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第六章 救出劇

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薬物に溺れた傭兵は次の時代には用なしだ。
スピア国による安定した治世の強者は魔導と共にある。
未来において、スピア国が魔導国家と呼ばれる所以はそこにある。

砦を守っていた将はスピア国に亡命してきた。
首都を守るにあたって、優秀な人材はいたほうがいいと判断し受け入れる。
彼を厚遇し、今後の戦いでも指揮を執ってもらうことになった。兵たちの教育にも力をいれる。

続いて、レイフはスピア国内で流通させていた薬物の量を減らした。国内価格が高騰する。
三国の輸出量は変えなかった。
もともと薬物目当てで集まっていた傭兵たちが各国に霧散いていく。

スピア国内に残ったのは、自国で徴兵された兵ばかりになった。

武器を生産する地域を手に入れたことで、最新の武器はすべてスピア国に流れてくる。武器の扱いに慣れた手練れの将もいる。鍛えれば、彼の目にかなう軍が出来上がった。

スピア国内に最新の武器が行きわたる。
有能な兵たちがそろい、各地の守りを固める。

三国で流通するのは、型落ちの武器ばかりとなった。

世界から、最新の武器というおもちゃを取り上げたレイフは、次代の中心地であるスピア国の守りを固めつつ、三国にひそむ好戦的な人間をあぶり出す。
どうせ戦うことを好むなら、そこに意味をつけ、集め、双方で争わせることにした。

三国にひそむ二十四家が根回しし、火種が用意される。
仕事があるとなれば、傭兵はどこへでも行く。彼らはそこここで敵味方に分かれ、命を削りあう。

前前世で身体が欠損し、路上で死んでいく者を生み出す戦いが続く。

円卓を眺める分に血生臭さは微塵もない。
三国は互いに徐々に小競り合いを続け、徐々に力を削いでいく。

王家は戦争を行い、人々の暮らしを脅かす存在として憎まれ始める。

実際に動かしているのは二十四家であっても、その怨念を受け入れる生贄のように王家は人々の前に吊り下げられていた。

こうして、戦力を削ぎ落し、古い武器を一掃してく。
その間に、俺も時々、出兵した。

未来を知る俺は魔導を使えば、実のところ、空も飛べた。

魔導士オーウェンが空から舞い降りるなど、この時代の技術では成しえない。
この時代の魔導はまだそんなに発展していなかった。

しかし、前前世の俺は見た。
空から舞い降りる魔導士を。

その魔導士が誰なのか、認めたくはないが、分かりかけている。

あれは、俺だ。
現在、この時代、この世界で、空から降り立つことができる魔導士は俺しかいない。

おそらく……、いや、間違いなく、今、ここにいる俺が前前世の俺を殺したのだ。





その日は刻々と近づいいてきていた。

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