経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

文字の大きさ
16 / 59
二章 もう一人の異世界人は毒舌少女

15話 策士と詐欺師は紙一重

しおりを挟む
「さてと、ちょっとばかし無駄なことに時間を取られちまったが、カラマリ領の二人が――しかも、参謀と異世界人の組み合わせだ。まさか、戦いに来たわけじゃないよな」

 仲間割れを再度仲裁したジュウロウさんが言う。
 いや、無駄な時間も殆ど身内で起こしたことだし、そもそも、クガン領には戦いになど来ていない。ハクハ領の拳銃について話に来ただけなのだ。
 それが、追い返され、土通さんが居たことで話すべき内容が変わっただけだ。

「まさか、戦うなんてそんなつもりはないですよ。俺たちが来たのはハクハ領が未知の武器を持っていることを伝えに来たんだ。土通さんは知ってるよね? 『拳銃』を……」

 俺が注目すべきは、もう一人の異世界人の表情の変化だ。俺の中でハクハと繋がっている可能性は完全には消えていないが、この状況で話を聞いて貰うには、こちらの意思を示さなければならないと俺は判断した。
 怪我を負った策士がなにか言いたそうにしているけれど、こうなれば言ってしまったもの勝ちだ。
はっはー。
策士に勝ったぜ。

「拳銃……? 聞いたことないな。クゼは知ってるのか?」

「ええ。知ってるわ」

 反応を見るとは言ったが無表情。
 変化がなければ読み取ることもできない。

「で、なんでそれをわざわざ私のクガン領に教えにきたのかしら?」

「おい、クゼ。クガンはお前のモノじゃない。俺たちのだ」

 自分のモノみたいな顔をするなとバイロウさん。
 この人、空気読んでくれないかな? いや、多分、カナツさんももしも俺が、「俺のカラマリ領」とか言ったら怒るだろうけどね!
 そして、帰って殺されるね!
 ……俺がカラマリ領といい関係を築けてるのって、やっぱ、経験値として何回も死ねるからなんだろうなー。

「まあ、いいから、落ち着けってバイロウ」

「……兄さん」

「まあ、確かに教えに来たのに突き返したのは悪かったよ。でもさ、俺らは比較的友好関係にあるだけで――敵だぜ? 敵に情報を与えて何がしたいんだよ?」

 ジュウロウさんが穏やかな兄貴分の視線から、危険極まりない殺気を放つ。
 そりゃそうか。
 大将が慕っているんだから、強いに決まってるよ。
 殺気に押された俺に代わって、サキヒデさんが言葉を続けてくれた。

「ですから、まさか、クガンにも〈戦柱(モノリス)〉から異世界人が召喚されているとは知らなくて。ただ、少しでもハクハの戦力を削いで貰えるように忠告をしに来たわけです」

「まあ、お前たちの言う通り、ハクハにも異世界人がいるとなれば、厳しいわな」

「分かって貰えて何よりです。では、私達はこれで――」

「ちょっと、待ってくださいよ。俺たちは情報を開示したんだから、土通さんも一つ答えてくれって! 等価交換ってやつだろ?」

「なにを言ってるのですか。私達の目的は情報を与えること。あのクゼ様――と言う女性の存在も知れただけでいいでしょう」

「でも……」

 俺はこれだけは知りたかった。
 今まで諦めて、適当にその場しのぎで暮らしていたけれど、俺一人じゃない。そして、俺とは別にこの世界に来たかもしれない土通さんを見て、心の内側から蓋していた気持ちが溢れてきた。
 その感情は

 自分の世界に戻りたいと言う思いである。

 今の環境が嫌なわけでもないし、地球に戻って何かしたいわけでもない。
 でも、もしも帰る方法があるならば知っておきたい。
 その為に土通さんにも協力しあえると思ったのだ。
 だから、

