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二章 もう一人の異世界人は毒舌少女
13話 勝つべきための優先事項
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「あのー! 土通さん! おーい!!」
俺はクガンの城壁内に消えていく背中に大きな声で呼びかける。聞こえていないわけじゃないだろうに、脚を止めることなく姿を消してしまった。
「無視された……。でも、土通さんもこの世界に……?」
俺だけじゃなかったのかと安心する。しかし、土通さんは俺達が入れてすら貰えなかった門を普通に通り過ぎて行った。
それが何を意味するのかと言えば――彼女がクガン領の人間であると言うこと。
クガン領の〈戦柱(モノリス)〉に呼び出されたのではないかと、容易に推測を立てられた。
しかし、もしも、俺の考えが正しいとすると、カラマリ領の主たるメンバーたちが全員揃って否定したことが現実に起きているわけである。
これは一体、どういうことなのだと答えを求めて参謀を見た。
……。
何故か、顔が赤いサキヒデさん。
俺と目が合うと、食い入るように近づいて、
「あんな綺麗な人といつ、知り合ったんですか? ずっと、領の中にいたと思っていたのに……、いつの間に……」
俺の体を大きく揺らす。
えー、この人何言ってんのかなー?
俺の反応で気付くだろうが。
サキヒデさんの腕を振りほどいて俺は言う。
「あんた本当に参謀だよな!? この世界に来てから知り合ったんじゃないっつーの!」
二人目の異世界人は在り得ない。
そんな前提条件を妄信しているからか、どうやら、俺がこの世界に来てから土通さんと知り合ったものだと思い込んでいるらしい。
そんなわけあるかっつーの。
この世界に来てから死んでは畑で蘇り、時にはついでに畑仕事を手伝わされを繰り返しているのだ。出会いの場なんてあるわけがない。
この世界だけじゃなくて現実にもなかったけどな!
土通さんが俺と同じ世界の人間であることは、この世界の住人が持つというレベルを確認すれば、俺と同じく何も表示されないだろう。それこそが証拠になる筈――だったのだが、この参謀さんは未知の存在に対してレベルの確認を怠ったらしい。
この数日でサキヒデさんの評価が下降気味なのは本人の責任だ。
俺は悪くない。
「でも……」
そう言えば、クガン領の門番たちと顔を合わせるときは、全てサキヒデさんがやってくれていた。それは門番が俺のレベルがないことに気付かせないようにと言う気遣いだったのか。
と言うことは、俺、アレだな。仮に門の中に入ることを許可されたら、俺、ここで一人留守番を命じられていた可能性があるな。
やられたな、これ……。山登りは下りの方が楽だと思われがちだろうが、ここは普通の山じゃない。
岩山だ。
ロッククライミングをする場所もあった(勿論、そこもサキヒデさんに背負って貰った)。
そんな場所を一人で下るのは不可能。
つまり、俺はここで待つしかできないのだ。
……。
俺はサキヒデさんを嵌めやがったなと言う視線で睨む。
あ、睨み返してきた。
赤らめた頬で、何を思って睨んでいるのだろう。可愛いとしか感じない。
なるほど。
サキヒデさんはああいうクール系がタイプなわけか。俺からすればカナツさんもアイリさんもかなり美人ではあるけれど、確かにクールな感じはない。
しかし、まあ、土通さんは無理だろうな。
なんたって、先輩の彼女なんだからな。
優しい俺はそのことを告げずに(頬を赤らめているサキヒデさんが面白いので泳がせてみる)、彼女は俺と同じ世界から来た人間だと教えて上げた。
「彼女の名前は、土通 久世。俺と同じ世界から来たんですよ」
「……馬鹿な。そんなことは在り得ません。〈統一杯〉で現れるのは、最下位の領に一人と決まっているのです。でなければ、我々が――」
一位になるのが絶望的になる。
そう言いたかったのだろう。
それは単純にクガン領に負けると言う訳ではない。いくら、タイプの女性に目を奪われたサキヒデさんでも、ハクハの未知の武器が――異世界人によって与えられた可能性が強まったことに辿り着いたようだ。
いや、土通さんがひっそりとハクハ領に武器の情報を与えたという事も考えられる。クガン領にいたのが、別の人だったらどうか、その線は薄いだろうが、何せ、土通さんだ。
やりかねない。
というのが俺の感想だった。
サバゲ―が好きだから武器の構造にも詳しいだろうし。
それに、ねぇ。
俺も一度だけサバゲ―に参加させて貰ったことがあった。先輩と土通さん。それに会社の同僚たち。いつものメンバーに、サバゲ―仲間が加わって20人くらいいたかな。
いや、人数はどうでもいいか。
とにかく、俺はそこで土通さんと同じチームになった。なったって言うか、初めてのサバゲ―と言うことで、土通さんが同じチームで教えてくれると自ら立候補してくれたのだ。
で、いざ、スタートしてみると――俺は後ろから土通さんに撃たれまくった。
あの時のサングラス越しに見た土通さんの形相は今でも焼き付いている。
行っとくけど俺、何も悪いことしてないからね?
