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実家に向かう
大量殺人者
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「ちょ、ニクス! 私はいいって言ってない! 行っちゃ駄目なの!」
「ごめん、ルパ。僕が行かないと、他の誰かの命が奪われるかもしれないんだ。だから、行ってくるよ。帰って来たらまたたくさん怒っていいからさ、結婚式を楽しんでいて」
「うぅ、何で、いつも一人で行くの。私も連れて行ってよ。私、何のために鍛錬してるの……。私も戦えるよ」
「ルパに死んでほしくないからだよ。そんなに心配しないで、僕は死ぬ気なんて無いし」
僕はルパを背に走る。そのまま、家の門を出て、プルスの危機察知で橙兎がいる場所を探した。
ペガサスさんはなるべく高い位置に移動し、僕たちを偵察する。
「主、橙兎は一等地にいます」
「わかった。一等地だね」
僕はフランツの街にある一等地に向って走った。
「ふふふ~ん、ふふふ~ん、ふふふ~ん、うわ~キラキラがいっぱい~。これもこれもこれも全部私の物~」
ドレスを着た少女は真っ赤に染まり、ガラスを割って宝石をバックの中に入れていた。加えて一等地の地面が同じ色になっていた。
お店の人たちが橙兎によって食われている光景はあまりにも無残で、可愛さの欠片もない。
辺りを見ると、騎士が橙兎と戦っている。だが、あまりの数に手を焼いていた。以前、テリアさん達の街を襲った角ウサギの群れを討伐した覚えがあるが、あの魔物の何十倍も強い神獣の群れだ。恐ろしくて足が震える。
「主、落ちついてください。死んでいなければ人を助けられます。まず、あの少女の行動を止めましょう」
プルスはこういう場面を何度も見て来たからかとても落ち着いてきた。
「そうだね……」
僕は金色の長髪を秋風に靡かせ、人形のように整った顔立ちの少女に話しかける。
「こんにちは」
「こんにちは~。お兄さん、何か用ですか?」
「その宝石は君が買ったのかな?」
「ううん、違うよ~。この宝石は私の物だもん。だから、買わなくてもいいの~」
少女は血塗られた状態で笑顔になる。だいぶ狂っているようだ。
「お父さんとお母さんは? 一緒に来たんじゃないの」
「私もお父さんとお母さんを探してるの。お家を探しても全然いないし。いろんなところを歩いて歩いて船に乗ったあと、この街に来たの」
「そ、そうなんだ……。お家はどこにあるの?」
「水の都アクアテルム」
「アクアテルムか……。遠い所から来たんだね」
「うん、すっごく疲れたよ~。あ、お兄さんの持ってる剣いいな~。ちょうだい」
少女は僕の剣を指さしてお願いしてきた。
「駄目だよ。これは僕が買った品だからね」
「くれないの……。酷い、酷い、酷い……。それ、私の剣なのに……」
少女の態度は一変し、橙兎が群がってくる。
「あなた達の親は誰ですか」
プルスは橙色の兎たちに向って大きな声で話した。
「ちっ……。赤鳥……。面倒な奴に当たっちまったな」
一羽の橙兎が少女の左肩に乗る。
「兎ちゃん、あのお兄さんが私の剣をくれないの。取り返して!」
「はいはい、わかりましたよ~。俺もあのヒヨコ野郎をぶっ殺したいんでね」
橙兎は可愛らしい見た目に反して口が悪かった。
「野郎共、黒髪男の骨の髄までしゃぶって食い殺せ!」
親個体が叫ぶと地面にいる橙兎が津波のように僕に襲い掛かって来た。
僕は剣を引き抜き、橙兎を切りつけていく。切ると煙のように消えた。だが、切っても切っても減っている気がしない。よく見たら地面から新しい個体が生成されており、増殖していた。
「主、橙兎の加護は『増殖』です。主に魔力と土から自分と同じ個体を増やします。数は魔力と地面がある限り無限です」
「なるほど。そりゃ厄介だ。少女の魔力が尽きるまで個体が増え続けるわけね」
「はい。なので、本体を狙った攻撃をするのが得策です」
プルスは僕の頭上から橙兎を見つめ、作戦を僕に伝える。脳天から伝わる熱い温度からして血気盛んになっているようだ。でも、冷静な判断を下しており、僕の性格が繁栄されているようだった。
「ちっ……、あの男、強いな。こっちの主の戦闘力はほぼゼロ。魔力量だけで選んだ俺のミスか。いや、数で押し切れば……。駄目だ、赤鳥の殲滅力はえげつない。逃げるか……。ラニア、いったん引くぞ」
