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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。
馬車の停留所
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「な、なに……。近いな……」
ルパは身を引きながらつぶやく。
「ペンダントは服の中にしまうって言ったでしょ。可愛すぎるルパが連れ去られたらどうするのさ」
僕はペンダントの木片を持ち、服の首元を少し引っ張って隠すように中に入れた。
「ちょっ! 服が伸びちゃう。この服、お気に入りなの!」
「あ、ごめん……。って、ルパ、服にお気に入りとかあったの?」
「え、あ、いや。全然。全然お気に入りじゃないし。こんなただのボロ着、お気に入りの訳ないじゃん」
ルパが着ていた服は、僕があげた二枚の内の一着だった。初めにあげた服は炎で燃やされてしまったが、二着目の服は大事に着ており、今でもお気に入りらしい。ときおり、襟首を持ち上げてスンスンとにおいを嗅ぎ、ふふんっと上機嫌になっている。自分のにおいが好きなのかな……。
「とりあえず、ルパもローブを羽織って、素肌をなるべく見せないように」
「もぅ。こんなに肌を隠したら感覚が狂っちゃうよ。嗅覚と聴覚、視覚の三つしか使えないじゃん」
「文句を言わないの。ローブを着てた方が旅人っぽいでしょ。その方が怪しまれずに済むんだよ。面倒事に巻き込まれるのはごめんだから、少し怖いなって思われるくらいでちょうどいいんだ」
「ふぅ~ん。それってニクスが人と話すがの苦手だからじゃないの~?」
「ぐふっ! ど、どうしてそれを……」
「だってニクス。私以外の人と目を合わせて喋ってないんだもん。絶妙に違うところを見て喋ってるよね。ニクスも人と喋るのが怖いんでしょ~」
ルパはヘラヘラして僕の弱点を突いてくる。
「眼を見て話せないけど、会話は出来るからいいんだよ。会話が出来れば生活で困らないからね」
「絶対にニクス嫌われてるよ。だって、眼を見て話してこない人間ってなんか気持ち悪い」
「うぐっ!」
今日もルパの毒舌は絶好調のようで、僕の精神をゴリゴリと抉ってくる。僕の心は燃え尽きた炭よりも脆く、簡単に砕け散る。
「でも……、私の眼を見て喋ってくれるのはちょっと嬉しい……よ」
ルパは僕の顔を覗き込み、少しだけ口角をあげている。特段笑っているわけではないが、はにかんでいるといった表情だ。
ルパの毒舌とたまに来る甘い舌が丁度よく、僕の心が壊れるギリギリのところで食い止めている。
「ルパ……」
「でも、水浴びを覗くのはちょっとというか大分気持ち悪いよ。凄く不愉快。どうせなら普通に話しに来てくれた方がましだったのに」
「い、いやぁ……、水浴びをしているルパがあまりにも神秘的過ぎて触れてはならない絵画のようだったんだ。あの場面はルパ一人で完成していた。素晴らしい景色をありがとう」
「奴隷の水浴びにそんな感情を抱くって……、やっぱりニクスは変態だね」
「いや~、ルパには負けるよ。水浴びの時、自信のあるお尻の方を見せてきてたでしょ。確かに素晴らしかったけど、僕に気づいてたのなら早く言ってくれればよかったのに。わざと見られるようにするなんて、ルパも対外変態だね」
「に、ニクスと一緒にするな! 私は変態じゃない! 普通だ!」
「もう、そんなに怒らないでよ……。いいんじゃない、僕とルパ、どっちも変態で」
「ニクスと同じとか絶対にいや。死んでもいや。もう、ただ普通にニクスと話しているとイライラする! 早く行こう。時間がもったいないんでしょ」
「あ、そうだったそうだった。時間は刻一刻とすぎているんだ。ルパをからかっている場合じゃない。停留所に早く行かないと馬車に乗り遅れちゃう」
僕はルパを抱き寄せ、炎の翼を出し、空を滑空して街まで向かった。街一歩手前の草原で降りて走る。傭兵のおじさんに門を開けてもらい、街の中心を突っ切って馬車の停留所に向う。
西門の近くにある停留所には馬車が既に着ており、出発しそうだった。
僕とルパはすぐに乗りこむ。
馬車は四頭の馬が引っ張ってくれるらしく、結構大きめの馬車だった。乗れる人数は二○人ほど。レイト領の港町まで行くには五○キロメートルごとにある街で馬車をのりかえなければならないみたいだ。
