経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

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二章 もう一人の異世界人は毒舌少女

20話 〈統一杯〉の報酬と毒舌少女の重い愛

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 土通さんを殺さないように守る。そう考えてカラマリ領から飛び出したはずなのに……。
 ほんの半日前の俺は、土通さんが人を殺すなんて思うことすらしなかった。

 いや、だってそうだろう?

 確かにこの世界は、戦国真っ只中な異世界だ。でも、いきなりやってきた一般人が、ほいほいと人を殺せますか? って話だ。

 そんなことを考える人間がいると信じる方が異常なのだ。
 何回目かになる答えを小さく声に出す。
 だが、その度に心の内から湧き上がるのは、全く別の声だった。

「俺はなにも考えていなかった」

 自分が死んでレベルを上げることに満足して、その先のことを想像していなかった。目先の金銭に眼を眩ませ、カラマリ領の主力たちと仲良くしていい気になっていたのだ。
 それなのに、土通さんを責めることを言って。
 異世界だろうが現実だ。
 俺なんかより、よっぽど土通さんの方が現実を生きていた。

「……一応、報告はしないと」

 この気持ちで他の人に会いたくはないけれど、戻ったことをカナツさんに伝えなければならない。
 天守閣に登った先には、既に戦を終えたのか、クロタカさんを除く主戦力が勢ぞろいしていた。

「おっ! リョータ! 話は聞いたぜー? 美人な彼女を守るために自ら戦場に向かったんだってなー! 格好いい所あるじゃんか!」

 俺の姿を見て真っ先に話しかけたのはケイン。前向きで明るい少年が悪いわけではないが、しかし、今の俺は馴れ馴れしく誰かと話すことはできない。
 無言でカナツさんの前に歩き、

「戻りました」

 と、短く挨拶を済ませた。
 そして、そのまま立ち去ろうとする俺に対して、胡坐を掻き、肘を立てて頬を支えるカナツさんが笑う。

初めての・・・・戦場はどうだった? 異世界人には会えたのか?」

「ええ、お陰様で会えましたよ。ありがとうございます」

 感情のない声と共に頭を下げ、さっさと自分の家に戻ろうとしたが、階段へと突く経路をサキヒデさんとケインが塞いだ。
 何をしているのかと眉を顰める。

「そんな暗い顔で礼を言われても嬉しくないってーの。しょうがない、ここは大将として私が話を聞いてやるから、ほれ、言ってみろ!」

 どうやら、これはカナツさんの計画らしかった。
 ……初めて戦場に立ち、俺がなにか思うことは予想していたようだった。そして、大将の予想通り、分かりやすく、暗い顔をして現れたわけだ。
 それはそれで少し恥ずかしいな。
 罰が悪くなり、俺は顔を抑える。

「私も聞くよー!」

 アイリさんが両手を振りながらアピールしてくれた。これでは俺が話しをしないと帰れないではないか。
 どうせ、一人で考えても答えが出るわけでもない。言葉にするだけで気持ちは軽くなるとよく言うし、少しだけ話してみるか。

「俺は異世界人――土通さんを守るために、戦場に行きました。でも、実際は違った。守る必要なんかなくて、彼女はハクハの兵士を躊躇なく殺したんです」

「へぇー。そいつ強いんだな。一度くらいは戦ってみたいぜ!」

「……ケイン。君は少し黙っていてください」

「え? お前も戦ってみたいだろ?」

「いいから、黙りなさい」

 俺の言いたいことを理解するには子供はまだ早いのか。ここでは戦場で命を奪うのは当たり前のことなのだと、その反応をみて実感する。
 だからと言って、じゃあ、自分が人を殺したいかと言われれば――殺したくはない。
 それは土通さんも同じなはず。

