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三章 〈統一杯〉の亡霊
28話 滅んだ領へ
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「よし! じゃあ、〈紫骨の亡霊〉討伐隊――出陣と行こうか!」
「ああ!」
城を出たカナツさんが生き生きと俺達を鼓舞する。
ケインが俺を殺しに来た翌日、〈紫骨の亡霊〉を倒すためにどうすべきか話し合いの場を設けた。今回は珍しく、5人揃っての会合だった。
〈紫骨の亡霊〉に両親を殺されたケインは確定。
残りの4人の意見がバラバラだった。
いや、ある意味、皆同じ意見だったんだけど。
誰もが自分がケインと行くと立候補したのだ。
んで、なんやかんやと醜い争いを続けた結果、討伐に向かうことになったのは、ケインとカナツさんと俺。
俺だ。
立候補もしてなかったし、経験値としての仕事があったのだけれど、「どうせ、カラマリ領に残っても余計なことを考えるだろ?」と、カナツさんに誘われ、流されるがままに討伐隊に参加したのだった。
多分、ハクハの条件を俺に考えさせないようにという気遣いだ。
討伐に行くにつれ、一応、経験値としての仕事を全うすべく、この三日間、ハイペースで経験値となった。
おかげで、畑仕事している俺がMAXからだいぶ欠けてしまった。
残り10人程度か。
まあ、暫く殺されなければ補充はされていくから大丈夫か。
「目指すは今は亡き七つ目の領――アサイド領だ!」
かつて、〈戦柱(モノリス)〉に逆らい、滅んだ領。その場所はカラマリから二日ほど掛るようだ。クガンより更に西に位置するらしい。
日本の地図とこの世界の地図は似ている。
故に日本地図で言えば、四国あたりに島として存在しているらしい。
「そこに行けば〈紫骨の亡霊〉いるんだ……。子供の時とは違う。今の俺なら勝てる! ようやく切り込めるんだ」
ケインは拳と拳をぶつけて気合を見せる。
〈紫骨の亡霊〉が姿を見せるようになったのなら、敵の発生地点に行けば確実に会えるだろう。というのが、皆の出した結論だった。
〈紫骨の亡霊〉の出現地点はランダム。
目撃情報を聞いてから行動に移しても遅い。ならば、自分達から出向けばいいだけだと考えたのだった。実に単純な答えである。
「楽しみだねー! 折角だから冒険しようよ! アサイド領が滅んでから、誰も島の中心部に辿り着いた者がいないんでしょ? 絶対、何かあるじゃん!」
「俺は仇が取れればそれでいいですよ。後は好きにしてください」
「うん。一緒に冒険しようね、ケイン!」
カナツさんが楽しそうに話す。
いや、誰も辿り着いたことないなら、行くのやめましょうよ? って、言いたいけどなー。今回だけは我慢だ。
指し物俺も、今のケインを前にして、そんなことは言えない。
目の前の復讐に、少年は何を見るのだろう。
両親を殺されたことのない、平和な世界で育った俺には、想像することもできなかった。
◇
「あれが……滅んだ領」
木船に乗って海を渡っていた俺達の前に、黒雲纏う一つの島が見えてきた。その島に光は届かないのか、昼間にも関わらず、闇に支配されているようだった。
離れた船上でも分かる禍々しさ。
「うん、分かりやすくヤバそうでしょ?」
カナツさんが俺の呟きに反応して船を漕ぎだす。
木船はオールを使って移動する人的なものなので、海を渡るのに時間を掛かるのかと、長時間海の上にいることを不安に思った。
が、よくよく考えれば船を漕ぐのはケインとカナツさん。
高レベルの二人なのだ。
動力が違った。
下手したらエンジンボード以上にスピードが出ているのかと思位に早かった。
視界に映ってから30分程度で〈戦柱(モノリス)〉に滅ぼされた七つ目の領――アサイド領に俺たちは足を踏み入れた。
「うわー、なんか全部暗すぎだって」
かつては綺麗な砂浜だったであろうに、今は流れてきた漂流物と暗雲のせいか、なんとなくゴミ屋敷を連想してしまう。
流れているのは流木なので、ゴミではないのだろうが。
「リョータ、あんまり離れないでね? ここはもう〈紫骨の亡霊〉の活動地域なんだからさ!」
「ですよね……。すいません」
木船を固定する二人から少し離れてうろついていたが、早足で戻る。観光地気分でいたら〈紫骨の亡霊〉に殺されてしまう。
に、してもケインずっと喋ってないな。
アサイド領に近づくにつれて、どんどん口数が減っていった。
緊張するのは分かるけど、気負い過ぎも良くない。
ここは、俺がケインの緊張をほぐしてやるか。
「ケイン、ここからが本番だからって、一人で気負うなよな。カナツさんも俺もいるから出来ることがあったら、なんでも言ってくれ」
もしも、俺にオノマトペを実現させる力があったら、今、俺の背には『ドンっ!!』と大きな文字が浮かんだことだろう。
だが、俺のイメージはケインには伝わなかったようで、
「リョータは何もできないだろう」
と笑われてしまった。
うん。
笑って貰えてよかったよ。
本当は頼って欲しかったんだけどね!
