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三章 〈統一杯〉の亡霊
26話 それでこそ切り込み隊長だ!
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ここまでが――回想である。
……。
俺、ケインの心配してる場合じゃないじゃんか!
ハクハに狙われてるじゃん!
しかし、まあ、慌てた所でどうしようもないか。ユウランが去った後で、カナツさんは行く必要はないと俺に言ってくれた。
でもなー。多分、ハクハは池井さんを本気で殺すと思うんだよなー。
池井さんが自分のせいで殺されるなんて嫌なんだよなー。だから、彼女を守るために、俺はハクハに行かなければ。
同じ異世界人である土通さんに助けを求めようかとも思ったけど、そしたら、今度は土通さんが殺されちゃうかもしれないし……。
自在に移動できるとはいえ、ハクハに一人で勝てる訳がない。
「ま、まだ一か月あるから、いい案を考えよう」
今は、目の前のことに集中だ!
嫌なことを頭から追い出して、解決すべきことに専念する。結果、この三日間、なにも考えていなかったので、結局前進していないのだけれど。
俺は追い込まれた力を発揮するタイプ。なにもしてないんじゃない。自分を追い詰めているのだと言い訳をしつつ、現状のすべきことを考える。
それは、ケインは仇討ちをどうするかということだ。
えっと、俺の話が終わった後、ユウランに呼び出されたケインは、〈紫骨の亡霊〉について聞いたってことか……。
じゃなきゃ、このタイミングで俺を殺しにこないもんな。
というか、そもそもに〈紫骨の亡霊〉ってなんだ?
俺とケイン、そしてアイリさんは、いつまでも外で話しているのも馬鹿らしいということで、現在、俺の部屋に集まっていた。
三人で円を囲うように座る。
俺とケインは床に胡坐を掻き、アイリさんは俺の布団を畳んでその上で正座をしていた。
……俺の布団にアイリさんが。
この後、俺、あの布団で寝るんだよな。
「んー? その視線は何かなー?」
視線に気づいたのか、ゆったりと問いかける。
べ、別にアイリさんの温もりが布団に移るのが嬉しい訳じゃないんだからね!
本心を隠した俺は(本心って言っちゃった)、アイリさんに〈紫骨の亡霊〉について聞いた。
「あ、えっと。俺、その〈紫骨の亡霊〉って初めて聞いたんですけど、なんなんですか? ケインの両親を殺したって言っていましたけど」
「なんでもねぇよ……。てか、お前には関係ないだろ?」
一人扉の外を眺めるケイン。
俺を殺すと言う暴挙を止められ、顔が合わせられないようだ。むすっと頬を手で支える姿は、少しだけカナツさんに似ているな。
「関係なくはないでしょ……」
「別に同情なんてして欲しくないんだけどな」
「同情じゃないんだけどな……」
俺の言葉を慰めの言葉と受け取ったようだ。いや、ただ、普通に身内が死んだら気を使うだろ? それくらいは俺だって出来る。
大体、強気に言葉を返す癖に、声は震えていた。両親が殺されて悔しくて悲しいなら素直になればいいのに。
それとも、ケインはまだ子供。俺の世界で言えば、小6か中1だ。両親の死を受け止めるには重すぎる。
「〈紫骨の亡霊〉だったよね」
再び訪れる重苦しい空気を吹き飛ばすように、アイリさんが明るく言う。空気を読めない俺は、黙るか喋り続けるかの二択しかないので、アイリさんの気遣った話し方は助かる。
「はい」
「えっと、〈統一杯〉が昔は七つの領だったことは知ってるよね? って、私が生まれる前だから、私も知らないんだけどねー」
だが、言い伝えとしては残っている。
七つ目の領が滅んだことは、この世界に来て短い俺でも知っていた。
「確か、〈戦柱(モノリス)〉に従わなくて滅んだんですよね」
石碑の命令に背いただけで、滅んでしまったと。〈戦柱(モノリス)〉の言うことは絶対だと、証明する歴史である。
「うん。でも、滅んだだけじゃなかったんだ。〈戦柱(モノリス)〉に逆らった7つ目の領。その当時の主力たちは、紫の骨となって現実に残ったんだ」