そんな悪魔のような女性だ。
自分が楽しむためならば、呼び出された領土関係なく遊びかねない。
「あの女性は本当にあなたの知り合いなんですね?」
「まあ、そうだけど……」
「そうなると、少し話が変わってきますね」
異世界の人間が一人ではないと言うのであれば、これからの戦方針も考えなければと顎に手を添えた。奇遇なことに俺もサキヒデさんと全く同じタイミングで同じポーズを取るのだった。
そんな俺を見てサキヒデさんが言う。
「おや、どうしました? なにやら考え事があるみたいですが?」
「……その、知り合いってことが気になってしまって」
散々のように土通さんの性悪エピソードを語ってみたけれど、ここは異世界なのだ。
偶然、会社の先輩の彼女と出会うなんて在り得ない。
普通に考えればそうだろう。例えば俺がトラックに轢かれて女神様辺りに転生を言い渡されれば、そう考えられる。
だが、俺の場合は違う。
目が覚めたら異世界にいた。
そして、最後に眠ったのはキャンプ地。
そこに――先輩の彼女は居た。
俺を含めて6人の仲間がキャンプをしていた。
6?
……。
あれれー、偶然かなー?
〈統一杯〉は6領が戦ってるぞー?
「つまり、あそこにいた人間がこの世界に……? あの、サキヒデさん。俺がこの世界に来てから他の領と何度か戦ってますよね?」
「え、まあ。それは勿論」
「じゃあ、そこでレベルのない人間を見たことはないですか?」
「……私はないですね。それに話も聞きません」
「となると、俺と同じく他の領もその存在を隠しているのか? まあ、そこは土通さんに話を聞いてみるしかないか。よし! では、クガン領に侵入しましょう!」
入れて貰えないならば忍び込めばよい。
そして、土通さんに話を聞こうと俺は歩き出す。
「ちょっと待ってください。なにが「よし!」なのか、全くわかりません。一人で迷って一人で解決しないでください」
全然良くないですよと俺の肩を掴んだ。
「えー、参謀なんだからそれくらい分かってよ」
「……参謀はなんでも知ってるわけじゃないんですよ? ましてや人の思いなど」
「なるほど。まあ、ようするに俺と同じ時期にこの世界にきたのかどうか、本人に聞きにいこうという訳です。それに……。いや、これはいいか」
土通さんがいると言うことは、もしかしたら、他の領に先輩たちがいるのかどうかも分かるだろう。
その答えを求めて行きましょう。と今度こそ、クガン領に侵入を試みるが、やはり掴まれた腕は固定されたままである。
「あのー」
放してくださいと掴まれた腕に力を込めるがビクともしない。
悪徳眼鏡はレベルも高いから力も強いのだ。
「……今は彼女から話を聞くのが優先ではありません」
「え?」
「いいですか? これから、クガン領も我らカラマリ領も戦が始まるんのです。あなたの言う通り、彼女の他にもいるというのであれば――大将に伝えに行かなければなりません」
俺の考えは俺に取っては同じ世界の仲間がいると言う希望なのだが、サキヒデさん達からすれば最悪のケースなのだ。
全ての領に、特殊な力を持った人間がいる。
しかも、カナツさんたちは最下位だった自分たちの特権だと信じ込んでいる。
これから戦うのは最下位の相手だ。
だが――もしも、相手に異世界の人間がいると知らなければ、ハクハ領の長、シンリとの戦いの二の舞になる。
何も出来ずに敗北する。
それは避けなければならない。
今から引き返せば戦には間に合うかもしれない。
故に引き返そうとサキヒデさんは言うのだ。
「え、ちょっと待ってくださいよ。じゃあ、土通さんはどうするんですか?」
「……別にいると分かればそれで十分でしょう。それに、これからクガンはハクハと戦います。互いに潰し合ってくれれば、私達に取っては幸運でしょう」
「……っ!!」
ああ、そうだ。
3か月仲良くしていたから忘れていたけれど――俺と彼らは住むべき世界が違うのだった。自分達が〈統一杯〉で勝つためならば、俺の仲間を見殺しにする。
俺に取っての仲間でもサキヒデさんは関係ない。
実に論理的な答えを、我らの参謀ははじき出したのだった。
俺はクガンの城壁内に消えていく背中に大きな声で呼びかける。聞こえていないわけじゃないだろうに、脚を止めることなく姿を消してしまった。
「無視された……。でも、土通さんもこの世界に……?」
俺だけじゃなかったのかと安心する。しかし、土通さんは俺達が入れてすら貰えなかった門を普通に通り過ぎて行った。
それが何を意味するのかと言えば――彼女がクガン領の人間であると言うこと。
クガン領の〈戦柱(モノリス)〉に呼び出されたのではないかと、容易に推測を立てられた。
しかし、もしも、俺の考えが正しいとすると、カラマリ領の主たるメンバーたちが全員揃って否定したことが現実に起きているわけである。
これは一体、どういうことなのだと答えを求めて参謀を見た。
……。
何故か、顔が赤いサキヒデさん。
俺と目が合うと、食い入るように近づいて、
「あんな綺麗な人といつ、知り合ったんですか? ずっと、領の中にいたと思っていたのに……、いつの間に……」
俺の体を大きく揺らす。
えー、この人何言ってんのかなー?
