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第一章 三度の転生

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生まれ変わった俺は平民だった。

東のある島国に産まれた。
名前は如月 悠真きさらぎ ゆうまと言う。

神の思し召しなのか、前世の記憶を持って産まれた。
育つうちに前世の記憶を持って産まれる子どもはいないと知り、だれにも言わないことを決意した。

ここは豊かな国で、飢えることもなく、優しい両親は教育熱心だった。
経験を積ませたいと、色々な場所に連れて行ってくれた。
記念日があれば写真を撮り、成長の節目ごとに祝い、誕生日には毎年ご馳走を用意し祝い、プレゼントまでくれる。

前世で孤児だった時は一日一食は当たり前。
パンは硬く、スープには味も具もない。

それらに比べたら、ここは天国としか形容できない。
両親が与えてくれる暮らしは、理想を越えた理想だ。

六歳で保育園を卒業する時に、先生に言われ、両親への手紙を書いた。
つたない文字で、日々の感謝を書き、卒業式で読んで手渡すと、両親は号泣。
その手紙は、彼らが死ぬまで額縁に飾り、家に飾っていたほどだった。

学校に行くようになる。
前世同様、記憶力が良く、読み書き計算をすぐに覚える俺を神童だと素直に喜ぶ両親。
あまりの喜びように、気恥ずかしくなるぐらいだった。
前世では親という存在を知らずに育った俺は、親とはこんなにすばらしいものなのかと感動さえ覚えた。

十代になると、勉強も難しくなる。
そこで俺は世界史を選択した。

歴史を学ぶ中で、俺は前世の最期に見た仮面を教科書に付属した資料で発見した。

それは、魔導士オーウェンの仮面として、現在も異国の帝国美術館で飾られているという。

俺は、前世の俺に死を与えた魔導士オーウェンについて調べ始めた。




魔導士オーウェンは、スピア国という小国の魔導士だった。
才能を見出され、伯爵家の養子に入り魔導士となる。

伯爵家の者とされているが、幼少期の記録がないため、本来の出自は不明。高い魔力を見出されて養子になったとされて以降の記録しかない。
古い歴史のため、その辺はあいまいだ。

スピア国と周辺諸国は対立していた。
当時は、領土や資源の取り合いをしていたので、色々な国が交戦状態だった。

スピア国は周辺諸国と、資源、奴隷売買、領土、などという問題で対立していた。

ある山脈を分かち合う国とは、鉱物資源の取り分で対立。
国家間で子どもを誘拐する一団をあぶりだせば、それも隣国とつながりがあると判明し対立。
森林地帯の国境線をどこに引くかと対立。
あの時代は話し合いと言うものがなかったのかと思うほど対立しては戦争ばかりしていたようだ。


恐らく、俺もそんな時代を生きた孤児だったのだ。
親のいない子が増え、飢える者が後を絶たないわけである。
前世では政治や歴史なんて学ぶ機会が無かったから、気づかなった。


魔導士オーウェンが今も歴に名を残しているのは、彼がいることで、スピア国が周辺諸国を制圧していくことになるからだ。

圧倒的な魔力量を備えた彼は、今までの魔導士の既成概念を打ち砕くような、一騎当千の働きを見せる。

特に初陣を飾る隣国の軍をせん滅させたことは有名である。

彼があらわれて二年で周辺諸国はスピア国に征服された。
実に面白いことに、征服されたどの国もスピア国を歓迎したことだ。

最初に統一された国の扱いが良かったのだ
王侯貴族を根絶やしにしても、人々には一切手を出さない。
国庫を開き、新たな領主を立てて、疲れ果て荒んだ国土を復興することから始めたと言われている。

権力者には責任をとらせても、人々を手厚く保護する姿勢が、統一を促進した。

そんな当時の君主は今も健君として名高い。
名君名高い王の名はマーギラ・スピア。もっと長い名前らしいが、今は一般的にそう呼ばれている。

魔導士オーウェンは戦火の歴史の終焉とともに名が消える。
あまりに強すぎたため、毒殺されたと言われている。

定説では毒殺したのは彼の妻、戦火の報奨として叙勲を受ける際に妻としてむかえた公爵令嬢ゾーラ・エネルと言われている。

残された絶世の美女と名高いゾーラ名君の本妻になった。
この王妃は、政務に明るい有能な名君の補佐として有名だ。

しかし、名君はよく夫を殺した過去を持つ者を本妻にしたものだ。
普通なら、怖ろしくて妻になど出来ないはずだろう。

だから歴史の俗説では、魔導士オーウェンを殺した黒幕は名君自身だと言われている。


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