「生きるために戦う覚悟を持った土通さんを、俺は責めたんだ。レベルを上げることがどういうことかも考えていなかったのに」

 真剣に悩みを吐き出す俺に、

「え? なーんだ、そんなことで落ち込んでたの? 良かったー。てっきり、目の前で仲間がころされちゃったのかと思ったよ」

 初めての戦場で味わう異世界人なかまの死。
 カナツさん達はそれを想定して俺の話を聞いたようだった。

「……確かにカナツさんからすれば、そんなことなのかも知れないですけど、でも、俺からしたら――」

 人の命を奪うと言う行為は重すぎる。
 そう言おうとしたが、勢いよく手を開き「人を殺す殺さないが気になるなら、カラマリ領を優勝させればいい」と俺に笑った。
 それは一体どういう意味なのだろうか。
 カナツさんの言葉を補足するようにアイリさんが口を開いた。

「ふふふ。過去に一人だけ、君と全く同じことを言った異世界人がいるんだよ。〈統一杯〉で死んだ人間を全員生き返らせたいって。で、その人は見事に実行したんだよ」

「そんなことが……?」

 そんな大規模な願いを七つの星球を揃えることなく叶えてくれるのか?
 しかし、ここは異世界。
 在り得なくはない。

「アイリの言う通りだ。異世界人がいる領が一位になれば、その異世界人の願いは叶う。らしいぜ? そうだよな、サキヒデ?」

「はい。〈統一杯〉で呼び出された異世界人は、戦が終われば姿を消す。彼らがどこに行くのか、長年の謎とされていましたが、しかし、歴史上、たった一人だけ、この世界に残った人がその答えを残してくれたのです」

 そして、その人物が残した言葉によって、これまでの異世界人に何が起こったのか知ることが出来たのだと。
〈戦柱(モノリス)〉曰く、〈統一杯〉が終われば異世界人は元の世界に強制的に送還させられると。
 ただし。
 優勝に導いた異世界人だけは違う。
 選択肢を渡されるとのことだ。

「優勝すると二つのことを〈戦柱(モノリス)〉に問われるらしいです。この世界に残るのか、地球に戻るのか。そして、叶えたい願いはあるのかと」

「あ、なるほど! で、その残った奴は、この世界に残って、犠牲になった人間を生き返らせたわけだ。かーっ。折角の願いをそんなことに使うなんて勿体ないなー!」

「ケイン……。私は黙ってろと言ったはずですが?」

「すいませーん」

 まて。
 もしもそれが本当ならば、今日、土通さんに殺された兵士たちも生き返るのか?
 俺がカラマリ領を優勝に導くことが出来れば――!
 まさかの答えが出るとは思っていなかった俺は、失っていた元気テンションを取り戻す。
 いや、たった、これだけのことで復帰する単純さに我ながら呆れるが、でも、道は見えた。これから先、土通さんが人を殺しても、俺がなかったことにすればいい。

 新に出来た目標に向かって俺は走り出す決意をした。





「ハクハの奴ら、何考えてるんだろうね! バイロウは何でか分かる!?」

 クガン領。
 それはまるで宙に浮かぶ戦艦のような形状の建物だった。
 その内部の一室。
 巨大なテーブルを囲うようにして4人の男女が言葉を交わしていた。他の人間が座る椅子に比べて一回り、二回りもデカいサイズに腰を下ろすのは、クガンの大将、バイロウ。
 その右手には兄であるジュウロウが。
 そして左には、リョータが会ったことのない少女。派手なピンクの髪を耳の上で団子に纏めた髪型。そして、束ねる紐には獣のような耳が装飾されているのか、まるで、少女に動物の耳が生えたような姿だ。
 ピンクの軍服と言う目立つ格好。
 少女の健康的な二の腕と太ももが惜しげもなくさらされていた。
彼女こそ、クガンの切り込み隊長だ。

「いや、ハクハの考えることなど、俺には分からないな……。いや、むしろ分かりたくないと言うべきか」

 ハクハとクガンの戦。
 この日の勝負はクガンの勝利だった。にもかかわらずに浮かない顔を浮かべる三人。それもそのはずだ。
 ハクハは主力のメンバー全員が戦に顔を出していなかった。
 そんな戦力差でもクガンは苦戦し、かろうじて勝った現状。もしも、主力がいたら、この中のメンバーが一人は確実に欠けていただろう。