「それが〈紫骨の亡霊〉……」
「しかも厄介なことに、彼らがいつ、どこに現れるかは誰にも分からない。時には戦中に現れるし、またある時は、日常で現れる。もしかしたら、今、この時にも表れるかも知れないよ」
「そんな存在が……」
さりげなく平家の中を見るが、大丈夫。紫の骨とやらはいなかった。
もしも、これがホラー映画だったらこのシーンで三人の内一人が殺されてたぜ? 全く、アイリさんはフラグと言うのを知らないのか。
って、異世界だっつーのここは。
「あれ? でも、そこまで厄介なのであれば、倒せばいいんじゃないですか?」
かつての主力がどれだけ強いか知らないが、数で圧倒すれば勝てるのではないか。
何も知らない無知な疑問をケインが笑う。
「それが出来たら、俺の両親だって死んでねぇっつーの。亡霊になったことで、奴らは強くなってるんだよ」
「そ。少なくともシンリと同じくらい強いかも」
……。
あの化け物と同じか。
勝てる気がしねぇー。しかも、そんなのが何人もいるわけだ。
「ここ数年は姿を見せてなかったのに、なんでまた急に……。まあ、急に姿を見せるのが〈紫骨の亡霊〉なんだけどさー」
ここまで話を聞いて、何故、ケインが俺を殺しに来たのかようやく察することが出来た。
両親の仇を撃つために、〈紫骨の亡霊〉を倒したいと。だが、そいつらはかなり強いらしく、今のケインじゃ太刀打ちできない。
だから、俺を倒してレベルを上げると。
いやー、単純でいいな。
でも、正直、レベルを上げただけでは倒せない気がするけど。
「全く。ケインが〈紫骨の亡霊〉をどうしても倒したいって言うなら、多分、大将も協力してくれると思うよ? 皆で挑めば一体くらいは倒せるって!」
「俺の復讐に、皆を危険な目にあわせられるかよ」
倒しても〈統一杯〉になんの影響もない。ただ、命を危険に晒すだけ。だからこそ、これまでも〈紫骨の亡霊〉を倒す人間はいなかった。
倒してもいいことは一つもない。
恐らく、これもまた〈戦柱(モノリス)〉のメッセージなのだろう。命令に従わなければ、亡霊が増えて、〈統一杯〉どころではなくなると。
「そう思うなら、リョータを殺すのもダメでしょー? 隊を組むにあたって、いつ〈戦柱(モノリス)〉から命令があってもいいように、計算して予定を立てているんだからさ」
「わかってるって! 悪かったよ」
「私に謝ってもしかたないでしょー? 謝る相手が違うよ? サキヒデの努力が崩れたんだから、ちゃんと謝りなさい」
「……そうだな。サキヒデには悪いことをしたよ」
「謝る相手、俺じゃないの!?」
今の、この場でやるやり取りじゃないよね?
まず、俺に謝ってからでも遅くないよね?
「はははー! リョータは期待通りの反応をしてくれるねー」
「……」
どうやらアイリさんに釣られたようだ。武器が釣り竿っぽいから、上手なことで。反応読まれたうえで、食いついてしまった俺。
めっちゃ馬鹿じゃん。
「で、ケインはどうする? 私にここまで言わせておいて、まだ復讐をするの? それとも諦めて、また〈紫骨の亡霊〉が消えるのを待つ……?」
まあ、答えは決まってるよねと、アイリさんにしては珍しく真剣だった。
穏やかな口調も、緩やかな笑みも浮かべていない。
ケインの答えを正面から待つ。
「俺は――」
拳を握り床に叩きつける。
ギリギリと握る拳の強さに、ケインの思いが込められる。
「誰に何と言われようが、どれだけ領に迷惑をかけようが――俺は〈紫骨の亡霊〉を倒したい」
例え、勝てなくても、迷惑をかけても挑まなければ両親に顔向けできないと堪えていた涙が溢れ出す。ケインが流す涙は悲しいだけじゃない。
眼から零れる雫は――熱い。
熱い思いが地面に落ちた時――、
「よく言った! それでこそカラマリ領の斬り込み隊長だ!」
扉の前に一人の影が現れた。
どうやら、俺達の話を隠れてずっと聞いていたようだ。
その人物はカナツさん。
カラマリ領の大将だった。
……。
俺、ケインの心配してる場合じゃないじゃんか!
