすぎだよ。上を向いていたら周りにいる敵に気づけないよ」
「問題ない。耳と鼻で敵がどこにいるか、おおかたわかる」
ルパは耳を動かし、鼻をひくつかせる。
「でも、さっき僕が戻って来た時、ルパは僕に気づいていなかったでしょ」
「あれはニクスだったから。足音がしなかったし、匂いは服の匂いと混じってわからなかった。でも、ニクスじゃなければわかるから、何も問題ない」
「凄い自信だね。でも、自信があるからと言って油断すると命を落とすよ。油断しても良いのは信頼できる仲間が近くにいる時だけだ。今、ルパは一人だけだから油断してはいけない。油断したら、僕がルパの耳と尻尾を触って嫌がらせをするから。覚悟しておいてね」
「うぅ……。こんなに疲れている時にも、鍛錬するの……。私、もう眠たくなってきたのに……」
ルパは上半身を置き上がらせ、あたりの警戒を行い始めた。
「疲れていようが死にかけていようが、関係ない。身の危険な時こそ、辺りの警戒を怠ったら命取りになる。それは探索に向いている獣族だとしても同じでしょ」
「わかってる。ニクスに言われなくても、ちゃんと警戒してた」
ルパは目の下を擦りながら答える。
「そう。ならいいんだけどさ。でも、僕が後ろにいると気づけないようじゃ、全然説得力がないよ」
「え……」
僕はルパの尻尾を優しく優しく撫でた。毛並みを揃えるように毛先と同じ方向に手を動かす。
「ひゃっ! も、もう! 何で触るの! くすぐったい!」
ルパはよろよろと動き、僕から離れる。肉の食べ過ぎで体が重くなっているのか、動きが遅い。
「言ったでしょ、警戒を怠ったら触るって。ルパが僕を仲間と認めてくれたら、止めてあげるけど、どうする~」
「ひ、卑怯者……」
「うぐ……。ごめん、やっぱり止めておくよ。そうしないとルパが寝られないもんね」
「ほんとに、もう触らないの? 絶対、なにがなんでも、一生?」
「それは……、保証できないけど、ルパが嫌だと言ったらやらないよ」
「そう。なら、いい。警戒を怠っていた私も悪い。それは認める」
ルパは地面に座り、耳を動かして辺りをもう一度警戒しだした。
「ニクスは毎日、こんな生活をしているの?」
「そうだね。ここに来てからまだ二カ月くらいだけど、毎日こんな感じかな。朝起きて運動して食事して寝る。自分の好きなことをしているんだ。今からもするつもりだよ」
「何を?」
「石磨き」
僕は石とやすりをルパに見せる。
「…………」
ルパは無表情になり、あくびをした。
「つまらなさそうと言った表情をしてるけど、僕にとってはとても楽しみな行為なんだよ」
「変なの。石なんて、敵にぶつけて倒すくらいの価値しかないのに」
「確かにそうかもしれないけど、綺麗な石には持ち主の人生を変える力があるんだ。あと、綺麗な石を磨いて他の人に渡すとさ凄く喜んでくれるんだよ」
「へぇ~。全く興味ない。私、もう寝る」
ルパは僕の方に寄ってきて地面に横たわり、眠り始めた。
「家の中で寝ないの?」
「怖い。だから、家に入る時に運んで」
「ルパって結構怖がりなんだね」
「ニクスもでしょ。匂いが似てるからわかる」
「うん、僕も怖がりだよ。だから、ルパが怖いのもわかる。あと、僕を信用してくれてありがとう。こんなに近づいてくれるって、警戒心が弱まったって解釈してもいいよね」
「別に、私はニクスを信用している訳じゃない。利用しているだけ。巨木のてっぺんで寝ている感覚に近い」
「なるほど、僕はルパの安産地帯みたいな感じなんだね」
「そう。ニクスがいるところは私の安全地帯。ニクスは私を襲わないから、好都合。沢山利用してもっと強くなる。怖い者が無くなるくらい、強くなってニクスと言う安全地帯を倒す」
「わかったよ。僕はルパの安全地帯になってあげる。その代り、尻尾を……」
「だめ」
「ですよね……」
「でも、頭なら……許す」
「頭。撫でろってこと?」
「嫌ならいい」
「嫌なんて言ってないでしょ。じゃあ、頭なら撫でていいんだね」
ルパはこくりと頷いた。尻尾と頭、耳、何が違うのか僕にはよくわからないが、ルパにとっては頭を触られるのは一番ましだと言う。でも、ルパが触れ合いを許可してくれたのがうれしくて、ありがたく了承した。
「じゃあ、撫でるね」
「優しくしないと噛む」
「もちろん、優しくするよ」
僕はルパの前頭に手をそっと当て、優しく撫でた。
「んっ……。ほんとに優しく撫でるなんて」
「当たり前でしょ。ルパが優しくって言ったんだから」
「でも、前は少しだけって言ったのに、ずっと触ってきた」
「あ、あのときは歯止めがきかなかったんだ」
僕はルパの頭を撫でていると、ルパはすやすやと眠った。安心しきった表情で寝ており、幸せそうだった。
「あぁ、寝ちゃった。まだ歯を磨いていないのに。歯がないと、物が食べられなくなるから綺麗にした方がいいのにな。寝ている間に歯を磨いてあげるか」
僕は木の枝の先端に細かい切り込みを入れ、毛束を作る。ルパの頭を僕の膝に乗せて口を開かせる。とても熟睡しており、起きない。
「今なら、普通に歯磨きしてあげられそうだ」
僕は木の枝ブラシをルパの口の中に入れる。ブラシ部分はとても柔らかい繊維で出来ているので痛みは無いはずだ。ルパの小さな口に木の枝を入れて優しく歯を磨いていく。起きて攻撃されないかひやひやだったが、案外起きなかった。
「よし、後は口をゆすいでもらう必要があるんだけど……どうやって濯がせようかな」
僕は草で作ったコップに水を入れ、ルパの頭を横にして口角辺りから、水を口の中に入れて窒息しないよう、口の中を洗い流していく。
「ふぅ……。ここまでしても起きないなんて。相当疲れたんだな。今なら、耳と尻尾を触っても起きなかったりして……」
僕は不意に触りたくなってしまったが、ルパと約束したので一切触れなかった。
僕は角ウサギの皮を繋ぎ合わせて簡単な毛布を作る。最近冷え始めてきたのでルパの体に掛けようと思ったのだ。
角ウサギの皮の端をしっかりと結び、大きめの毛布を作った。くるまってみると、結構温かい。
「いい感じだ。石を磨こうと思っていたのに、いつの間にか毛布を作る方向に移動していたなんて。まぁ、時間はまだまだあるからいいか」
僕は出来立てほやほやの毛布をルパの体に掛ける。
「これで寒くないね。お休み、ルパ」
僕はルパの頭を撫でる。
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