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五章 死体とハーレム
57話 ランキング4位 メイル領
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「ってなことを、アイリさんに言われたんだよね! ちょっと、厳しいこと言い過ぎだって思わない?」
「まあ、確かにな。でも、言いたいことは分かるぜ? 今までリョータが外に出たのは〈統一杯〉に関係ない所だったしさ」
天守閣からの帰り道、偶然見つけたケインを連れて、夕食を取っていた。
奢る代わりに愚痴を聞いて貰う情けない年上だった。
俺の愚痴に苦笑しながらも付き合ってくれるケイン。まだ、子供であるのに、俺なんかよりもよっぽど大人の対応である。
「だからどれだけ、好き勝手しようとも〈統一杯〉の順位は変わらなかった。最悪、『経験値』を奪われても、多くリョータを殺せば取り返せる。でも、戦場は違う。小さなミスで流れが変わる」
「……」
変わった流れは取り返せないとケインは言った。
スポーツをやったことが有る人間ならば、『流れ』というものは感じたことがあるだろう。目には見えなくても確かにあるのだ。
……勝負の流れは。
なんて、俺、スポーツやったことないんだけどね!
カラマリ領は、前回大会で最下位。この二か月で俺を使い、一気にレベル差をつけて二位にまで躍り出たが、異世界人が多数いる現状。
二位だからと胡坐をかく余裕はない。
「だから、アイリ姉さんが警告してくれたんだよ!」
ケインはそう言って、巨木の幹を切り落としてできたテーブルにある、骨付きの肉を豪快に食らった。
何の肉なのかは分からないが、恐らく、森の中で狩ってきたものだろう。
自然豊かなカラマリには、小動物から大型動物まで生息していた。
とは言っても、肉は貴重なようだ。
それなりにいい値段はする。
ケインが食べている骨付き肉は、一つで俺の『仕事(けいけんち)』の半分はする高級品だ。
特別報酬や対価はしっかりと、カナツさんから払って貰っているとは言っても、家の修理に馬屋の建築。
俺の懐は結構寒いのだけれど、愚痴を聞いて貰っている以上、ケインにもそれなりの対価を払わなければ。
俺はその横で、小さく切り落とされたサイコロ上の肉と、この世界における野菜(見た目はトマト。味はピーマン)をチマチマと食らった。
もっとも、俺がサイコロステーキを食べているのは、懐の問題ではなく、もっと奥の胃の問題だった。
当初は、骨付き肉にテンションが上がって、脂の滴る肉を、顔と手をベトベトにして食らったのだけれど、次の日、見事に胃もたれを起こした。
20代前半にして脂身が翌日に響いた。
俺も年だな……。
胃もたれとはまだ縁のないケインは、一気に食い終えると、物足りなそうに骨を加えた。
そして、俺の肩を叩いた。
「ま、でも安心しろよ。お前のミスは、俺がフォローしてやるからさ。俺はお前を信じてるしな」
ケインは、俺がお前を助けるから、自分が好きなようにやってみろと励ましてくれた。肩を叩く手は小さいけれど、俺を思う気持ちは大きいようだ。
「ケイン……!」
少年の優しさに感極まった俺は、「うるっ」と瞳に水分が溜まったのを感じた。
くそっ。
やっぱ年だな。
胃だけじゃなくて涙腺まで脆くなってるぜ!
葉に姿を隠した月を見上げて、俺は涙に耐えた。空を見上げて泣くまいと堪える俺を、更に励まそうとするのか、肩を掴んで「頑張ろうぜ!」と応援してくれた。
しばらく、その状態で肩を揺らし合っていたのだが、ふと、ケインが耳元でささやいた。
「……てなわけで、もう一個、肉頼んでいいか?」
……全く。
こいつは。
「一個と言わず、二個でも三個でも食ってくれよ!」
こんな優しい子には、もっと成長してもらいたい!
俺は追加で骨付きの肉を三つ頼んだ。
今日の食事代だけで、カナツさんから貰った特別報酬――『ハクハの〈戦柱《モノリス》〉に触れた分の金額は吹き飛ぶが、構うものか!
