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実家に向かう

ガイアス兄さんの結婚相手

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「お父さん……、お母さん……。皆……。会いたいよ……」

「………………」

 ミアはルパとは違い、死に別れたわけではなく、生き別れだ。なら、会いに行ける可能性はある。ミアの実家が亡くなっていなければ会える。まぁ、もう九年も離れ離れになっていたらどうなるかわからないけど、行ってみる価値はある。

 ――ミアの故郷にもいつか行こう。冬は動きにくいから、春か夏、秋でもいい。ビースト共和国となると飛行船じゃなくて船でしか行けないはずだ。長旅になるかもしれない。でも、ミアの心を治すためなら、悪くない旅だな。

 僕はミアが産まれ故郷に残りたいと言うなら、そのまま奴隷契約を切ってもいい。一番大切なのはミアの気持ちだ。僕は彼女の心を尊重する。

「う、うぅ……、やめて……、やめてください……。痛い……、痛いよ……」

 ミアは時おり悪夢にうなされる。眠りが浅い原因の一つだ。辛い時を何度も思い出すのかもしれない。ルパも悪夢を見ていたが、僕に抱き着いていれば見る頻度が減ったと言うし、辛い出来事を少しでも思い出さないよう、優しく撫でる。

 すると、寝言を言わなくなり、すやすやと眠る。

 三時間後、僕はミートさんを起こし、荷台に戻る。ルパが丸まって眠っており、悪夢でも見ているのか、眉間にしわを寄せ、寝辛そうな表情を浮かべていた。

 僕はルパの隣に寝ころぶ。すると、ルパは僕の気配を感じて飛びつくように抱き着いてくる。すると、口角をあげて尻尾を振る。頭を撫でると尻尾の振る速度と大きさが増えた。

「ニクス……、ありがとう……。ニクス……大……嫌い……」

 ルパは夢の中でも素直じゃない。そこもまたルパらしくていいじゃないか。

 僕は六時間近く眠り、万全の状態で眼を覚ます。

 四日目ともなれば森の中での生活にも慣れた。ルパとミアの体調はすこぶるよく、クワルツ兄さんは悪い。僕とミートさんは普通だ。

 クワルツ兄さんの体調が悪いのは疲れからであり、よく眠れないからだと思われる。森の中の村にでもお邪魔するかと言う話になるも、実家に早く付いたほうがいいでしょと、意見が纏まる。

 四日目、五日目、六日目と移動を続け、ようやく森の出口が見えて来た。森を抜けると、王都とは違い、平原が広がっていた。
 ただ馬車の通る道だけは整備されており、走りやすいように土が押し固められている。

 馬も森の中よりも整備されている地面の方が走りやすいのか、速度が上がった。視界の先にはフランツの街らしき建物が立っている。ものすごく高い建物はなく、一戸建てが多い。石やレンガの家で、少々田舎臭い。

「さ、着いた。フランツの街だ。ニクスは懐かしいんじゃないかな?」

 クワルツ兄さんは安堵し、僕に訊いてきた。

「そうだね。やっぱり穏やかな空気が流れてるよ……。田舎って感じだ」

「予定通り、七日で帰って来れたし、ガイアス兄さんも家にいるんじゃないかな。相手の女性も一緒だと思うし、私とニクスは挨拶にでも行こうか。ミートさんとルパちゃん、ミアちゃんの三人は街の景色でも見て、空気を感じてみてほしい」

「そうですね。クワルツさんの故郷を肌身で感じたいと思います」

 ミートさんは頷いた。

「すぅ~、はぁ……。ん~、人がめっちゃ多い訳でもないし、丁度いいかも」

 ルパは頷きながら呟く。

「静かで景色がいい……、空気も美味しです。まったりした雰囲気が気に入りました」

 ミアも辺りを見渡しながら呟く。どうやら、三名ともフランツ街を気に入ってくれたらしい。

「じゃあ、私とニクスは実家に向かいます。犯罪が横行するほど治安が悪い訳じゃないので裏路地に入っても問題はありません。でもなるべく大通りを歩いてくれるとありがたいです。街を見終わったら大きな時計台の下で待っていてもらえますか」

 クワルツ兄さんはミートさんに伝える。

「わかりました。じゃあ、二人共いこうか」

 ミートさんとルパ、ミアの三名は僕達から離れ、歩いていく。

「はぁ……。さてと、帰って何といえばいいのやら……」

 僕はため息をつきながら荷台の前座席に乗る。

「ただいまと言って家の中に入ればいいさ。父さんもずっとソワソワしてると思うよ」

「そうだといいんだけど……」

 僕とクワルツ兄さんは馬車で道を移動し、実家にやって来た。以前は門までひび割れていて確実に廃墟だと思われている風貌だったのに、ペンキを塗り直したらしく、新築かと思うくらい綺麗になっていた。

「なんか見かけがすごくよくなっているんだけど……。どうなってるの?」

「ボロボロの家で結婚式を行うなんて出来ないでしょ。家族でお金を出し合って改修工事をしてもらったんだ。総額金貨一〇〇〇枚かかった。でも、ニクスのお金があったから、ほぼ使って行ったよ。結婚費用は私達持ちだけどね」

「僕が送ったお金は工事費用に使われたんだね。まあ、それならそれで構わないよ」

 僕は綺麗になった入口を通り、白色が基調の屋敷に付いた。

「いや~、綺麗になってる……。僕が出て行った時には今にも崩れそうだったのに」

「ほんと綺麗になったよね。母さんにも見せてあげたかったな」

 僕達は馬車を厩舎に置き、建物の入り口にやって来た。

 扉についている金属の輪を持ち、叩く。僕はクワルツ兄さんの後ろに隠れ、扉が開くのを待った。

「は~い。どちら様ですか~」

「え?」

 僕とクワルツ兄さんは声をそろえて驚いた。

 扉から出てきたのは、かなりの美女。大人というよりかはまだ子供っぽい女性だ。身長は一四五センチメートルほど。ふわふわの長い金髪から良い匂いが漂ってきそうだ。

 服装は貴族とは思えない庶民的な民族衣装と言うべきか、足が隠れない程度のスカートと綿製で着心地の良さそうな白い長そでを着ている。
 顔は幼く、童顔と言ってもいい。大きな目と小さくもしっかりと通った鼻、小顔で妖精のようだ。僕とクワルツ兄さんは初対面なので、頭が白くなった。ガイアス兄さんは少女趣味だったっけ? と頭が働かない。
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