経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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一章 経験値として生きてます

3話 5人の戦力(レベル)

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 さてと。
 報酬を貰う前に、俺に何があって、どんな契約をしているのか、簡単に説明しておいた方がいいだろう。

 異世界に来た経緯もだ。

 まぁ、説明も何も、俺にも良く分かっていないので、どうしようもないのだけれど、簡単に言えば、殺される直前に思い出した走馬灯――キャンプとBBQをした記憶を最後に、俺はこの世界にやって来たらしい。

 カラマリ領の森の中。
 三か月前の俺は、当てもなく彷徨っていた。そんな所を、ナツカさん拾われ――俺には秘められた力があることを知った。
 その力こそ、畑仕事をしている俺の分身だ。勿論、ただ、数が多いだけじゃない。
 あいつらは俺のバックアップだ。
 俺が死んだら、あの中の一体に俺の意識が受け継がれる、不死とも呼べる力だった。
 
 だが、それが、何に役立つのかと俺は憤ったが、意外なことにも大活躍だった。
 その理由の一つを今から話そう。
 この世界の住人達には、レベルがあると、先ほど少しばかり触れたが、なんと、俺の意識が入ったオリジナルは、貰える経験値が尋常じゃなく高いらしい。
 あ、俺が貰える経験値が多いんじゃないよ。
 与える経験値が多いんだよ。RPGで経験値稼ぎに使われるキャラだと思ってくれればいい。だからと言って、防御力が高い訳でもなく、エンカウント率が低い訳でもなく、直ぐに逃げるような真似もしない。
 まさしく、経験値を与えるだけの存在だった。

 当初は、そんなキャラが嫌になって、一度だけ、逃走と反撃を試みたことがある。俺は殺されるだけの生活は嫌だと。
 だが、所詮は無力な人間だ。
 騒いだところで殺された。
 そして、殺される時は簡単な拘束をされる規定が追加されたのだった。……これに関しては、そこまでする必要はないと思うのだけれど、契約を破った俺が悪い。

 とにかく、そんな訳で俺は、畑を耕す労働力と経験値を献上することで、それなりの優遇を受けて生活をしているのだった。 
 分かりやすくWINWINの関係。
 いや、チート的な能力を使って、殺されるだけって……。しかもそれで日銭を稼ぐのみ。
 俺よ……いいのか、それで。

 かといって、知りもしない世界で、一人で生きて行ける訳もないしなー。だから、俺は唯一ある自分の力(死)を使って、一週間過ごせるだけの通貨を貰って生きていくしかない。
 まあ、痛みもないから、俺的には楽でいいんだけど。 

 報酬として渡される通貨は、現代のような紙幣ではなく硬貨のみである。
 一週間暮らすには金貨一枚あれば事足りるようだった。

 という事情があってカラマリ領と契約を結んでいる俺は、両手を差し出して、大将から直々に金色の硬貨を受け取った。

 金貨の置かれた手の平。
 だが、いつもよりも厚みと重量が違うのが分かる。なんだろうと敬々しく持ち上げていた腕を降ろして顔を覗かせた。
 すると、なんと5枚もの金貨が乗せられていたのだった。

「あ、えっと、これ……」

 いきなり労働の5倍もの金額を渡されて俺は戸惑う。
 まさか、これ、週5で俺に死ねと言う、社会だったら出勤するたびに殺されると言うブラック企業もビックリな提案をするのかと思ったが、

「お前には感謝している。特別報酬だ」

 と、豪快にカナツは笑った。
 流石、頂点に立つ人間の笑顔は魅力的だと、俺も取りあえず笑って置いた。

「お、おう……。喜んで貰ったみたいで良かったよ」

 俺の微笑み返しに、何故か表情を固めると、これで仕事は終わりだと、アイリさんの膝枕にダイブした。
 よしよしと頭を撫でられる姿は、本当に猫のようだ。
 そして、眠りにつく大将に変わり、何故、五倍もの報酬を渡したのかを教えてくれた。

「現在、大将(ナツカ)は、六領の中で一番レベル高いんだよ。ほぼ、最大レベルに近い。これも全てリョータのお陰だよ」

「ははは。どうも」

 一番のレベルの持ち主。
 現在、カラマリ領があるこの世界(地図を見せて貰ったが、形は日本に似ていた。大きさも日本サイズかどうかは分からないが)は、六領に分かれていた。
 領だと分かりにくいから、県とか市で考えてくれれば分かりやすいかも知れない。
 この世界での呼び方が『領』なだけだ。

 そして、その六つの領にはそれぞれ大将と呼ばれる人間が一人いた。
 なんでも、大将になると、レベルの上限が解放されるらしい。
 普通の人々のMAXは無難に百。
 レベルハンドレットだ。
 だが、大将の座に座る人間は特別だった。
 領においてただ一人の存在(たいしょう)は、120までレベルを上げることが出来るのだった。

「えっと、確かカナツさんは、現在、レベルは108なんですよね」

 少し前に皆さま方のレベルを聞いたことがあった。 
 実際に俺がナツカさんが戦っているのを見たことはないのだけれど、領の人々に慕われる姿を見て、凄い人なのだろうとは感じていたが――なんと、言うならば世界で一番のレベルの持ち主と言うことである。
 ……アイリさんの膝で眠ってると、そうは見えないんだけど。

「ああ。これもお前のお陰だ。感謝してるよ。だから、早く帰れ」

 眠っていると思っていたが、まだ、完全に夢の世界に入国したわけじゃなかったらしい。
アイリさんの膝枕タイムを邪魔されたくないようで、シッシと猫を祓うように手を振られてしまった。
 いや、猫っぽいのはあんただろうと、文句を言いつつ、俺は階段を下りた。

