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実家に向かう
手を握る
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「銀馬、お前は見てるだけか? 今回もお前の自慢の翼をすべてむしり取ってやるから降りて来いよ。お前とならやり合えるぜ~!」
「ちっ……、面倒な糞野郎だ……」
ペガサスさんも手が出せないのか、銀翼をはためかせるだけで空から降りてこない。
僕は橙兎の討伐を諦め、瀕死の街の人びとを回復させていく。少しでも多くの命を助けないと。僕にしかできない行為なんだ。
僕は手首の動脈を噛みちぎられた者達を助けていく。手首に触れて燃やし、別の人も燃やす。血は増えないが、傷だけでも治せれば、死にはしない。
ざっと四〇〇人くらい治療したあと橙兎はいなくなり、地面の中に消えていった。
「逃げられましたね……。さすがの逃げ足……。これ以上追うと危険です」
「そうだね。でも逃げられてばかりだ……。僕が情けを掛けているからかな。でも、相手は子供だ。人を何人も殺しているかもしれないけど、中身は子供。情けをかけないと」
「子供だとしても私の生きていた時では情けを受けませんでしたよ。罪を働いた方が悪い。そう言う時代でしたからね」
「ほんと、血塗られてるよ。危険すぎて目も当てられない」
僕は傷つけられた人を助けただけで、それ以外は何もできず、結婚式会場にもどってきた。
陽気な音楽と、歌、式は未だに盛上っている。少し先の地域で大量の殺人事件が起きそうになっていたというのに、お気楽なこった。何とも、力不足を感じる。
僕の心が弱いのだろうか。ただただ、情けない心を持っているだけか。そんな、気持ちを抱えたまま、戻るとルパとミアが飛びついてきた。僕が死ぬかもしれないと思っていた二名にとっては僕の帰還が何よりも安心できたのだろう。
「二人共、離れて。そんなにくっ付かれたら苦しいよ」
「うぅぅ、ニクスが無事でよかった……。ずっと願ってたんだから。こんな気持ちにさせるなんてほんと最悪」
ルパは僕に抱き着きながら尻尾を振り、怒るように呟く。発言と尻尾の動きはいつもながら一致せず、僕の頬を舐めまくってくる。
「やっぱり、ニクスさんと離れ離れになると思うと、涙が止まりませんでした……。死んでないとわかったら、涙が出てきてまだ止まりません」
ミアも僕に抱き着いてきて頬を舐めてくる。
「二人共、心配させてごめん。今回は少し戦いにくい相手だったんだ。相手もだけど、僕との相性が最悪で、やむなく逃がしてしまった。他の街で悲劇が起きないよう、願うしかない」
「なにがあったか知らないけど、ニクスが死んだら私も死ぬ……。そう言ってるよね。絶対だから……、絶対の絶対……」
ルパは泣きながら言う。昔は人を殺してから死ぬとか言っていたのに、今では僕が死んだら死ぬというようになった。それだけ懐いてくれたというのもあるが、また別の感情も生まれているのだろう。
僕がいないと自分は生きていけないかもしれないという恐怖だ。恐怖は長い間、心の中に住み着く。ミアがいい例だろう。七歳のころから身を売り、性奴隷として働いてきた彼女の心は薄汚れた者達によって同じように汚れてしまった。
治すためには綺麗な心を持つ者と一緒に生活し、少しずつ解毒していく必要がある。ただ、ルパの場合は恐怖の対象が死なのだ。死以上の恐怖はない。だからこそ、彼女は僕の死を必要以上に恐れている。人はいずれ死ぬのだから、そこまでおびえる必要はないと言いたいが、今のルパに言っても聞いてくれないだろう。
だから、僕は頬擦りをして安心感を与える。
ルパは僕に頬擦りされて少し微笑み、頬擦りを返してくる。ギュッと抱きしめて更なる安心感を与えたあと、二名を立ち上がらせた。そのまま手の平を握り合わせ、反対の手を僕が握る。
