11 / 23
ココ
しおりを挟む
なによ、この女。
あたしに歯向かうなんて、上等じゃない。
いつも、いつも、太った体を馬鹿にされて、なんの反応もせず、静かに受け止めていた、
お高く留まった侯爵令嬢。
どんなに身ぎれいにしていても、
どんなに男たちにちやほやされても、
私は平民。
醜い豚であっても、あいつは卒業すれば、相応の家に嫁ぎ、
相応の身分を得て、
相応の暮らしをするのよ。
今もそう。
車いすなんて、最新式だし、
脚を覆うひざ掛けは、凝りに凝ったレース。
わかってるわよ。
学生の身分だから、私は教室で君臨できる。
(自分の魅力を盾にして、何が悪いのよ!)
あたしは、自分の席から前にでたわ。
前のクラスメイト達が、両方に分かれて道をつくる。
この白豚が、ゆがんで泣く姿を見るまで、やめるもんですか!
私は、目を潤ませた。
「ひ、ひどすぎます……
わ、わたし!
亡くなったイーストエンドさんの!
イーストエンドさんの、ぬ、ぬれぎぬを
払おうと」
わああっ、と掌で顔を覆った。
小刻みに震える肩に、
周りの視線を感じる。
「そ、そうですわ!
どなたも言ってるわよ、サウスウッド様が、イーストエンドさんの上に落ちたせいで、
彼女は死んでしまったと」
「言い方はわるかったけど。
ココを責めるのは、お門違いではないだろうか」
「本当に。
まずは、サウスウッドさんが、詫びるべきでは?
今回の事件で、みんな心を痛めてるんです」
「その陳謝がないから、
ココが口火を切った、それだけでは?」
口々に、饒舌に、彼らはココをかばった。
(ふん)
保身よね。
この全員が、エリゼの悪口を言ってたんだもの。
エリゼをいじめることに、なんの抵抗もないのは、
あたしと同じ。
そんな風に、こいつらと、付き合ってきたんだもの。
「それに、なんだ?愛人、なんて、下世話な言葉をよくもご令嬢が」
「ココと殿下の純愛をなんだと思って」
「み、みんな……」
あたしは、話題がそっちに向かったので、乗っかることにした。
「あり、がとう……お味方がいるって、こんなに、心強いのね」
まだ濡れている頬をそのままに、微笑を向けると、男たちは顔を赤らめ、
女生徒はうなずく。
(ふふ……)
あたしは、1対多に追い込まれた侯爵令嬢をチラ見する。
ぽっちゃりとした白い顔は、無表情。
「き、貴族、らしく、謝罪、を、ひくっ」
あたしは、集団の導火線に火をつけてやったわ。
「謝れ」
「謝れ謝れ!」
「謝罪くださいなあ~侯爵令嬢さま~」
(泣けばいい!さあ!
いじめられっ子はいつでも敗者よ!)
エリゼの背後の従者は、怒りに今にもとびかからんとしてた。
それを、掌で制したのは、
「おだまりになって」
(……え?)
サウスウッドは、聞いたことのない冷たい声を発した。
伸びた背中。
固い唇。
揺るがずにらんでくる目。
「あなた方、ただいまお言葉を発した皆さん、
この従者とお座りになっているクラスメイトが証人となりますが、よろしいですわね?
こたびの事件は、サウスウッド家の威信にかけて、
真実を明らかにするために、すべての事実をそろえて、
わたくしの汚名返上と、
第二王子の婚約者たるノースフォース公爵令嬢の経歴になんら瑕疵のないよう、
図らうと誓っております。
もとより」
令嬢は、さらに凛とした声を張った。
「あなた方の言動は、わたくしと、公爵令嬢への無礼とご承知ですか?
陰で言うのもはばかられる誹謗中傷を
面と向かっておっしゃったココ嬢を皆さんはかばいましたわ。
なにゆえにサウスウッドの娘が、
事実無根の非難を受けなくてはなりませんの?
わたくし、
いえ、
サウスウッドは、家を通して皆様に抗議いたします。
そして」
つらつらとよく動く口に、あっけにとられているうちに、
ご令嬢は、あたしに指を突き立てた。
「なにが純愛ですか。
ノースフォース様こそが、王家がお認めになった婚約者ではありませんか。
そのエレノア様をも、ないがしろにするお言葉、
公爵家にも通報いたします。
皆様」
微動だにしないままの早口に、内容が追い付かなかった周りは、
少しばかりたじろいだ。
「社会通念を思い知ることですね。
本日は、授業を受ける気になりませんので、
失礼しますわ。
ごきげんよう」
そうして、ぽっちゃり令嬢は、従者を促して扉から去っていったの。
(殿下!……殿下!)