「帰る方法って知ってるか? 知ってたら、一緒に帰ろうよ」

 俺は聞いてしまった。
 少し、感情が高ぶってしまっていたのかも知れない。

「何を言ってるのですか? 今、帰られたら、我々カラマリ領は――!」

 俺の言葉に驚くのはサキヒデさん。
 まだ、〈統一杯〉は中間。
 しかも、他の領も戦力は強化されている状態。俺だけいなくなっては困るのだろう。

「別に今すぐって訳じゃないさ。この世界から帰る方法があるなら知っておきたいってだけです」

 帰る方法を知っても〈統一杯〉の間は残るよとサキヒデさんに言う。
 完全に信じてはいないサキヒデさんが何かを言う前に――、

「本当に何も知らないのね。可哀相な男」

 俺を蔑んだ。

「残念だけど、私は何も答えるつもりはないわ。じゃ、これで話は終わりね」

 仲間だと思っていた土通さんは、クガンの大将達を連れて岩山から降りていこうとする。結局、俺が求めた展開にはならなかった。
 がっくりと俺は肩を落とした。

「っと、そうだ。俺、他にも話すこと残ってたから、バイロウとクゼは先に行っててくれ」

「……何を話すの?」

「はは、別に小さなことだよ。気に済んな」

「分かった。クゼ、行くぞ……」

 土通さんは二人の指示に従うのを拒絶しようと態度を示したが、ここで自分が残っては、話しが振り出しに戻るだけだと堪えたようだ。
 戦に向かった軍に、ハクハの情報を伝えに行かねば意味がないとでも考えたのだろうか。
 いや、土通さんが、そんなことは考えないか。

「いやー、悪いね。最初追い返しちまってさ。そのことをちゃんと謝ろうと思ってなー」

「……」

 この男。
 俺たちを見ているが、言葉を投げたのは岩山を下る土通さんに向かってだ。二人の姿が見えなくなると、ジュウロウさんは、残った本当の理由を俺達に告げた。

「ま、折角、怪我人と異世界人が残ってくれたわけだ。異世界人の力がどんなものかは知らないが、このチャンスを逃すわけにはいかねぇよな。本当はバイロウと一緒に殺したかったけど、クゼが、妙に俺達の殺気を気にしやがるから、いなくなって貰ったわけだ」

「土通さんが……?」

「ま、見た所、お前はそこまで強くなさそうだから、二対一でも――」

 そこまで聞こえた時――俺は腹部に痛みを感じた。

「お前……! なにしてるんだ!?」

 敵であるジュウロウさんが驚いた。
 それもそのはずである。
 俺の腹部を迷うことなく、突き刺したのはサキヒデさんなのだから。
 必要最低限の武装として腰に携えていた小刀を引き抜く。腹部から血液と共に、ぬめりを帯びた内臓が噴き出そうとする。
 俺は両手で傷口を抑えて声を絞り出す。

「な、なんで……、サキヒデさん……」

「約束したでしょう。使えなければあなたを殺す・・と? 私の忠告を聞かず、ここに残り、そして殺されそうになった今、あなたの使い道は、生贄のみです」

「生贄……」

 人間に対してどころか、何に対してもいいイメージを抱かない言葉を俺は繰り返した。

「ええ。と言う訳で、私の手で我らの異世界人を殺しました。これでどうか、私だけでも見逃してくれませんかね? どう頑張ってもこの怪我では、私が足で纏にしかなれません。こんな私を守って戦ったのでは、彼はどうせあなたに殺されますよ」

 挑んで二人共殺されるならば、私だけでも生き残ります。
 サキヒデさんはそう言った。
 全く、もっともらしい理由を付けてくれるぜ。

「はーはっは! お前は相変わらず合理的だな。2人死ぬなら、自分の手で一人が生き残る道を作る。嫌いじゃないぜ? そういう覚悟」

「ありがとうございます」

 サキヒデさんはそう言って山から下って行った。
 俺が死ななければサキヒデさんに経験値は入らない。だとしても、少しでも距離を取ってレベルの変化を悟られないようにしたのだ。
 抜け目がない。
 死を待つだけの俺に、ジュウロウさんが言う。

「ま、あいつがいる領に呼び出されたのが、お前の死因だよ。少なくとも、俺達、クガンに来れば、こんな死に方はしなかったのにな」

 その言葉を最後に、手を合わせて去っていく長身の男。
 閉じられる瞳ではその全貌が見れなかった。
 ……。
 策士と詐欺師は紙一重と言うが――まさにその通りだな。
 俺はクガンの門で命を落とした。
 そう――計画通りに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...