経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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五章 死体とハーレム

58話 半年前の因縁

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「女性たちの領……?」

 と言われたところで、俺にはその特別性がよく理解できていなかった。カラマリ領にも女性はいるし。
 不思議そうな顔をする俺に対して、ケインが付け加えた。

「女子がただ要るだけじゃない。戦場に出る大半の人間が女子なんだよ」

 主な戦力が女性たちであると。
 確かに、カラマリ領も、ハクハ領も、クガン領も、女子の戦士が居ない訳ではない。中には幹部にまで上り詰めている人はいる。
 だが、それでも割合から言えば男性の方が明らかに多い。
 割合で言えば男子が8の女子が2。

 メイル領は数が反対らしかった。

「そうなんだ……。でも、そう言われると、何で男子が多いんだろう? レベルや技術値があるなら、そこまで大差ないと思うんだけど?」

「お前な。もう一つの値を忘れるなって」

「個人値……」

 人が生まれてから持っている才能のことだ。
 残念ながら、余程の努力では埋めることのない絶対的な数字だった。生まれついての対格差を埋める技術は――残念ながら異世界には無いようだった。

 俺がいた世界ですら、完璧な平等には至ってないのだ。戦に特化しているような世界では、まだ、先は長いだろう。

「だが、メイル領は違う。男子よりも女性の方が強靭な肉体を持って生まれてくるんだよ」

 故に、メイル領の戦士たちは大半が女性であり、他の領たちとも遜色なく戦を繰り広げているようだ。

「うん? でも、それってどういうこと? 別に相手が女子だろうと、やるべきことは変わらないんじゃないの?」

「そりゃそうだ。変わらないからこそ、厄介に感じるんだよ」

「……ん?」

「いや、ほら。男女で視点が違うってことあるだろ? 俺だって大将の考えに何度驚かされたことか」

「それは、ちょっと意味が変わってくると思うぞ?」

 カナツさんの考えは性別で縛れるほど浅くない。
 いや、浅すぎて読めないだけなのかもしれないけれど。

 でも――ケインが言おうとしていることは伝わってきた。
 女性と男性で物事の解決に対する方法は違うと、プレイボーイな上司に聞かされた気がする。
 男は結果を重要視し、女性は同意と経過を大切にする。
 みたいな感じだっけ?
 興味がないから、詳しくは覚えていないが、ニュアンス的には合ってるだろう。

「でさ、俺達カラマリの策士ってさ、サキヒデだろ?」

「うん」

「あいつってさ、女性との面識あんまりないんだよな。だからか分からないけど、メイル領の時だけ異常に通じないんだよな」

「……なるほど」

 ケインがメイル領を苦手としているのは、サキヒデさんの『策』が通じないことにあるようだ。切り込み隊長として、前線に立つケインは、僅かな変化でも大きいのかも知れない。

 俺とサキヒデさんがクガン領に行った際に、土通さんと話している時も、彼女を美人と称しながらも、進んで会話には入ってこなかった。
 それにサキヒデさんの性癖は普通じゃないのだ。
ハクハの幹部であるミワに馬扱いされて喜んでいる変態なのだ。

 そんな彼が生み出す『策』なんて、自分が叩かれて喜ぶためのものでしかないだろう。

「自分の性癖のために、領全体を巻き込むなんて、策士失格だな」

「……性癖?」

「いや、ケインはまだ知らなくていい」

 そして、願わくば知らないまま大人になってくれ。
 そう考えると、女性関係においてはサキヒデさんの影響を受けさせないように、アイリさんにでも相談しておいた方がいいな。

「サキヒデだけならまだいいんだけどさ、メイル領の大将と俺らの大将、かなり仲悪いんだよな。それが原因で、今回、大将が動いてるんだけど」

 大将同士が、手と手を取り合うことはなくても、俺が来る前、クガンの大将――バイロウとは共同戦線を張ることには成功していたのだ。
 少なくとも出会ってすぐに殺し合いをする程、全ての領が憎み合っているわけではないのか。