なんとかしなくちゃ。
あたしは、儚い仮面を取り去って、
次の一手を考えていたわ。
あたしに歯向かうなんて、上等じゃない。
いつも、いつも、太った体を馬鹿にされて、なんの反応もせず、静かに受け止めていた、
お高く留まった侯爵令嬢。
どんなに身ぎれいにしていても、
どんなに男たちにちやほやされても、
私は平民。
醜い豚であっても、あいつは卒業すれば、相応の家に嫁ぎ、
相応の身分を得て、
相応の暮らしをするのよ。
今もそう。
車いすなんて、最新式だし、
脚を覆うひざ掛けは、凝りに凝ったレース。
わかってるわよ。
学生の身分だから、私は教室で君臨できる。
(自分の魅力を盾にして、何が悪いのよ!)
あたしは、自分の席から前にでたわ。
前のクラスメイト達が、両方に分かれて道をつくる。
この白豚が、ゆがんで泣く姿を見るまで、やめるもんですか!
私は、目を潤ませた。
「ひ、ひどすぎます……
わ、わたし!
亡くなったイーストエンドさんの!
イーストエンドさんの、ぬ、ぬれぎぬを
払おうと」
わああっ、と掌で顔を覆った。
小刻みに震える肩に、
周りの視線を感じる。
「そ、そうですわ!
どなたも言ってるわよ、サウスウッド様が、イーストエンドさんの上に落ちたせいで、
彼女は死んでしまったと」
「言い方はわるかったけど。
ココを責めるのは、お門違いではないだろうか」
「本当に。
まずは、サウスウッドさんが、詫びるべきでは?
今回の事件で、みんな心を痛めてるんです」
「その陳謝がないから、
ココが口火を切った、それだけでは?」
口々に、饒舌に、彼らはココをかばった。
(ふん)
保身よね。
この全員が、エリゼの悪口を言ってたんだもの。
エリゼをいじめることに、なんの抵抗もないのは、
あたしと同じ。
そんな風に、こいつらと、付き合ってきたんだもの。
「それに、なんだ?愛人、なんて、下世話な言葉をよくもご令嬢が」
「ココと殿下の純愛をなんだと思って」
「み、みんな……」
あたしは、話題がそっちに向かったので、乗っかることにした。
「あり、がとう……お味方がいるって、こんなに、心強いのね」
まだ濡れている頬をそのままに、微笑を向けると、男たちは顔を赤らめ、
女生徒はうなずく。
(ふふ……)
あたしは、1対多に追い込まれた侯爵令嬢をチラ見する。
ぽっちゃりとした白い顔は、無表情。
「き、貴族、らしく、謝罪、を、ひくっ」
あたしは、集団の導火線に火をつけてやったわ。
「謝れ」
「謝れ謝れ!」
「謝罪くださいなあ~侯爵令嬢さま~」
(泣けばいい!さあ!
いじめられっ子はいつでも敗者よ!)
エリゼの背後の従者は、怒りに今にもとびかからんとしてた。
それを、掌で制したのは、
「おだまりになって」
(……え?)
サウスウッドは、聞いたことのない冷たい声を発した。
伸びた背中。
固い唇。
揺るがずにらんでくる目。
「あなた方、ただいまお言葉を発した皆さん、
この従者とお座りになっているクラスメイトが証人となりますが、よろしいですわね?
こたびの事件は、サウスウッド家の威信にかけて、
真実を明らかにするために、すべての事実をそろえて、
わたくしの汚名返上と、
第二王子の婚約者たるノースフォース公爵令嬢の経歴になんら瑕疵のないよう、
図らうと誓っております。
もとより」
令嬢は、さらに凛とした声を張った。
「あなた方の言動は、わたくしと、公爵令嬢への無礼とご承知ですか?
陰で言うのもはばかられる誹謗中傷を
面と向かっておっしゃったココ嬢を皆さんはかばいましたわ。
なにゆえにサウスウッドの娘が、
事実無根の非難を受けなくてはなりませんの?
わたくし、
いえ、
サウスウッドは、家を通して皆様に抗議いたします。
そして」
つらつらとよく動く口に、あっけにとられているうちに、
ご令嬢は、あたしに指を突き立てた。
「なにが純愛ですか。
ノースフォース様こそが、王家がお認めになった婚約者ではありませんか。
そのエレノア様をも、ないがしろにするお言葉、
公爵家にも通報いたします。
皆様」
微動だにしないままの早口に、内容が追い付かなかった周りは、
少しばかりたじろいだ。
「社会通念を思い知ることですね。
本日は、授業を受ける気になりませんので、
失礼しますわ。
ごきげんよう」
そうして、ぽっちゃり令嬢は、従者を促して扉から去っていったの。
(殿下!……殿下!)
なんとかしなくちゃ。
あたしは、儚い仮面を取り去って、
次の一手を考えていたわ。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる