経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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一章 経験値として生きてます

4話 悪徳眼鏡と純粋少年

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「あ、おーい! リョータ! 仕事終わりかー!」

 離れた場所で見ていた俺に気付いたのか、ケインが大きく手を振り、近づいてくる。何故か俺はケインに懐かれているのだ。

「まあ、殺されるのが仕事って言うならそうだな。うん。仕事終わりだ」

「そっかー。お疲れ様……。で、今回の報酬はどうですかい」

 両手を擦り合わせて俺のわき腹を小突いた。

「なんか特別報酬だって、金貨5枚も貰っちゃった」

「金貨5枚!? マジか。よし、今日は肉食おうぜ、肉!」

「なんで、ケインが決めるんだよ」

「そりゃ、俺もご馳走になるからに決まってるじゃん。いつものことだろ?」

「そうだけど……」

 確かに最初の頃は、殺されることにも慣れておらず、その度に「大丈夫か、痛くないか?」と心配してくれるケインの優しさが嬉しくて、報酬を使って一緒に食事をしていた。
 この世界にも慣れていなかったから、美味しいものを教えてくれるのも在り難かった。
 だが――。
 だがしかしだ。
 最近は、遂に「大丈夫?」の一言もなくなったのだ。いきなり、今日は何を食べるのかと俺に相談するようになった。
 まあ、そりゃ、薄々と報酬目当てなんだろうな、子供だからしょうがないなとは思っていたけども、でもさ、こう、分かり切っているけど、一連の流れみたいなのがある訳じゃない。
 お約束っていうか。
 そういうのがあるからこそ、いい関係が築けると思うんだよね、俺は。
 俺の思いは顔に出ていたのか、

「こら、止めなさい。リョータさんが困ってるじゃないですか。すいませんね。がめつい子供で」

 サキヒデさんが謝ってくれた。

「あ、いえ、そんな」

 サキヒデさんはこんな俺にも敬語を使ってくれる。と言うか、この人が敬語以外で人に接するのを見たことがない。

「大体、その報酬は、今後ともリョータさんが気分良く、我々の経験値になってもらうための前払いでもあるのだから、ケインが使ってどうするのですか。全く、大人の駆け引きを分かってないですね」

「……大人っていうか、悪魔な感じもするけどね」

 敬語は使ってくれてはいるが、俺のことは経験値としか見てないんだろうな。
 まあ、しょうがないけれども、うーん。

「それに、我々にはそんなことをする余裕はありませんよ。もう直ぐハンディ戦があるのですから、体調には気を配らないといけません」

「なら、こんな乱暴な真似をするなよな! 戦う前に死んじゃうぜ」

「大丈夫。馬鹿はこれくらいじゃ怪我しませんから」

「いや、今のも結構危なかったからな!」

 危ないと言う割には、元気いっぱいであるし、人に奢って貰おうとしていたではないか。そのことについて追及してやろうとも思ったのだけれど、〈ハンディ戦〉と言う言葉が頭に残っていた。
 初めて聞く言葉に、

「〈ハンディ戦〉って、これまでの戦いとは違うんですか?」

 俺は聞いてみた。
 この国では現在、戦争をしているらしいということは聞いていたが、〈ハンディ戦〉と言うのは聞いたことがなかった。

〈統一杯〉

 と呼ばれる戦争は、それぞれの領に置かれた神秘の石板――〈戦柱(モノリス)〉によって開催時期が決められるらしい。
 で、開催と共に俺みたいな人間が呼び出されるとか。
 基本的に異世界人は、前回大会の最下位のチームに呼ばれるらしい。つまり、俺がここにいるということは、カラマリ領は最下位だったようだ。

 前回の大会が開催されたのは、69年前。

 現在の大将(ナツカ)さんも生まれる前なので、別に最下位であることに責任は感じていないだろうが、今大会の結果は気にするだろう。
 最下位になると国の面積は奪われ、貧困に苦しむことになる。
 つまり、自分たちの責任で、これからの子供たちが酷い暮らしをする羽目になるのだ。その屈辱を味わったからか、ナツカさん達の気合はすさまじく、現時点でのカラマリ領の戦績は2位。
 最下位から比べれば大健闘だが、狙っているのはトップだと満足していない。
 ここからが正念場であると息巻いていた。