「ま、分かりたくないけど、考えられることと言ったら、あの、何だっけ? ほら、わざわざ教えに来てくれたじゃん。あれを使うことでどれだけ戦に影響があるのか試したかったんじゃないか?」

「それだ! さっすがジュウロウ! あったまいいねー!」

「これは頭の良さとは無関係だよ。にしても、全く、厄介なモノを手に入れたねー。ハクハの奴らは。こんなことなら、どうする? カラマリと手を組むことを検討するか?」

 口ではそう言うが、頭を掻いて面倒そうにする。
 それでも、クガンの頭脳(ブレーン)としては、提案しておかなければと思ったのだろう。形だけの提案に対して、

「えー! ルミノは反対―! カラマリみたいなお気楽領と手を組みたくなよー」

 ピンクの少女――ルミノは頬を膨らませて反対する。

「……ああ、俺も反対だ。それに、今更・・組んで貰えるとも思わない」

「だな」

 恐らく逃がしたサキヒデが、クガンの出した答えを伝えている事だろう。異世界人を殺したのは相手だとしても、その状況を作ったのは自分達だ。
 そう簡単に許して貰えるとは思ない。

「私も反対ね。クガンには私がいる。それで十分じゃないの」

「へー。だったら、今日はなんで、あんたと一緒に行動してた兵士がやられちゃったのかなー?」

 満場一致で反対意見にも関わらず、ルミノが意地悪く言った。

「あら? 気付かなかった? 私はあなた達の力を試したのよ。ま、そのお陰で私がいないと優勝はできなさそうだってことが分かったから、良しとするわ」

「はぁ? なによその言い方! ちょっと、バイロウ、聞いた? 今の?」

 大将としてこの無礼な女に文句を言ってよとルミノ。
 その我儘に従ったわけではないが、

「随分、偉そうだな――クゼよ」

 バイロウは指を組んで睨む。
 しかし、何度偉そうだと睨まれようが、土通 久世は気にする素振りもなく席を立つ。

「ま、そう言うことだから次からの戦は私に任せなさいな」

 小さく手を振りながら部屋から出て行った。
 早足で自分に与えられた、飾り気のない殺伐とした部屋に戻る。部屋に入り、扉に寄りかかった土通 久世が思うのは一つ。

「私があの馬鹿を優勝させないと――」

 その為ならば、自分の手を汚してもいい。
 人殺しと罵られても構わない。
 前線で戦うタイプの力でないのは、彼にとっては良かっただろう。もしも、私と同じ能力だったら、あの馬鹿――沙我 良太は力を使わなかっただろうから。
 人を犠牲にすることは拒む癖に、自分が犠牲になる事は厭わない。
 考えなし馬鹿。
 だからこそ、私が彼を勝たせるんだ。
 そうしないと、生き残る道を選ばないだろう。

「幸い私達・・より先に来てたからか、〈戦柱(モノリス)〉の出した条件は知らなかったみたいだし」

 土通 久世はこの世界に来た残りの異世界人を知っていた。
 リョータの考えていた通りの6人だ。
 異世界に飛ばされるにつれて、出された条件は一つ。
 
〈統一杯〉で、所属する領を優勝に導いた人間だけが生き残る。

一人を残して全員死ぬ。
土通 久世たちは〈戦柱(モノリス)〉からそう宣告されていた。
何故、リョータだけ一人で先に異世界に呼ばれたのか謎ではあるが、でも、そのお陰で、宣告を告げられていないのであれば、土通 久世にとっては喜ばしいことだった。
 その理由はただ一つ。
 土通 久世はリョータを生き残らせようとしているのだから。

 だから、バイロウに何も報告しないのだ。
 クガン領の門で出会ったことも。
 この戦でリョータに会ったことも。
 全て自分の胸で締まっていた。

「……カラマリの服装なのかな? 凄いかっこよかったじゃないの」

 着物アレンジのファッションは、今まで見た中で一番格好良かったと頬を赤める。
 毒舌少女は好きな人の為なら違う世界の人間を殺すことも厭わない。
 とても、とても重いものだった。
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