やれやれと俺は肩を竦めると、俺達の周囲を紫色をした霧が充満し始める。毒ガスかと咄嗟に口を覆う。その程度で体内への侵入は防げないが、なにもしないよりはマシだ。
そうだ!
あとは、伏せるといいんだよな。
砂の上に腹ばいになる。
顔を砂に押し付けた所で、ああ、海に潜れば良かったと後悔する。いや、まだ、間に合う! 俺は全力で海に飛び込み、顔を沈めた。
……。
海が青いのは空を反射しているから。ならば、暗雲満ちるこの海は当然黒い。全てを黒に支配された海に潜るのは恐ろしく、俺は直ぐに顔を上げてしまった。
「はぁ、はぁ……。カナツさん、ケイン!」
黒い霧に絡まれている二人は身動き一つしていなかった。
逃げないとマズいだろうと俺は声を出す。
だが、二人は反応しない。
なにをしているんだと、俺は海から上がって二人を救おうとする。が、この紫の霧は毒ではなかった。霧が一か所に集結していくと、そこには紫の骸骨が立っていた。
骸骨と言っても骨格標本になっているような欠けることのない骨。
骨の頭に巻かれた黒い手拭い。
そして、両手に握られたサーベル。
「早速、お出迎えかよ。でも、俺が倒したいのはお前じゃないんだよなぁ!」
姿を見せた〈紫骨の亡霊〉に対して、ケインが砂を巻き上げて走る。
「だが、お前らは全員俺が倒す!」
骸骨の懐にまでもぐりこんだケインは、砂を抉るようにして薙刀を振り上げた。
相手は骨故に感情が読めない。
表情もないし視線もない。
だから、「すーっ」と地面を滑るように移動するなんて、俺は考えてもいなかった。亡霊というだけあって、移動も幽霊っぽいのかよ。
ケインの斬撃を躱して背後に回る。そして、手に持っているサーベルを使って、ケタケタと骨を揺らしながら責める。
「ちっ!」
一発、二発と斬撃を防いだがその一撃は、高レベルのケインでも重いのか、力を込めた足が砂を削っていく。
押されていると俺でも分かった。
高レベルのケインと互角以上に戦う〈紫骨の亡霊〉。たしかに、こんな強敵とメリットなしに戦おうとは思わない。
「カナツさん! ケインを助けなくていいんですか?」
海から上がった俺は、ただ黙って〈紫骨の亡霊〉とケインの戦いを見ている大将に聞いた。一人で互角ならば、二人で挑めば倒せるだろう。
ケインが負ける前に助けて下さいと、水滴を落としながら俺は訴えた。
「って、いうか、リョータなんでいきなり海に飛び込んだの? ビックリしたじゃん」
「それは、あの霧を毒と勘違いしてですね。〈紫骨の亡霊〉がああいう登場の仕方するなら言っておいてくださいよ!」
って、俺の勘違いはどうでもいいよ。
毒じゃなくて良かったからね!
「敵がいるのに何で黙ってるんですか!?」
「だって、それはねー。あの〈紫骨の亡霊〉に一人で勝てなきゃ、親の仇は殺せないでしょ?」
「えっと……? どういうことですか?」
〈紫骨の亡霊〉が仇じゃないのか?
今闘っているあの亡霊は違うのだろうか?
その答えをカナツさんが教えてくれた。
「アサイド領の主力たちが〈紫骨の亡霊〉になったのは言ったでしょ。って、ことは、当然、そこにも戦力の差があるんだ。そして、ケインの両親が殺されたのは――かつてのアサイド領の大将だ」
「……た、大将って」
「ま、記録に残ってる特徴とケインの話を比べただけだから、違う可能性はあるけどね。でも、まあ、恐らくはそうだろう」
一番の強敵を倒すのに、ここで苦戦していたら勝てる訳がないと。
いや、確かにそうなんだけど、それを言ったら、二人で挑めば同じなのではないか?
二人で現在戦っている〈紫骨の亡霊〉に勝てば、アサイドの大将にも勝てるという証明にならないのか?
「ならないよー。だって、私はケインに言われてるからね。「俺に何かが起こるまで、大将は手を出さないでくれ」って」
俺は大将の言葉に、
「はい?」
と、情けない声を出してしまうのだった。
この大将……なにを言っているのだろうか?
