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四章 ハクハ領の救出作戦
42話 靴飛ばし
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「粛清しますってさ、お前さ、自分が一番弱いって分かってるのかよ?」
「分かっています。しかし、だからと言って〈ハクハの信念〉を曲げることはできません!」
俺を掴んでいた二人の騎士のうち右側にいた一人が俺から手を放した。が、勿論解放されるわけはなく、残った一人が俺の両手を片手で掴み、残った手で剣を突きつけた。
二人が掛りで押さえつけられていたから、力は弱くなったのだけれど、痛みは大きくなった気がする。
「痛いって……」
身をよじって逃れようとするが、「ツッ」と剣は俺の首の皮を付いた。
小さな雫が首筋を流れる。
「動いたら殺す」
「……了解」
黙って指示に従う俺。
つーか、俺相手に拘束なんて要らないだろうって。それにさっさと殺せば押さえつける必要もない。
もしかしたら、三人で手を組んだからこそ、殺す順序や方法に拘っているのかも知れない。俺の経験値を手に入れられるのは殺した人間だけだからな。
だからこそ、俺を手元に置いておきたいわけか……。
それは分かった。
実際に彼らがどう考えているのかは、分からないが。だが、それでも今の俺にでも確実に分かることがある。
「俺が言える立場じゃないのは分かってるけどさ、少女相手に二人で戦う訳じゃないよな?」
いくらなんでも平等じゃないだろう?
「勝手にしゃべるな」
俺の言葉に首元の刃に込められた力は強くなるが、ここまで俺を連れ込んだリーダーらしい男が「辞めるんだ」と止めてくれた。
……セーフ。
しかし、少女を相手に二対一で戦うのが狡いと思っているのは俺だけだった。
騎士たちは、悪びれることなく笑う。
どうやら、剣が首を貫こうとしたのは勝手に声を発したからであり、挑発に乗ったわけじゃないようだった。
……騎士たちだけならまだよかった。
だが、昨日俺を助けてくれた少女――トウカまでもが、
「私は一向に構いません! こんな汚い人間に私が負ける筈ないですから!」
俺の常識ある発言を否定した。
あれ?
ひょっとして、この子、実はすごい強いのか? なら、余計な心配をして失礼だと思うのだが、俺の心配通りにトウカは弱いようだ。
自信満々に胸を張る少女に、楽しそうな笑いが苦笑に変わった。
「負けるはずないって、お前、レベル12だろ? しかも、騎士として戦場にも立ったことないお子様が、勝てる訳ないだろうが」
「……」
実は強いどころか戦場未経験者だった。
確かにトウカは幼いもんな。
ケインとユウランよりも、3歳ほど年下だろうか。ケイン達が中学生くらいだから――この子、小学生くらいか。
そう考えると戦いなんて本来参加しない方が正しい気はするが。
大体、こんな可憐な子が戦うだなんて……。
三つ編みを後ろで一つに編みこんで、背中に垂らしている。
そして大きな丸眼鏡に全く似合っていない鎧。
……なんか、鎧より学級委員長が似合うな。
そして、剣はペンより強いとかいいそう。
因みに、俺は剣《ぶき》より言葉《ペン》より強いのは食料だと思っている。
かの名言に合わせるとしたら、『剣とペンよりパンの方が強い』と言ったところか。
ま、俺の考えはどうでもいいな。
まずは、トウカに手を引かせなければならない。だって、レベル12なんでしょ?
「……ていうか、トウカちゃん、そんなレベル低かったの?」
「悪いですか?」
「悪くはないけどさ」
昨日の振る舞いから、結構、幹部に近いレベルを持っているのかと思ったけど、それどころかハクハの騎士の中で一番レベルが低いようだった。
「でも、それでよくカズカの前に立ったよね……」
「私はレベル差で意見を変えるほど、弱くありませんから」
うわー。
この少女滅茶苦茶格好いいー。
恰好いいけど、戦場にも出たことないなら、レベルだけでなくて技術値も溜まっていないのではないんじゃないか?
この世界で強さを決める三つの内、二つの値が低いのであれば、考えるのは残った一つ――個人値が高いと言う訳か。
やっぱり、天に与えられた才能には勝てないのか。
ん……?
でも、待てよ? そんな才能ある筈なら、そもそもこんな口論にはならないのではないか?
