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四章 ハクハ領の救出作戦
37話 『殺戮者』と『Sな女王様』
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「んん……」
……どうやら眠ってしまっていたようだ。
我慢どころか思い切り睡眠欲に負けていた。にしても、窮屈な姿勢で寝れるとは、我ながら恐ろしい睡眠欲だぜ。
硬くなった体を伸ばしたいが、周囲の状況を確認するのが先決だ。隠れている最中で眠っている奴が、今更、なにを警戒するというのか。
俺は、こっそりと穴から外を覗く。だが何も見えない。真っ黒だ。寝ている間に夜になってしまったらしい。
自分の命だけでなく、池井さんの命まで掛かっているのに眠るとは……。今回はたまたま見つからなかったから良かったものを……。
まあ、日暮れまで逃げ延びれたる訳だから、結果オーライか。
池井さんの命の保証期間である半日は過ぎた。――俺一人の命であれば、多少は強引に行っても構わない。
ハクハの経験値になるのは癪だけれど、でも、それ以上の成果を上げればいいだけのこと!
俺は勢いよく、箱を吹き飛ばそうとしたが、
「あ、あれ……」
……身体が箱に嵌って抜けなかった。関節がミシミシと音を立てる。あ、これ、刺されるより地味に痛いぞ!?
まさか、木箱と一体となってしまい、抜けなくなったのか?
俺は関節の痛みを堪えて、更に力を込める。
うん?
待てよ?
この痛み、無理に体を動かそうとして痛いんじゃなくて、重い物を無理に動かそうとするから、負荷が掛かっているのではないか?
まるで、木箱を上から押さえつけられているような……。
俺がそのことに思い至ると同時に、
「お、起きたみたいだなー! じゃあ、早速!」
陽気な声と共に、鋭い刃が木箱を貫いた。
……。
まだ、完全に目覚めていなかった脳が、一瞬で目覚めた。
え? これ、なに?
身体を丸めていた丁度腹部の隙間を縫うように刃が通っている。一応、怪我はないようだ。
助かった。
しかし、今の俺は木箱に閉じ込められている状況。
そして、恐らく――上に乗っているのは、ハクハの騎士だ。見つかってなかったと浮かれていたが、普通に見つかっていたようだ。
いや、だとしたら、何故、俺が起きるのを待っていた?
「あーん? 苦痛の声が出ねーな。まさか、外したってか。だとしたら、こいつはよっぽど、運がいいんだな」
下品な笑い声が聞こえる。
笑い声に合わせるように、闇雲に狙いを付けることもなく、ただ、ただ、木箱に刃を突き刺していく。
その斬撃に俺よりも先に木箱が耐えられないようだ。
俺よりも先に木箱が壊れた。
だが、側が壊れようとも降り注ぐ刃は止まらない。
手を、脚を、腹を、肩を何度も何度も突き刺した。時に激しく、時にゆっくりと肌を埋めるように。無数の刺し傷があるにも関わらずに、俺は意識を保っている。
この男。
人を痛めつけていることに慣れているのか。
露わになった俺の姿は、血液が本体なのかと思うほどに血にまみれていた。
「ああ、やっぱ、こうだよなー。何も言わない人間を殺してもつまらねぇ。死ぬか死なないかの生と死の権利を握る。これこそが最大の喜びだ!」
生死の間を彷徨い呻き声を上げる俺。
擦れた視界では、相手の顔が分からないが、さぞ、恍惚の表情を浮かべている事だろう。
「ま、最後には殺すんだけどな」
ゲラゲラと笑って、更に俺に刃を突き刺す。右手の親指が切り落とされた。はっ、もう感覚ねぇから、指なんてあってもなくても同じか。
くそ。……なんだよ、こいつ。
まさか、こんなことをするために、俺が起きるのを待っていたのか?
