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第一章 三度の転生

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俺は奴隷である。
名前を知りたい奴はいないだろう。

国軍の野営地で荷物持ちとしてこき使われている。
年はたぶん十八。
後方にいる物資輸送隊から、前衛の傭兵たちへと、荷物を運ぶ。
毎日、毎日、その往復だ。
 
食事は毎日硬いパン。子どもの拳サイズの半分に水っぽいスープ。くず野菜の切れ端と魚の骨が浮いている。
足がついている、死んでもいい棒のような扱いであり、給金はない。食べ物が食べれるだけましだろうという扱いだ。
骨と皮になって打ち捨てられた奴隷仲間もいる。

俺も同じようなものだ。死んでもいい歩く物体。ロバ程度の存在だ。 




ここは国境。
この国と隣の国が戦っているらしい。
俺はその戦いの荷物運びとして孤児院で二束三文で買われてここにいる。

孤児院だって善意で運営されているわけじゃあない。
娼婦が産んだ子どもや口減らしで捨てられた子どもの捨て場所である。
最終的に孤児は売り物だ。

女は娼婦。
男は奴隷。

孤児が娼婦になり、子どもを産んでまた孤児を増やす。
見事な再生産の仕組みだろう。
 
昨今は孤児が増えているので、それ相応の年になると、追い出される。
腕っぷしが良い奴がいれば、息巻いて傭兵になるが、大半は死んでいる、らしい。
運が良くて生き残っても、腕を無くし、足を無くした物乞いになるのが関の山で、そのまま路地裏で野良犬やハエの餌となる。
一年前に孤児院を出てった男がそんな末路だったってだけの話だ。

国境付近で戦争があるってことは、そんなものだ。

俺は腕っぷしはなく、ちょっとばかし人より計算や読み書きがなぜか得意ってだけのやつだ。なぜか産まれた時からそういうことだけは吸収しやすかった。
そんなことができたって、孤児や奴隷に仕事をよこすような奇特なご主人様はいないというのにさ。
所詮、俺はみんなと同じ、荷物持ち。
奴隷管理の傭兵や騎士達に、目をつけられないようにこそこそ生きるだけなんだ。

指揮系統がある野営地付近は綺麗に整えられているが、その他の地域はろくなもんじゃない。

二週間前から陣取って、動きはない。
隣国に使者を送り、停戦協定を結ぼうとしているらしい。
 
この国はもう死んでいる。
 
傭兵たちも将軍たちも、白旗をあげることを知っているからか、どこか気が抜けている。

稼ぎ時だと、娼婦の出入りも激しく、昼間っから、隠しもせずにお盛んな光景がそこここで見られる。

奴隷ロバには関係のない世界だ。

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