トウカがこの部屋に来た時点で三人の騎士たちは逃げ出しそうなものである。
トウカが強いのか弱いのか。
俺には分からないが、少なくともトウカ本人は勝つ気でいるらしい。
自身に充ち溢れんばかりの表情で武器を構えた。
引くつもりはないというトウカの意思に騎士たちも応じる。
「なら、殺されても文句はないよなぁ? この遊びは殺し合いなんだからよぉ!」
騎士たちが、左右から同時に襲い掛かる。
本当に大丈夫なんだろうな?
このまま、殺されちゃいましたなんて辞めてくれよ?
こうなりゃ、俺もヤケクソで攻撃するしかねぇ!
首に手を回されているために、上半身の融通は効かないが、下半身は割と自由に動く。
ならば――、
「えい!」
俺は履いていた靴をトウカに斬りかかる二人の騎士に蹴り上げた。
量産されている俺の服装は、この世界に来た時の状態。
つまり、キャンプをしていた時のまま。
靴に『T』のロゴが入った靴が、俺の狙い通りに騎士たちの顔にぶつかる。兜の隙間から見える僅かな視界を、一瞬でも塞げば――隙は出来るだろう?
ましてや、この世界にスニーカーなんてない。しかも、兵士たちはレベルで力が上がる故に、常に鎧を身に着けているのだ。
だから、尚更、履物なんて飛ばさないだろ?
奇を衒っただけの悪あがき。
成功すればラッキーくらいの感覚だった。
しかし、その効果は俺が思っている以上に大きかった。
靴が顔に当たった二人が、焦ったように剣を振るう。狙いを定めずに放った剣は、トウカではなく、その頭上で、互いの剣がぶつかりあった。
小気味のいい金属音と共に、騎士たちはバランスを壊して転んだ。
「おお、マジか……」
想定以上の効果に、俺が感嘆の声を漏らす。
そして、それは俺を捕らえている騎士も同じで、呆気に取られているようだ。トウカが無傷でいるにも関わらずにだ。
トウカは男の腕を斬りつけて剣を落とさせた。
そして、そのまま俺の腕を掴んで、
「では、逃げますよ!」
走り出す。
少女の小さな手が俺を引く。
「……こんな小さな手で戦っているのか」
少女の掌はとても小さく、俺での握りつぶせそうなほど柔らかかった。
「分かっています。しかし、だからと言って〈ハクハの信念〉を曲げることはできません!」
俺を掴んでいた二人の騎士のうち右側にいた一人が俺から手を放した。が、勿論解放されるわけはなく、残った一人が俺の両手を片手で掴み、残った手で剣を突きつけた。
二人が掛りで押さえつけられていたから、力は弱くなったのだけれど、痛みは大きくなった気がする。
「痛いって……」
身をよじって逃れようとするが、「ツッ」と剣は俺の首の皮を付いた。
小さな雫が首筋を流れる。
「動いたら殺す」
「……了解」
黙って指示に従う俺。
つーか、俺相手に拘束なんて要らないだろうって。それにさっさと殺せば押さえつける必要もない。
もしかしたら、三人で手を組んだからこそ、殺す順序や方法に拘っているのかも知れない。俺の経験値を手に入れられるのは殺した人間だけだからな。
だからこそ、俺を手元に置いておきたいわけか……。
それは分かった。
実際に彼らがどう考えているのかは、分からないが。だが、それでも今の俺にでも確実に分かることがある。
「俺が言える立場じゃないのは分かってるけどさ、少女相手に二人で戦う訳じゃないよな?」
いくらなんでも平等じゃないだろう?
「勝手にしゃべるな」
俺の言葉に首元の刃に込められた力は強くなるが、ここまで俺を連れ込んだリーダーらしい男が「辞めるんだ」と止めてくれた。
……セーフ。
しかし、少女を相手に二対一で戦うのが狡いと思っているのは俺だけだった。
騎士たちは、悪びれることなく笑う。
どうやら、剣が首を貫こうとしたのは勝手に声を発したからであり、挑発に乗ったわけじゃないようだった。
……騎士たちだけならまだよかった。
だが、昨日俺を助けてくれた少女――トウカまでもが、
「私は一向に構いません! こんな汚い人間に私が負ける筈ないですから!」
俺の常識ある発言を否定した。
あれ?
