経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

文字の大きさ
42 / 59
四章 ハクハ領の救出作戦

41話 信じる者は喰われる

しおりを挟む
 仲間同士の『経験値争奪戦』は、翌日も開催された。
 参加している騎士たちは、昨日よりも目に見えて減っていた。
 いや、これ、俺と絶対関係ない所で殺し合ってるだろと、不毛な殺し合いやめろよと言いたくはなるが、頂点に立つシンリがそれを望んでいるので、どうしようもない。
 俺にとっては人数が少ない方が有利だし。

 そんな訳で、本日も俺は殺気溢れる騎士ナイトたちとの鬼ごっこを行っていた。

「ま、鬼ごっこにもなってないけどな」

 このゲームが始まる前、昨夜の騎士が一枚の地図を俺に渡してくれたのだ。ここで待っていれば安全だと。
 しかし、その場所は城の中。

 本当に安全なのかと疑問に思うが、開始して一時間見つかっていないのだから、騎士たちの言う通りか。

 三人が俺に与えてくれたのは、騎士達に与えられている小さな一室。三人一部屋で暮らしているとのことだったが、正直、一人でも狭かった。

 ただ、二段のベッドが置かれているだけ。入って直ぐに圧迫するように両脇に並べられたベット。しかも二段目は天井スレスレ。頭を起こしただけでぶつかってしまう高さだ。
 そんな狭い部屋で騎士たちは夜を過ごしているのか。

 俺が客人として迎え入れられていると言うのは、あながち嘘ではないのかも知れない。

「ま、部屋の広さはともかく、確かにここに隠れるのはナイスな案だね」

 騎士たちは俺を追うために全員が外に出ているのだ。
昨日は城に近づくのは危険だと思っていたが、そうか、中途半端だったから駄目だったんだ。更に内部・・・・に潜り込めば見つかる危険性は下がる。

「昨日までは、どこに騎士たちの宿場があるなんて知らなかったからな、仕方ないけどな」

 俺がここに隠れている間、三人が他の騎士たちを誘導して城から追い出してくれると言っていた。
 あいつら、マジで俺を殺してレベルを上げたいんだな。
 まあ、こんな場所で毎日暮らしていたら、そりゃ、抜け出したいか。彼らの気持ちが少しだけ分かった。

「……すまない。待たせてしまったかな?」

 隠れてから凡そ一時間程度。
 思っていたよりも早い時間で三人組の一人――リーダー格の男がやってきた。
 いや、顔を鎧で隠しているので、もしかしたら違う人間かも知れないけど、俺にとってはどうでもいいことだ。
 この後、池井さんに会えるかが重要だ。

「いや、全然。俺も今来た所だよ?」

 待たせてしまったかと聞かれた俺は、反射的に答える。

「……最初からここに隠れていなかったのか?」

「まあ、隠れていたけど」

 俺は、「デートか!」みたいな反応を期待したのだけれど、どうやらこの世界には、お約束の展開はないのかも知れない。
 こんな時に異世界人が居ればなー。
 土通さんなら確実に反応してくれるはずだ。

「今来た所? あなたは、私と同じ時間にこの場所に来たと言うことなの? それは私に対する侮辱ね」 

 そう言って家に向かって引き返すはずだ。
 うむ。こう考えると、ミワさんもSっぽいけど、土通さんも中々だな。
 もっとも、ミワさんは女王様。土通さんは暴君といった感じだけれど。

 そんなことを思いながら、池井さんがいるであろう場所まで案内を受ける。
 なんと、リーダー格の男は、堂々と歩けるように鎧一式まで準備してくれていたようだ。感謝しかない。 まさか、こんな風に城内を歩けるとは。
 いやー、楽だ。

「もうすぐ、着きますよ」

 案内されたのは城の地下。
 階段を下りるたびに明るさは失われ、蝋燭の炎が俺達の影を怪しく揺らめかせる。
 こんな場所に、職場の天使を閉じ込めているのか。

 地下にもいくつか部屋があるようだ。
 左右に分かれた扉。なんだろうな……『部屋』というよりは、ドラマとかで見る刑務所に近い感じがする。
 暗い雰囲気が操作せるのだろうか?
 これ、扉じゃなくて鉄格子だったら、完全に犯罪者が閉じ込められてる場所だよね?