「え、何で? 私、お兄さんの剣が欲しいの。逃げたら手に入らないよ」
「はぁ……。全く……。面倒臭い主だな。逃げるが勝ちって言うだろ、最後に勝てばすべてラニアの物になるんだ。ここで倒されたら元も子もない。だから、さっさと逃げるぞ」
少女は橙兎に首根っこを噛まれ、大量の複製体と共に逃げ出す。
「プルス、『燃え移る炎(バーニングフレイム)』」
「了解です」
プルスは僕の頭上から火を噴き、橙兎だけを燃やす。だが、地面から大量の橙兎が出てくる。その個体は壁のように本体を守り、炎を受け止めた。燃やす個体が多ければ多いほど、炎が移る速度は遅くなる。地面は燃え盛り、辺り一面火の海になる。
「逃がすわけにはいかない……。でも、生きている人も助けないと」
僕は火の海に入り、体を食い散らかされている人たちの中で息がある者に超再生の効果を持つ火を与える。息さえあれば、復活できるはずだ。ただ、襲われた数があまりにも多く、橙兎の悲惨さが浮き彫りになる。
「主、橙兎はわざと人を襲い、主の進む速度を遅らせています。姑息な手ですが、主の性格をいち早く読み取られたようです。奴は見た相手の性格を即座に読みます。逃げたと言うことは私達に勝てる可能性がないからです。一番厄介な手を使って何が何でも逃げ延びようとしているようですね」
「くっ……。少女は魔力をいいように使われているだけなのに、大量殺人者に仕立て上げられている。逃がすと、他の場所で被害者が出てしまう」
僕が迷っている間にも、大量の橙兎がフランツの街に放たれた。もう、見境なしに襲い、半死にさせている。絶妙に殺さない所が悲惨すぎる。
手首を噛み、動脈を引き千切って失血死をさせようとしているのだ。首の大動脈ではなく、手首を狙うのも死ぬのを遅らせるための手段だろう。子供、大人、老人、関係なく、襲われている。
「このままじゃ、街の人が大量に死んでしまう……。魔法や手術なんてしている時間は数が多すぎて無いし、手首を燃やして回復させるしか、助ける方法がない」
「はははっ! 残念だったな、赤鳥。お前とは相性が悪いが、お前との主とは相性がいいみたいだ。ここはいったん引かせてもらうぜ!」
橙兎は逃げに徹しているのに勝ち誇ったような声で叫び、どんどん離れていく。
「ごめん、ルパ。僕が行かないと、他の誰かの命が奪われるかもしれないんだ。だから、行ってくるよ。帰って来たらまたたくさん怒っていいからさ、結婚式を楽しんでいて」
「うぅ、何で、いつも一人で行くの。私も連れて行ってよ。私、何のために鍛錬してるの……。私も戦えるよ」
「ルパに死んでほしくないからだよ。そんなに心配しないで、僕は死ぬ気なんて無いし」
僕はルパを背に走る。そのまま、家の門を出て、プルスの危機察知で橙兎がいる場所を探した。
ペガサスさんはなるべく高い位置に移動し、僕たちを偵察する。
「主、橙兎は一等地にいます」
「わかった。一等地だね」
僕はフランツの街にある一等地に向って走った。
「ふふふ~ん、ふふふ~ん、ふふふ~ん、うわ~キラキラがいっぱい~。これもこれもこれも全部私の物~」
ドレスを着た少女は真っ赤に染まり、ガラスを割って宝石をバックの中に入れていた。加えて一等地の地面が同じ色になっていた。
お店の人たちが橙兎によって食われている光景はあまりにも無残で、可愛さの欠片もない。
辺りを見ると、騎士が橙兎と戦っている。だが、あまりの数に手を焼いていた。以前、テリアさん達の街を襲った角ウサギの群れを討伐した覚えがあるが、あの魔物の何十倍も強い神獣の群れだ。恐ろしくて足が震える。
「主、落ちついてください。死んでいなければ人を助けられます。まず、あの少女の行動を止めましょう」
プルスはこういう場面を何度も見て来たからかとても落ち着いてきた。
「そうだね……」
僕は金色の長髪を秋風に靡かせ、人形のように整った顔立ちの少女に話しかける。
「こんにちは」
「こんにちは~。お兄さん、何か用ですか?」
「その宝石は君が買ったのかな?」
「ううん、違うよ~。この宝石は私の物だもん。だから、買わなくてもいいの~」
少女は血塗られた状態で笑顔になる。だいぶ狂っているようだ。
「お父さんとお母さんは? 一緒に来たんじゃないの」
「私もお父さんとお母さんを探してるの。お家を探しても全然いないし。いろんなところを歩いて歩いて船に乗ったあと、この街に来たの」
