経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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四章 ハクハ領の救出作戦

43話 少女は歩く攻略サイト

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「え、ああ、あ、ちょっと!」

十代の少女に手を引かれて部屋を飛び出した。……いや、だから、少女だろうと、レベルが10だろうと、陸上選手並みの速度。
俺みたいな運動が苦手な奴は付いていけない。

「なんですか……?」

「そのさ、速度を少し落として貰ってもいいかな?」

「……? そんな速く走ってもないですけど?」

「それでも、俺は付いていけないんだって」

「まあ、そういうなら……」

 トウカが俺に合わせてくれた。
 よかった。
 あのまま走ったら転ぶところだった。そしたら、折角逃げた意味がなくなってしまう。

 城に立つ石柱を縫って外に向かった。城の内部に騎士は残っていた。だが、俺を騙した三人に与えられた鎧のお陰で、俺だと気付く者はいないようだった。

 鎧を手に入れられただけでも、騙された価値はあるということか。これがあれば、城の中を自由に歩き回れそうだしな。
 今後とも、この鎧は準備していた方がいいかも知れない。ただなー。殺されちゃったら入手できないし……。
 ま、その辺は後で考えるか。

 城の外に出てしまうと、直ぐにどこか分からなくなる。
城は崖の頂きにあるから、城までは迷うことはないのだろうけれど、はっきり言って、それ以外の区別が城下街では付かないのだ。
 どの建物も同じに見える。
 オレンジの屋根の石煉瓦作り。
 恐ろしいほどに統一されていた。

 そんな街並みをトウカは迷わずに下っていく。城下街なのだから、そこには当然、人々が暮らしていた。

「……」

 彼らの顔を見て俺は少しだけ不思議に思う。
 なんだろうな。
 城の中にいる騎士たちしか見てこなかったからか(ハクハに初めて来たときは緊張して周りを見る余裕なんてなかったし、前回は真夜中だ)、ハクハで暮らす人々の穏やかな顔が意外に感じたのかも知れない。

 少なくとも、仲間通しで殺し合いをしているような顔ではないな。

「取り敢えず、ここまで来れば大丈夫でしょう……」

 そんな領人たちとすれ違い、トウカが足を止めたのは一見の家。
 隣接する建物と区別は出来ないのだけれど、どうやら、目的地に着いたようだった。

「ここは……?」

「私の家です。普段は城で暮らしているので、使ってはいませんが……。中に入れば休むくらいはできると思いますよ」

「そうなんだ……」

 と、頷きつつも俺は、周囲に人がいないか、中から物音が聞こえないか気配を探る。流石にあんな目に合った以上、警戒しないほど俺は間抜けではない。
 一日で二度も騙されるのは間抜けすぎる。俺は騙された人間よりも人を難百回も信じる人間の方が好きだけれど、自分が騙されたいとは思わなかった。

 壁に耳を当て、窓から中を探る。
 明らかに不審がる俺を無視してトウカは家に入っていた。
 人の気配もない。信じても問題はないだろう。

 それに、俺はトウカに二度も助けて貰ったわけだし。
 むしろ、信じない方が失礼か。俺は覚悟を決めて中に入った。

 日頃、この家で生活していないと言うのは本当なようで若干埃臭い。
 テーブルやイスもあるが、長年動かしていないのが、積もった埃で分かる。トウカはテーブルと椅子を布で簡単に拭うと俺に座ることを進めてきた。
 ……気遣いのできる少女である。

 トウカの優しさに甘え、俺は腰を下ろした。

「ふぅ……」

 そう言えば、今日もまた、夜まで逃げ切らなければいけないのだろうか?
 昨日はそのルールを告げられていたけど、今日も引き続き効果があるのかどうか。
って、いや、まあ、普通に考えればあるか。
 じゃなきゃ、騎士の殺し合いは行われない訳だし。

 となると、夜まではここで待たせて貰おうかな。
 机に突っ伏して疲れを取る俺に、

「そんなことより、さっきのは一体、何の真似ですか?」

 トウカが聞いてきた。

「さっきの?」

 俺、なにかしたっけか?
 もしかして、家に入るときに、疑ったことを怒っているのか? だとしたら、それは謝らなければならないな。
 俺は姿勢を正してトウカに頭を下げた。

「疑って悪かった。でも、既に一度、似たような手口で嵌められたんだから、疑うのは仕方ないと思うんだ」

「……なにを言っているのですか? 私が言っているのは、勝負の邪魔したことす!」

 どうやら、トウカが言いたいのは、俺を騙した三人の騎士との勝負に、俺が手を出したことを問うているらしい。
 まあ、俺が出したのは足だけどな。

「邪魔って……。守ってあげたんでしょ? いやー、まさかあんな上手くいくとは思わなかったぜ」

 我ながら、映画の主人公みたいだったぜ?
 最後まで諦めずに機転を利かして逃げる俺。その姿を見て、トウカが惚れたらどうしようと悩んだが――全然、そんなことは無かった。
むしろお怒りである。

「彼らが転んだのは、当然の結果です。私が立ち位置や彼らの剣筋を誘導していたのですから」

「えっ?」

 トウカ曰く、俺が靴を飛ばさなくても、同じ結果になっていたと言う。
 逆に俺が邪魔をしたせいで、自滅しなかったかもしれないのだと。

「そんなこと――できるのか?」

「当然できますよ。ハクハの騎士たちの戦闘方法など、必要なものは全て記憶していますから」

「マジか」

 トウカは数百人の性格と戦闘を記憶しているのだという。本人は、さも当たり前のように言った、
 いや、それって凄すぎるだろ。

 普通に考えれば、俺の奇襲が成功した確率の方が高い筈だ。
 それに、トウカは実戦経験もレベルも低い。
 分かったぞ。
 トウカは俺に舐められないように、見栄を張っているんだな?