レイト領までは五○○キロメートルあるので、一〇回乗り換えないとレイト領に着かない。この五○キロメートルの移動中にも村や小さな集落などに立ち寄るらしく、結構な時間がかかるそうだ。レイト領の港町に行くのに一番早いのは馬車を借りて行くことらしい。まぁ、僕たちはレイト領に行くまでの道のりを楽しむとしよう。快適かどうかは知らないが、隣にルパがいるだけでいい旅になるのは確定している。
僕たちは馬車の中央当たりの二人席に並んで座っていた。ルパを窓際に乗せ、外の景色を眺めながら馬車に乗ってもらう。ルパはもう既に楽しそうで、窓の外を眺め、尻尾を動かしている。
「ルパ、息苦しくない?」
「う、うん。大丈夫。ニクスの隣にいれば人も怖くない」
「今のところ人はあんまり乗っていないけど、これからいっぱいになるかもしれないから、心の準備をしておいてね」
「わ、わかった……。怖くなったらニクスに抱き着くから……」
「それで気がまぎれるなら、好きなだけ抱き着いていいよ。何なら手を繋いであげようか」
「あ、あのつなぎ方……、なんか恥ずかしいからあんまりしたくない……。でも、ニクスがしたいって言うのならいいよ……」
「僕はルパと手を繋いでいたいな。特に戦わなくてもいい時はなるべく手を繋ごうよ。その方が仲よさそうに見えるでしょ」
「別にニクスと仲良さそうに見られたくない……」
「でも、手を繋いでいた方が、ルパが誘拐されずに済む。あと、ルパがすぐにどこかに行っちゃわないようにするリード替わりだよ」
「わ、私はニクスのペットじゃないぞ。でも……、はぐれたらニクスを探すのは難しいかもしれない……。だから仕方なくニクスと手を繋いであげる」
ルパは僕の左の手のひらに右の手のひらを合わせ、指と指の間にスルリと入れてきた。そのまま握るとどっちかが手を放してもずっと握っていられるつなぎ方だ。ルパが手を放そうとも、僕が手を放さなければルパはどこにも行かない。どこにも行けないの方が正しいか。
「うぅ……。なんか、変な気分……。もう少し普通の握り方でいいんじゃない?」
「この握り方は嫌なの?」
「い、いやというか……。なんか、ずっと握られそうで……、恥ずかしい」
ルパは僕の方を向かず、ずっと窓の方を見ているがなぜか頬を赤らめていた。
ルパは身を引きながらつぶやく。
「ペンダントは服の中にしまうって言ったでしょ。可愛すぎるルパが連れ去られたらどうするのさ」
僕はペンダントの木片を持ち、服の首元を少し引っ張って隠すように中に入れた。
「ちょっ! 服が伸びちゃう。この服、お気に入りなの!」
「あ、ごめん……。って、ルパ、服にお気に入りとかあったの?」
「え、あ、いや。全然。全然お気に入りじゃないし。こんなただのボロ着、お気に入りの訳ないじゃん」
ルパが着ていた服は、僕があげた二枚の内の一着だった。初めにあげた服は炎で燃やされてしまったが、二着目の服は大事に着ており、今でもお気に入りらしい。ときおり、襟首を持ち上げてスンスンとにおいを嗅ぎ、ふふんっと上機嫌になっている。自分のにおいが好きなのかな……。
「とりあえず、ルパもローブを羽織って、素肌をなるべく見せないように」
「もぅ。こんなに肌を隠したら感覚が狂っちゃうよ。嗅覚と聴覚、視覚の三つしか使えないじゃん」
「文句を言わないの。ローブを着てた方が旅人っぽいでしょ。その方が怪しまれずに済むんだよ。面倒事に巻き込まれるのはごめんだから、少し怖いなって思われるくらいでちょうどいいんだ」
「ふぅ~ん。それってニクスが人と話すがの苦手だからじゃないの~?」
「ぐふっ! ど、どうしてそれを……」
「だってニクス。私以外の人と目を合わせて喋ってないんだもん。絶妙に違うところを見て喋ってるよね。ニクスも人と喋るのが怖いんでしょ~」
ルパはヘラヘラして僕の弱点を突いてくる。
「眼を見て話せないけど、会話は出来るからいいんだよ。会話が出来れば生活で困らないからね」
「絶対にニクス嫌われてるよ。だって、眼を見て話してこない人間ってなんか気持ち悪い」
「うぐっ!」
今日もルパの毒舌は絶好調のようで、僕の精神をゴリゴリと抉ってくる。僕の心は燃え尽きた炭よりも脆く、簡単に砕け散る。
「でも……、私の眼を見て喋ってくれるのはちょっと嬉しい……よ」