ハクハに狙われてるじゃん!
しかし、まあ、慌てた所でどうしようもないか。ユウランが去った後で、カナツさんは行く必要はないと俺に言ってくれた。
でもなー。多分、ハクハは池井さんを本気で殺すと思うんだよなー。
池井さんが自分のせいで殺されるなんて嫌なんだよなー。だから、彼女を守るために、俺はハクハに行かなければ。
同じ異世界人である土通さんに助けを求めようかとも思ったけど、そしたら、今度は土通さんが殺されちゃうかもしれないし……。
自在に移動できるとはいえ、ハクハに一人で勝てる訳がない。
「ま、まだ一か月あるから、いい案を考えよう」
今は、目の前のことに集中だ!
嫌なことを頭から追い出して、解決すべきことに専念する。結果、この三日間、なにも考えていなかったので、結局前進していないのだけれど。
俺は追い込まれた力を発揮するタイプ。なにもしてないんじゃない。自分を追い詰めているのだと言い訳をしつつ、現状のすべきことを考える。
それは、ケインは仇討ちをどうするかということだ。
えっと、俺の話が終わった後、ユウランに呼び出されたケインは、〈紫骨の亡霊〉について聞いたってことか……。
じゃなきゃ、このタイミングで俺を殺しにこないもんな。
というか、そもそもに〈紫骨の亡霊〉ってなんだ?
俺とケイン、そしてアイリさんは、いつまでも外で話しているのも馬鹿らしいということで、現在、俺の部屋に集まっていた。
三人で円を囲うように座る。
俺とケインは床に胡坐を掻き、アイリさんは俺の布団を畳んでその上で正座をしていた。
……俺の布団にアイリさんが。
この後、俺、あの布団で寝るんだよな。
「んー? その視線は何かなー?」
視線に気づいたのか、ゆったりと問いかける。
べ、別にアイリさんの温もりが布団に移るのが嬉しい訳じゃないんだからね!
本心を隠した俺は(本心って言っちゃった)、アイリさんに〈紫骨の亡霊〉について聞いた。
「あ、えっと。俺、その〈紫骨の亡霊〉って初めて聞いたんですけど、なんなんですか? ケインの両親を殺したって言っていましたけど」
「なんでもねぇよ……。てか、お前には関係ないだろ?」
一人扉の外を眺めるケイン。
俺を殺すと言う暴挙を止められ、顔が合わせられないようだ。むすっと頬を手で支える姿は、少しだけカナツさんに似ているな。
「関係なくはないでしょ……」
「別に同情なんてして欲しくないんだけどな」
「同情じゃないんだけどな……」
俺の言葉を慰めの言葉と受け取ったようだ。いや、ただ、普通に身内が死んだら気を使うだろ? それくらいは俺だって出来る。
大体、強気に言葉を返す癖に、声は震えていた。両親が殺されて悔しくて悲しいなら素直になればいいのに。
それとも、ケインはまだ子供。俺の世界で言えば、小6か中1だ。両親の死を受け止めるには重すぎる。
「〈紫骨の亡霊〉だったよね」
再び訪れる重苦しい空気を吹き飛ばすように、アイリさんが明るく言う。空気を読めない俺は、黙るか喋り続けるかの二択しかないので、アイリさんの気遣った話し方は助かる。
「はい」
「えっと、〈統一杯〉が昔は七つの領だったことは知ってるよね? って、私が生まれる前だから、私も知らないんだけどねー」
だが、言い伝えとしては残っている。
七つ目の領が滅んだことは、この世界に来て短い俺でも知っていた。
「確か、〈戦柱(モノリス)〉に従わなくて滅んだんですよね」
石碑の命令に背いただけで、滅んでしまったと。〈戦柱(モノリス)〉の言うことは絶対だと、証明する歴史である。
「うん。でも、滅んだだけじゃなかったんだ。〈戦柱(モノリス)〉に逆らった7つ目の領。その当時の主力たちは、紫の骨となって現実に残ったんだ」
「それが〈紫骨の亡霊〉……」
