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一章 経験値として生きてます
2話 我らが大将
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俺たちが、これから会いに行こうとしている大将は、天守閣にいることが多い。
階段を登ろうとした時、一階にある一室から一人の男が現れた。
白髪に右目の入れ墨が嫌でも目を引く。
俺を殺した男だ。また、なにかされるのではないかと思い、ビクビクしたが、何も言わずに外に消えていった。
よし。
俺はその後ろ姿に舌を突き出した。
「もうー。そんなことすると、また殺されちゃうよ?」
命を粗末にすることは止めなさいと、俺の頭を軽く叩いた。
「ていうか、大体、なんでクロタカさんが、俺を殺してるんですか! あの人、もう、経験値はカンスト近いんですよね!?」
なのに、なにが経験値をありがとうだ。
格好つけやがって。
「ほら、クロは気性が荒いから。定期的に毒を抜いてやらないと、一人で戦いに行っちゃうんだよ」
「毒抜きに利用される俺の毒は溜まってきますけどね!」
ふいと俺は顔を背ける。
この異世界にはどうやらレベルがあるようなのだ。なのだなんて、他人事のように言ってしまうのは、俺にはそのレベルが存在しない。
HPとか攻撃力とかアイリさんやクロタカさんには見えているらしいが、俺には見えないし、また、俺のステータスとやらも見れないらしかった。
その代わりに俺にはある『力』が与えられていた。
もっとも、そんな力のせいで殺されているので、素直に在り難いとは思えないのだが。
「レベル上げに利用される雑魚キャラの気持ちを、まさか、自分が味わう目になろうとは……」
自分を主人公だなんて思ったことはないけど、それでもモブキャラくらいの気分だった。
それなのに……。
「もう、いじけないでよ、可愛いなー。じゃあ、ほら、毒抜いてあげるよー」
「あ、ちょっと、やめてください」
ギュッと俺の体を抱きしめるアイリさん。
畑での出来事もそうだが、彼女は異性という意識が薄いらしい。何かあるごとに人に抱き着くし(でも、クロタカさんには抱き着かない。まあ、抱き着いたら殺されそうだし)、裸で城の中を歩き回ることも少なくない。むしろ、最近は見慣れてきた感がある。
これは俺が日本に帰った時の感覚が不安になる。
まあ、帰れるかは分からないんだけれども。
そんなこんなでアイリさんから解放され、階段を登る。
天守閣に向かうまでに何人かの人とすれ違うが、誰もがアイリさんには丁寧に頭を下げていた。対してアイリさんは、「頑張ってねー」と気さくに笑うだけ。
当然だ。
彼女の立場は、このカラマリ領の中でもトップクラスなのだから。上にいるのは精々――、
「大将、生き返ったリョータを連れてきたよ」
天守閣内でも一際高い台座に胡坐を掻く大将だけである。
背を向けた背中からもその迫力が伝わってくるというものだ。
「あれ……? 大将……? リョータに報酬渡さないの?」
寝ていると思っていたが、台座に座っているところを見ると、一応は起きているようだ。
なのに、反応を示さない大将に俺も少しばかり戸惑う。
あ、リョータは俺のことね。
フルネームは沙我(さんが) 良太(りょうた)と言う。至って普通の名前だけど、この世界にはファーストネームしかないようで、俺のことはリョータと呼ぶ人間がほとんどだ。
俺は、一回殺されるごとに報酬を貰える契約になっていた。いつもならば、労いの言葉と共に、すぐに報酬を渡してくれるのだけれど、何故か、今日は報酬どころか、顔も見てくれなかった。
「ねぇ、アイリ。アイリは今日、リョータの迎えに行く当番じゃないよね? なんで行ったのかな?」
あ、これ面倒くさいやつだ。
俺は、大将の声のトーンから察したが、のんびり屋のアイリには伝わらなかったようで、
「あのねー。クロタカが殺したいから、変わってくれって」
困っちゃうよねー。といつもと変わらない様子で笑った。
ああ、駄目だって、そこはもっと上手く誤魔化さないと!