「ハンディ戦って言うのは、中間順位で一位と二位が互いに戦うことを言うのさ。お互いに潰し合って、疲弊した状態で、一位は五位と、二位は最下位の連中と戦わなければ行けない。下位チーム救済の戦いなんだよ」

 俺の問いに答えたのはケイン。
 これまでの戦いは、正面からぶつかる戦(いくさ)が多いが、時折に「魚釣り」や「虫取り」なんて、可愛い勝負方法もあった。
 なにで戦うのか決めるのは〈戦柱(モノリス)〉が示す。
 だが、ハンディ戦だけは常に決まっており、命を賭けた殺し合いになるのだと続ける。
 殺し合いか……。

「でも、それが分かってるなら、互いに潰し合う必要なくないか?」

 現代っ子の平和ボケしてる俺からすれば、ハンディ戦が毎回決まっており、互いを消耗させるためだと事前に分かっているならば、一位と二位が手を取って、無傷で済ませる方法もあるのではないかと考えたが、

「甘すぎです」

 と、サキヒデさんにもう一回死んで来いと冷めた目で見られてしまった。
 視線で伝える所がまたイヤらしい。

「現在一位は、前回大会と同じくハクハ領。彼らはこのハンディ戦で、二位を突き落としました。その結果、二位だった領は、五位に下落したのです」

「……それでもカラマリ領はビリだったんだ」

 そんなことが有っても最下位とはね。実力の差は歴然だったという訳か。
 あ、睨まれた。
 二人に。
 別に生まれてないからいいじゃんね。
 今が二位なわけだし。
 現代のゆとりは異世界でもゆとりだと思われるらしい。全世界共通認識のゆとりは偉大だね。

「とにかく。このハンディ戦で、むしろ、ハクハ領を倒さなければ、私達が一位になるのは難しいと考えた方がいいでしょう」

「なるほど」

 確かにそれはそうなのかも知れない。戦については歴史の授業で習ったくらいで、経験もしたことないけれど、でも、なんかゲーム・・・みたいだと、俺は感じていた。
 俺がどんなにゲームの世界と感じても、これが彼らにとってはリアルなわけなんだけど。

「そのためには、リョータさんの力にも期待していますよ」

「ま、これだけ金貨貰っちゃったんだから、期待に添えるように頑張るよ」

 と言っても死ぬだけなんだけどな。
 俺のへらへらとした笑いに、ケインが呟く。

「でもさ、リョータは嫌じゃないのか?」

「ん? 何がだ?」

「あ、いや。だってさ、報酬貰うとは言っても、殺されるわけじゃん。死ぬのって怖くないのか?」

「……」

 まさか、ケインからこんな質問をされるとは。
 俺が殺されなかったら、上手い飯を奢れないぞと誤魔化せる雰囲気でもないしな。ケインもそんなことを考えるくらいに大人になったということか。
 三か月しかみてないけど。
 まあ、少年の成長に俺が一役買っていると思うと、少しばかり誇らしくなる。
 ケインがクロタカさんのように捻くれないためにも、ここは大事だぞ、俺!

「確かに怖いけど、でも、もう慣れたよ」

 流石に三か月間、週一くらいで殺されたら、誰でもそうなるわな。しかも、別に毎回毎回、今回のように激痛を与えられるわけでないし。
 むしろ、そんなことをするのはクロタカさん位である。
 他の人達は俺に痛みが無いように、命を絶ってくれる。その痛みなど、注射を我慢するくらいの痛みでしかない。
 俺からしたら、痛みに目を閉じて、眼を開けたら畑仕事をしていた程度の感覚だ。
 そんな思いつめられても困る。

 大体、このカラマリ領を追い出されたら、俺なんて他の領の人々にひどい目に合わされるだろうし、俺に力を与えてくれる〈戦柱(モノリス)〉から離れても、俺の力が発動するのか分からないのだ。
 今の関係でいい。
 〈統一杯〉が終わるまで、その力が失われることはないと分かっているのだから。

「でもさ……、俺の一度だけ経験値貰ったけど、後味悪いって言うか」

「子供がなに気を使ってるんだよ。いいか? だったら、次のハンディ戦で大活躍してくれよな」

 俺は大人ぶってケインを連れて商店街にへと消えるのだった。
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