「ジェラルド。彼は人に止めを刺そうとするとき、力を込めるために前傾になります。そして、ガロフ。ガロフは剣筋自体が手振りになるために、対象物の位置を僅かに移動させるだけで、大きく仰け反ります」

「え……?」

「だから、狙いを私一人に絞らせれば、転倒とまではいかなくても、あなたを助ける時間は作れますから。もっとも、成功率が高かったのは、あなたを捕らえていたのが、トザットと言うのが大きいのでしょうか」

「な、なるほど……」

 えーと、何を言っているのかよく分からなかったけど、あの三人組の名前がジェラルド、ガロフ、トザットと言うのは伝わった。
 ……。
 あれだけの会話の中で人の名前しか理解できない俺。
 そりゃ、英語の成績が悪いわけだ。

「つまり、技術値やレベルが低くても、事前に相手のデータを集めれば、その差は埋められるのです」

「あ、だから、カズカの攻撃も……?」

「勿論です。とは言え、防げたのは初撃だけでしたけど」

「凄いな……」

 要するにゲームの攻略サイトを自分で作っているということか。
 誰がどんな攻撃を得意とするのか。更には人物の性格までも把握していると。確かにデータがあれば、相手の行動を予測することは出来なくない。
 プロのスポーツ選手たちも下調べは大事だと言う。
 敵を知ればその分勝率は上がるって訳だ。

「全く。直ぐにレベルだの個人値に頼ろうとするんですから。人が持つのはそれだけじゃないでしょう……? 異世界人は皆そうなのですか?」

 自分の頭を叩いて、人間に置いてもっとも強い武器は頭脳だとトウカは言う。
 俺の半分くらいしか生きていない少女に言われたことは良いとして、トウカの口調だと――俺の他に異世界人を知っているようではないか?

 ハクハの異世界人。
 俺が会えると騙された相手――池井 千寿。

「えっ? トウカちゃん、池井さん知ってるの!?」

 池井さんに会う計画は、白紙に戻ってしまったと思ったが、まだ、チャンスは残されているのか?
 失いかけた希望を取り戻した俺の声は、自然とデカくなってしまった。
 だが、「……池井さん?」とトウカは顔を顰めた。

「あ、ハクハ領にいるって言う異世界人なんだけどさ、こっちだと、「センジュ」って呼ばれてたかな?」

 センジュと言う名前を、トウカは自分の頭にある攻略サイトから、眼を閉じて検索しているようだが、すぐに、

「いえ、私は知りません。異世界人が駄目というのは、私が調べた、過去の人物たちのことです。誤解されるような発言をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「俺が先走っただけだから、気にしないでよ。そっか……。やっぱ、ユウラン達じゃないとダメか」

 過去の異世界人たちがどんな力を持っていたのか気にはなるけれど、でも、今はそんなことはどうでもいいや。

 池井さんの居場所を知るのは幹部たちのみか。
 彼らが教えてくれるとは思わないしなー。

「やっぱり、自分で探さないとダメか」

 まだ、先は長い。
結局、敵地で自分の力だけで探さなくてはならないのか。重くなる頭を抱えて、再び力なくテーブルに伏せた。

「まあ、それは良いとして――これを」

 トウカはそう言って、『なにか』を机の上に置いた。俺に渡すものなんかないだろうと思いつつ、視線だけを動かして『なにか』を見た。
 テーブルに置かれていたのは一本の刀。

「これは……?」

「あなたの武器です」

 えっ?
 ひょっとして護身用にくれるってことか?
 鎧だけじゃ、心細いだろうって気遣ってくれたのか?
 有難いけど、俺には使えないと思うな……。だって、真剣って意外に重いんだぜ? レベルが高ければ軽々振り回せるだろうけどさ、俺には無理だ。

「俺は別にいいよ? どうせ重くて使いこなせないし」

 武器をくれるなら『拳銃』の方がいいな。
 ハクハの騎士たちには配布されているのではないか? 図々しくもお願いをしようと思ったのだが、俺が希望を伝える前に

「そうですか……。私がこのナイフで戦えば丁度いいハンディだと思ったのですが、本人がそういうのであれば、こちらを使ってください」

『ナイフ』を渡された。
 うーん、惜しい!
 ……じゃなくて、今戦うって言ったか?
 どういうことだ?

「……ごめん。言ってる意味がちょっと分からないんだけど」

この少女――まさか、俺と一緒にハクハに歯向かおうって提案してるのか?
 なら、全然使わせてもらうけど、どんな武器を使っても戦力にはならないぜ?
 が、勿論、トウカ戦おうとしている相手は、ハクハではない――

「そうですか。では、はっきりと言いますね。あなたの『経験値』を貰うために、正々堂々、正面から戦いましょう」

――俺だった。

 少女が俺を助けたのは、俺を殺すため。
 正々堂々と正面から経験値を得るためだった。

「一対一で勝負をしましょう」

 俺に向けられた笑顔に、言葉を返すことができなかった。
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