「僕たちは仲間だ。だから、繋がっている。たとえ僕が離れたとしても、ルパとミアは繋がっている。しっかりと握り合っていれば離れることはない。だから、一人になることはない」
「ニクス、何を言ってるの……」
「気持ちの静め方、考え方、その他諸々含めて安心できるようになるにはどうしたらいいか教えてるんだよ。手を放したら一人だけになってしまう。でも、僕やミアの手を握れば一人じゃない。なんなら、剣を持ってもいい。鉛筆を持ってもいい。自分が大切に出来る限界は腕二本が限界だ。だから、握っている二つを大切にすればいい。たとえ僕が手を放しても、別のなにかを握ればいい。そうすれば、心は穏やかになる」
「ニクスの手、放したくない……。繋いでいたいよ」
「生き物はいずれ死ぬ。ずっと握り合っていることは出来ないんだ。それはわかってほしい」
「うぅ……。わかるけど……、わかりたくない」
「ルパは死を知るのが早すぎた。だから、子供のころに感じた恐怖はずっと残る。きっと心がズタズタで今にも泣きたい気持ちで一杯のはずだ。でも、生き物は必ず死んでしまう。死ぬことは悪いことじゃない。自然の摂理だ。生き物は命が費えるからこそ、燃やして努力する。ルパ、僕はこれから何度もルパの手を放す。不安で仕方なくなると思うけど、一番近くに大切な仲間がいる。泣きたいときは泣いて叫んで抱きしめ、美味しい肉を食べればいい。また僕がルパの手を握ったら、あ、生きて帰って来たんだくらいの間隔で濁してくれればいい。すごく難しいと思うけど、恐怖から少し解放されるはずだよ」
「ニクス……、生きて帰って来たんだ……。へぇ~、やるじゃん……」
ルパは毒舌を吐く時のように、呟いた。その後、僕の手を握る。
「うん。生きて帰って来た。心配かけてごめんね」
「ほんと……、心配したんだから……」
ルパは僕の手を握りしめ、手の甲に頬ずりする。涙で湿った肌が少し熱い。
「ミア、出来ればルパの心が治るまで、仲間でいてあげてほしい。そうあることで、ミアの心も治っていくと思う」
「わかりました。私はルパちゃんの仲間であり、友達ですから、この手は放しません。ニクスさんの手も簡単には放しませんから」
ミアは僕の手をぎゅっと握り、涙目になりながら答える。
「ちっ……、面倒な糞野郎だ……」
ペガサスさんも手が出せないのか、銀翼をはためかせるだけで空から降りてこない。
僕は橙兎の討伐を諦め、瀕死の街の人びとを回復させていく。少しでも多くの命を助けないと。僕にしかできない行為なんだ。
僕は手首の動脈を噛みちぎられた者達を助けていく。手首に触れて燃やし、別の人も燃やす。血は増えないが、傷だけでも治せれば、死にはしない。
ざっと四〇〇人くらい治療したあと橙兎はいなくなり、地面の中に消えていった。
「逃げられましたね……。さすがの逃げ足……。これ以上追うと危険です」
「そうだね。でも逃げられてばかりだ……。僕が情けを掛けているからかな。でも、相手は子供だ。人を何人も殺しているかもしれないけど、中身は子供。情けをかけないと」
「子供だとしても私の生きていた時では情けを受けませんでしたよ。罪を働いた方が悪い。そう言う時代でしたからね」
「ほんと、血塗られてるよ。危険すぎて目も当てられない」
僕は傷つけられた人を助けただけで、それ以外は何もできず、結婚式会場にもどってきた。
陽気な音楽と、歌、式は未だに盛上っている。少し先の地域で大量の殺人事件が起きそうになっていたというのに、お気楽なこった。何とも、力不足を感じる。
僕の心が弱いのだろうか。ただただ、情けない心を持っているだけか。そんな、気持ちを抱えたまま、戻るとルパとミアが飛びついてきた。僕が死ぬかもしれないと思っていた二名にとっては僕の帰還が何よりも安心できたのだろう。
「二人共、離れて。そんなにくっ付かれたら苦しいよ」
「うぅぅ、ニクスが無事でよかった……。ずっと願ってたんだから。こんな気持ちにさせるなんてほんと最悪」
ルパは僕に抱き着きながら尻尾を振り、怒るように呟く。発言と尻尾の動きはいつもながら一致せず、僕の頬を舐めまくってくる。
