経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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五章 死体とハーレム

54話 三つ目の力は真逆の能力

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「サキヒデから聞いたんだけど、弓の使い方を知りたいんだよね?」

「え、ええ」

 俺が扱いたい武器まで調べてくれているようだった。カラマリには、刀や槍、薙刀など和に沿った武器が多数あるが、その中で俺が選んだのは弓だった。
 サキヒデさんと同じ武器だ。
 故に、一番頼りにしていたのはサキヒデさんだったのだけれど、「私は忙しいので」と一回も俺に弓の扱いを教えてくれることはなかった。

 まあ、カラマリ領で一番忙しいのは分かってるんだけどさ。

「僕はあまり好きじゃないけれど、使えない訳じゃないから、教えてあげるよ」

「そうなんですね、じゃ、じゃあ、お願いします」

 流石にここまで来て遠慮しておきますとは言えなかった。
 それにしても、クロタカさん、弓使えるんだ。
 クロタカさんが最も得意とするのは小刀――ナイフだ。小さな刃はクロタカさんの身体能力と戦闘センスを最大限に引き出せる。
 だが、得意でなくても俺に教える位は出来ると言う。
 様々な戦を掻い潜って来たのだ。複数の武器を扱う位は出来るだろう。

「はい」

 最初からこの場所で俺を訓練しようとしていたのか、近くにあった木々の根元に、弓と矢が置いてあった。どうやら、クロタカさんが事前に準備してくれていたらしい。
 弓と矢を手にして、笑顔と共に俺に渡してきた。

「レベルがないなら、遠くから援護しようとする考え方は流石だね。自分を良く分かっているってことよね。それは僕にはまねできないことだよ。やっぱり、リョータは凄いな!」

 褒められた!
 名前で呼ばれた!?
 優しくされたことのない相手の急な態度の変化に、俺は遂に我慢の線を越えてしまった。
もう駄目だ、理解が出来ない!

「クロタカさん! どうしたんですか? 俺なら覚悟できてますんで、『経験値』にしてくださいよ! クロタカさんのレベルなら、一気にレベルが上がらないとは思いますけど、少しくらいは溜まっていたのものが解消するんじゃないですか!?」

 どうぞ!
 弓でも小刀でも好きな方で俺を殺してくださいと、両手を広げて無抵抗を示すが、

「やだなー。僕が君を殺すなんて、考えられないよ」

 と、静かにはにかんだ。
 いや、散々、俺を痛めつけて殺していたじゃないか。何をいまさら意味の分からぬことを言っているんだ。
 俺は声にならない声を伝えようとするが、「むしろ、今まで殺してごめんね」と言いたいことがまとまる前に謝ってきた。

「……ひぃっ」

 俺は余りの恐怖に悲鳴を漏らしてしまった。頭を下げられて怯える俺。人って理解できないことが起こると怖くなるんだね。
 しかし、恐怖で冷えに冷えた俺の頭は――クロタカさんが態度を変えたその理由を辿り着いた。

「そうか……分かったぞ」

 クロタカさんの優しさで、冷静な状況判断を失っていたが、一度思いつけば、それは一つしかないじゃないか。

 俺がハクハ領の〈戦柱《モノリス》〉に触れた、このタイミング。三つ目の力を手に入れた途端に優しくなった。
 つまり、俺の新たな力を恐れているわけだ。

 クロタカさんに直接説明してはいない。
 けど、狂人ではあるが、カラマリの主力だ。黙っていてもその辺は、アイリさんがフォローしている事だろう。

 ま、自分で言うのは傲慢だと勘違いされてしまうだろうが、しかし、この世界の人間――ましてや〈統一杯〉に参加している人間ならば、俺の新たな力は恐ろしいだろう。

 俺が手に入れた三つ目の力。
 それは、

「クロタカさんは俺にレベルを下げられたくないんですね?」

 俺を殺した相手のレベルを下げるというものだった。
『経験値を与えること』と全く反対の能力が、俺に与えらえた三つ目の力だった。視界に映る自分に意識を移せる――使えるようで使えない、二つ目の力とは大違いだ。