「ああ!」
城を出たカナツさんが生き生きと俺達を鼓舞する。
ケインが俺を殺しに来た翌日、〈紫骨の亡霊〉を倒すためにどうすべきか話し合いの場を設けた。今回は珍しく、5人揃っての会合だった。
〈紫骨の亡霊〉に両親を殺されたケインは確定。
残りの4人の意見がバラバラだった。
いや、ある意味、皆同じ意見だったんだけど。
誰もが自分がケインと行くと立候補したのだ。
んで、なんやかんやと醜い争いを続けた結果、討伐に向かうことになったのは、ケインとカナツさんと俺。
俺だ。
立候補もしてなかったし、経験値としての仕事があったのだけれど、「どうせ、カラマリ領に残っても余計なことを考えるだろ?」と、カナツさんに誘われ、流されるがままに討伐隊に参加したのだった。
多分、ハクハの条件を俺に考えさせないようにという気遣いだ。
討伐に行くにつれ、一応、経験値としての仕事を全うすべく、この三日間、ハイペースで経験値となった。
おかげで、畑仕事している俺がMAXからだいぶ欠けてしまった。
残り10人程度か。
まあ、暫く殺されなければ補充はされていくから大丈夫か。
「目指すは今は亡き七つ目の領――アサイド領だ!」
かつて、〈戦柱(モノリス)〉に逆らい、滅んだ領。その場所はカラマリから二日ほど掛るようだ。クガンより更に西に位置するらしい。
日本の地図とこの世界の地図は似ている。
故に日本地図で言えば、四国あたりに島として存在しているらしい。
「そこに行けば〈紫骨の亡霊〉いるんだ……。子供の時とは違う。今の俺なら勝てる! ようやく切り込めるんだ」
ケインは拳と拳をぶつけて気合を見せる。
〈紫骨の亡霊〉が姿を見せるようになったのなら、敵の発生地点に行けば確実に会えるだろう。というのが、皆の出した結論だった。
〈紫骨の亡霊〉の出現地点はランダム。
目撃情報を聞いてから行動に移しても遅い。ならば、自分達から出向けばいいだけだと考えたのだった。実に単純な答えである。
「楽しみだねー! 折角だから冒険しようよ! アサイド領が滅んでから、誰も島の中心部に辿り着いた者がいないんでしょ? 絶対、何かあるじゃん!」
「俺は仇が取れればそれでいいですよ。後は好きにしてください」
「うん。一緒に冒険しようね、ケイン!」
カナツさんが楽しそうに話す。
いや、誰も辿り着いたことないなら、行くのやめましょうよ? って、言いたいけどなー。今回だけは我慢だ。
指し物俺も、今のケインを前にして、そんなことは言えない。
目の前の復讐に、少年は何を見るのだろう。
両親を殺されたことのない、平和な世界で育った俺には、想像することもできなかった。
◇
「あれが……滅んだ領」
木船に乗って海を渡っていた俺達の前に、黒雲纏う一つの島が見えてきた。その島に光は届かないのか、昼間にも関わらず、闇に支配されているようだった。
離れた船上でも分かる禍々しさ。
「うん、分かりやすくヤバそうでしょ?」
カナツさんが俺の呟きに反応して船を漕ぎだす。
木船はオールを使って移動する人的なものなので、海を渡るのに時間を掛かるのかと、長時間海の上にいることを不安に思った。
が、よくよく考えれば船を漕ぐのはケインとカナツさん。
高レベルの二人なのだ。
動力が違った。
下手したらエンジンボード以上にスピードが出ているのかと思位に早かった。
視界に映ってから30分程度で〈戦柱(モノリス)〉に滅ぼされた七つ目の領――アサイド領に俺たちは足を踏み入れた。
「うわー、なんか全部暗すぎだって」
かつては綺麗な砂浜だったであろうに、今は流れてきた漂流物と暗雲のせいか、なんとなくゴミ屋敷を連想してしまう。
流れているのは流木なので、ゴミではないのだろうが。
「リョータ、あんまり離れないでね? ここはもう〈紫骨の亡霊〉の活動地域なんだからさ!」
「ですよね……。すいません」
木船を固定する二人から少し離れてうろついていたが、早足で戻る。観光地気分でいたら〈紫骨の亡霊〉に殺されてしまう。
に、してもケインずっと喋ってないな。
アサイド領に近づくにつれて、どんどん口数が減っていった。
緊張するのは分かるけど、気負い過ぎも良くない。
ここは、俺がケインの緊張をほぐしてやるか。
「ケイン、ここからが本番だからって、一人で気負うなよな。カナツさんも俺もいるから出来ることがあったら、なんでも言ってくれ」
もしも、俺にオノマトペを実現させる力があったら、今、俺の背には『ドンっ!!』と大きな文字が浮かんだことだろう。
だが、俺のイメージはケインには伝わなかったようで、
「リョータは何もできないだろう」
と笑われてしまった。
うん。
笑って貰えてよかったよ。
本当は頼って欲しかったんだけどね!