「そ、そうなんだ……。お家はどこにあるの?」
「水の都アクアテルム」
「アクアテルムか……。遠い所から来たんだね」
「うん、すっごく疲れたよ~。あ、お兄さんの持ってる剣いいな~。ちょうだい」
少女は僕の剣を指さしてお願いしてきた。
「駄目だよ。これは僕が買った品だからね」
「くれないの……。酷い、酷い、酷い……。それ、私の剣なのに……」
少女の態度は一変し、橙兎が群がってくる。
「あなた達の親は誰ですか」
プルスは橙色の兎たちに向って大きな声で話した。
「ちっ……。赤鳥……。面倒な奴に当たっちまったな」
一羽の橙兎が少女の左肩に乗る。
「兎ちゃん、あのお兄さんが私の剣をくれないの。取り返して!」
「はいはい、わかりましたよ~。俺もあのヒヨコ野郎をぶっ殺したいんでね」
橙兎は可愛らしい見た目に反して口が悪かった。
「野郎共、黒髪男の骨の髄までしゃぶって食い殺せ!」
親個体が叫ぶと地面にいる橙兎が津波のように僕に襲い掛かって来た。
僕は剣を引き抜き、橙兎を切りつけていく。切ると煙のように消えた。だが、切っても切っても減っている気がしない。よく見たら地面から新しい個体が生成されており、増殖していた。
「主、橙兎の加護は『増殖』です。主に魔力と土から自分と同じ個体を増やします。数は魔力と地面がある限り無限です」
「なるほど。そりゃ厄介だ。少女の魔力が尽きるまで個体が増え続けるわけね」
「はい。なので、本体を狙った攻撃をするのが得策です」
プルスは僕の頭上から橙兎を見つめ、作戦を僕に伝える。脳天から伝わる熱い温度からして血気盛んになっているようだ。でも、冷静な判断を下しており、僕の性格が繁栄されているようだった。
「ちっ……、あの男、強いな。こっちの主の戦闘力はほぼゼロ。魔力量だけで選んだ俺のミスか。いや、数で押し切れば……。駄目だ、赤鳥の殲滅力はえげつない。逃げるか……。ラニア、いったん引くぞ」
「え、何で? 私、お兄さんの剣が欲しいの。逃げたら手に入らないよ」
「はぁ……。全く……。面倒臭い主だな。逃げるが勝ちって言うだろ、最後に勝てばすべてラニアの物になるんだ。ここで倒されたら元も子もない。だから、さっさと逃げるぞ」
少女は橙兎に首根っこを噛まれ、大量の複製体と共に逃げ出す。
「プルス、『燃え移る炎(バーニングフレイム)』」
「了解です」
プルスは僕の頭上から火を噴き、橙兎だけを燃やす。だが、地面から大量の橙兎が出てくる。その個体は壁のように本体を守り、炎を受け止めた。燃やす個体が多ければ多いほど、炎が移る速度は遅くなる。地面は燃え盛り、辺り一面火の海になる。
「逃がすわけにはいかない……。でも、生きている人も助けないと」
僕は火の海に入り、体を食い散らかされている人たちの中で息がある者に超再生の効果を持つ火を与える。息さえあれば、復活できるはずだ。ただ、襲われた数があまりにも多く、橙兎の悲惨さが浮き彫りになる。
「主、橙兎はわざと人を襲い、主の進む速度を遅らせています。姑息な手ですが、主の性格をいち早く読み取られたようです。奴は見た相手の性格を即座に読みます。逃げたと言うことは私達に勝てる可能性がないからです。一番厄介な手を使って何が何でも逃げ延びようとしているようですね」
「くっ……。少女は魔力をいいように使われているだけなのに、大量殺人者に仕立て上げられている。逃がすと、他の場所で被害者が出てしまう」
僕が迷っている間にも、大量の橙兎がフランツの街に放たれた。もう、見境なしに襲い、半死にさせている。絶妙に殺さない所が悲惨すぎる。
手首を噛み、動脈を引き千切って失血死をさせようとしているのだ。首の大動脈ではなく、手首を狙うのも死ぬのを遅らせるための手段だろう。子供、大人、老人、関係なく、襲われている。
「このままじゃ、街の人が大量に死んでしまう……。魔法や手術なんてしている時間は数が多すぎて無いし、手首を燃やして回復させるしか、助ける方法がない」
「はははっ! 残念だったな、赤鳥。お前とは相性が悪いが、お前との主とは相性がいいみたいだ。ここはいったん引かせてもらうぜ!」
橙兎は逃げに徹しているのに勝ち誇ったような声で叫び、どんどん離れていく。
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