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鳴
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お腹の子供は順調に育っていった。
ユウさんの両親も喜んでくれた。はっきりした年齢は分からないものの、30代半ば以上に見えるのは間違いないので、こんなにすぐできるとは思っていなかったらしい。
テレビドラマでは妊娠シーンというと悪阻がつきものだが、敬子は心配していなかった。今までの二回の妊娠でも、そんな経験はほとんど無かったから。
特にすっぱいものが食べたくなるとか、脂っぽいものがだめとかいうこともない。
ユウさんの性欲は相変わらず旺盛で、体を求めてくることはさすがにないものの、毎朝起床すると確認するように敬子の服をまくり上げてお腹とともに、膨らみかけた胸を触ってくる。
お腹が目立つようになって、産休を取ることにした。まだ仕事をするのに何の不都合も無いけど、患者や周囲に気を使わせるようでは、看護助手は務まらない。
長年専業主婦をやって来た敬子は、やっと本来の自分に戻った気がした。
買い物に行くにも自動車があるし、昭和にいた時とは雲泥の差。何よりユウさんの気遣いは夫とは比較にならない。洗濯だって様々な設定ができる「全自動洗濯機」があって、スイッチ一つですべてやってくれる。昭和にいたとき使っていた二層式みたいに移し替えたり、その度タイマーをセットする必要さえない。
「未来の世界って、こういうものだったんだな」
歩が小さいときに見ていた絵本や特撮番組なんかに描かれていた「未来都市」とは違って、見た目はそんなに変わらないけど、生活は随分と違っている。
季節が巡り、夏になった。こちらの世界に来て、もう1年。まだ1年。でも、はるかに遠い昔の気がする。敬子以外は22年も経っているのだ。
昭和の時と比べてずいぶんと暑い。でも、それは外だけの話で、どこに行っても冷房が効いている。昭和50年には自宅に冷房が入っているのは裕福な家だけだった。もちろん慶子の家にも無かった。
夜になっても窓を閉めたままだから、虫も入ってこない。昭和の家では窓を開けておかなければ暑くてたまらず、網戸を閉めていても蚊だの翅蟻だのがどこからか大量に入ってきてろくに眠れなかった。それが普通だった。
熱帯夜でも、冷房を効かせて安眠できる。何と快適な世界になったことか。
エコー検査で性別も分かった。
女の子。生まれるまで分からなかった昭和にいた時とはそれだけでもずいぶんと違う。必要な物も女の子用を買えばいい。
名前はどうしようか。昭和にいた時産んだ子は、3人とも夫が一人で決めてしまって慶子には助言すら求めようとしなかった。それを当然と思っていた様子。
ユウさんは
「君が決めていいよ」
と言ってくれた。
産休に入ったと言っても、同じ病院の産婦人科に通っているから、時々は顔見知りに出会うこともある。
「敬子さん、どう、具合は?」
「順調みたい」
「初めてのお子さん、楽しみね」
『本当は4人目なんだけど』
これは心の中で叫ぶ。平成の世界でそれを知っている人は自分以外誰もいない。
秋になった。
さすがに動き回るのもきつい。そろそろ生まれてもおかしくない。家事はユウさんが申し訳ないくらいやってくれる。昭和の夫とは雲泥の差。
名前はどうしようか。時間はあるので、家の近所を散歩する。
『リーン、リーン」
鈴虫の鳴き声が聞こえてきた。
そうだ。「鳴」がいい。読み方は「メイ」にしよう。
早速、帰って来たユウさんに相談する。
「いいよ。外国人にも分かりやすい名前だし」
あとは生まれてくるのを待つだけ。
ユウさんの両親も喜んでくれた。はっきりした年齢は分からないものの、30代半ば以上に見えるのは間違いないので、こんなにすぐできるとは思っていなかったらしい。
テレビドラマでは妊娠シーンというと悪阻がつきものだが、敬子は心配していなかった。今までの二回の妊娠でも、そんな経験はほとんど無かったから。
特にすっぱいものが食べたくなるとか、脂っぽいものがだめとかいうこともない。
ユウさんの性欲は相変わらず旺盛で、体を求めてくることはさすがにないものの、毎朝起床すると確認するように敬子の服をまくり上げてお腹とともに、膨らみかけた胸を触ってくる。
お腹が目立つようになって、産休を取ることにした。まだ仕事をするのに何の不都合も無いけど、患者や周囲に気を使わせるようでは、看護助手は務まらない。
長年専業主婦をやって来た敬子は、やっと本来の自分に戻った気がした。
買い物に行くにも自動車があるし、昭和にいた時とは雲泥の差。何よりユウさんの気遣いは夫とは比較にならない。洗濯だって様々な設定ができる「全自動洗濯機」があって、スイッチ一つですべてやってくれる。昭和にいたとき使っていた二層式みたいに移し替えたり、その度タイマーをセットする必要さえない。
「未来の世界って、こういうものだったんだな」
歩が小さいときに見ていた絵本や特撮番組なんかに描かれていた「未来都市」とは違って、見た目はそんなに変わらないけど、生活は随分と違っている。
季節が巡り、夏になった。こちらの世界に来て、もう1年。まだ1年。でも、はるかに遠い昔の気がする。敬子以外は22年も経っているのだ。
昭和の時と比べてずいぶんと暑い。でも、それは外だけの話で、どこに行っても冷房が効いている。昭和50年には自宅に冷房が入っているのは裕福な家だけだった。もちろん慶子の家にも無かった。
夜になっても窓を閉めたままだから、虫も入ってこない。昭和の家では窓を開けておかなければ暑くてたまらず、網戸を閉めていても蚊だの翅蟻だのがどこからか大量に入ってきてろくに眠れなかった。それが普通だった。
熱帯夜でも、冷房を効かせて安眠できる。何と快適な世界になったことか。
エコー検査で性別も分かった。
女の子。生まれるまで分からなかった昭和にいた時とはそれだけでもずいぶんと違う。必要な物も女の子用を買えばいい。
名前はどうしようか。昭和にいた時産んだ子は、3人とも夫が一人で決めてしまって慶子には助言すら求めようとしなかった。それを当然と思っていた様子。
ユウさんは
「君が決めていいよ」
と言ってくれた。
産休に入ったと言っても、同じ病院の産婦人科に通っているから、時々は顔見知りに出会うこともある。
「敬子さん、どう、具合は?」
「順調みたい」
「初めてのお子さん、楽しみね」
『本当は4人目なんだけど』
これは心の中で叫ぶ。平成の世界でそれを知っている人は自分以外誰もいない。
秋になった。
さすがに動き回るのもきつい。そろそろ生まれてもおかしくない。家事はユウさんが申し訳ないくらいやってくれる。昭和の夫とは雲泥の差。
名前はどうしようか。時間はあるので、家の近所を散歩する。
『リーン、リーン」
鈴虫の鳴き声が聞こえてきた。
そうだ。「鳴」がいい。読み方は「メイ」にしよう。
早速、帰って来たユウさんに相談する。
「いいよ。外国人にも分かりやすい名前だし」
あとは生まれてくるのを待つだけ。
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