俺の反応で気付くだろうが。
サキヒデさんの腕を振りほどいて俺は言う。
「あんた本当に参謀だよな!? この世界に来てから知り合ったんじゃないっつーの!」
二人目の異世界人は在り得ない。
そんな前提条件を妄信しているからか、どうやら、俺がこの世界に来てから土通さんと知り合ったものだと思い込んでいるらしい。
そんなわけあるかっつーの。
この世界に来てから死んでは畑で蘇り、時にはついでに畑仕事を手伝わされを繰り返しているのだ。出会いの場なんてあるわけがない。
この世界だけじゃなくて現実にもなかったけどな!
土通さんが俺と同じ世界の人間であることは、この世界の住人が持つというレベルを確認すれば、俺と同じく何も表示されないだろう。それこそが証拠になる筈――だったのだが、この参謀さんは未知の存在に対してレベルの確認を怠ったらしい。
この数日でサキヒデさんの評価が下降気味なのは本人の責任だ。
俺は悪くない。
「でも……」
そう言えば、クガン領の門番たちと顔を合わせるときは、全てサキヒデさんがやってくれていた。それは門番が俺のレベルがないことに気付かせないようにと言う気遣いだったのか。
と言うことは、俺、アレだな。仮に門の中に入ることを許可されたら、俺、ここで一人留守番を命じられていた可能性があるな。
やられたな、これ……。山登りは下りの方が楽だと思われがちだろうが、ここは普通の山じゃない。
岩山だ。
ロッククライミングをする場所もあった(勿論、そこもサキヒデさんに背負って貰った)。
そんな場所を一人で下るのは不可能。
つまり、俺はここで待つしかできないのだ。
……。
俺はサキヒデさんを嵌めやがったなと言う視線で睨む。
あ、睨み返してきた。
赤らめた頬で、何を思って睨んでいるのだろう。可愛いとしか感じない。
なるほど。
サキヒデさんはああいうクール系がタイプなわけか。俺からすればカナツさんもアイリさんもかなり美人ではあるけれど、確かにクールな感じはない。
しかし、まあ、土通さんは無理だろうな。
なんたって、先輩の彼女なんだからな。
優しい俺はそのことを告げずに(頬を赤らめているサキヒデさんが面白いので泳がせてみる)、彼女は俺と同じ世界から来た人間だと教えて上げた。
「彼女の名前は、土通 久世。俺と同じ世界から来たんですよ」
「……馬鹿な。そんなことは在り得ません。〈統一杯〉で現れるのは、最下位の領に一人と決まっているのです。でなければ、我々が――」
一位になるのが絶望的になる。
そう言いたかったのだろう。
それは単純にクガン領に負けると言う訳ではない。いくら、タイプの女性に目を奪われたサキヒデさんでも、ハクハの未知の武器が――異世界人によって与えられた可能性が強まったことに辿り着いたようだ。
いや、土通さんがひっそりとハクハ領に武器の情報を与えたという事も考えられる。クガン領にいたのが、別の人だったらどうか、その線は薄いだろうが、何せ、土通さんだ。
やりかねない。
というのが俺の感想だった。
サバゲ―が好きだから武器の構造にも詳しいだろうし。
それに、ねぇ。
俺も一度だけサバゲ―に参加させて貰ったことがあった。先輩と土通さん。それに会社の同僚たち。いつものメンバーに、サバゲ―仲間が加わって20人くらいいたかな。
いや、人数はどうでもいいか。
とにかく、俺はそこで土通さんと同じチームになった。なったって言うか、初めてのサバゲ―と言うことで、土通さんが同じチームで教えてくれると自ら立候補してくれたのだ。
で、いざ、スタートしてみると――俺は後ろから土通さんに撃たれまくった。
あの時のサングラス越しに見た土通さんの形相は今でも焼き付いている。
行っとくけど俺、何も悪いことしてないからね?