 それでも、5人もいれば、少なからず苦手とする人はいるか。嫌いな相手を倒すため、珍しくアイリさんを残して、カナツさんが行動をしていた。
 でも――、

「サキヒデと大将が必死乞いて動いてるのはいいんだけど、迷走してるわな」

「想像出来てしまう所が悲しい……」

 一度、歯車が狂えば、何も出来なくなるサキヒデさん。そして、奇を衒(てら)うこと、仲間を信じることにのみ特化したようなカナツさんだ。
 正直、ケインの話を聞いてる途中から、薄々と今回の戦は危険なのではないかと、心配になっていた。

 だが――そうか。俺が心配する必要はないか。
 カラマリ領には、最後の砦のアイリさんがいる。
『女性』という立場に、策士が苦戦しているのであれば、彼女を頼ればいいのではないか?
 簡単に見つけた解決案をケインに告げるが、「俺だってそう思うよ」と、深いため息とともに返されてしまった。

「そこもまた、色々あるんだよ。大将とサキヒデ。二人そろってアイリ姉さんの協力を拒んでいるんだ」

「なぜ……?」

「サキヒデは、最近、アイリ姉さんにフォローされてばかりで、自分の立場が危ういと感じてるみたいだ」

 カラマリ領の頭脳は自分だと、苦手な相手を倒すことで証明しようと目論んでいるらしい。
 ……。
 その発想自体、策士から程遠いと思うのだけれど、今回に限ってはカナツさんという大将が隣にいる。
 策士と大将が組んだ時点で、俺達の言葉は届かない。
 そして何より、カナツさんの意思が強すぎるのだとケインが言った。

「まあ、しょうがないよな。なんたって、アイリ姉さんが掛かってるんだから」

「へ……?」





 事の発端は俺がこの世界に来る前の戦だった。
 二回目のメイル領との戦。
 そこで問題が発生したとケインは言う。

 ケイン曰く、二度とも常時カラマリ領が劣勢だったらしい。だが、その状況から、アイリさんが一度目は引き分けに、二度目は勝利にへと導いた。
 その結果を相手の大将が強く興味を示し、「女性が中心として活動するメイル領に来ないか」とスカウトした。

 どうやらメイル領の大将は、アイリさんが不甲斐ないカラマリ領に足を引っ張られて、全力を出せていないと判断したようだ。

 そんな領では〈統一杯〉で勝利することは難しい。
 ならば、私達と共に頂点を目指そうではないかと手を差し伸べたのだと言う。

 そこで、アイリさんが断れば話も変ってこのルートには突入しないですんだのだろうが、今更過去の言葉に文句を言っても仕方ない。

 アイリさんはその誘いに対して、「カラマリ領に勝てたらいいよ」と答えたのだ。
 何を思ってその発言をしたのか。
 カラマリがメイル領に負ける筈がないと自信を持っているのか。
 それとも――。





「で、その勝負の条件として、アイリ姉さんは次回の戦へ参加しないことを約束したんだ」

「……そんな約束までしたの!? それってかなりマズいでしょ!」

「ああ、そうだな」

 アイリさんのお陰で引き分けと勝利に持ち込めたなら、つまり、カラマリは負ける確率が高いと言う訳ではないか?
 実際の戦を見ていない俺でも容易に想像は出来る。

「じゃあ、ケインもこんな所で、俺と呑気に食事してる場合じゃないじゃん! クロタカさんもだよ!」

「はっ。俺とクロタカが、事前準備に参加したら、更に面倒なことになるなんて、誰が考えても分かるだろうが。俺に出来ることは飯食って力を付けて鍛えるだけ。使わねぇ頭を無理に使うことじゃねぇよ」

「……」

 ケインは実に男らしい答え俺にくれた。
 自分に出来ることをやる。
 結局、俺達に出来ることは――それしかなかった。
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