経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

文字の大きさ
58 / 59
五章 死体とハーレム

57話 ランキング4位 メイル領

しおりを挟む
「ってなことを、アイリさんに言われたんだよね! ちょっと、厳しいこと言い過ぎだって思わない?」

「まあ、確かにな。でも、言いたいことは分かるぜ? 今までリョータが外に出たのは〈統一杯〉に関係ない所だったしさ」

 天守閣からの帰り道、偶然見つけたケインを連れて、夕食を取っていた。
 奢る代わりに愚痴を聞いて貰う情けない年上だった。
 俺の愚痴に苦笑しながらも付き合ってくれるケイン。まだ、子供であるのに、俺なんかよりもよっぽど大人の対応である。

「だからどれだけ、好き勝手しようとも〈統一杯〉の順位は変わらなかった。最悪、『経験値』を奪われても、多くリョータを殺せば取り返せる。でも、戦場は違う。小さなミスで流れが変わる」

「……」

 変わった流れは取り返せないとケインは言った。

 スポーツをやったことが有る人間ならば、『流れ』というものは感じたことがあるだろう。目には見えなくても確かにあるのだ。
……勝負の流れは。
 なんて、俺、スポーツやったことないんだけどね!

 カラマリ領は、前回大会で最下位。この二か月で俺を使い、一気にレベル差をつけて二位にまで躍り出たが、異世界人が多数いる現状。
 二位だからと胡坐をかく余裕はない。

「だから、アイリ姉さんが警告してくれたんだよ!」

 ケインはそう言って、巨木の幹を切り落としてできたテーブルにある、骨付きの肉を豪快に食らった。
何の肉なのかは分からないが、恐らく、森の中で狩ってきたものだろう。
 自然豊かなカラマリには、小動物から大型動物まで生息していた。

 とは言っても、肉は貴重なようだ。
 それなりにいい値段はする。

 ケインが食べている骨付き肉は、一つで俺の『仕事(けいけんち)』の半分はする高級品だ。
 特別報酬や対価はしっかりと、カナツさんから払って貰っているとは言っても、家の修理に馬屋の建築。
 俺の懐は結構寒いのだけれど、愚痴を聞いて貰っている以上、ケインにもそれなりの対価を払わなければ。

 俺はその横で、小さく切り落とされたサイコロ上の肉と、この世界における野菜(見た目はトマト。味はピーマン)をチマチマと食らった。
 もっとも、俺がサイコロステーキを食べているのは、懐の問題ではなく、もっと奥の胃の問題だった。
 当初は、骨付き肉にテンションが上がって、脂の滴る肉を、顔と手をベトベトにして食らったのだけれど、次の日、見事に胃もたれを起こした。
 20代前半にして脂身が翌日に響いた。
 俺も年だな……。

 胃もたれとはまだ縁のないケインは、一気に食い終えると、物足りなそうに骨を加えた。
 そして、俺の肩を叩いた。

「ま、でも安心しろよ。お前のミスは、俺がフォローしてやるからさ。俺はお前を信じてるしな」

 ケインは、俺がお前を助けるから、自分が好きなようにやってみろと励ましてくれた。肩を叩く手は小さいけれど、俺を思う気持ちは大きいようだ。

「ケイン……!」

 少年の優しさに感極まった俺は、「うるっ」と瞳に水分が溜まったのを感じた。
 くそっ。
 やっぱ年だな。
 胃だけじゃなくて涙腺まで脆くなってるぜ!

 葉に姿を隠した月を見上げて、俺は涙に耐えた。空を見上げて泣くまいと堪える俺を、更に励まそうとするのか、肩を掴んで「頑張ろうぜ!」と応援してくれた。
 しばらく、その状態で肩を揺らし合っていたのだが、ふと、ケインが耳元でささやいた。

「……てなわけで、もう一個、肉頼んでいいか?」

 ……全く。
 こいつは。

「一個と言わず、二個でも三個でも食ってくれよ!」

 こんな優しい子には、もっと成長してもらいたい!
 俺は追加で骨付きの肉を三つ頼んだ。
 今日の食事代だけで、カナツさんから貰った特別報酬――『ハクハの〈戦柱《モノリス》〉に触れた分の金額は吹き飛ぶが、構うものか!
 頼りになる弟分に英気を養って貰わないとな。

「リョータ。お前が、カラマリ領に来てくれて本当に良かった!」

「おう! 俺もケインがいてくれて良かったぜ!」

 追加で注文した肉が届く間、延々と互いを褒め合う時間が続いたが、「お待たせしましたー」と、香ばしい煙に見舞われると、ケインはそれまでの言葉が嘘のように肉に集中したのだった。

「そう言えばさ、次の相手ってどこなんだ?」

 ケインの気持ちのいい食べっぷりに見惚れながら、ふと、俺は次の戦の相手がどこの領なのか知らないことに気付いた。
 今まで、『経験値』として生きてきたために、どこと戦おうと興味はなかったのだが、これからは違う。
 
 戦場に立つのだ。
 
 相手のことくらいは知っておかなければ。

 ケインの前には、4つの骨が並べられていた。
満足そうに腹を擦りながら、俺の質問に答えた。

「あ、まだ聞いてないのか。次はメイル領だ」

「メイル領……?」

 えっと、俺が現在知っている領は、(この世界に来たときに、全ての領の名前は聞いた気がするけれど、既に忘れてしまっていた)

 シンリが率いるハクハ領。
 順位は一位。

 そして、俺がいるカラマリ領。
 順位は二位。

 で、後はクガン領か。
 大将は狼のように野性味と気高さを持ち合わせているバイロウさん。ただし、若干お兄さんのジュウロウさんに甘え気味。
 順位は5位。

 ……。
 そう考えると、俺は、半分の領しか知らないじゃん。
 こんな状態で戦場に出たいって言われれば、そりゃ、アイリさんじゃなくても怒るか。
 うん。
 他の領のことは、こっそりサキヒデさんにでも聞いておこう。
 今は、メイル領に付いて知れれば事足りるでしょ。

 俺が異世界に来て4か月。
 にも関わらずに、半分の領しか知らないなど考えもしないだろう。
 ケインは「どうしたんだよ」と笑っていた。

「メイル領は現在4位だ。普通に戦えば、まあ、俺達が負けることはないな」

「へー。そんなに強くないってこと?」

「いや。そういう訳じゃないぜ? ただ、俺達がお前のお陰でレベルが上がってるから、言えるだけだ」

 異世界人がいなければ、二位のカラマリ領から5位のクガン領まで。そこに大きな差はないと言う。
 と、言うことは、現在は互角ってことか。
 大将のカナツさんが動いてるんだから、非常事態だって少し考えれば分かるじゃないか。呑気に訓練を頼んでいる場合じゃなかった。

「でも、俺からしたらハクハより戦いにくいな」

「え……?」

 あの化物と変人しかいないハクハよりも、メイル領が苦手らしい。
 それがどういうことなのか、俺が追及すると、

「いやさ、まあ、簡単に言うとメイル領。それは女性たちの領なんだ」

 その理由を答えてくれた。
 メイル領。
 それは戦う兵士たちの殆どが女性であると――ケインはそう言ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...