俺は口に手を当てて、そのことを伝えようとするが、クルリと回って顔を見せた大将の迫力に、気を付けをして垂直に姿勢を直した。
一度も曲がっていない見事な90度を作り上げた。
「アイリの馬鹿!!」
「えっと……、大将はどうして怒ってるのかな?」
俺にへと質問をするが、この状況下で俺を巻き込まないで欲しい。硬直した体と同じく口も動かさなかった。
「大体、私のことは大将じゃなくて、カナツって呼んでって何回も言ってるでしょ!?」
「でも、それだと、他の人に示しが付かないから。カナツなんて呼ぶのは、クロタカだけだよ」
「また、クロタカ!?」
「……?」
あの白髪右目入れ墨の名前を出すのが何故、駄目なのだろうと不思議そうに頬に人差し指を当てた。その可愛らしいしぐさに、大将――カナツさんの表情も緩むが、直ぐに、我に返って、キッと俺を睨んだ。
いや、アイリさん見ると、顔がにやけるからって俺を見ないでくださいよ。
「くそ、こうなったら、私がクロタカをぶっ飛ばしてやる!」
カナツさんは拳を天に突き上げて立ち上がった。
実に雄々しい口調ではあるが――カナツさんは女性である。ショートカット(爆発したウニのような茶髪)と、男勝りな言葉使いから、俺も最初は、性別がどっちなのか悩んだが、女性であることをつい最近知った。
中々、この生活に馴染めなくて聞き出せなかったんだよね。
「駄目だよー。クロタカと大将が戦ったら、周りの人間が沢山死んじゃうんだからー」
「なに!? 私はクロタカには負けないもん!」
「だから~、大将じゃなくて、皆が死んじゃうの。そしたら、〈統一杯〉に勝てなくなるよー」
「うっ……」
「ほら、ほら、ギュッーってしてあげるから、落ち着いてー」
「アイリ~」
どちらがカラマリ領を統べる大将なのか。
俺はアイリさんに抱き着く我らが王を見て――そう感じたのだった。
階段を登ろうとした時、一階にある一室から一人の男が現れた。
白髪に右目の入れ墨が嫌でも目を引く。
俺を殺した男だ。また、なにかされるのではないかと思い、ビクビクしたが、何も言わずに外に消えていった。
よし。
俺はその後ろ姿に舌を突き出した。
「もうー。そんなことすると、また殺されちゃうよ?」
命を粗末にすることは止めなさいと、俺の頭を軽く叩いた。
「ていうか、大体、なんでクロタカさんが、俺を殺してるんですか! あの人、もう、経験値はカンスト近いんですよね!?」
なのに、なにが経験値をありがとうだ。
格好つけやがって。
「ほら、クロは気性が荒いから。定期的に毒を抜いてやらないと、一人で戦いに行っちゃうんだよ」
「毒抜きに利用される俺の毒は溜まってきますけどね!」
ふいと俺は顔を背ける。
この異世界にはどうやらレベルがあるようなのだ。なのだなんて、他人事のように言ってしまうのは、俺にはそのレベルが存在しない。
HPとか攻撃力とかアイリさんやクロタカさんには見えているらしいが、俺には見えないし、また、俺のステータスとやらも見れないらしかった。
その代わりに俺にはある『力』が与えられていた。
もっとも、そんな力のせいで殺されているので、素直に在り難いとは思えないのだが。
「レベル上げに利用される雑魚キャラの気持ちを、まさか、自分が味わう目になろうとは……」
自分を主人公だなんて思ったことはないけど、それでもモブキャラくらいの気分だった。
それなのに……。
「もう、いじけないでよ、可愛いなー。じゃあ、ほら、毒抜いてあげるよー」
「あ、ちょっと、やめてください」
ギュッと俺の体を抱きしめるアイリさん。
畑での出来事もそうだが、彼女は異性という意識が薄いらしい。何かあるごとに人に抱き着くし(でも、クロタカさんには抱き着かない。まあ、抱き着いたら殺されそうだし)、裸で城の中を歩き回ることも少なくない。むしろ、最近は見慣れてきた感がある。