やれやれと俺は肩を竦めると、俺達の周囲を紫色をした霧が充満し始める。毒ガスかと咄嗟に口を覆う。その程度で体内への侵入は防げないが、なにもしないよりはマシだ。
そうだ!
あとは、伏せるといいんだよな。
砂の上に腹ばいになる。
顔を砂に押し付けた所で、ああ、海に潜れば良かったと後悔する。いや、まだ、間に合う! 俺は全力で海に飛び込み、顔を沈めた。
……。
海が青いのは空を反射しているから。ならば、暗雲満ちるこの海は当然黒い。全てを黒に支配された海に潜るのは恐ろしく、俺は直ぐに顔を上げてしまった。
「はぁ、はぁ……。カナツさん、ケイン!」
黒い霧に絡まれている二人は身動き一つしていなかった。
逃げないとマズいだろうと俺は声を出す。
だが、二人は反応しない。
なにをしているんだと、俺は海から上がって二人を救おうとする。が、この紫の霧は毒ではなかった。霧が一か所に集結していくと、そこには紫の骸骨が立っていた。
骸骨と言っても骨格標本になっているような欠けることのない骨。
骨の頭に巻かれた黒い手拭い。
そして、両手に握られたサーベル。
「早速、お出迎えかよ。でも、俺が倒したいのはお前じゃないんだよなぁ!」
姿を見せた〈紫骨の亡霊〉に対して、ケインが砂を巻き上げて走る。
「だが、お前らは全員俺が倒す!」
骸骨の懐にまでもぐりこんだケインは、砂を抉るようにして薙刀を振り上げた。
相手は骨故に感情が読めない。
表情もないし視線もない。
だから、「すーっ」と地面を滑るように移動するなんて、俺は考えてもいなかった。亡霊というだけあって、移動も幽霊っぽいのかよ。
ケインの斬撃を躱して背後に回る。そして、手に持っているサーベルを使って、ケタケタと骨を揺らしながら責める。
「ちっ!」
一発、二発と斬撃を防いだがその一撃は、高レベルのケインでも重いのか、力を込めた足が砂を削っていく。
押されていると俺でも分かった。
高レベルのケインと互角以上に戦う〈紫骨の亡霊〉。たしかに、こんな強敵とメリットなしに戦おうとは思わない。
「カナツさん! ケインを助けなくていいんですか?」
海から上がった俺は、ただ黙って〈紫骨の亡霊〉とケインの戦いを見ている大将に聞いた。一人で互角ならば、二人で挑めば倒せるだろう。
ケインが負ける前に助けて下さいと、水滴を落としながら俺は訴えた。
「って、いうか、リョータなんでいきなり海に飛び込んだの? ビックリしたじゃん」
「それは、あの霧を毒と勘違いしてですね。〈紫骨の亡霊〉がああいう登場の仕方するなら言っておいてくださいよ!」
って、俺の勘違いはどうでもいいよ。
毒じゃなくて良かったからね!
「敵がいるのに何で黙ってるんですか!?」
「だって、それはねー。あの〈紫骨の亡霊〉に一人で勝てなきゃ、親の仇は殺せないでしょ?」
「えっと……? どういうことですか?」
〈紫骨の亡霊〉が仇じゃないのか?
今闘っているあの亡霊は違うのだろうか?
その答えをカナツさんが教えてくれた。
「アサイド領の主力たちが〈紫骨の亡霊〉になったのは言ったでしょ。って、ことは、当然、そこにも戦力の差があるんだ。そして、ケインの両親が殺されたのは――かつてのアサイド領の大将だ」
「……た、大将って」
「ま、記録に残ってる特徴とケインの話を比べただけだから、違う可能性はあるけどね。でも、まあ、恐らくはそうだろう」
一番の強敵を倒すのに、ここで苦戦していたら勝てる訳がないと。
いや、確かにそうなんだけど、それを言ったら、二人で挑めば同じなのではないか?
二人で現在戦っている〈紫骨の亡霊〉に勝てば、アサイドの大将にも勝てるという証明にならないのか?
「ならないよー。だって、私はケインに言われてるからね。「俺に何かが起こるまで、大将は手を出さないでくれ」って」
俺は大将の言葉に、
「はい?」
と、情けない声を出してしまうのだった。
この大将……なにを言っているのだろうか?
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