経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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二章 もう一人の異世界人は毒舌少女

12話 クガン領ともう一人の異世界人

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 カナツさんに命じられたサキヒデさんは、時間を空けることなく直ぐにクガン領に向かう準備を整えた。何人か、他の兵士を連れて行けと言う助言を無視して、一人きりでカラマリ領を出た。
 怪我した腕で器用に乗馬するサキヒデさんの背に、俺は話しかける。

「クガン領ってどこにあるんですかー」

「……」

 あれ?
 俺の声聞こえていないのか? もう一度、ボリュームを調節して声を出すが、やはり、反応はなかった。
 聞こえていない訳ではないだろう。
 となると、考えられることは、俺が無視されているということである。
 おいおい。
 参謀が聞いて呆れるぜ。
 この俺にそんな勝負をしかけて何になると言うのだ。
 だが、まあ、冷静沈着な男が、みっともない行為をしているのだ。ここで、俺も同じように無視しては、只の子供の喧嘩になってしまう。
 無視されても話しかける。
 そんな大人の対応(いやがらせ)をしてやるか。

「おーい、サキヒデさん、無視しないでくださいよー」

「……」

 うん。
 普通に話しかけただけでは駄目か。
 ならば、

「おい、悪徳眼鏡!」

 普通に悪口を言ってみた。
 なんだかんだと結局、俺も子供なのだ。

「さっきから五月蠅いですよ!」

 鋭い視線と共に振り向く。

「のわっ! 怒った!」

「大体、なんであなたが付いてきているのです? 自分の役目を忘れたのですか? ほら、早く帰って皆に経験値を与えるのですよ」

「いやー、俺もそうしたいんですけど、大将命令なんで、仕方なーく付いてきてるんですよ」

 サキヒデさんが命令に従い出発の準備をしている間に、

「リョータも一緒に言ってやってくれ。レベルのない異世界人のお前がいれば、未知の武器についても信用してもらえるからな」

 俺も命じられたのだった。
 流石に俺もサキヒデさんと同じく、残ってレベル上げに貢献しようと思った。
 次の戦も近いしな。
 そっちに集中すべきではないかと、さりげなく聞いてみた。

「ああ。次の戦に勝つならそうした方がいいだろう。だが、私が狙っているのは頂点だ。最下位を蹴散らそうが、ハクハに勝てなければ、一位は在り得ないって」

 目先の勝利よりも有終の美を狙っているのだった。
 その為にはハクハの持つ武器を攻略する必要がある。かと言って自分達だけでは時間が足りない。故に、唯一、話を聞いて貰えるクガン領に協力を仰ぐのだと。

 あ、それともう一つ俺が命じられた理由があった。

「また、留守を任せて抜け出されては敵わないからな。罰としてクガン領に行ってこい」

 だそうだ。
 罰と言っても、カラマリ領の森しか知らない俺に取って外の世界を見れることはご褒美である。ちょっとした遠足気分でテンションの上がっている俺は、サキヒデさんの不機嫌な態度は気にならなかった。
 相手からしたら迷惑でしかないだろうけども。

「やれやれ。お使いと子守りを同時に任されるとは……。無様に傷を負った私への罰ということでしょうか……」

「いや、それは普通に信頼されているんだと思いますよ?」

 多分だが、もう二度と、クロタカさんが俺を見張ることはないだろうな。
 俺からしたら在り難いけれども。

「で、クガン領はどれくらい離れてるんですか? 今日中には付きます?」

「はぁ……。そんなに近い訳がないでしょう。二日か三日は掛ります。どこでハクハ領と戦をするか分からないですから、時間に余裕はありません――故に、こうして無駄なおしゃべりなどできないのですよ」

 後ろに続く俺を引き離すように、乗馬の速度を上げた。
 このまま引き離されては俺はクガン領に辿り着けないと、必死に食らい付こうとする。サキヒデさんが怪我をしてなければ、俺は諦めただろうが、なんとか後に続くことはできた。

 日暮れまで粘った俺を突き放すことは諦めたのか、現在は仲良く焚き木を囲っていた。時間はないといっても休息をしなければ危険なのだと言う。
 何が危険なのだと、休まず先を急ぎましょうと息巻いたが、『危険』と言う意味が分かると、我先にと体力の回復に努めた。