「しかも厄介なことに、彼らがいつ、どこに現れるかは誰にも分からない。時には戦中に現れるし、またある時は、日常で現れる。もしかしたら、今、この時にも表れるかも知れないよ」
「そんな存在が……」
さりげなく平家の中を見るが、大丈夫。紫の骨とやらはいなかった。
もしも、これがホラー映画だったらこのシーンで三人の内一人が殺されてたぜ? 全く、アイリさんはフラグと言うのを知らないのか。
って、異世界だっつーのここは。
「あれ? でも、そこまで厄介なのであれば、倒せばいいんじゃないですか?」
かつての主力がどれだけ強いか知らないが、数で圧倒すれば勝てるのではないか。
何も知らない無知な疑問をケインが笑う。
「それが出来たら、俺の両親だって死んでねぇっつーの。亡霊になったことで、奴らは強くなってるんだよ」
「そ。少なくともシンリと同じくらい強いかも」
……。
あの化け物と同じか。
勝てる気がしねぇー。しかも、そんなのが何人もいるわけだ。
「ここ数年は姿を見せてなかったのに、なんでまた急に……。まあ、急に姿を見せるのが〈紫骨の亡霊〉なんだけどさー」
ここまで話を聞いて、何故、ケインが俺を殺しに来たのかようやく察することが出来た。
両親の仇を撃つために、〈紫骨の亡霊〉を倒したいと。だが、そいつらはかなり強いらしく、今のケインじゃ太刀打ちできない。
だから、俺を倒してレベルを上げると。
いやー、単純でいいな。
でも、正直、レベルを上げただけでは倒せない気がするけど。
「全く。ケインが〈紫骨の亡霊〉をどうしても倒したいって言うなら、多分、大将も協力してくれると思うよ? 皆で挑めば一体くらいは倒せるって!」
「俺の復讐に、皆を危険な目にあわせられるかよ」
倒しても〈統一杯〉になんの影響もない。ただ、命を危険に晒すだけ。だからこそ、これまでも〈紫骨の亡霊〉を倒す人間はいなかった。
倒してもいいことは一つもない。
恐らく、これもまた〈戦柱(モノリス)〉のメッセージなのだろう。命令に従わなければ、亡霊が増えて、〈統一杯〉どころではなくなると。
「そう思うなら、リョータを殺すのもダメでしょー? 隊を組むにあたって、いつ〈戦柱(モノリス)〉から命令があってもいいように、計算して予定を立てているんだからさ」
「わかってるって! 悪かったよ」
「私に謝ってもしかたないでしょー? 謝る相手が違うよ? サキヒデの努力が崩れたんだから、ちゃんと謝りなさい」
「……そうだな。サキヒデには悪いことをしたよ」
「謝る相手、俺じゃないの!?」
今の、この場でやるやり取りじゃないよね?
まず、俺に謝ってからでも遅くないよね?
「はははー! リョータは期待通りの反応をしてくれるねー」
「……」
どうやらアイリさんに釣られたようだ。武器が釣り竿っぽいから、上手なことで。反応読まれたうえで、食いついてしまった俺。
めっちゃ馬鹿じゃん。
「で、ケインはどうする? 私にここまで言わせておいて、まだ復讐をするの? それとも諦めて、また〈紫骨の亡霊〉が消えるのを待つ……?」
まあ、答えは決まってるよねと、アイリさんにしては珍しく真剣だった。
穏やかな口調も、緩やかな笑みも浮かべていない。
ケインの答えを正面から待つ。
「俺は――」
拳を握り床に叩きつける。
ギリギリと握る拳の強さに、ケインの思いが込められる。
「誰に何と言われようが、どれだけ領に迷惑をかけようが――俺は〈紫骨の亡霊〉を倒したい」
例え、勝てなくても、迷惑をかけても挑まなければ両親に顔向けできないと堪えていた涙が溢れ出す。ケインが流す涙は悲しいだけじゃない。
眼から零れる雫は――熱い。
熱い思いが地面に落ちた時――、
「よく言った! それでこそカラマリ領の斬り込み隊長だ!」
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