頼りになる弟分に英気を養って貰わないとな。
「リョータ。お前が、カラマリ領に来てくれて本当に良かった!」
「おう! 俺もケインがいてくれて良かったぜ!」
追加で注文した肉が届く間、延々と互いを褒め合う時間が続いたが、「お待たせしましたー」と、香ばしい煙に見舞われると、ケインはそれまでの言葉が嘘のように肉に集中したのだった。
「そう言えばさ、次の相手ってどこなんだ?」
ケインの気持ちのいい食べっぷりに見惚れながら、ふと、俺は次の戦の相手がどこの領なのか知らないことに気付いた。
今まで、『経験値』として生きてきたために、どこと戦おうと興味はなかったのだが、これからは違う。
戦場に立つのだ。
相手のことくらいは知っておかなければ。
ケインの前には、4つの骨が並べられていた。
満足そうに腹を擦りながら、俺の質問に答えた。
「あ、まだ聞いてないのか。次はメイル領だ」
「メイル領……?」
えっと、俺が現在知っている領は、(この世界に来たときに、全ての領の名前は聞いた気がするけれど、既に忘れてしまっていた)
シンリが率いるハクハ領。
順位は一位。
そして、俺がいるカラマリ領。
順位は二位。
で、後はクガン領か。
大将は狼のように野性味と気高さを持ち合わせているバイロウさん。ただし、若干お兄さんのジュウロウさんに甘え気味。
順位は5位。
……。
そう考えると、俺は、半分の領しか知らないじゃん。
こんな状態で戦場に出たいって言われれば、そりゃ、アイリさんじゃなくても怒るか。
うん。
他の領のことは、こっそりサキヒデさんにでも聞いておこう。
今は、メイル領に付いて知れれば事足りるでしょ。
俺が異世界に来て4か月。
にも関わらずに、半分の領しか知らないなど考えもしないだろう。
ケインは「どうしたんだよ」と笑っていた。
「メイル領は現在4位だ。普通に戦えば、まあ、俺達が負けることはないな」
「へー。そんなに強くないってこと?」
「いや。そういう訳じゃないぜ? ただ、俺達がお前のお陰でレベルが上がってるから、言えるだけだ」
異世界人がいなければ、二位のカラマリ領から5位のクガン領まで。そこに大きな差はないと言う。
と、言うことは、現在は互角ってことか。
大将のカナツさんが動いてるんだから、非常事態だって少し考えれば分かるじゃないか。呑気に訓練を頼んでいる場合じゃなかった。
「でも、俺からしたらハクハより戦いにくいな」
「え……?」
あの化物と変人しかいないハクハよりも、メイル領が苦手らしい。
それがどういうことなのか、俺が追及すると、
「いやさ、まあ、簡単に言うとメイル領。それは女性たちの領なんだ」
その理由を答えてくれた。
メイル領。
それは戦う兵士たちの殆どが女性であると――ケインはそう言ったのだった。
「まあ、確かにな。でも、言いたいことは分かるぜ? 今までリョータが外に出たのは〈統一杯〉に関係ない所だったしさ」
天守閣からの帰り道、偶然見つけたケインを連れて、夕食を取っていた。
奢る代わりに愚痴を聞いて貰う情けない年上だった。
俺の愚痴に苦笑しながらも付き合ってくれるケイン。まだ、子供であるのに、俺なんかよりもよっぽど大人の対応である。
「だからどれだけ、好き勝手しようとも〈統一杯〉の順位は変わらなかった。最悪、『経験値』を奪われても、多くリョータを殺せば取り返せる。でも、戦場は違う。小さなミスで流れが変わる」
「……」
変わった流れは取り返せないとケインは言った。
スポーツをやったことが有る人間ならば、『流れ』というものは感じたことがあるだろう。目には見えなくても確かにあるのだ。
……勝負の流れは。
なんて、俺、スポーツやったことないんだけどね!
カラマリ領は、前回大会で最下位。この二か月で俺を使い、一気にレベル差をつけて二位にまで躍り出たが、異世界人が多数いる現状。
二位だからと胡坐をかく余裕はない。
「だから、アイリ姉さんが警告してくれたんだよ!」
ケインはそう言って、巨木の幹を切り落としてできたテーブルにある、骨付きの肉を豪快に食らった。
何の肉なのかは分からないが、恐らく、森の中で狩ってきたものだろう。
自然豊かなカラマリには、小動物から大型動物まで生息していた。
とは言っても、肉は貴重なようだ。
それなりにいい値段はする。
ケインが食べている骨付き肉は、一つで俺の『仕事(けいけんち)』の半分はする高級品だ。
特別報酬や対価はしっかりと、カナツさんから払って貰っているとは言っても、家の修理に馬屋の建築。
俺の懐は結構寒いのだけれど、愚痴を聞いて貰っている以上、ケインにもそれなりの対価を払わなければ。
俺はその横で、小さく切り落とされたサイコロ上の肉と、この世界における野菜(見た目はトマト。味はピーマン)をチマチマと食らった。
もっとも、俺がサイコロステーキを食べているのは、懐の問題ではなく、もっと奥の胃の問題だった。
当初は、骨付き肉にテンションが上がって、脂の滴る肉を、顔と手をベトベトにして食らったのだけれど、次の日、見事に胃もたれを起こした。
20代前半にして脂身が翌日に響いた。
俺も年だな……。
胃もたれとはまだ縁のないケインは、一気に食い終えると、物足りなそうに骨を加えた。
そして、俺の肩を叩いた。
「ま、でも安心しろよ。お前のミスは、俺がフォローしてやるからさ。俺はお前を信じてるしな」
ケインは、俺がお前を助けるから、自分が好きなようにやってみろと励ましてくれた。肩を叩く手は小さいけれど、俺を思う気持ちは大きいようだ。
「ケイン……!」
少年の優しさに感極まった俺は、「うるっ」と瞳に水分が溜まったのを感じた。
くそっ。
やっぱ年だな。
胃だけじゃなくて涙腺まで脆くなってるぜ!