 クガン領。

 それは巨大な岩山の上に位置する、言うなれば天空都市なのだと。
 俺たちは既にその麓までは辿り着いていた。
 一日かけての到着。
 ……クガン領に辿り着くにはニ、三日かかると言う意味。
 そこから導き出せることは、二日かけてこの山場を登らなければいけないことだった。
 マジか。
 雲に隠れて山頂見えないぜ?
 しかも、普通の山じゃない岩山だ。
 やっぱり、俺は引き返すとサキヒデさんに伝えて、癒しのカラマリ領に引き返そうとしたが、散々、ちょっかいを仕掛けたのがイケなかったのだろう。

「命令を受けて付いてきたのでしょう……。領を出て直ぐに引き返せば、私が追い返したと庇て上げれたのですが――。まさか、クガン領を目前に逃げたのでは、庇いようがありません」

 すいませんと頭を下げる。
 ……顔は笑ってるけどな。
 性格の悪い参謀だった。





「さて、困りましたね」

「ですね」

 俺とサキヒデさんは、クガン領に入るべく岩山を登った。
 道中、普通の人間である俺は力尽き、怪我人のサキヒデさんに背負って貰うという、ささやかな青春イベントが発生したが、如何せん相手は悪徳眼鏡だ。
 これがアイリさんやカナツさんとかだったら、まだ、良かったのだろうに。

 そんなイベントを乗り切り、山頂にあるクガン領にやって来たのだ。
 息も絶え絶え(主にサキヒデさんが)に、辿り着いたにもかかわらず、俺達は中に石壁の中に入ることが出来なかった。
 石壁で区切られた天空都市。
 その中に入ることを許されなかった。

「今まで、こんなことはなかったのですが……」

「やっぱり、戦前だから忙しいんじゃないっすか?」

「だとしても、戦相手のハクハ領の情報を持っているのです。門前払いされる理由は何処にもありません」

 引き返すにも雲が眼下に広がる山頂だ。
 ここまで来た労力を考えると、素直に引き下がることはできない。
 サキヒデさんはもう一度、門の前に立つ二人の男たちに交渉を試みる。
 カラマリ領の主戦力であり参謀だ。
 その顔はクガンの人々も知っているようで手荒に追い返す真似はしないが、明らかに迷惑そうだった。

 追い返されるにしても、理由を聞かねば納得できないと食い下がるサキヒデさん。
 何度も順序だてて話を聞き出そうとする悪徳眼鏡に嫌気が差したのか、門番の一人が口を滑らせた。

「もう、どの領とも手を組む必要はなくなった」

 それを最後に二人の門番は言葉を発することをしなかった。
 なにも聞き出せないと諦めたサキヒデさんが俺の座る場所へと戻ってくる。

「どういうことなのでしょう……。ランキング5位にも関わらず、手を組む必要がないとは」

「うーん。俺が考えられるのは、やっぱり、今から誰に頼らずとも逆転する方法があるってことじゃないんですか? クガン領がどんな戦いをして、誰がいるのか全く分からないけどさ」

「いえ、逆転をする為のハンディ戦なのです。私達がシンリ一つに敗北したとなれば、クガン領が勝つことはまずありえません」

「と、なると……。カラマリ領の参謀として、もしも、ここが一位になるための作戦があるとしたら、どんなことを思いつきます?」

「……私ですか。クガンの戦力を全て把握している訳ではないので」

 そう言いながらも、一応はシュミレーションしてみてくれるらしい。が、ものの数秒も経たないうちに、シンリには勝てないと首を振るった。

「クガン領には、クロタカのような狂人はいませんから、あの武器を攻略するのに時間が掛るでしょう。対戦内容は知りませんが――何をしても勝つ可能性は零です」

「なるほど……。ただ、一つ言わせてもらっていいですか?」

「なんでしょう」

 参謀の分析に文句を言うつもりはない。
 ただ、分析以前にその結果を告げる声がデカかった。門番に聞こえちゃってるじゃん。ほら、なんか、武器構えてこっち睨んでるじゃん。