そんな悪魔のような女性だ。
自分が楽しむためならば、呼び出された領土関係なく遊びかねない。
「あの女性は本当にあなたの知り合いなんですね?」
「まあ、そうだけど……」
「そうなると、少し話が変わってきますね」
異世界の人間が一人ではないと言うのであれば、これからの戦方針も考えなければと顎に手を添えた。奇遇なことに俺もサキヒデさんと全く同じタイミングで同じポーズを取るのだった。
そんな俺を見てサキヒデさんが言う。
「おや、どうしました? なにやら考え事があるみたいですが?」
「……その、知り合いってことが気になってしまって」
散々のように土通さんの性悪エピソードを語ってみたけれど、ここは異世界なのだ。
偶然、会社の先輩の彼女と出会うなんて在り得ない。
普通に考えればそうだろう。例えば俺がトラックに轢かれて女神様辺りに転生を言い渡されれば、そう考えられる。
だが、俺の場合は違う。
目が覚めたら異世界にいた。
そして、最後に眠ったのはキャンプ地。
そこに――先輩の彼女は居た。
俺を含めて6人の仲間がキャンプをしていた。
6?
……。
あれれー、偶然かなー?
〈統一杯〉は6領が戦ってるぞー?
「つまり、あそこにいた人間がこの世界に……? あの、サキヒデさん。俺がこの世界に来てから他の領と何度か戦ってますよね?」
「え、まあ。それは勿論」
「じゃあ、そこでレベルのない人間を見たことはないですか?」
「……私はないですね。それに話も聞きません」
「となると、俺と同じく他の領もその存在を隠しているのか? まあ、そこは土通さんに話を聞いてみるしかないか。よし! では、クガン領に侵入しましょう!」
入れて貰えないならば忍び込めばよい。
そして、土通さんに話を聞こうと俺は歩き出す。
「ちょっと待ってください。なにが「よし!」なのか、全くわかりません。一人で迷って一人で解決しないでください」
全然良くないですよと俺の肩を掴んだ。
「えー、参謀なんだからそれくらい分かってよ」
「……参謀はなんでも知ってるわけじゃないんですよ? ましてや人の思いなど」
「なるほど。まあ、ようするに俺と同じ時期にこの世界にきたのかどうか、本人に聞きにいこうという訳です。それに……。いや、これはいいか」
土通さんがいると言うことは、もしかしたら、他の領に先輩たちがいるのかどうかも分かるだろう。
その答えを求めて行きましょう。と今度こそ、クガン領に侵入を試みるが、やはり掴まれた腕は固定されたままである。
「あのー」
放してくださいと掴まれた腕に力を込めるがビクともしない。
悪徳眼鏡はレベルも高いから力も強いのだ。
「……今は彼女から話を聞くのが優先ではありません」
「え?」
「いいですか? これから、クガン領も我らカラマリ領も戦が始まるんのです。あなたの言う通り、彼女の他にもいるというのであれば――大将に伝えに行かなければなりません」
俺の考えは俺に取っては同じ世界の仲間がいると言う希望なのだが、サキヒデさん達からすれば最悪のケースなのだ。
全ての領に、特殊な力を持った人間がいる。
しかも、カナツさんたちは最下位だった自分たちの特権だと信じ込んでいる。
これから戦うのは最下位の相手だ。
だが――もしも、相手に異世界の人間がいると知らなければ、ハクハ領の長、シンリとの戦いの二の舞になる。
何も出来ずに敗北する。
それは避けなければならない。
今から引き返せば戦には間に合うかもしれない。
故に引き返そうとサキヒデさんは言うのだ。
「え、ちょっと待ってくださいよ。じゃあ、土通さんはどうするんですか?」
「……別にいると分かればそれで十分でしょう。それに、これからクガンはハクハと戦います。互いに潰し合ってくれれば、私達に取っては幸運でしょう」
「……っ!!」
ああ、そうだ。
3か月仲良くしていたから忘れていたけれど――俺と彼らは住むべき世界が違うのだった。自分達が〈統一杯〉で勝つためならば、俺の仲間を見殺しにする。
俺に取っての仲間でもサキヒデさんは関係ない。
実に論理的な答えを、我らの参謀ははじき出したのだった。
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