ひょっとして、この子、実はすごい強いのか? なら、余計な心配をして失礼だと思うのだが、俺の心配通りにトウカは弱いようだ。
自信満々に胸を張る少女に、楽しそうな笑いが苦笑に変わった。
「負けるはずないって、お前、レベル12だろ? しかも、騎士として戦場にも立ったことないお子様が、勝てる訳ないだろうが」
「……」
実は強いどころか戦場未経験者だった。
確かにトウカは幼いもんな。
ケインとユウランよりも、3歳ほど年下だろうか。ケイン達が中学生くらいだから――この子、小学生くらいか。
そう考えると戦いなんて本来参加しない方が正しい気はするが。
大体、こんな可憐な子が戦うだなんて……。
三つ編みを後ろで一つに編みこんで、背中に垂らしている。
そして大きな丸眼鏡に全く似合っていない鎧。
……なんか、鎧より学級委員長が似合うな。
そして、剣はペンより強いとかいいそう。
因みに、俺は剣《ぶき》より言葉《ペン》より強いのは食料だと思っている。
かの名言に合わせるとしたら、『剣とペンよりパンの方が強い』と言ったところか。
ま、俺の考えはどうでもいいな。
まずは、トウカに手を引かせなければならない。だって、レベル12なんでしょ?
「……ていうか、トウカちゃん、そんなレベル低かったの?」
「悪いですか?」
「悪くはないけどさ」
昨日の振る舞いから、結構、幹部に近いレベルを持っているのかと思ったけど、それどころかハクハの騎士の中で一番レベルが低いようだった。
「でも、それでよくカズカの前に立ったよね……」
「私はレベル差で意見を変えるほど、弱くありませんから」
うわー。
この少女滅茶苦茶格好いいー。
恰好いいけど、戦場にも出たことないなら、レベルだけでなくて技術値も溜まっていないのではないんじゃないか?
この世界で強さを決める三つの内、二つの値が低いのであれば、考えるのは残った一つ――個人値が高いと言う訳か。
やっぱり、天に与えられた才能には勝てないのか。
ん……?
でも、待てよ? そんな才能ある筈なら、そもそもこんな口論にはならないのではないか?
トウカがこの部屋に来た時点で三人の騎士たちは逃げ出しそうなものである。
トウカが強いのか弱いのか。
俺には分からないが、少なくともトウカ本人は勝つ気でいるらしい。
自身に充ち溢れんばかりの表情で武器を構えた。
引くつもりはないというトウカの意思に騎士たちも応じる。
「なら、殺されても文句はないよなぁ? この遊びは殺し合いなんだからよぉ!」
騎士たちが、左右から同時に襲い掛かる。
本当に大丈夫なんだろうな?
このまま、殺されちゃいましたなんて辞めてくれよ?
こうなりゃ、俺もヤケクソで攻撃するしかねぇ!
首に手を回されているために、上半身の融通は効かないが、下半身は割と自由に動く。
ならば――、
「えい!」
俺は履いていた靴をトウカに斬りかかる二人の騎士に蹴り上げた。
量産されている俺の服装は、この世界に来た時の状態。
つまり、キャンプをしていた時のまま。
靴に『T』のロゴが入った靴が、俺の狙い通りに騎士たちの顔にぶつかる。兜の隙間から見える僅かな視界を、一瞬でも塞げば――隙は出来るだろう?
ましてや、この世界にスニーカーなんてない。しかも、兵士たちはレベルで力が上がる故に、常に鎧を身に着けているのだ。
だから、尚更、履物なんて飛ばさないだろ?
奇を衒っただけの悪あがき。
成功すればラッキーくらいの感覚だった。
しかし、その効果は俺が思っている以上に大きかった。
靴が顔に当たった二人が、焦ったように剣を振るう。狙いを定めずに放った剣は、トウカではなく、その頭上で、互いの剣がぶつかりあった。
小気味のいい金属音と共に、騎士たちはバランスを壊して転んだ。
「おお、マジか……」
想定以上の効果に、俺が感嘆の声を漏らす。
そして、それは俺を捕らえている騎士も同じで、呆気に取られているようだ。トウカが無傷でいるにも関わらずにだ。
トウカは男の腕を斬りつけて剣を落とさせた。
そして、そのまま俺の腕を掴んで、
「では、逃げますよ!」
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