経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

文字の大きさ
56 / 59
五章 死体とハーレム

55話 異世界人たちの情報①

しおりを挟む
「カナツさん! 大変なんです!」

 天守閣へとクロタカさんの変わりようと、息を荒げたまま大将の名前を呼んだ。俺の声にならない声に、驚いた様子で、高座に座っていたアイリさんが目を丸くする。
 あれ……?
 カナツさんいないのか?

「うんー? あれ、リョータ、どうしたの」

「えっと……」

 伝えたいことはなにもカナツさんでなくてもいいか。むしろ、あの人に言っても何も解決しない気がするし。
 器が大きすぎて、問題を問題と認識しない可能性が高かった。

 そう考えれば、むしろアイリさんに伝えた方が良いか。

「アイリさん、とにかく大変なんですよ!!」

「うん。凄い慌ててるのは分かるよ。まさか、他の領がやってきたの?」

 アイリさんが警戒するのも仕方がないか。
 でも、周囲への警戒が薄いカラマリ領にも問題はあると思うんだよな。
 クガンのような岩山の頂で暮らしている訳でもないし、ハクハのように石壁で囲われている訳でもない。
 ただの、森の中。
 木々が覆い隠しているので、場所を知らなければたどり着けないだろうが、しかし、この世界で暮らす殆どの人間は、それぞれの領がどこにあるのか知っている。
 故にメリットはないに等しい。

 いずれカラマリ領の警備してもらうように、カナツさんに相談しよう。
 侵入者はもうコリゴリだ。

 だが、今はそんな侵入者よりも性質が悪い男が相手だ。
 身内だからこそ気味が悪い。

「クロタカさんが、俺にめっちゃ優しいんですよ!」

 その言葉を皮切りに、俺は次々と、かつての狂人ならあり得ない行為の数々を口にする。興奮していたから、話すだけで息が上がってしまった。それくらい俺の心は震えていた。
 少しでも恐怖を共有して貰おうと思ったのだけれど、アイリさんの反応は俺が思っていたものと全然違かった。

「……それだけ?」

「それだけって……。アイリさんだって、クロタカさんがそんなことするとは思わないでしょう?」

 日ごろから、クロタカさんが俺にだけ扱いが悪い訳ではない。
 全ての人間に平等に恐れられていた。
 むしろ、恐れられすぎて、カラマリの主力たちとしか話しているところを見たことがない。いつだっただろうか。
 カラマリにある商店街――と言っても出店のようなちゃちな屋台群だが――を歩いているのを見たことがある。
 誰もが道からそれて、顔を背けてクロタカさんが通り過ぎるのを待っていた。
 しまいには店の人も「お代は結構です」って言ってたし(その後、同じ店で買い物をした俺が、クロタカさんの分の代金はお支払いしておいた)。

 そんな男が、まるで人が変わったかのように、話してくること自体が異常なのだ。
 俺の必死の訴えに、
「まあ、そうだけどさー。うーん……」

 あくまでも歯切れが悪いアイリさん。

「俺、怖くて寝れませんよ!」

「そう? じゃあ、私が「ぎゅーっ」てしてあげるから、それで許してあげてよ」

「いや、それは無理ですって!」

 アイリさんの抱擁は魅力的だけど、そんな一時しのぎで振り払えるほど、恐怖の感情は浅くない。深々と負の感情に沈殿している。

「ざんねーん。で、クロタカ本人は何か言ってなかった?」

「いえ……、なにも。俺が得た力に怯えてるのかなって思ったんだけど、レベルが下がっても構わないって言われちゃいました」

「まあ、そうだろうね……。大体、どんな力を手にしても、リョータに怯えることはないと思うよ?」

「酷い!」

 アイリさんの言葉に傷付く俺。
 新しい力が、ようやく使えそうな力なんだから、少しだけ大きく言ってみてもいいじゃない。
 ……結局、殺されるだけの力と言われてしまったら、何も言えないんだけど。