 俺が殺される時に、レベルを下げたいと願えば、得られるはずの『経験値』がマイナスになる。
 殺した相手の戦力を削ぐことが出来るのだ。

 それが出来れば、俺も戦場に出るメリットがある。
 だから、こうして訓練をすることは、俺にとっては嫌なことを考えずに済むし、経験を積めるしで一石二鳥だ。

 クロタカさんは、俺が新たな力を自分に使ってくるのか、警戒しているのだろう。
 だとしたら、俺も舐められたものだ。
 いくら、理不尽に殺されているからと仲間にこの力を使う気はない。
 そのことを俺はクロタカさんに説明したのだけれど、似合わない微笑みを消して首を傾げた。

「……なにを言ってるのかな?」

「なにって、俺の新しい力ですよ! それも聞いたんでしょ?」

 弓を使いたいって情報を持っているんだ。そんな俺の小さな願望よりも、広く伝わっているはずだと自信を持っている。
 だが、クロタカさんは俺の力は誰からも聞いていないと答えた。

「僕が聞いたのは、リョータが訓練したがってるってことだけ。それ以外はなにも知らない」

 故に俺がレベルを下げることが出来るなんて、今、初めて聞いたのだと。

「そんなことないでしょう?」

 嘘だね。
 俺の力に怯えたのでなければ、俺に優しくする必要性がないもん。いや、もしくは、半信半疑だからこそ、探りに来ているのか。

「なるほど。まだ、俺が力を手に入れたことを信じてないですね。なら、分かりました、〈戦柱《モノリス》〉に行って確認しましょう!」

 俺が〈戦柱《モノリス》〉に触れれば、三つ目の力が表示されるのは間違いない。これはカナツさん、アイリさん、サキヒデさんと確認済みだ。

 本当、この力を初めて見た時は、俺は感動したぜ。

 だって、戦場に出たら、狙われるはずのボーナスキャラが、今度は恐れられる立場になるんだぜ? 
 これが気持ちよくない訳がない。

「別に、君がどんな力を手にしようと、訓練したいならするんだけどな……」

「……」

 はあ。
 もう、真相に気付いた俺に、そんな芝居をしたって無駄だ。
 小さな溜息と共に、俺はクロタカさんと〈戦柱《モノリス》〉に移動することにした。





「やっぱり、普通の兵士たちが使う弓でも、まだ、強すぎるみたいだね……。今度、リョータが使えるように、僕が作ってあげるよ」

「あ、ありがとうございます」

〈戦柱《モノリス》〉にて、俺の新たな力を共に確認したクロタカさん。

 疑惑が晴れれば、俺に優しくする理由がなくなり、いつも通りの性格に戻ると思ったのだけれど、そんなことはなかった。
 まだ優しい。

……これはあれかな?
 俺の力が本当だったから、優しくしとけってことかな? 仲間のレベルを下げる男だと思われているのかな?
 それはそれで悲しいな……。

 悲しさと優しいクロタカさんの恐怖から逃れるために、俺は本人い直接聞いてみることにした。
 
 弓の扱いを丁寧に、しかも、俺の為に新たに作ってくれると言う相手に失礼だとは思うのだけれど、折角、手ほどきを受けても殆ど記憶に残らない。

 これじゃ、何もしてないのは同じだと、まずは自分の悩みと真摯に向き合うことにした。

「あの、俺、別にクロタカさんのレベルを下げたりしないですよ?」

 ですから、いつも通りで構いませんと、俺はできるだけフレンドリーに伝えたのだけれど、

「僕は別にレベルを下げられても構わないけど?」

 さて。
 どういうことでしょう。
 クロタカさんははったりを言うような人間じゃないし、サキヒデさんのような小賢しい器の小さい人間じゃない。
 ならば、これは本心か。
 俺にレベルを下げられてもいいのだと。

「さっきから、どうしたの? 君、ちょっとおかしいよ?」

 しかも、おかしいのは俺の方だと心配までされてしまった。

「あー、いえ、ちょっと最近疲れてるんですかね? 色々混乱してしまって」

「そっか。なら、今日はここまでにしよう。次の訓練は――明後日辺りでどうかな? その時までに弓は作れるとおもんだけど?」

「は、はい……それでお願いします」

 次回の訓練の予定まで組みつけられた俺は、ダッシュで天守閣に向かった。
 この異常事態。
 戦前で忙しいなんて言わせない!
 俺は救いを求めて全力で森を抜けるのだった。
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