経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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二章 もう一人の異世界人は毒舌少女

11話 傷付いた策士

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 ハンディ戦の翌日。
 たった一人の大将に負けたという事実から、カラマリ領の空気は重かった。
 一週間に一度のお注射けいけんちの日にも関わらず、待てども待てども、俺を殺しに来る兵士の姿はなかった。

「……いや、来てくれないと俺、今週生活できないじゃん」

 先週、特別報酬として頂いていた金貨5枚は、もう、一枚もなかった。馬を借りたりと特別報酬らしく、特別なことに使いきってしまったのだ。
 餓死してしまう。
 ……餓死しても俺は生き返るのだろうか?
 まあ、生き返るんだろうな。

 俺は、いつまで待ってもこないことに業を濁し、天守閣に向かうことにした。
 どうせ、下っ端と話しても埒が明かないのは目に見えている。上と話をさせろと言うことで、俺は自ら大将に話を付けに行くのであった。

 俺の殺され部屋――そんな部屋作って欲しくはないけれど、まあ、それだけ重宝されていると思うので良しとしよう。
 そんな部屋を出た俺は階段を登る。
 天守閣まで誰ともすれ違うことはなかった。

「それは、私が不要と言うことなのですか!? 頭脳としても必要ないと――大将はそう言いたいわけなのですか!」

 なにやら、怒鳴り声が聞こえてきた。
 口調は荒くなってはいるが、丁寧な言葉使いは変わっていない。
 どうやら、怒鳴ったのはサキヒデさんのようだ。
 一体、誰が何で揉めているのかと、階段から顔を上げて覗き込む。
 中にいたのはナツカさんとサキヒデさん。

「いや、別にそこまでは言ってないだろって。ただ、そうした方が私たちのためになると考えただけ。そしてそれはお前も良く分かっているだろう?」

「分かりませんね……。これはただ、無様に怪我をした私への警告にしか思えません!」

「それを言ったら、無様なのは皆、同じだ。お前の怪我を咎める人間なんて――誰もいないさ」

 どうやら、ハンディ戦のことで揉めているらしかった。
 肩を銃弾で撃ち抜かれたサキヒデさん。
 命に別状はなかったものの、全治一か月の大怪我であるとのことだった。銃弾で撃たれて一か月で治るのか……。
 レベルが高いと治癒能力も高いらしい。

「ならば、何故! 次の戦から私を外すのですか!」

 ああ、なるほどね。
 ハンディ戦が終わり、六日後にはランク最下位との戦いが控えている。
 順位に関係する戦。
 その戦いに怪我をしたサキヒデさんを参加させないということらしい。まあ、怪我を治すことに集中して欲しいと思うのは、俺だって同じだ。
 しかし、サキヒデさんはサキヒデさんで、これまでの戦でも参謀として頭脳を張らせた実績と誇りがある。前線には立てなくとも、バックアップをするくらいは出来るのだと、戦への参加を熱望しているようだった。

「だから、お前にやって貰いたいことがあるだろう!」

「今の私に戦に参加する以外にやるべきことなど一つもありません!!」

「まずは話を聞けって、お前そう言うところあるよな……」

 二人のこれだけの会話を聞いた俺にもサキヒデさんが頑なに拒絶しているのだと分かった。プライドの高いサキヒデさんは、自分が怪我を負うと言うミスが許せないのだ。
 そして、挽回するためには、次の戦で活躍するしかないと思い込んでるのか。

 あー、確かにそういう人いるよね。

 ミスしたら、自分の決めた方法でしか挽回しようとしない人。
 それが決して悪いとは言わないけど、忙しい時期にやられるとめっちゃ迷惑だよね。しかも、そういう人に限って、普段バリバリに結果を残してるから、少しくらいは誰も気にしていないのに。完璧主義な人に在りがちだ。
 完璧主義のあるあるだ。

 仕方ない。
 ここは俺が姿を見せて話の流れを変えてやるか。

「どーも、お話し中すいません。下で待っていたのに誰も来ないんですけど……?」

「ああ、そうか。お前に言い忘れてたな。ほら、先日の戦いで一度殺してしまってるから、今日の分として前借ってことにしたんだ。悪い悪い」

「…………」

 当事者に言い忘れるって、中々酷くないか?
 まあ、両手を合わせて謝るナツカさんの可愛らしい仕草に免じて許してあげようかな。報酬もしっかり貰えるみたいだし。

「あ、なんかサキヒデさんと揉めてるみたいだったんですけど、なにかあったんですか?」

 盗み聞きをして、大体の話は知っているのだけれど、なんにも知りませんと言った顔で白々しく聞いた。こういうのは、堂々とした方がバレないのだ。

「……話を聞いていたから知ってるでしょう」

「リョータ。私はお前のそういう所が気に入ってるぞ?」

 俺が盗み聞いているのはバレている様子であった。
 サキヒデさんは、怪我をしていない左手で眼鏡の位置を直し、ナツカさんは俺に報酬を渡しながら頭を撫でた。
 うわー。
 超恥ずかしいじゃん。
 澄まし顔で「なにかあったんですか?」なんて格好つけなければ良かった。

「お、俺はともかくとして、ほら、なんかナツカさんは言いたいことがあったんでしょ? 言うなら今がチャンスですよ!」

 俺がいなければサキヒデさんは、話を突っぱねて聞かないだろうが、今は俺が同席している状態。少なくともカナツさんが話をするくらいは出来る。

「ああ、サキヒデにはとある特別な任務を任せたくてな」

「特別だなんて言葉で誤魔化せるほど、私は馬鹿じゃないですがね」

 チクリと棘を指すサキヒデさん。
 もう。
 ここまで来たら普通に話を聞いていただきたい。
 棘が刺さっても抜くことなくカナツさんは続けた。

「サキヒデにはこれより、クガン領に向かって貰いたいんだ」

「なっ! 何でですか!? この時期に行って何をするのですか!?」

 えっと。
 確かクガン領は、現在ランキング5位の領だ。
 5位と言うことは、俺達と同じくハンディ戦を終えたハクハ領とのバトルが控えていることになる。つまり、現在も戦準備中ということになるが。
 行っても邪魔者扱いされるだけだとサキヒデさん。
 大将の考えが分からないようだ。
 うん。
 俺にも分からない。

「この時期だからこそ、行くんだよ。シンリが持っていたあの武器を教えるんだ。拳銃だったか……? あれは知っていなければ、対処できない。私達の二の舞になるのを避けさせるんだ」

「しかし、そんな事をしてなんになるのですか?」

「簡単なことだ。未知の武器について情報を集めるんだよ。ハクハを倒すには、我らカラマリ領だけでは、少し心もとない。それが痛いほど分かったからな」

 確かに事前に武器の情報を知っているのといないのでは、移す行動に差が生まれる。
 もしも、シンリが拳銃を持っていることを知っていたならば、ハンディ戦は違う結末になったかもしれない。
 その違う結末を、クガン領に与えようという訳だ。

「クガン領とカラマリ領は、他の領と比べて多少は友好関係が築けているからな。これはチャンスなんだよ」

「…………」

「だから――行ってくれるな? サキヒデ」

 これは大将の命令だと――強い視線で命じたのだった。
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