「……もう、本当のこと言えばいいのに」

 ぼそりと、俺に聞こえない声でアイリさんが呟いた。

「……何か言いました?」

「なんでもないよー。それに、悪いことじゃないからさ、少しだけ我慢してみればー」

 両手をヒラヒラとして微笑む。天守閣の窓から覗く紅葉と、アイリさんの紅の髪が混ざるように風に揺れた。
 アイリさんにそう言われたら、少しだけ我慢してもいいかと思えてきた。カナツさんに必要とされているだけあって、人を癒す力は大きいようだ。

 俺の伝えたいことが終わったのを見計らい、アイリさんが聞いてきた。

「あ、そうだ。あと、サキヒデが言ってたんだけど、残りの異世界人の特徴を教えてくれないかな? 見た目や性格が分かれば少しは役に立つかも知れないからって」

 そうか。
 もう、この世界に来ているであろう俺を除く5人の異世界人は特定されているのか。俺達以外にもこの世界に来ているのかも知れないけど、すくなくとも、カラマリ領、ハクハ領、クガン領にはいないようだ。
 異世界人は俺達だけと考えた方がいいかも知れないな。
 他にもいるなら、その時はその時だ。

「えっと、土通さんと先輩、それと……池井さんに付いてはお話ししましたよね?」

 この世界で、俺が最初に会ったのが土通さん。
 フルネームは土通(どつう) 久世(くぜ)
 口が悪く、どこか冷酷さを秘めている年上の女性。それでもその冷静さは、異世界においては心強いと思っていたのだけれど、俺が思っている以上に土通さんの心は強すぎた。

 俺の目の前で、ハクハの騎士たちを殺して見せた。

 人を殺すことについて、俺は責めてしまったのだが、「生きるためには仕方がない」と本人は割り切っていた。割り切れてしまっていた。端数も出ないほどに、すっぱりと感情を押さえつけていた。

〈戦柱《モノリス》〉に与えられた力は、『なんでも切れる剣』と『地面を通って瞬間的に移動する能力』

 そして、次に会ったのは先輩こと真崎(まさき) 誠(まこと)。
 どんな感情よりも、『正義』を大事にする男だ。すこし、拘り過ぎている部分もあるとは思うのだけれど、少しだけ俺は憧れていたりもする。

 誰に何を言われても曲げない心。

 社会の厳しさに折れそうになった心を何度も救ってくれた。
 先輩の『正義』は異世界でも折れることは無かった。

〈統一杯〉で、誰も犠牲にしたくないと、領から離れて一人行動している姿は、やはり格好良かった。
 ……コスプレしていなければ、なお良かったんだけど。

 先輩の力は『4つの属性(火・水・風・雷)』を操ることだ。
 言うなれば『魔法』である。
 異世界でも『魔法』がないこの世界では、脅威であり、〈紫骨の亡霊〉を無傷で撃退できるほどだった。

 そして、俺が知る最後の一人は――池井(いけい) 千寿(せんじゅ)。
 俺達6人の中で最も、戦なんて言葉からほど遠い存在。だからこそ、彼女はもうこの地にはいないのかも知れない。
『敵意』や『悪意』とは縁がない人生を送ってきた彼女に、ハクハ領は残酷過ぎた。

 異世界に来て二か月経たず殺されてしまった。

 死体を見ていないけれど、相手はハクハ。
 仲間同士で殺し合いさせる領に「もしかしたら」なんて希望は抱かない方がいい。

 ましてや、彼女の持っていたとされる力は『武器の生産』。『拳銃』やらギミックの聞いた武器は既に大量生産されているようで、ハクハの大将からは「用済み」と判を押されてしまっていた。

 一人は人を殺し、一人は世界を救うために領を捨て、もう一人は殺された。
 ここまでが、出会った異世界人《・・・》達の情報だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...