「ま、お金結構貰ったから、たまには贅沢でもするか」

 城の外に出て、商人たちから質のいい肉でも買おう。
 俺は手に握った金貨を握りしめ、お小遣いを貰った子供のように、心を弾ませていた。5枚もあれば、何でも好きなものが食べれる。

 気分がいいからスキップでもしようかなと思った矢先に、

「おおおおりゃー!」

 そんな叫び声が聞こえてきた。
 薙刀を握り、俺の世界の試合では、絶対在り得ない動きをしながら、軽々と自分の背丈の倍以上もある武器を振るう少年と、薙刀を落ち着いた視線で交わす眼鏡をした知的ば雰囲気の男がいた。

 やはり、彼らも着物と、どこぞの国の制服を足したような服装である。
 地形が日本と似ていることも有り、俺はこの異世界は日本に近い場所だと考えていた。俺は、そもそも異世界なんて信じていない派閥に属する男の子だったんだけれど、いざ、こうして自分が体験すると、信じるしかない。

 子供の頃は特撮ヒーローなんて居るわけないと大人ぶり、高校生になってから嵌るちょっとひねくれたガキの気分だった。
 気分も何も俺本人なんだけどな。

 俺の気分はいいとして、薙刀を持った釣り目で好戦的な少年。
 彼の名前はケイン。
 裸にベストのような着物の、クロタカと並ぶ好戦的な性格の持ち主だ。あ、でも、クロタカと並ぶと言っても、あっちが狂気にひん曲がってるのだとしたら、ケインは少年らしく、純粋に真っ直ぐ、熱いスポーツマンのような性格である。
 好戦的でもそう考えると全く向きが違うんだな。

「おいおいおい! どうしたよ、サキヒデ! 逃げてばかりじゃかてないぜ!」

 薙刀を振り回しながら、強気に笑う。 

「……やれやれ。言葉使いばかり大人ぶっても、私には勝てませんよ。それに、そんな戦い方ではクロタカみたいに馬鹿になります」

 大きく上空に飛び、薙刀を握る手を下にずらした。そうすることで、薙刀のリーチが長くなり、また、振るうケインの力と遠心力、重力がプラスされる。

 威力極振りの攻撃。

 だが、しかし、そんな攻撃を喰らう奴なんて、精々、凡人である俺だけであろうに。
 少なくとも、カラマリ領で参謀を務める知的眼鏡さんこと、サキヒデさんが当たるはずもない。最小限に体を反らし、落ちてきたケインの頭を勢い殺すことなく、地面に叩きつけた。
 人の体と地面がぶつかる音ではない程の轟音と共に地面が揺れた。

「だあー、くそ! やっぱりサキヒデには勝てないか」

 叩きつけられた衝撃で巻き起こる砂塵の中から、ひょっこりとケインが顔を覗かせた。あれだけの攻撃を受けて、どうやら無傷なようだ。
 その頑丈さに驚くが、それ以前に、女性のような細い腕でケインを叩きつけたサキヒデさんの腕力に驚愕してしまう。

「……サキヒデさんです。年上には敬語を使いなさい」

「えー。別にいいじゃん。大将もアイリもクロタカも、別に呼び捨てでも良いって言ってくれてるぜ? そんな器の小さいこと言うのはサキヒデだけー」

「はぁ……。あなたの眼にはあの三人が常識人に見えるのですか。私が纏めるのにどれだけ大変な思いをしているのか……」

 サキヒデさんはそう言って眼鏡の位置を直す。

 カラマリ領には、大将(カナツ)さんに次ぐ強者が4人いた。その4人の中に、サキヒデさんも含まれてはいるのだけれど、彼も含めて、性格の濃さは厚かった。
 
 一人目は、俺を殺したクロタカさん。
 とにかく、この男を一番に語った方が良いだろう。
 狂乱の男ではあるが、こと戦いにおいては天才であり、カラマリ領の切り込み隊長として前線に立つ。
 レベル94。

 二人目はアイリさん。
 女性でありながらも、その強さは別格。主にナツカさんとコンビを組んで戦うことが多く、彼女の持つ和やかな空気に癒されている人々からは、『赤翼の天使』と呼ばれていた。
 俺から見ると、その羽は血で染まっているのかと思うけどな。
 レベル90。

 三人目が参謀のサキヒデさん。
 変わり者が多い中で唯一の常識人。あ、いや、常識人かどうかは、俺からしたら判定に困るところである。
 なぜならば、俺を殺して経験値を得るサイクルを発案したのが、サキヒデさんなのだから。勝つためになら、俺を殺すことをも厭わない彼は、他の3人と比べると苦手だった。
 でも、他のメンバーと比べると頭も切れるし、まともなので、参謀として活動をしている。
 レベル92

 で、最後がケイン。
 まだ、子供でありながら、カラマリ領の戦力として数えられる力は、誰もが期待する所ではあるが、真っ直ぐすぎる馬鹿であることと、優しい部分が戦場でも覗くために、心配されている。
 故にこうして、サキヒデさんに日々、訓練されているのだった。
 レベル84。

 ふむ。
 こう考えると、俺は死んでから一日と立たずにカラマリ領のトップたちと巡りあえたことになる。
 まあ、会ったからと言って、なにか得するわけではないのだが……。
 むしろ関わらないほうがいいかと、黙ってその場を離れようとするのだった。
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