 いや、俺がそう感じるだけで、ハクハに取っては普通なのかも知れない。
 階段を下りて10個めの扉で足を止めた。

「ここにセンジュ様はいらっしゃいます」

「……」

「では、どうぞ」

 開かれた扉の中に入る。部屋の中に明かりはないのか。なにか灯りはないかと、俺は振り返って騎士に光を求めようとした時、

「がっ」と、両側から俺の腕を掴まれた。

「なっ、なんだ!?」

 この時の俺は恥ずかしながらも、池井さんの悪戯か? なんて思った。
 だが、直ぐに彼女はそんなことをしない。

 なら、俺を固定するのは一体誰だ?

 暗闇に目が慣れてくると、その答えが判明した。
 昨晩、俺を訪ねてきた騎士の内、残りの二人が俺を掴んでいた。
「作戦成功だな。これで、『経験値』は俺達のモノだ!」

 ああ、そういうことね。
 俺を確実に殺すために待ち伏せしていたわけだ。
 つまり――俺は騙されたのだ。

 リーダー格の男が、手にしていたランタンから、部屋に備え付けられていた蝋燭に比を移した。無様に掴まれた俺を見て彼らは笑う。

「こうなりゃ、異世界人だろうが、俺らでも流石に殺せるだろうぜ? 」

 ハクハ領の人間だろうと、俺達みたいな異世界人はやはり、警戒すべき相手のようだった。
 もしかしたら、『経験値が多い』という能力を勘違いして警戒してくれたのかも知れない。
 けど、

「……そうかよ。残念なことを教えると、こんな手の込んだことをしなくても、俺は殺せたと思うけどね」

 俺の力は経験値が多いことと量産されている事だけだ。
 殺されるためだけにある力は、戦いでは一切使えない。だから、こんな地下にまで俺を誘い出さなくても、騎士たちの宿場で俺を殺せばそれで良かったのだ。

「俺を殺すのは別に良いさ。最初からそのつもりだったし。けどさ、約束だった池井さんは何処にいるのかな?」

 俺の質問は彼らにとっては笑いのツボだったようだ。
 五月蠅いくらいに声を揃えて下品に笑う。

「はーっ。俺達みたいな下っ端が知ってる訳ないだろ! たまたま、あんたとユウラン様が会話してるのを聞いて、利用しようとしただけだ!」

 交代でのお世話もしていないし、どこにいるかはシンリと幹部の4人だけだと笑う。
 適当な言葉に俺は見事に引っ掛かったようだ。相談していたのも、本当に出来るかと仲間内で牽制しあっていたのも、全ては俺を騙すための演技。

 なんだ、異世界にも役者はいるのかよ。

 ……心理戦と頭脳戦は得意分野とか言っておきながら、ストレートで完敗した俺だった。
 流石、平凡な頭脳だけのようだった。

 オンラインゲームの成績は、異世界では役に立たないか。まあ、現実世界でも役に立たないもんね。

「ユウラン様は考え深いからな。未知の『武器』を生み出す力。それを勝手に俺達に使わたくないようだぜ?」

「信用されてないんだね。ま、そりゃ、こんな卑劣な手を使う人間は信用できないか」

「お前……!?」

 両側を掴んでいる騎士たちの力が強くなる。
 俺の身体が宙を浮いて壁に叩きつけらた。

「がっ……!?」

「余計なこと言ってんじゃねーよ」

「……余計なことじゃ……ない。本当のことだよ……」

 痛みで呼吸が辛いが、それでも俺は挑発を止めない。どうせ殺されるのが分かっているのだ。怒らせてさっさと殺して貰うべきだ。

「お前……。調子に乗るんじゃねぇよ!」

 俺の作戦通りにリーダー格の騎士が俺に剣を振り上げる。
 うん。
 最後の最後で狙い通りだ。
 心なし、一矢報いた気分で俺は目を閉じる。もう、ハクハの人間に頼るのは止めて、次は自分で池井さんを見つけ出そう。
 こんなハイペースで殺されたら、カナツさん達は俺を心配してくれるかな?

 だが、どれだけ死を待とうとも、俺が殺されることはなかった。

「こんな非道な戦い方……間違っています!」

 俺の前に一人の騎士がいた。正面から少女を見たことは無かったが、その声、口調は記憶に新しい。カズカに逆らった彼女だ。
 確か名をトウカと言ったか。三人の騎士と倍近く年の離れた彼女は、

「私が名の元に、あなた方を粛正します!」

 三人を相手に戦いを挑む少女。
 俺の一矢はどうやら外れてしまったようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...