殺せば経験値が手に入るんだ。
俺を玩具のように遊ぶ必要ないじゃないか。カラマリ領にはそんな人間いなかったぞ……。
――いや、一人いるか。
戦の狂人、クロタカさん。
同じく人を殺して楽しむという点は、この男と同じだが、クロタカさんは無言で遊ぶ。それに欲求が抑えられなくなった時だけだ。
普段は、無口で無害だ。
だが、この男はハイテンションに俺を殺す。
クロタカさんの狂気が静だとするなら、こいつは動の狂気だ。
いや、狂気に静かも動きもねぇだろと、思考が回らないながらも考える。もう、痛みで声を上げることすらできなくなった。
呻くことすらやめた俺に、退屈そうな声が降りかかる。
「あん? なんだよ、黙っちまってさ。つまんねーな」
音の出なくなった玩具は捨てられる。
止めも刺さずに、去っていく足音。
俺は無残にもハクハで命を落とすのだった。
◇
「はっ……。はぁ、はぁ……、良かった、カラマリ領だ」
新たな体になって、痛みはない筈なのに、自分の腹部を抑えてしまう。死ぬ直前の痛みは俺の意識に張り付いているようだった。
落ち着きを取りもどすと、そこはいつもの光景だ。畑で働く俺の分身たち。最近は新たに畑面積を開拓するために、必死に土を運んでいた。
簡単な仕事ならば延々と行える。
ある意味、分身の有意義な使い方である。
「……やっぱ、落ち着くな、カラマリ領は」
ハクハの方が発展してるじゃんとか思って悪かった。あんな目にあった今、無機質なハクハの街並みよりも、命溢れる森の方が気持ちがいい。
なんて空気が上手いんだ。
木々が生み出す新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ俺は、ぐっと伸びをする。
このままカラマリ領に留まりたい。
そんな欲求にかられるが、
「駄目だ……。池井さんがいる」
姿すらも見ていないのだ。
たった一度の死で諦めるのは早すぎる。
「ハクハには戻るけど、少しだけならゆっくりしてもいいよね……?」
でも、少しだけ休みたかった。
明日には戻る。
だから、今日は、自分の布団で眠らせてくれ。
そう思って愛すべき平家に戻った。
ハクハの柔らかいベットも悪くはないけれど、豪華すぎだ。俺、ホテルとかに宿泊するのも嫌いなんだよね。
人の温もりがある他人の家も嫌いだけれど、人の温もりが無い部屋も嫌いだ。
つまり、我が家が一番である。
ただいま、マイハウス!
俺は、抱き着くようにして、慣れしたんだ平家の扉を開いた。
「あら、本当に来たわね」
俺の愛すべき我が家の中心に、見知らぬ女性が座っていた。しかも、4足歩行となったサキヒデさんの上に。
「……」
はぁ。
嫌な殺され方したから疲れてるのかな……?
扉を閉めた俺は、まず、この家がマイハウスであることを確認する。うん、大丈夫、俺の家だ。じゃあ、何故、サキヒデさんが……?
いや、きっと見間違いだ。
疲れが見せた幻だ。
だって、普通に考えてみろ。
カラマリ領一の策士が、まさかあんなプレイをするわけない。幻を見るほど疲れたことないから混乱しちゃったよー。
やっぱり、苦痛を伴う死は駄目だね。
何度やっても慣れないよ。
大きく深呼吸をして再度、扉を開くと、やはり、サキヒデさんだった。
しかも、今度は上に乗る女性に鞭で叩かれていた。
こいつ、なに人の家でSMプレイしてるんだよ。
策士でも詐欺師でもなくただの変態じゃないか。
俺はシンリにされた視線を真似た。
人以下を見る目である。
「なんですか、その目は!? これも全てあなたの為なんですよ!?」
俺の視線に気づいたのか、右手を俺に伸ばす。だが、
「誰が手を動かして良いっていったのかしら?」
その手を鞭で叩かれた。
「あっ」と痛みの声――じゃないな、この場合は快楽の声か。を上げるサキヒデさん。やめてくれ、俺はそんな声、聞きたいくないんだ。
俺の為って……。
誰から聞いたか知らないけどさ、俺は人のSMプレイを見て興奮はしないぜ?性癖は個人の自由だから何も言わないけど、でもさ、人の家ではマズいだろう。
やるなら外でしてくれ。
鞭で叩かれたサキヒデさんは、背に座る女性に首を傾げて訴える。
「ほら、私の言う通り、ここに戻って来たでしょう。約束したはずです。早く降りて下さい」
「……椅子が私に命令しないで貰えるかなー。私に命令していいのはシンリだけよ」
女性は不機嫌に手首を動かす。
小さなスナップで大きくしなる鞭が床を叩く。空気を斬る音と地面を叩く音に、俺とサキヒデさんは肩を竦める。
この女性怖いよー。
……ん?
でも、待てよ、今、シンリって言ったか?
じゃあ――、
「この人、ハクハの人間か!?」
何故、ハクハの人間が俺の家にいるのだ?