これは俺が日本に帰った時の感覚が不安になる。
まあ、帰れるかは分からないんだけれども。
そんなこんなでアイリさんから解放され、階段を登る。
天守閣に向かうまでに何人かの人とすれ違うが、誰もがアイリさんには丁寧に頭を下げていた。対してアイリさんは、「頑張ってねー」と気さくに笑うだけ。
当然だ。
彼女の立場は、このカラマリ領の中でもトップクラスなのだから。上にいるのは精々――、
「大将、生き返ったリョータを連れてきたよ」
天守閣内でも一際高い台座に胡坐を掻く大将だけである。
背を向けた背中からもその迫力が伝わってくるというものだ。
「あれ……? 大将……? リョータに報酬渡さないの?」
寝ていると思っていたが、台座に座っているところを見ると、一応は起きているようだ。
なのに、反応を示さない大将に俺も少しばかり戸惑う。
あ、リョータは俺のことね。
フルネームは沙我(さんが) 良太(りょうた)と言う。至って普通の名前だけど、この世界にはファーストネームしかないようで、俺のことはリョータと呼ぶ人間がほとんどだ。
俺は、一回殺されるごとに報酬を貰える契約になっていた。いつもならば、労いの言葉と共に、すぐに報酬を渡してくれるのだけれど、何故か、今日は報酬どころか、顔も見てくれなかった。
「ねぇ、アイリ。アイリは今日、リョータの迎えに行く当番じゃないよね? なんで行ったのかな?」
あ、これ面倒くさいやつだ。
俺は、大将の声のトーンから察したが、のんびり屋のアイリには伝わらなかったようで、
「あのねー。クロタカが殺したいから、変わってくれって」
困っちゃうよねー。といつもと変わらない様子で笑った。
ああ、駄目だって、そこはもっと上手く誤魔化さないと!
俺は口に手を当てて、そのことを伝えようとするが、クルリと回って顔を見せた大将の迫力に、気を付けをして垂直に姿勢を直した。
一度も曲がっていない見事な90度を作り上げた。
「アイリの馬鹿!!」
「えっと……、大将はどうして怒ってるのかな?」
俺にへと質問をするが、この状況下で俺を巻き込まないで欲しい。硬直した体と同じく口も動かさなかった。
「大体、私のことは大将じゃなくて、カナツって呼んでって何回も言ってるでしょ!?」
「でも、それだと、他の人に示しが付かないから。カナツなんて呼ぶのは、クロタカだけだよ」
「また、クロタカ!?」
「……?」
あの白髪右目入れ墨の名前を出すのが何故、駄目なのだろうと不思議そうに頬に人差し指を当てた。その可愛らしいしぐさに、大将――カナツさんの表情も緩むが、直ぐに、我に返って、キッと俺を睨んだ。
いや、アイリさん見ると、顔がにやけるからって俺を見ないでくださいよ。
「くそ、こうなったら、私がクロタカをぶっ飛ばしてやる!」
カナツさんは拳を天に突き上げて立ち上がった。
実に雄々しい口調ではあるが――カナツさんは女性である。ショートカット(爆発したウニのような茶髪)と、男勝りな言葉使いから、俺も最初は、性別がどっちなのか悩んだが、女性であることをつい最近知った。
中々、この生活に馴染めなくて聞き出せなかったんだよね。
「駄目だよー。クロタカと大将が戦ったら、周りの人間が沢山死んじゃうんだからー」
「なに!? 私はクロタカには負けないもん!」
「だから~、大将じゃなくて、皆が死んじゃうの。そしたら、〈統一杯〉に勝てなくなるよー」
「うっ……」
「ほら、ほら、ギュッーってしてあげるから、落ち着いてー」
「アイリ~」
どちらがカラマリ領を統べる大将なのか。
俺はアイリさんに抱き着く我らが王を見て――そう感じたのだった。
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