葉に姿を隠した月を見上げて、俺は涙に耐えた。空を見上げて泣くまいと堪える俺を、更に励まそうとするのか、肩を掴んで「頑張ろうぜ!」と応援してくれた。
しばらく、その状態で肩を揺らし合っていたのだが、ふと、ケインが耳元でささやいた。
「……てなわけで、もう一個、肉頼んでいいか?」
……全く。
こいつは。
「一個と言わず、二個でも三個でも食ってくれよ!」
こんな優しい子には、もっと成長してもらいたい!
俺は追加で骨付きの肉を三つ頼んだ。
今日の食事代だけで、カナツさんから貰った特別報酬――『ハクハの〈戦柱《モノリス》〉に触れた分の金額は吹き飛ぶが、構うものか!
頼りになる弟分に英気を養って貰わないとな。
「リョータ。お前が、カラマリ領に来てくれて本当に良かった!」
「おう! 俺もケインがいてくれて良かったぜ!」
追加で注文した肉が届く間、延々と互いを褒め合う時間が続いたが、「お待たせしましたー」と、香ばしい煙に見舞われると、ケインはそれまでの言葉が嘘のように肉に集中したのだった。
「そう言えばさ、次の相手ってどこなんだ?」
ケインの気持ちのいい食べっぷりに見惚れながら、ふと、俺は次の戦の相手がどこの領なのか知らないことに気付いた。
今まで、『経験値』として生きてきたために、どこと戦おうと興味はなかったのだが、これからは違う。
戦場に立つのだ。
相手のことくらいは知っておかなければ。
ケインの前には、4つの骨が並べられていた。
満足そうに腹を擦りながら、俺の質問に答えた。
「あ、まだ聞いてないのか。次はメイル領だ」
「メイル領……?」
えっと、俺が現在知っている領は、(この世界に来たときに、全ての領の名前は聞いた気がするけれど、既に忘れてしまっていた)
シンリが率いるハクハ領。
順位は一位。
そして、俺がいるカラマリ領。
順位は二位。
で、後はクガン領か。
大将は狼のように野性味と気高さを持ち合わせているバイロウさん。ただし、若干お兄さんのジュウロウさんに甘え気味。
順位は5位。
……。
そう考えると、俺は、半分の領しか知らないじゃん。
こんな状態で戦場に出たいって言われれば、そりゃ、アイリさんじゃなくても怒るか。
うん。
他の領のことは、こっそりサキヒデさんにでも聞いておこう。
今は、メイル領に付いて知れれば事足りるでしょ。
俺が異世界に来て4か月。
にも関わらずに、半分の領しか知らないなど考えもしないだろう。
ケインは「どうしたんだよ」と笑っていた。
「メイル領は現在4位だ。普通に戦えば、まあ、俺達が負けることはないな」
「へー。そんなに強くないってこと?」
「いや。そういう訳じゃないぜ? ただ、俺達がお前のお陰でレベルが上がってるから、言えるだけだ」
異世界人がいなければ、二位のカラマリ領から5位のクガン領まで。そこに大きな差はないと言う。
と、言うことは、現在は互角ってことか。
大将のカナツさんが動いてるんだから、非常事態だって少し考えれば分かるじゃないか。呑気に訓練を頼んでいる場合じゃなかった。
「でも、俺からしたらハクハより戦いにくいな」
「え……?」
あの化物と変人しかいないハクハよりも、メイル領が苦手らしい。
それがどういうことなのか、俺が追及すると、
「いやさ、まあ、簡単に言うとメイル領。それは女性たちの領なんだ」
その理由を答えてくれた。
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萌の物語が始まる。
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