驚く俺に対して、驚きの声を上げるサキヒデさん。
「今更ですか!? 逆になんだと思っていたんですか」
「サキヒデさんの恋人?」
しかもSの。
……どうやら眠ってしまっていたようだ。
我慢どころか思い切り睡眠欲に負けていた。にしても、窮屈な姿勢で寝れるとは、我ながら恐ろしい睡眠欲だぜ。
硬くなった体を伸ばしたいが、周囲の状況を確認するのが先決だ。隠れている最中で眠っている奴が、今更、なにを警戒するというのか。
俺は、こっそりと穴から外を覗く。だが何も見えない。真っ黒だ。寝ている間に夜になってしまったらしい。
自分の命だけでなく、池井さんの命まで掛かっているのに眠るとは……。今回はたまたま見つからなかったから良かったものを……。
まあ、日暮れまで逃げ延びれたる訳だから、結果オーライか。
池井さんの命の保証期間である半日は過ぎた。――俺一人の命であれば、多少は強引に行っても構わない。
ハクハの経験値になるのは癪だけれど、でも、それ以上の成果を上げればいいだけのこと!
俺は勢いよく、箱を吹き飛ばそうとしたが、
「あ、あれ……」
……身体が箱に嵌って抜けなかった。関節がミシミシと音を立てる。あ、これ、刺されるより地味に痛いぞ!?
まさか、木箱と一体となってしまい、抜けなくなったのか?
俺は関節の痛みを堪えて、更に力を込める。
うん?
待てよ?
この痛み、無理に体を動かそうとして痛いんじゃなくて、重い物を無理に動かそうとするから、負荷が掛かっているのではないか?
まるで、木箱を上から押さえつけられているような……。
俺がそのことに思い至ると同時に、
「お、起きたみたいだなー! じゃあ、早速!」
陽気な声と共に、鋭い刃が木箱を貫いた。
……。
まだ、完全に目覚めていなかった脳が、一瞬で目覚めた。
え? これ、なに?
身体を丸めていた丁度腹部の隙間を縫うように刃が通っている。一応、怪我はないようだ。
助かった。
しかし、今の俺は木箱に閉じ込められている状況。
そして、恐らく――上に乗っているのは、ハクハの騎士だ。見つかってなかったと浮かれていたが、普通に見つかっていたようだ。
いや、だとしたら、何故、俺が起きるのを待っていた?
「あーん? 苦痛の声が出ねーな。まさか、外したってか。だとしたら、こいつはよっぽど、運がいいんだな」
下品な笑い声が聞こえる。
笑い声に合わせるように、闇雲に狙いを付けることもなく、ただ、ただ、木箱に刃を突き刺していく。
その斬撃に俺よりも先に木箱が耐えられないようだ。
俺よりも先に木箱が壊れた。
だが、側が壊れようとも降り注ぐ刃は止まらない。
手を、脚を、腹を、肩を何度も何度も突き刺した。時に激しく、時にゆっくりと肌を埋めるように。無数の刺し傷があるにも関わらずに、俺は意識を保っている。
この男。
人を痛めつけていることに慣れているのか。
露わになった俺の姿は、血液が本体なのかと思うほどに血にまみれていた。
「ああ、やっぱ、こうだよなー。何も言わない人間を殺してもつまらねぇ。死ぬか死なないかの生と死の権利を握る。これこそが最大の喜びだ!」
生死の間を彷徨い呻き声を上げる俺。
擦れた視界では、相手の顔が分からないが、さぞ、恍惚の表情を浮かべている事だろう。
「ま、最後には殺すんだけどな」
ゲラゲラと笑って、更に俺に刃を突き刺す。右手の親指が切り落とされた。はっ、もう感覚ねぇから、指なんてあってもなくても同じか。
くそ。……なんだよ、こいつ。
まさか、こんなことをするために、俺が起きるのを待っていたのか?