 クガン領の戦力以前に、俺達の戦力を考えてくれ。
 一人は怪我人。
 もう一人は、殺すだけで経験値が貰える雑魚キャラ。
 門番とサキヒデさんのレベル差は倍近く違くとも、ゲームで言うHPが赤ゲージならば、その差はあまり関係ない。

「別に聞こえたっていいでしょう。我々とは手を組む気がないのですから」

「……組む気がないから、なお、マズいって普通考えません?」

 ようするに敵認定を受けたってわけですからね。

「だとしても、私が付いてますから安心してください」

「だから、怪我人じゃん!」

 俺を背負って登ってくれた時も、首に掴まる俺は暇を持て余して、さりげなくサキヒデさんの傷口に触れてみた。
 背負ってくれている相手に何をするのかと言う非難は甘んじて受けよう。
 しかし、優しいソフトタッチにも関わらず、サキヒデさんは余りの痛みにバランスを崩して――足場の悪い岩山から落ちそうになったのだ。
 マジで死ぬかと思ったぜ。
 俺はともかく、岩山から落下して死ぬ参謀。
 笑い話にはなるだろうけど、生き返った俺は笑えない。

 そんな怪我人に安心してくださいと言われて、どうやって安心していいのか教えてくれ。
 TVショッピングの自社調べ位信用が出来ないぞ!
 いや、ちゃんと調べてはいるんだろうけどさ。勝手な偏見である。

「本当に五月蠅い人ですね。じゃあ、あなたはどう考えているのか教えてください」

「だから、サキヒデさんの考えに反対してる訳じゃないですって……」

 しかし、聞かれた以上は取りあえず考えるのが俺である。
 ビリから二番目のチームが、上位チームの救いの手を跳ね除ける。それだけ聞くと、俺が直ぐに思いつくのは、自分達だけで勝ってみせる意固地になっていることだ。
 しかし、今まで協力体制だったことを考えるとそれはない。

 そうなると、別の理由があるのか。
 ……。
 ハクハの時も違うって言ってたし、カラマリ領の皆は否定をするだろうけど、でも――俺は拳銃を見た時から、ある予感がしていた。
 それは、
 
「やっぱり、俺の他にも〈戦柱(モノリス)〉に呼び出された人間がいるんじゃないですか?」

 異世界の武器を手にしたハクハ領。
 交友関係にあったクガン領の拒絶。

 これが偶然で済むことなのかと疑うのは、この世界を知らない俺だからなのかも知れない。もしくは、同じ環境の人間がいて欲しいと言う願いなのか……。
 どちらにせよ、この世界で何かが起こっているのは間違いない。

 そんな、俺の訴えに対して、やはり――サキヒデさんの言葉は想像通りであった。

「ですから、それは在り得ませんよ。もし、そうだとすれば、少なくとも三人もいることになります。そしたら、この世界は滅茶苦茶――」

 サキヒデさんはそこで言葉を止めた。
 見つめているのは門番たち。

 否。

 正確には門番ではない。
 その中心に、何やら土で出来た筒のような物が現れた。さっきまで、そんな物はなかったし、門番たちですら驚いていた。

 何が起こるのかと俺たちは固唾を呑んで見守る。
 すると、中から一人の女性が飛び出した。

 この戦国時代に相応しくない女騎士。いわゆる、その装備で本当に防御力は大丈夫なんですかと心配したくなる装甲の面積。
 装甲(アーマー)の下には紫のドレススカート。
 黒く艶やかな髪を両サイドで纏めた、クールな眼差しには似合わないツインテール。
 だが何よりも――俺は彼女を知っていた。

「あら、久しぶりね、沙我くん」

 チラリと俺を見て挨拶をする女性は、ゆっくりと門番の間を通ってクガン領の中に消えていった。

「あ、久しぶりです!」

 俺は数秒遅れて消えた背中に挨拶をした。
 いやー。
 久しぶり過ぎてびっくりしたわ。
 三か月ぶりくらいか?
 ……。

「って、土通さん!?」

 似合わないツインテールの騎士は、俺がこの世界に来る前に一緒にいた一人。
 土通(どつう) 久世(くぜ)。
 先輩の幼馴染であった。
 この異世界で初めて出会うにも関わらず――至ってノーマルな挨拶だった。
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