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第三章 裏の儀式

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王家の夜会が終わった数日後、俺たちのもとにエネル公爵家から招待状が届く。
十日後に公爵家の郊外にある別邸へ招集がかかった。

手紙には内容はなく、日付だけが記された。
それだけで意味は通じる。

そこで、国の代表者を決するのだ。
執務用の机に座るレイフが手紙を物珍し気に弄ぶ。

「父からは好きなようにしろと言われているが、どうしたものかな」

度胸が据わっているのか、レイフは俺が負ければ、身体の一部を差し出さねばいけないというのにのんきな話しぶりだ。

「緊張しませんか」
「しないよ。オーウェンを信頼しているからね」

肝が据わっている。
俺が知っていることをなんでも教え込んでいるとはいえ、彼の成長ぶりは目を見張るものがある。

「一つお願いがあります」
「なんだい、オーウェン。改まって」
「数日、人気のない森へ出かけてもよろしいでしょうか」
「んっ? それはかまわないが、一週間以内に戻ってこれるかな。手紙に記された場所には、ここを二日前には出ないといけない」
「もちろん。戻ってきます」
「なら、許そう」

レイフは笑顔で俺を送り出してくれた。




俺は馬を駆り、一日がかりで人気のない森へといそぐ。

この時代の魔導士が扱う魔法はまだまだ初期の技術しかない。
先達も少なく、教本を読み、学ぶのが主体。

伯爵家だから引退した魔導士を抱えており、彼が俺たちの教師であったものの、表の職業は伯爵専属の祐筆であった。魔導士は、世に知られていない職業だった。

伯爵の話から推測すると、二十四家が婚姻をすすめるなかで、突然変異的に魔力保有者が産まれ、受け継がれていったのであろう。

特殊な能力ゆえに、二十四家で囲い、歴史の表舞台や市民には伏せられ、おそらく国を治める者たちにも秘密裏にされていたのだ。
魔導士オーウェン以前の魔導士が名を残していないのは、母数が少ないだけでなく、時の権力者たちが隠したためだろう。

魔力や魔法の技術が貴族の間で共有され、より強い魔力を持つ、またはより強い魔導士を保有することがステータスになっていくのはスピア国の歴史でも中期以降である。

おそらく平和になり、魔力を保有する者が子孫を残す数が多くなり、貴族との婚姻関係が増えていったのかもしれない。
マーギラ・スピアにしても、子だくさんと言うことで知られている。複数の妻に十数人の子どもがいたはずだ。
平和な治世で、食料も安定して供給できるようになり、人口も増えていった時代でもある。






森に到着した俺は、魔法の鍛錬を始める。

初期の魔法とは、小さな炎の玉を出したり、水を手から湿らせたり、腕を払い風を起こすという、とても単純で分かりやすい技術が多い。

未来では小学生レベルと言っていい技術だ。

俺は幸い、未来の技術を知っている。
未来では、もっと道具による補助を得て、大々的な魔力を発動させる技術もあった。
一時期は巨大化を目指した技術は、産業革命を経て、縮小傾向を強め、ミクロの世界へと足を踏み入れる。

技術は浸透し、近代の生活はオーウェンが生きている時代では考えられないほど発展した。

とはいえ、それまでにはたくさんの戦争があり、人々が死んでいったのだが。

スピア国も腐敗し、内部からクーデターがあり、巨大な火球によって首都が壊滅して滅んでいるのだ。
もしかしたら、それも、二十四家の掌の上のことだったのかもしれないが。

そんなわけで、俺はこれから先にどのように魔法が発展するか知っている。

補助道具をすべて作れるわけではないが、今の俺が扱う魔法こそ、世界の最先端であることには間違いはないだろう。


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