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第六章 救出劇

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いくつかの、スピア国とミデオ国との衝突を経て、ミデオ国の停戦を求める使者がスピア国にやってくる日取りが決まった。

魔導士の俺が手を下さずとも、じきにスピア国に統一されることは目に見えている。
とはいえ、早く統合するにこしたことはない。

俺とレイフは話し合い、見せしめに前線で待機している傭兵や兵だけでなく、指揮系統まで破滅させる算段を選んでいた。

俺のごり押しである。
歴史を鑑み、前前世の俺がいるのはそこだ。
俺はそこで殺されているはず。

この時代の俺をそこで殺さなければ、未来の人生はなく、はたまた俺がこうやってレイフの隣で魔導士として存在することもない。
前前世の俺が死ぬことは、俺の人生にとって必須条件だ。

下準備として、ミデオ国が自国に有意な条件を突きつけさせるようにもし向けた。
ゴードも、かつての仲間を見殺しにする道を選ぶ。ここで私情を挟めば、粛清されるのはゴード込みとなる。わが身可愛さで、仲間を売る。生き残る方を優先し、手のひらを返す様は鮮やかだ。

前世で学んだ歴史上でも停戦直前にスピア国の兵によりミデオ国の前線にいた傭兵から兵まで壊滅させられている。

これまでの経緯も含めて、表の世界は、俺が知る歴史年表通りに進んでいた。
ならばこれから起こることも、俺が知る歴史通りになる可能性が高いだろう。





では、俺は暗殺されるか?

答えは否だ。
俺は、最強の魔導士であり、気をつけていれば、殺される可能性が低い。

さらに、俺に野心はない。
レイフの意向を組み、彼の剣であり盾であり続けている。

さすれば、表の歴史が生み出される過程を参考にした俺の未来はきっと表舞台から消えるだけだろう。
だろう、ではない、必ず歴史の表舞台から消えてやるのだ。






飛んで火にいる夏の虫。

ミデオ国の使者がスピア国にやってくる。
その際に、レイフの元を離れた俺は国家魔導士として停戦の約束を交わす会場にいた。

ミデオ国から提示される停戦内容は戦争派によって骨抜きにさせている。戦争を求める者は、ゴードによってもたらされた甘い蜜の余韻を忘れられない者たちだ。
彼らは、どんな状況になろうとも、都合の良い情報だけを見て、ミデオ国の優位を信じている。

現状、四国の力関係は、すでにスピア国が最強となっているというのに、ミデオ国の使者はあからさまに自国に有意な停戦条件を突き付けてきた。





スピア国の面々は獲物が罠にかかったことを顔に出さずに認識する。

停戦の交渉に立つ公爵と王が目配せして、俺を呼ぶ。

会場のど真ん中に呼ばれた俺は、ミデオ国の使者に紹介された。

仮面を見た使者が、ぎょっとした顔になる。

「この者は、我が国初の国家魔導士オーウェン・マクガ氏である。
停戦の話し合いを始める前に、一つ面白い余興をお見せしよう」

ここは城の上階、地平線までよく見える。
窓辺から見える左端の彼方には、二国の国境線が見えた。



窓辺のバルコニーに立った俺は、屈伸し、跳躍した。
風に乗り、空を飛ぶ。


背後でミデオ国の使者が、腰を抜かしていたが、そんなことは知ったことではない。

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