「やっぱり、ニクスさんと離れ離れになると思うと、涙が止まりませんでした……。死んでないとわかったら、涙が出てきてまだ止まりません」
ミアも僕に抱き着いてきて頬を舐めてくる。
「二人共、心配させてごめん。今回は少し戦いにくい相手だったんだ。相手もだけど、僕との相性が最悪で、やむなく逃がしてしまった。他の街で悲劇が起きないよう、願うしかない」
「なにがあったか知らないけど、ニクスが死んだら私も死ぬ……。そう言ってるよね。絶対だから……、絶対の絶対……」
ルパは泣きながら言う。昔は人を殺してから死ぬとか言っていたのに、今では僕が死んだら死ぬというようになった。それだけ懐いてくれたというのもあるが、また別の感情も生まれているのだろう。
僕がいないと自分は生きていけないかもしれないという恐怖だ。恐怖は長い間、心の中に住み着く。ミアがいい例だろう。七歳のころから身を売り、性奴隷として働いてきた彼女の心は薄汚れた者達によって同じように汚れてしまった。
治すためには綺麗な心を持つ者と一緒に生活し、少しずつ解毒していく必要がある。ただ、ルパの場合は恐怖の対象が死なのだ。死以上の恐怖はない。だからこそ、彼女は僕の死を必要以上に恐れている。人はいずれ死ぬのだから、そこまでおびえる必要はないと言いたいが、今のルパに言っても聞いてくれないだろう。
だから、僕は頬擦りをして安心感を与える。
ルパは僕に頬擦りされて少し微笑み、頬擦りを返してくる。ギュッと抱きしめて更なる安心感を与えたあと、二名を立ち上がらせた。そのまま手の平を握り合わせ、反対の手を僕が握る。
「僕たちは仲間だ。だから、繋がっている。たとえ僕が離れたとしても、ルパとミアは繋がっている。しっかりと握り合っていれば離れることはない。だから、一人になることはない」
「ニクス、何を言ってるの……」
「気持ちの静め方、考え方、その他諸々含めて安心できるようになるにはどうしたらいいか教えてるんだよ。手を放したら一人だけになってしまう。でも、僕やミアの手を握れば一人じゃない。なんなら、剣を持ってもいい。鉛筆を持ってもいい。自分が大切に出来る限界は腕二本が限界だ。だから、握っている二つを大切にすればいい。たとえ僕が手を放しても、別のなにかを握ればいい。そうすれば、心は穏やかになる」
「ニクスの手、放したくない……。繋いでいたいよ」
「生き物はいずれ死ぬ。ずっと握り合っていることは出来ないんだ。それはわかってほしい」
「うぅ……。わかるけど……、わかりたくない」
「ルパは死を知るのが早すぎた。だから、子供のころに感じた恐怖はずっと残る。きっと心がズタズタで今にも泣きたい気持ちで一杯のはずだ。でも、生き物は必ず死んでしまう。死ぬことは悪いことじゃない。自然の摂理だ。生き物は命が費えるからこそ、燃やして努力する。ルパ、僕はこれから何度もルパの手を放す。不安で仕方なくなると思うけど、一番近くに大切な仲間がいる。泣きたいときは泣いて叫んで抱きしめ、美味しい肉を食べればいい。また僕がルパの手を握ったら、あ、生きて帰って来たんだくらいの間隔で濁してくれればいい。すごく難しいと思うけど、恐怖から少し解放されるはずだよ」
「ニクス……、生きて帰って来たんだ……。へぇ~、やるじゃん……」
ルパは毒舌を吐く時のように、呟いた。その後、僕の手を握る。
「うん。生きて帰って来た。心配かけてごめんね」
「ほんと……、心配したんだから……」
ルパは僕の手を握りしめ、手の甲に頬ずりする。涙で湿った肌が少し熱い。
「ミア、出来ればルパの心が治るまで、仲間でいてあげてほしい。そうあることで、ミアの心も治っていくと思う」
「わかりました。私はルパちゃんの仲間であり、友達ですから、この手は放しません。ニクスさんの手も簡単には放しませんから」
ミアは僕の手をぎゅっと握り、涙目になりながら答える。
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