殺せば経験値が手に入るんだ。
俺を玩具のように遊ぶ必要ないじゃないか。カラマリ領にはそんな人間いなかったぞ……。
――いや、一人いるか。
戦の狂人、クロタカさん。
同じく人を殺して楽しむという点は、この男と同じだが、クロタカさんは無言で遊ぶ。それに欲求が抑えられなくなった時だけだ。
普段は、無口で無害だ。
だが、この男はハイテンションに俺を殺す。
クロタカさんの狂気が静だとするなら、こいつは動の狂気だ。
いや、狂気に静かも動きもねぇだろと、思考が回らないながらも考える。もう、痛みで声を上げることすらできなくなった。
呻くことすらやめた俺に、退屈そうな声が降りかかる。
「あん? なんだよ、黙っちまってさ。つまんねーな」
音の出なくなった玩具は捨てられる。
止めも刺さずに、去っていく足音。
俺は無残にもハクハで命を落とすのだった。
◇
「はっ……。はぁ、はぁ……、良かった、カラマリ領だ」
新たな体になって、痛みはない筈なのに、自分の腹部を抑えてしまう。死ぬ直前の痛みは俺の意識に張り付いているようだった。
落ち着きを取りもどすと、そこはいつもの光景だ。畑で働く俺の分身たち。最近は新たに畑面積を開拓するために、必死に土を運んでいた。
簡単な仕事ならば延々と行える。
ある意味、分身の有意義な使い方である。
「……やっぱ、落ち着くな、カラマリ領は」
ハクハの方が発展してるじゃんとか思って悪かった。あんな目にあった今、無機質なハクハの街並みよりも、命溢れる森の方が気持ちがいい。
なんて空気が上手いんだ。
木々が生み出す新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ俺は、ぐっと伸びをする。
このままカラマリ領に留まりたい。
そんな欲求にかられるが、
「駄目だ……。池井さんがいる」
姿すらも見ていないのだ。
たった一度の死で諦めるのは早すぎる。
「ハクハには戻るけど、少しだけならゆっくりしてもいいよね……?」
でも、少しだけ休みたかった。
明日には戻る。
だから、今日は、自分の布団で眠らせてくれ。
そう思って愛すべき平家に戻った。
ハクハの柔らかいベットも悪くはないけれど、豪華すぎだ。俺、ホテルとかに宿泊するのも嫌いなんだよね。
人の温もりがある他人の家も嫌いだけれど、人の温もりが無い部屋も嫌いだ。
つまり、我が家が一番である。
ただいま、マイハウス!
俺は、抱き着くようにして、慣れしたんだ平家の扉を開いた。
「あら、本当に来たわね」
俺の愛すべき我が家の中心に、見知らぬ女性が座っていた。しかも、4足歩行となったサキヒデさんの上に。
「……」
はぁ。
嫌な殺され方したから疲れてるのかな……?
扉を閉めた俺は、まず、この家がマイハウスであることを確認する。うん、大丈夫、俺の家だ。じゃあ、何故、サキヒデさんが……?
いや、きっと見間違いだ。
疲れが見せた幻だ。
だって、普通に考えてみろ。
カラマリ領一の策士が、まさかあんなプレイをするわけない。幻を見るほど疲れたことないから混乱しちゃったよー。
やっぱり、苦痛を伴う死は駄目だね。
何度やっても慣れないよ。
大きく深呼吸をして再度、扉を開くと、やはり、サキヒデさんだった。
しかも、今度は上に乗る女性に鞭で叩かれていた。
こいつ、なに人の家でSMプレイしてるんだよ。
策士でも詐欺師でもなくただの変態じゃないか。
俺はシンリにされた視線を真似た。
人以下を見る目である。
「なんですか、その目は!? これも全てあなたの為なんですよ!?」
俺の視線に気づいたのか、右手を俺に伸ばす。だが、
「誰が手を動かして良いっていったのかしら?」
その手を鞭で叩かれた。
「あっ」と痛みの声――じゃないな、この場合は快楽の声か。を上げるサキヒデさん。やめてくれ、俺はそんな声、聞きたいくないんだ。
俺の為って……。
誰から聞いたか知らないけどさ、俺は人のSMプレイを見て興奮はしないぜ?性癖は個人の自由だから何も言わないけど、でもさ、人の家ではマズいだろう。
やるなら外でしてくれ。
鞭で叩かれたサキヒデさんは、背に座る女性に首を傾げて訴える。
「ほら、私の言う通り、ここに戻って来たでしょう。約束したはずです。早く降りて下さい」
「……椅子が私に命令しないで貰えるかなー。私に命令していいのはシンリだけよ」
女性は不機嫌に手首を動かす。
小さなスナップで大きくしなる鞭が床を叩く。空気を斬る音と地面を叩く音に、俺とサキヒデさんは肩を竦める。
この女性怖いよー。
……ん?
でも、待てよ、今、シンリって言ったか?
じゃあ――、
「この人、ハクハの人間か!?」
何故、ハクハの人間が俺の家にいるのだ?
驚く俺に対して、驚きの声を上げるサキヒデさん。
「今更ですか!? 逆になんだと思っていたんですか」
「サキヒデさんの恋人?」
しかもSの。
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