ルパは僕の顔を覗き込み、少しだけ口角をあげている。特段笑っているわけではないが、はにかんでいるといった表情だ。
ルパの毒舌とたまに来る甘い舌が丁度よく、僕の心が壊れるギリギリのところで食い止めている。
「ルパ……」
「でも、水浴びを覗くのはちょっとというか大分気持ち悪いよ。凄く不愉快。どうせなら普通に話しに来てくれた方がましだったのに」
「い、いやぁ……、水浴びをしているルパがあまりにも神秘的過ぎて触れてはならない絵画のようだったんだ。あの場面はルパ一人で完成していた。素晴らしい景色をありがとう」
「奴隷の水浴びにそんな感情を抱くって……、やっぱりニクスは変態だね」
「いや~、ルパには負けるよ。水浴びの時、自信のあるお尻の方を見せてきてたでしょ。確かに素晴らしかったけど、僕に気づいてたのなら早く言ってくれればよかったのに。わざと見られるようにするなんて、ルパも対外変態だね」
「に、ニクスと一緒にするな! 私は変態じゃない! 普通だ!」
「もう、そんなに怒らないでよ……。いいんじゃない、僕とルパ、どっちも変態で」
「ニクスと同じとか絶対にいや。死んでもいや。もう、ただ普通にニクスと話しているとイライラする! 早く行こう。時間がもったいないんでしょ」
「あ、そうだったそうだった。時間は刻一刻とすぎているんだ。ルパをからかっている場合じゃない。停留所に早く行かないと馬車に乗り遅れちゃう」
僕はルパを抱き寄せ、炎の翼を出し、空を滑空して街まで向かった。街一歩手前の草原で降りて走る。傭兵のおじさんに門を開けてもらい、街の中心を突っ切って馬車の停留所に向う。
西門の近くにある停留所には馬車が既に着ており、出発しそうだった。
僕とルパはすぐに乗りこむ。
馬車は四頭の馬が引っ張ってくれるらしく、結構大きめの馬車だった。乗れる人数は二○人ほど。レイト領の港町まで行くには五○キロメートルごとにある街で馬車をのりかえなければならないみたいだ。
レイト領までは五○○キロメートルあるので、一〇回乗り換えないとレイト領に着かない。この五○キロメートルの移動中にも村や小さな集落などに立ち寄るらしく、結構な時間がかかるそうだ。レイト領の港町に行くのに一番早いのは馬車を借りて行くことらしい。まぁ、僕たちはレイト領に行くまでの道のりを楽しむとしよう。快適かどうかは知らないが、隣にルパがいるだけでいい旅になるのは確定している。
僕たちは馬車の中央当たりの二人席に並んで座っていた。ルパを窓際に乗せ、外の景色を眺めながら馬車に乗ってもらう。ルパはもう既に楽しそうで、窓の外を眺め、尻尾を動かしている。
「ルパ、息苦しくない?」
「う、うん。大丈夫。ニクスの隣にいれば人も怖くない」
「今のところ人はあんまり乗っていないけど、これからいっぱいになるかもしれないから、心の準備をしておいてね」
「わ、わかった……。怖くなったらニクスに抱き着くから……」
「それで気がまぎれるなら、好きなだけ抱き着いていいよ。何なら手を繋いであげようか」
「あ、あのつなぎ方……、なんか恥ずかしいからあんまりしたくない……。でも、ニクスがしたいって言うのならいいよ……」
「僕はルパと手を繋いでいたいな。特に戦わなくてもいい時はなるべく手を繋ごうよ。その方が仲よさそうに見えるでしょ」
「別にニクスと仲良さそうに見られたくない……」
「でも、手を繋いでいた方が、ルパが誘拐されずに済む。あと、ルパがすぐにどこかに行っちゃわないようにするリード替わりだよ」
「わ、私はニクスのペットじゃないぞ。でも……、はぐれたらニクスを探すのは難しいかもしれない……。だから仕方なくニクスと手を繋いであげる」
ルパは僕の左の手のひらに右の手のひらを合わせ、指と指の間にスルリと入れてきた。そのまま握るとどっちかが手を放してもずっと握っていられるつなぎ方だ。ルパが手を放そうとも、僕が手を放さなければルパはどこにも行かない。どこにも行けないの方が正しいか。
「うぅ……。なんか、変な気分……。もう少し普通の握り方でいいんじゃない?」
「この握り方は嫌なの?」
「い、いやというか……。なんか、ずっと握られそうで……、恥ずかしい」
ルパは僕の方を向かず、ずっと窓の方を見ているがなぜか頬を赤らめていた。
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